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第十一章 王様編其の二 外遊にゃ~
304 旅館で一泊にゃ~
しおりを挟む昼食を終え、結婚報告をすると皆は大絶叫する事となり、海の家で酒盛りが始まった。どうやら皆、リータとメイバイに先を越され、やけ酒に走ったようだ。
ひとまずわし達は逃げ出し、海に向かうさっちゃんとエミリの護衛を、リータとメイバイ、コリス、ワンヂェン、兄弟達に頼む。
わしも誘われたが塩の製作があったので、忙しいからと断ってそちらに向かう。
どうなったかな~? わ! マズイ!!
わしは焦って火を消し、鍋を見つめる。
失敗かと思えたが……成功してる? 焦げたようなにおいは薪のせいか。ビックリさせおって。てか、水は全て蒸発しておるけど、塩は焦げないのかな? 大発見じゃ! ……学校の教科書に載っていそうじゃし、人に話すのはやめておこう。
まぁこれなら火加減を気にする必要も無く、塩を量産できそうじゃし、一気にやってしまおう。ついでにアレも作ってみようかのう。
わしは時間を掛けて作る方法をやめて、大きな鍋に入れた海水を【火球】で一気に蒸発させる。そして、白い結晶を次元倉庫に入れて、それを繰り返す。
こうして時間を短縮した事によって、予定より大量の塩を手に入れる事に成功したのであった。
ちなみに使った鍋は、もう必要ないので、ゴツゴツした岩場の隙間に入れて固めておいた。平らにしておけば、次回来た時にも使いやすいだろう。
それらが終わり、砂浜に戻ると、やけ酒していた生ける屍に取り囲まれた。
「にゃ、にゃんですか?」
「どうして私達が結婚できないのよ~!」
「知らないにゃ~」
「シラタマちゃん! 誰か紹介して~」
「猫のわしに言うにゃ~~~!」
スティナの涙ながらの訴えを怒鳴って断るが、焼け石に水。全員に服を剥ぎ取られ、酒を浴びせかけられ、吸い付かれ、散々な目にあう。
このままではわしの理性がぶっ飛びそうなので、先ほど作った物を囮に、リータ達の元へ逃げ出した。
そして「にゃ~にゃ~」泣きながら、海に飛び込む。リータ達が慰めてくれたが嘘泣きがバレて、めちゃくちゃ怒られた。怒りの表情でわしを睨んでいたから演技したのに……
スティナ達の厄介さはわかっているから嘘泣きしなければ、怒るつもりはなかったらしいが、顔が怖かったんじゃもん!
その後、十分にスキンシップをとって、機嫌を直したリータ達を連れて海の家に戻ると、生ける屍が、屍になっていた。
わし達は手を合わせ、ひとりひとり、荷車に乗せるのであった。ホンマホンマ。
皆を荷車に乗せると別荘に向けて歩き、中に入れて床に寝かせる。このままでは、体が痛くなるので、二階の板張りの部屋に家から持って来た布団を敷いて、寝床の準備をする。
そうこうしていたら、息を吹き返した皆がお風呂を要求するので、お風呂の準備をして押し込む。
その間、動ける者は食事の準備をし、そのメンバーで食べ始める。今晩のメニューはシーフードお好み焼き。下準備さえ済めば、遅れて来ても自分で焼けるので、エミリの負担が減る。
ついでにタコ焼き器も土魔法で作ってみた。生地を水で少し薄めてコロコロと作っていたら、エミリが何をしているのかと聞いて来たのでコソコソと答える。
「こんなの、お母さんのレシピに無かったです」
「お母さんは、わしと生まれた地方と違ったんにゃ」
「地方?」
「ビーダールでも、食事が違ったにゃろ? それと一緒にゃ」
「へ~~~」
「ほい。出来たにゃ」
わしはエミリの皿に、タコ焼きを数個乗せるとエミリ特製ソースをかける。するとエミリは形を確認して、口に入れようとする。
