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第十一章 王様編其の二 外遊にゃ~
302 バハードゥに報告にゃ~
しおりを挟むシラタマが高笑いしながら白タコの腕を斬り落としていた少し前、リータ達は白タコの触手と戦っていた。
「マリー。火魔法ちょうだい!」
「すみません。もう、魔力が……」
アイ達は、切り刻まれても向かって来る触手に苦戦を強いられている。
「ワンヂェンちゃんは、火魔法使える?」
「ウチは生活に役立つ程度しか使えないにゃ~」
「じゃあ、枯れ木に火をつけて。それで燃やすわ。この布、使ってちょうだい」
「わかったにゃ~!」
ワンヂェンはアイの指示に従い、落ちていた木に布を巻き付けて火をつけ、マリーやエレナに渡す。その燃える木の先端を、切り刻まれた触手に近付けると動きは止まる。
それでも多くの触手がそのまま残っており、防戦一方で終わりが見えない。
「火、以外に、何か弱点は……」
アイが打開策を考えているその時、辺りが明るくなった。
「なに、あの大きな光の槍……」
「すごいです……」
アイはシラタマの【大光槍】を見て驚きの声を出し、マリーは尊敬の声を出す。その他のアイパーティも似たような反応を示し、動きが止まってしまった。
そんな中、シラタマの次の魔法、【大土槍】を見たリータは、皆に声を掛けて現実に引き戻す。
「皆さん! 気を抜かないでください!!」
「え、ええ。でも、どうする?」
「シラタマさんが、ヒントをくれました。何も焼くだけが、倒す方法じゃありません。動きを封じるだけでよかったんです!」
「なるほど……エレナ、みんなに矢を配って!」
「了解!!」
リータの考えをすぐに理解したアイは指示を出し、エレナは手持ちの矢を皆に配る。その姿を横目に、リータは魔力を温存していた二人にも指示を出す。
「ワンヂェンさん。コリスちゃん。私達は、土魔法で動きを止めますよ!」
「わかったにゃ~」
「わかった~」
これより、皆は手分けして矢や土の槍を触手に突き刺し、細か過ぎる触手には、炎で焼き払う。
こうしてリータ達の戦闘は、終わりに近付くのであった。
* * * * * * * * *
リータ達が触手の動きを封じている間、わしは串刺しにした白タコの腕を斬り続けていた。
「にゃ~しゃっしゃっしゃっしゃっしゃっしゃっしゃっ」
高笑いしながら……
お金が無限に湧き続けるのだから致し方ない。しかし、無限に思えた再生にも、終わりがやって来る。
あら? 再生が遅くなったと思ったら、止まったか? いや、すんごく遅くなっただけか。ここが潮時じゃな。トドメを刺すとするか。
「【大光一閃】にゃ~!」
わしは巨大な光の剣を作り出すと、縦に振り下ろす。このままでも死ぬと思えたが、念のため素早く海を走り、横に移動してもう一度振り下ろす。
よっつに切り分けたけど、これでどうじゃ? ……まだ動いておる。触手も次元倉庫に入ったし、これも入るかな?
わしは試しに白タコを次元倉庫に入れようとすると、反発されずに、入れる事に成功した。
よし! ミッションコンプリートじゃ。辺りはえらい事になったけど、砂浜じゃし、そのうち戻るじゃろう。土の槍だけ元に戻してっと。
触手もどうなったか確認しておくか。出した瞬間、おっちゃんの首に絡み付くかもしれんしのう。
わしは次元倉庫から触手を一本取り出すと、動く気配が微塵も感じ取れなかったので、安心して仕舞う。
そうして高笑いしながら、スキップで皆の元へ向かうのであった。
「にゃ~しゃっしゃっしゃっ……しゃ~~~?」
皆の姿が目に入ると地面に座り込んでいたので、笑い声から疑問の声に変わる。
こんな所まで飛んで来ておったんか……しまったな~。時間を掛けている場合じゃなかった。触手は……矢や土の槍が刺さっておる。アイ達は触手の動きを封じてたってところか。それよりも、皆の心配が先じゃ。
「みんにゃ! 怪我はないにゃ?」
「ええ。なんとかね」
わしの質問に、アイが答えてくれた。わしはホッと胸を撫で下ろし、現状を聞いて触手を次元倉庫に入れてしまう。すると、コリスがモフッと抱きついて来た。
「モフモフ~。さっきの食べないの~?」
「そうじゃな~……帰ってから食べようか?」
「え~! いっぱいがんばったから、おなかすいた~」
「わかったわかった。ちょっと待ってろ」
わしはコリスの我が儘に負けて……いや、頭をモグモグされたから、調理を始める。大きな触手を一本取り出したら、塩で軽くぬめりを取り、水洗いして串にぶっ刺す。
皆が無言でわしの作業を見ているので、圧力に負けてもう二本取り出し、切り分けて串を刺す。ちなみに、ルウの腹の轟音がうるさかったから大きめの一本を、丸々食べさせるハメになった。
串に刺した触手はエミリ特性醤油もどきを塗って、それを直火で焼くだけ。いい匂いが漂うと、コリスがわしの尻尾をモグモグするので、触手を刺身にしてみた。それを醤油もどきに付けて、コリスの口に放り込む。
「おいしい! あ~ん」
「ほい!」
「モグモグ……もっと~」
「わしも食べたいから、これにちょっと付けて自分で食べような?」
「わかった~!」
それじゃあ、わしもひと切れ……おおう。うまいのう。こないだ倒した黒鮪の比じゃない。もっと味わいたいんじゃが……
「みんにゃも食べるにゃ?」
「「「「「「はい!」」」」」」
ひとまず皆には、わし用に切り分けた物を食べさせ、その間に触手をスライスする。リータとメイバイに、焼いている触手を見てもらおうとしたら、メイバイが猫になっていたので、リータしか役に立たない。
当然、黒猫は役に立たないので、わしの口には刺し身が入る事はない。
串焼きが頃合いになると皆に振る舞い、やっとわしも食べる事が出来たが、おかわりはまた今度じゃ! コリスの大きな串焼きを、恨めしそうに見ないで!!
エレナには、報酬の件をブーブー言われたが、それも今度じゃ!
つまみ食いが終わると皆を飛行機に乗せ、ぶっ飛ばしてビーダールに帰る。街にはバスで入り、アイ達を高級宿屋で降ろしてから、わし達は城に用があるので発車する。
城に着くと、バハードゥに仕事の報告に来たと言ったら、すぐに面会する事となった。
「もう終わったのか!?」
「そうにゃ。確認して欲しいんにゃけど、大きいからバラバラにして持って帰って来たにゃ。どこに出そうかにゃ?」
「どれぐらいの大きさだ?」
「そうだにゃ~……長さで言うと、50メートルぐらいになると思うにゃ」
「そんなにか!?」
バハードゥは伝説の白い巨象を思い出したようなので、補足で下手なタコの絵を書いて説明する。その結果、四分割した胴体の一部と触手を訓練場で見せ、依頼完了書を発行してもらった。
仕事も終わり、帰ろうとしたら食事に誘われたので、ご相伴にあずかる。少し国の話をして友好条約の書面を受け取ったが、読むには時間が掛かりそうだったので、帰りにサインすると言って宿に戻る。
わし達が城から出ようと歩いていたら、ハリシャが追い付いて来た。なんでも、コリスが宿で何か言われないか心配しているようだ。だけど、全身でモフモフしたいだけじゃろ?
