319 / 755
第十一章 王様編其の二 外遊にゃ~
315 マスコットのお出掛けにゃ~
しおりを挟む天孫降臨で猫の国に混乱が生じたが、どうにか落ち着くと、わしは女王に謁見する為に家を出る。
今回の目的は外交なので、一人で羽を伸ばしてやろうと思っている。
ガシッ!
リータとメイバイには笑顔で送り出されたが、コリスとワンヂェンに尻尾を掴まれてしまった。どうやら、一人で遊びに行くと思われたみたいだ。
転移魔法で行くつもりだったので、ワンヂェンを置いて行こうとしたら、引っ掻かれた。もう一度、王都に行ってみたいんだとか。
なので、ワンヂェンにはきつく口止めして王都近辺に転移。
教えても使えないよ? そんなに「にゃ~にゃ~」言うなら、もう連れて来ないよ?
転移魔法を見たワンヂェンはうるさかったので、少し脅して王都の門兵に挨拶する。いつもの半分男に馬車に乗って行けと言われたが、なんとなく断って門を潜った。
もちろん、マスコット三匹の登場で騒ぎが起きるが、気にせず大通りを練り歩く。
どれが好み? 抱き心地で決めたい? お触り禁止です。
どれが一番高値で取引されるか? 黒猫は安い? ワンヂェンが悲しむから、売らないでください。
抱きつきたい? みんなで抱きついたら怖くない? 元々怖くないので、赤信号みたいに言わないでください。
王都の住人の声を聞きながら歩いていたが、妖しく目を輝かせる婦女子に危険を感じ、わし達はダッシュで城に向かう。
城ではアポイントを取っていたので、女王の待つ執務室に直行。コリスとワンヂェンはさっちゃんに預け、城の案内をしてもらうので、わしだけ女王に文句を言われる。
「まったく……馬車を用意していたのに、なんで使わないのよ」
「まぁまぁ。普通に歩いていたら、街の者も慣れるにゃろ? わしの時もそうだったにゃ~」
「そうだけどね~……」
「それより、本題に入ろうにゃ」
「……わかったわ」
とりあえず話を変え、説教を早めに打ち切って、お茶を飲みながら話し合う。
「にゃにから話そうかにゃ?」
「何からも何も、光の件よ。わからないって言っているのに、他国からも問い合わせが多くて困っているのよ」
「この国にも被害が出たにゃ?」
「ええ。急に眩しい光に包まれたかと思ったら夜になって、馬車の事故が多数起きたと聞いているわ」
夜? あ、山の影に入ったのか。東の国は、高い山が近いからな。しかし、西からの太陽の光さえ打ち消すなんて、さすが神様じゃのう。
「わしの国も、森から獣がわんさか出て来て大変だったにゃ~」
「それは御愁傷様。こっちでは、そこまでの被害がなかっただけマシね」
「それで光の件にゃんだけど、話す前に質問させてくれにゃ」
「ええ。なに?」
「女王は神を信じてるにゃ?」
「神? この国には宗教が無いから、そこまでは……」
「じゃあ、神様が地上に降り立ったと言ったら信じるにゃ?」
「……無理ね。そんなわけ、あるはずがないじゃない」
「そうにゃんだ……」
双子王女と同じ反応か……。宗教が無いから、信じるのは難しいのかな? 双子王女もわしが神様に会ったと言っても、ぜんぜん信じてくれなかったしな。まぁあんな説明では、わからんのは頷ける。とりあえず、事実だけ説明しておくか。
「いちおう、いま言った事が、光の一件の真相にゃ」
「嘘でしょ?」
「まぁ信じられないにゃら、それらしい嘘でも考えようかにゃ?」
「……本当なの?」
「信じるか信じないかは、女王しだいにゃ~」
「う~ん……もう少し詳しく説明してちょうだい」
女王のお願いにわしは説明するが、要所要所で言葉が詰まり、上手く説明が出来ない。わしの転生は言う気はないのだが、アカシックレコードや大戦の事になると、言葉が出なくなる。
リータ達に説明した時は、難しいかと思って言わなかったが、双子王女に詳しく説明しようとしたら、同じ現象が起きた。
おそらく、スサノオが喋っていい内容を調整していると思われる。そのせいで、しどろもどろに聞こえて信用してもらえない事態になっている。
「だから~。神様が邪魔してるんにゃ~。ゴロゴロ~」
「言い訳が下手ね。何を隠しているのよ!」
「ゴロゴロ~。信じてくれにゃ~」
結局、女王は信じてくれず、わしが「にゃ~にゃ~」言い続ける事で、諦める事となった。でも、わしの口から危険は無い事は聞けたから、一段落はついたようだ。