「待つにゃ!」
「へ? あ、あつっ! はふはふ」
「一気に入れちゃ、やけどするにゃ~」
「言うのが遅いです~。もうやけどしちゃいました~」
大口を開けて口の中を見せて来るエミリに謝罪しながら、わしは水の入ったコップを渡す。
「ゴメンにゃ~。でも、正式な食べ方は、それが正しいんにゃけどにゃ」
「こんなに熱いのにですか?」
「熱いのを、はふはふやって食べるのが美味しいらしいにゃ」
「猫さんは、どうやって食べるのですか?」
「わしは、少し待ってかにゃ? 猫舌にゃもん」
「プッ! あははは」
わし達はコソコソと話をしていたが、声が大きくなったせいで、さっちゃん達がタコ焼きに興味を持つ。わしは熱いから注意して食べるように言ったのに、さっちゃんがやけどして喧嘩が勃発。
「にゃ~にゃ~」喧嘩していると、ちょうど頃合いになったのか、リータとメイバイに、わし達はタコ焼きを放り込まれた。
さっちゃんは美味しく食べられたが、わしの食べたタコ焼きはまだ熱くてやけどした。だが、久し振りに食べたので涙が出る。
涙を拭い、コリス達にも食べさせて楽しくお喋りしていると、スティナ達がお風呂から上がって来た。もう完全復活したようで、お腹がへったと寄って来るので、お好み焼きやタコ焼きの作り方を見せて、あとは勝手にやってもらう。
そして笑いながら酒を片手に、マリーのお好み焼きをひっくり返す様を見ていると、残念な声が聞こえる。
「あ~……失敗しちゃいました」
「それぐらいにゃら、まだにゃんとかなるにゃ。くっつくようにまとめるにゃ」
「こうですか? でも、ひび割れが……」
「そんにゃの、ソースを塗れば気にならないにゃ~」
「そうなのですか……」
「お腹に入れば、にゃんでも一緒にゃ~。それじゃあ、わし達はお風呂に行くにゃ~」
マリーは何か考え込んでいたが、わしはそれを茶化してから、お風呂に入っていない者に声を掛けて立ち上がる。すると、スティナに捕まった。
「シラタマちゃん! さっきのアレちょうだい!!」
「にゃんでいちいち挟むにゃ~!」
「先払いで払っているんじゃない。嬉しいでしょ?」
「嬉しくないにゃ~!!」
まったく……リータ達の殺気が怖いからやめてくれ。いや、マジで!
このままでは怒られるの決定じゃし、さっさと出して逃げるが吉じゃ。でも、一口しか食べてないんじゃよな~。この窮地を脱するには、また作るしかないか。
わしは、さっき作ったモノ。触手の干物を取り出す。塩を作る時に熱が酷かったので、薄くスライスした触手を置いておいたら、いい塩梅で水分が抜けた。見た目はスルメっぽいが、桁違いのうまさだ。
スティナ達から逃げ出したあと、コリス達とお風呂に入ったら、さっちゃんが我が儘を言って来たので、お風呂の外に露天風呂を作る。また、外で入りたいんだとか……
「う~ん……外が蒸し暑いから、あまり気持ちよくないね」
「そうだにゃ~。水に変えよっかにゃ?」
「あ! それいいね。やって~」
わしはお湯を吸収魔法で消し去ると、水の玉を出して湯船に落とす。するとさっちゃんは……
「にゃ~! バシャバシャ泳ぐにゃ~」
水しぶきをあげて泳ぎ出す。さらにワンヂェンも加わり競争しだすから、たまったもんじゃない。コリスまで、さっちゃん2に変身して泳がないで欲しい。
仕方がないのでわし達は室内風呂に移動して、ゆっくりとする。しばらく、リータとメイバイとエミリに撫でられていると、さっちゃん達がくたくたになって戻って来た。
コリスに負けて何度も挑戦したらしいけど、しらんがな。勝てるわけがないじゃろう。
皆、湯船で船を漕ぎ始めたので、慌てて外に連れ出し、水分を消し去って寝室に移動する。なんとかさっちゃん達は運ばずに済んだが、食堂に行くと、スティナ達が死んでいた。
このまま寝かせてもいいが、寝室に運んであげる。せかせかと全員を寝室で雑魚寝させたら、わしは三階のバルコニーに移動する。そして設置したベンチに腰掛け、潮風を感じながら酒を片手に条約書に目を通すのであった。
「猫さん……」
長い時間、一人で条約書と格闘していたら、後ろから誰かに声を掛けられた。
「にゃ? ……マリーにゃ?」
「はい」
振り返ると部屋の中は暗く、誰だかわからなかったので、声で当たりを付けると当たっていたようだ。
マリーはわしに声を掛けると、静かに隣に座る。
「どうしたにゃ?」
「ちょっとショックでした」
「にゃ~?」
「結婚の事です……」
あ! マリーもわしと結婚したかったんじゃったか。どうしてわしみたいな妖怪と結婚したがるのか、いまだにわからん。でも、マリーはお昼から少し元気がなかったのは知っている。どうしたものか……
「なんで結婚しちゃうんですか~」
わしが返答に困っていると、マリーは涙ながらに訴える。
「う~ん……いまから話す事は、秘密にしてくれるかにゃ?」
「ぐすっ……なんですか?」
「本当は、まだ結婚する気はなかったんにゃ……」
わしは結婚の経緯を話す。異種族どうしの結婚を印象付けられる策略。その策略が裏で暗躍され、断れなかったこと。
マリーはわしの話を黙って聞いていたが、次第に目が輝き出した。
「それじゃあ、結婚する気はなかったのですね!」
「あ、それはあったにゃ」
「え……」
「タイミングの問題にゃ。まだ結婚する気がなかっただけで、いつか、どちらかと結婚していたと思うにゃ」
「そうなのですか……」
「そんにゃ顔しないでにゃ~。わし達の関係は、今までと変わらないにゃ~」
「関係?」
「友達にゃ。マリーとは、初めて話した人間の友達第一号にゃ。これは、一生変わらないにゃ」
「ト・モ・ダ・チ……」
その言い方だと、ブサイクな宇宙人みたいじゃな。と、アホな事を考えていないで、もうひと押ししなくては。
「大事にゃ友達第一号には、誰にも話していない、わしの秘密を教えてあげるにゃ」
「猫さんの秘密ですか……」
「わしはおそらく、千年生きるにゃ」
「え……」
「キョリスでたぶん、三百年生きているからにゃ」
「そんなに長生きじゃあ……」
「そうにゃ。ここに居る者、全員を、いつか看取ってさよならするにゃ」
わしの発言に、マリーは幾多の別れを想像したのか涙ぐむ。なので、わしはマリーの頭を優しく撫でて、言葉を続ける。
「心配しなくても大丈夫にゃ。みんにゃが居なくにゃっても、また友達は出来るにゃ。それに、またマリーと出会えるかも知れないしにゃ」
「私と出会えるわけないじゃないですか……」
「おっかさんから聞いた話だと、良い行いをしていると、記憶を持ったまま生まれ変われるんにゃって。信じるかどうかは、マリーしだいにゃ」
「猫の言い伝えですか?」
「そんにゃもんにゃ」
「じゃあ、頑張って私も猫に生まれ変わります!」
「にゃ!? そこは人間にしてにゃ~」
「お似合いじゃないですか~」
「猫だと……」
わしは猫のデメリットを懇々と説明し、夜が更ける。マリーもさすがに虫を生で食べたくないらしく、人間に生まれ変わる事にしたようだ。
絶対に探し出してくれと言われ、その時には結婚する約束をしてしまったが、どうなることやら。
マリーが話し疲れて眠りに就くと、寝室に抱いて運んで、わしもそのまま眠りに落ちるのであった。
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