高級宿屋に戻ると皆でお風呂を済まし、コリスを寝かしつけると、さっちゃんとハリシャのモフモフうるさいVIPルームから抜け出す。そして条約書に目を通そうとバーカウンターに行ったら、アダルトフォーに捕獲された。
「スティナ達は、また飲んでるにゃ~?」
「それがね~。美味しいけど高いから、量を飲むのは怖いわ~」
「高級宿屋だからにゃ~。まぁ明日、明後日と、いっぱい遊ぶ予定なんにゃから、控えたほうが懸命にゃ」
「たしかに……でも、部屋に帰ったら、買って来たお酒に手を出しそうなのよね」
「ホント好きだにゃ~。一番安いのなら、一杯だけ奢ってあげるにゃ」
「やった! マスター。全員にボトル一本!!」
「一杯って言ったにゃ~!」
「私達の一杯は、一本なのよ。ふふん」
あ……マスターから奪い取って、ラッパ飲みしやがった。これでは返品もできん。注意してもセクハラされるのがオチじゃし、一番マシなガウリカのそばに寄っておこう。
「アイ達はどうしたにゃ?」
「くたくただから、先に休むと言っていたよ。何をして来たんだ?」
「バハードゥから仕事をもらってにゃ。それで疲れたみたいだにゃ」
「だからか」
「そう言えば、ガウリカには仕事を頼んだけど、他はにゃにをしていたにゃ?」
「あたしと一緒に観光兼買い出しと、新商品のアドバイスをしてもらったよ」
「ガウリカのお店の新商品にゃ? ちゃんとアドバイスしてくれたにゃ? 邪魔ばっかりしてそうにゃ~」
「そうでもない。味見役に、服の見立て、なんてったって目利きのエンマさんがいるからな。助かったよ」
あ~。たしかに各分野のエキスパートが揃っているから、商売するにあたっては最強の布陣か。
「そうにゃ。スパイスのほうはどうなったにゃ?」
「塩はまだ入荷していなかったが、他なら調査済みだ。ほい」
「ありがとにゃ~」
わしはガウリカから紙を受け取ると、スパイスの料金表に目を通す。
ふむ。仕事が早いし丁寧じゃ。最安値と最高値。卸しの数量まで調べてくれておるのか。これは、移動費用だけでいいと言われていたが、別料金を払わなくてはいけないかもな。
お金だと受け取らんじゃろうし、ガウリカにはいい酒をもう一本付けるか。
わしはマスターを呼んで、そこそこの値段の酒をボトルで持って来させる。そしてグラスに注いで二人で飲むが、全員寄って来たので皆にも振る舞い、条約書を読む事も出来ずにお開きになる。
スティナ達には酒を預かって欲しいと言われたので、部屋まで行って次元倉庫に仕舞うが、犯されそうになって、着の身着のまま逃げ出した。
その後、リータ達のところで寝ようとしたら鍵が閉まっていて、ノックをしても反応がない。疲れて眠っているようなので、仕方なくさっちゃんの部屋で休む事にする。
さっちゃんの部屋の前にはソフィが見張りをしていたので、鍵を開けてもらって中に入る。そしてさっちゃんのベッドに潜り込むと、モフモフ寝言が聞こえて来たが、わしも疲れていたようなので、すぐに眠りに落ちた。
翌朝、早くに目を覚ますと、寝惚けるさっちゃんとコリスを車に積み込み、リータ達にも手伝ってもらい、手分けして皆を積み込んでもらう。
全員積み込んで出発しようとしたら、ハリシャも乗り込んでいたので排除しようとするが、バハードゥに許可をもらっているとのこと。
それならいいかと王都を出て、飛行機をぶっ飛ばし、わし専用プライベートビーチ、以前エミリと来た無人島に着陸した。
「「「「「うわ~~~!」」」」」
「にゃ!? だから走るにゃ~!!」
わしの制止を聞かず、約半数は海に走って行ってしまった。追うのも面倒なので、砂浜の切れる土地を整地して、海の家を作る。
そして荷物を取り出すと、着替えるように皆を捕まえ、覗くわけにもいかないので、海に必要な物も各種作る。
パラソルに、横になれるベッドを十個。それに監視台も必要じゃな。砂浜はこんなもんか。サーフボードに浮き輪も同じ数作ってと……滑り台も必要じゃな。コリスも滑れるように、大きく作っておこう。
わしが皆の為に土魔法でいろいろ作っていたら、続々と水着姿の女性が海の家から出て来た。皆の逸る気持ちを落ち着かせ、整列させると、注意事項を述べる。
「いいにゃ? 海は危険があるから、絶対に沖には出にゃいこと。それと、監視員の指示には従うことにゃ。あとは……」
「「「「「わ~~~~!!」」」」」
「聞けにゃ~~~!!」
わしの注意事項を最後まで聞かず、海に飛び込む者、大多数であったとさ。
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