「もうそれでいいわよ。これで呼び出した用件は終わったわ。あとは、時間まで撫でるわね!」
「ずっと撫でてたにゃ~。ゴロゴロ~。こっちには、まだ言いたい事があるにゃ~。ゴロゴロ~」
「言いたいこと?」
「賠償金にゃ~。全額、耳を揃えて持って来たにゃ~」
わしの発言に、現金な女王は撫でる手が止まった。なので、どこに出したらいいかと聞くと、麦の貯蔵庫があるからと案内され、担当者と手の空いている者も集めて、数量の確認をさせている。
わしも数量の抜けがあってはいけないのでその場に同席し、嘘がないかを確かめ、最終的な麦の量を女王と共に確認する。それが終わると執務室に戻り、話の続きをする。
「これで賠償金は、完済でいいにゃ?」
「……ええ。でも、少し多いわね」
「まぁこれからの友好の為のサービスにゃ」
「そう言う事なら、有り難くもらっておくわ。それにしても、これほどの量の麦を、時期外れにどうやって用意したの?」
「それはトップシークレットにゃ~」
双子王女には秘密にしているように頼んだけど、本当に秘密にしてくれたんじゃな。意外と口が堅いのか? それとも、食糧難だから見逃してくれたのか?
まぁ女王に知られていないのだから、話す必要もないな。
「植物の成長が早くなる水を使っているとは聞いてるけどね~」
バレテーラ。
「にゃ、にゃんで知ってるにゃ?」
「西の村で何かやっていたじゃない? 私が知らないとでも思っていたの?」
どうやら、女王はとうの昔から知っていたようだ。村長がご丁寧に減税されていた麦を納税し、領主に時期も違うのにどうやって作ったのかを問いただされる。
しかし、わしが秘密にしてと頼んでいたので、領主と板挟みにあった村長は、猫に聞いてくれと言ったようだ。
そこから、女王の親友の猫を思い出した領主が、女王に一報を入れたらしい。さすがに村長も、女王の使いには口を割るしかなかったようだ。
だから双子王女も、わざわざ報告する必要はなかったのだとか。
「村長もバカだにゃ~。黙っていれば、バレにゃかったのににゃ~」
「そうね。言われなければ、誰も気付かなかったわね。でも、そんな事をすれば重罪だったから、言わざるを得なかったのでしょ」
「いんにゃ。あの村長は人が良すぎるにゃ。誰かの恩恵を受けたら、配ってしまうんだと思うにゃ。悪い奴に騙されないといいんにゃけどにゃ~」
「そう……それはそうと、その栄養材?譲ってくれない? 捕虜の支払いにしてくれたらいいわ」
「あ~。あれはもう残りが少ないにゃ。これ以降は、わしも使う気がないからにゃ」
「本当~? まだ持っているんじゃないの~?」
「ゴロゴロ~」
女王みずからのハニートラップにあったわしは、洗いざらい喋る。実際、巨象の血は残り少ないので、喋ったところで問題ない。さらに、危険性を話すと素直に引いてくれた。
「あの二人に殺され掛けたなんて……」
「わしじゃなかったら、確実に殺されていたにゃ。にゃははは」
「はぁ……よく笑っていられるわね」
「終わった事だしにゃ。もう、うちもめったに使わないし、不作の時にとっておきたいから譲れないにゃ~」
「それなら、その時に売ってもらったほうがいいわね」
「多少は援助してあげるから、先払いで捕虜のおまけしてくれないかにゃ~?」
「無理!」
チッ……いまの流れなら、ぜったい首を縦に振ると思ったんじゃがな。
「じゃあ、これをプレゼントするから、割引をお願いしにゃす!」
わしは、次元倉庫から大剣を取り出す。その大剣は、柄まで白魔鉱で出来ており、オンニの大剣とほぼ同じ大きさをしている。
「凄いわね……」
「いい物にゃろ? オンニの持つ国宝にゃんて、目じゃないにゃ」
「たしかに……これ一本で、捕虜百人分に匹敵しそう……」
「にゃ~? でも、これはプレゼントにゃから、割引してくれたらいいにゃ」
「どれぐらい?」
「タダにゃ~!」
「出来るわけないでしょ!!」
結局、タダにはしてくれなかったが、割引は考えてくれるようだ。話し合いが終わり、女王に撫でられているとお昼が来たので、コリス達と合流して城のメシをゴチになる。
さっちゃんは艶々した顔になって、ワンヂェンは逆にゲッソリしていたけど、なんでじゃろう?
