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第十二章 王様編其の三 猫の国の発展にゃ~
321 訓練の成果にゃ~
しおりを挟む「嘘でしょ……」
「嘘だろ……」
リータとメイバイと闘ったシェンメイとケンフは、地に膝を突き、信じられないといった目で二人を見る。
「事実にゃ~。それじゃあそろそろ本番と行こうかにゃ? 次からは、シェンメイとケンフはわしの渡した肉体強化の魔道具を使ってくれにゃ。まずは、メイバイとケンフからにゃ~」
「はいニャー!」
「ワ、ワン……」
「はじめにゃ!」
わしの合図で、メイバイVSドーピングケンフの試合が始まる。
先ほども、同じ組み合わせで試合をさせてみたのだが、リータとメイバイの圧勝。
リータは土で出来たシェンメイの大斧を、盾で無難に防いでいたが、シェンメイのスピードに慣れて来ると盾を手放して攻撃をかわしていた。
さらに強靭な体で大斧を受け止めたり、パンチを放ち、シェンメイの力を確かめるように闘っていた。
メイバイも同じく、ケンフの素早い徒手空拳を、さらに素早い動きで見切り、空振るらせる。そうしてスピードに慣れて来ると、土で作られたナイフを振るい、当たる瞬間で何度も止め、ケンフの自信を刈り取っていた。
今度は肉体強化の魔道具を使って、スピードの上がったケンフの相手だ。先ほどのメイバイより速い。ケンフもそれがわかっているので、様子を見るように闘う。
うん。ちゃんと避けられておるな。危なければナイフで捌いておるし、何も問題ない。まぁケンフより速い、わしが相手をしておったんじゃ。その程度のスピードアップで驚く事もないじゃろう。
わしが安心して闘いを見守っていると、ケンフがトップスピードに切り替える。メイバイはすでに限界のスピードだったが、ケンフのパンチキックの動き出しを捉え、予測して二本のナイフと足捌きを使い、最小限の動きでかわしていく。
ケンフは一瞬驚くものの、すぐに戦闘方法を切り替える。得意のトウロウ拳を使い、フェイントを織りまぜ、メイバイを襲う。
メイバイはその攻撃さえ、冷静に対応し、素早いナイフ捌きで反撃。時にはカウンターのナイフで、ケンフに冷や汗を掻かせる。
その素早い動きは、ギャラリーを沸かせるには十分だ。役場の庭に集まった職員は、感嘆の声をあげている。
「シラタマちゃん。いま、どうなっていますの?」
「速さでケンフが上回っているけど、メイバイが上手く立ち回っているから互角にゃ」
「はあ……イサベレとバーカリアンの試合を見ているようですわ。いえ、それよりも速いですわ」
「そうだにゃ……って、双子王女まで仕事をほっぽり出して、にゃにしてるにゃ~!」
「こんなに楽しそうな見世物、見ないわけにはいかないですわ」
「そうですわ。ズルいですわよ」
この暇人どもめ! 最近よくサボっている姿を見るけど、ちゃんと働いているのか? 今度、全街を対象って体で、査察に入ってやろうか。
てか、役場でやるのは失敗じゃったな。イサベレ級の戦闘力が増えた事が、東の国に筒抜けになってしまった。
まぁいまさらか。国を滅ぼすレベルなら、二匹もいるからな。
それはそうと、お喋りをしていたら、ケンフの限界が近そうじゃ。何度かクリーンヒットが入ったけど、笑っているから止め時がわからん。メイバイも、たまにわしに視線を送って来るけど、止めろって事か?
バトルジャンキーの相手は気持ち悪いんじゃろうな。よし、わしが許す。やっておしまい!
わしは親指で首をかっ切る仕草をし、メイバイにトドメの指示を出す。
メイバイは頷き、後ろに跳んで距離を取ると、すぐさま地を蹴り、突進攻撃を繰り出す。ケンフも何か来るかと構えたが、変則的な乱斬りが襲い、数発ガードしたものの、途中でガードが間に合わなくなってぶっ飛ぶ事となった。
ギャラリーには、メイバイの動きが見えていなかったので、最後のバッテン斬りで動きの止まったメイバイの姿に拍手を送っていた。
「シラタマ殿~! すっごく強くなってるニャー!!」
「にゃ~? わしの言った通りだったにゃ。ゴロゴロ~」
「うんニャー!」
メイバイは喜びのあまり、わしを抱き抱えて噛み付くものだから、喉が鳴ってしまう。しかし、このままではケンフが死んでしまうかもしれないので、急いで治療をしなくてはいけない。
メイバイは渋々わしを降ろして、ケンフの回復を見守る。かなりやり過ぎたと自覚はあったようだが、わしに罪を擦り付けるのはやめて欲しい。
ケンフの処置が終われば、次はリータVSドーピングシェンメイ。パワーファイターのぶつかり合いに、皆は固唾を呑んで見守る。
「はじめにゃ!」
わしの合図でシェンメイが大斧を数度リータの盾にぶつけ、轟音が響き渡り、ストップを告げる。
二人の剛腕によって、わしの作った土の盾と斧は砕け散ってしまった。これでは試合にならないので、お互いのメインウェポンを使わせる。
リータは白魔鉱の盾に巨象の皮を被せた物を。シェンメイは白魔鉱の大斧に巨象の皮を巻き付けた物を使って再試合。
当然、先手はシェンメイ。ひとっ跳びで大斧をリータの盾にぶつける。すると大きな衝撃音が辺りに響き、力勝負を繰り広げる。
観客は二人の押し合いに、息を吸うのを忘れて見守っているようだ。
その押し合いを制したのはシェンメイ。肉体強化で力を増した筋肉猫では、リータの力を少し上回っているようだ。
だが、リータもタダで負けたわけではない。シェンメイの力を利用し、突進を引いて体勢を崩させた。
そこをリータの拳が振るわれるが、シェンメイはパワーだけでなく、素早さも備えている猫なので、倒れた勢いに任せて前回りに跳んでリータの拳を避ける。
その後はシェンメイの独壇場。大斧を振り回し、手数でリータを追い詰める。すると、双子王女がわしに解説を求める。
「あら? リータさんは防戦一方ですわね」
「盾しか持っていないのですから、攻撃に移れないのではないですか?」
「まぁにゃ~。リータはカウンターを主軸にしているから、魔法を使えないルールだと、攻め手に欠けるにゃ」
「では、メイバイさんのような勝ちにはならないのですわね」
「いんにゃ。よく見るにゃ」
「何をですの?」
「シェンメイが時々倒れそうになってるにゃ」
「本当ですわ」
「攻撃なんてしていないのに、不思議ですわ」
リータに教えたのは崩しじゃからな。盾で受けて一瞬耐えたあとに引かれては、シェンメイも連続して攻撃できんから、乗り切れていない。
逆に、無駄な動きが増え、疲れが見えて来たな。動きも単調になって来たし、そろそろか。
わしが双子王女に動きが変わると伝えると、予想通り、リータとシェンメイの動きが変わる。
リータはシェンメイの大振りの大斧を、弾き返し始めたのだ。双子王女も、これには驚きの表情を見せる。
「どうなってますの?」
「簡単に説明すると、インパクトの位置をずらしているにゃ。一番力が乗る、ちょっと手前で押し返しているから、シェンメイが力負けしているように見えるにゃ」
「あのスピードの中でそんな事をしていますの!?」
「驚きですわね。でも、あの攻撃では、決着はつかなくて?」
「いんにゃ。終わりにゃ」
「「あ!」」
わしが終わりを告げた瞬間、リータはシェンメイの攻撃を受け、盾を引いて崩す。シェンメイは今まで押されていたので、簡単に前のめりになってしまった。
そこでリータは懐に入るフェイントを入れ、シェンメイが体勢を立て直す為に跳んだ所を追い掛けて、パンチを放つ。
シェンメイはギリギリガードが間に合ったが、大斧を自分とパンチとの間に置いただけ。リータの力とパンチの角度によって、高々と打ち上げられてしまった。
「ちょっと行って来るにゃ」
わしは双子王女にそれだけ言って、シェンメイを空中でキャッチ。ドスンと着地すると、シェンメイに声を掛ける。
「邪魔してすまないにゃ」
「シ、シラタマ王!?」
「たぶんシェンメイにゃら、にゃんとか着地できただろうけど、わしの判断で止めさせてもらうにゃ」
「いえ……着地は出来ただろうけど、あのまま続けても、あたしに勝ち目はなかったわ」
「潔く、負けを認めてくれてありがとにゃ。さあ、休憩しようにゃ」
わしはシェンメイが疲れているだろうと、大きな荷物を持つように運び、皆の元へ連れて行く。そこで飲み物を用意し、項垂れるケンフとシェンメイを宥めていると、リータが寄って来た。
「シラタマさん! 本当に強くなれました!!」
「にゃ~? わしが嘘を言うわけないにゃ~」
「やっと自信が持てました~」
「それじゃあ約束通り、ポコポコはやめてにゃ~?」
「うっ……。そんな約束してましたね……」
「忘れてたにゃ!? ひどいにゃ~」
「……わかりましたよ!」
リータはキレ気味に了承し、わしを抱き締める。力が上がっているから、ちと苦しい。そうしているとメイバイも寄って来て、二人で撫で回す。
わし達のそのやり取りを見て、双子王女は試合が終わったと受け取ったのか、ギャラリーに解散を告げて、ようやく仕事に戻って行った。
残されたのは、わし達とコリス、シェンメイとケンフ。そのシェンメイとケンフは、神妙な顔をしてわし達に近付く。
「二人が強くなれたのって、シラタマ王が何かしたのよね?」
「まぁしたにはしたけど……にゃんですか?」
「俺にも、訓練をつけてください!」
「あたしも! お願いします!!」
「にゃ……嫌にゃ」
「「お願いします!!」」
このあとわしは、二人から逃げ回るのであった……。それでも毎日のようにわしの前に現れて泣き付くので、重力の魔道具だけ貸して、たまに乱取りをさせられるのであった……
まだ何か秘密があるじゃと? 猫の秘訣じゃ! それを教えろじゃと? だから嫌じゃと言っておるじゃろ! わしの休みが減るんじゃ~~~!!
なかなか納得しない二人に、全力で逃げ回るわしであったとさ。
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