お昼を食べ終わると城をあとにして、キャットランドに向かう。なんでも二人とも、ここが目的だったようだ。
しかし、笑顔の悪魔達が多くいるので、変身魔法を使って時間制限をするしかない。それに大人が遊んでいるのもおかしいので、ワンヂェンにはヤーイー子供バージョンに変身させる。
二人はそれで楽しく遊べるが、わしはマスコットのままなので、子供達に取り囲まれてしまった。
わしが犠牲になっているので、コリス達のコースアウトは助けられない。なので、孤児院の子供数名を二人に張り付かせ、監視をさせる。
それでも二人は楽しく遊んでいた。コリスは友達がいっぱい出来たように楽しそうだ。ワンヂェンは子供に戻ったように楽しそうだ。わしはぬいぐるみ扱いされて悲しそうだ。
しばらく子供達の相手をしながらその光景を見ていたが、コリスに限界が来たらしく、ボフンッと元のリスに戻る。その直後、ワンヂェンも元の黒猫に変わり、子供達が固まってしまった。
わし達は撫でられる前にそそくさと逃げ出し、広場に走る。
そうして広場で買い食いしていたら、仕事帰りのスティナにからまれた。
「またコリスちゃんを連れ出してるの? 陛下に怒られても知らないわよ」
「もう怒られたから、へっちゃらにゃ~」
「怒られたんだ……相変わらずこりないのね。あ、そうだ。先日の光の正体って、シラタマちゃんが何かしたの?」
「にゃんでわしがした事になってるにゃ?」
「だってあんな事をしでかすのなんて、シラタマちゃんしかいないじゃない」
いくらなんでも、わしでもあんな光は出せん。買い被り過ぎじゃ。
「わしじゃないにゃ~」
「じゃあ、何があったの? シラタマちゃんが関係してるんでしょ?」
「言っても信じにゃいから、言いたくないにゃ」
「え~! 教えてよ~」
「近いにゃ~」
スティナはわしに胸を押し付ける。わしは手で押し返すが、胸を揉んでいるみたいに見られてもアレなので、なすがままに受け入れる。
「ギルドマスターとして、知っておきたいのよ~」
「それにゃら女王に報告したから、そっちにいってにゃ~」
「当事者から聞いた情報のほうが確実じゃない? わかったわ。ポケットマネーで買うわ。コリスちゃん。おやつ買ってあげる~」
「ホロッホロッ」
「にゃ!? それはコリスを買収しているだけにゃ~」
コリスはおやつの言葉に反応し、嬉しそうに屋台に連れられて、串焼き十本を手に持ち、頬袋を膨らませて帰って来た。すでに口の中に入っているモノもあるので、わしは情報を売るしか出来なかった。
「神様と会った?? シラタマちゃん……それは嘘の情報ね。返金しなさい!!」
「だから信じないって言ったんにゃ~~~!」
スティナは信じてはくれなかったが、コリスが嬉しそうな顔をしていたので、返金は許してくれた。
「今日は泊まって行くのよね~? ふぅ~」
「いえ、帰らせていただきにゃす!」
その後、エロイお姉さんの誘いを振り切って……いや、仕事を終わらせたわし達は、猫の国に帰るのであった。
0
お気に入りに追加
1,169
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。
光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。
ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…!
8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。
同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。
実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。
恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。
自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる