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第十一章 王様編其の二 外遊にゃ~

290 猫の凱旋にゃ~

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 コリスショック、猫王ショックに見舞われたローザとロランスを宥め、わしは話を再開させる。

「「モフモフ~」」

 いや。二人はコリスに抱きついて、現実逃避をし始めた。ちなみにワンヂェンは、部屋の隅で背中を丸めて臨戦態勢を取っている。

「二人とも、いい加減コリスを離してあげてにゃ~」

 あまりに長く抱きついているものだから、コリスが困っていたので二人をひっぺがし、コリスにおやつを食べさせる。これですぐに機嫌が直るからチョロイ。
 ようやく話が出来る体勢になったので、話を再開させる。

「コリスはおとなしいけど、キョリスの娘って事は忘れないでくれにゃ?」
「「あ……」」
「そうでした。つい、かわいいから……」
「そうね。何かあったら、あのキョリスが来るのね……」
「もし来ても、わしが間に入って止めるけど、コリスが酷い事されたにゃら、わしも参加するつもりにゃ。まぁ人間に、コリスを傷付けられる者がいたらだけどにゃ」
「こんなにかわいいのに、強いの?」
「イサベレの三倍は強いにゃ」
「うっ……かわいいのに……」
「撫でる時は、本人の許可を取ってくれにゃ」

 二人は渋々頷き、席に戻る。すると、コリスから標的がわしに移り、ロランスが質問して来る。

「それで猫ちゃんが、なんで王様になってるの?」
「これには深い理由が……わしはやりたくなかったんにゃけど……」

 わしは簡単に、王様になった経緯を話す。そうしてわしが話し終わると、二人はリータとメイバイに補足を聞き、なにやら呆れた顔をしていた。

「どうしたにゃ?」
「一国を一人で……。いえ、一匹で落としたなんて……」
「違うにゃ~。猫耳族と一緒に戦ったにゃ~」
「でも、大きな亀や火の鳥で脅したのですよね?」
「脅しただけにゃ~。当てたりはしてないにゃ~」

 呆れた顔をされたあとは質疑応答が始まり、思った通り説明に長く時間が取られるのであった。


 そうしていると夕食の時間が近付き、メイドがどうするか尋ねて来たので、ご相伴にあずかる事にする。そして、話は一旦やめてもらって、猫耳族の元に行きたい旨を伝える。
 コリスをリータとメイバイに頼むと、わしはローザの案内で猫耳族に会いに行く。屋敷から近いと聞いたので徒歩で向かうが、屋敷を出た所で意外な人物と出会った。

「モフモフ~!」

 いや、捕獲された。

「にゃ? マリーにゃ??」
「モフモフモフモフ~」

 う~ん……「久し振り」って言っておるのか? さすがに、モフモフだけではわからんな。

 わしがマリーに抱きつかれて翻訳していると、遅れてアイがわしに寄って来た。

「猫ちゃん。おかえりなさい」
「ただいまにゃ~。まさか、こんにゃ所で会えるとは思ってなかったにゃ~」
「早く会えるとしたら、この街だと思って、仕事をしながら待っていたのよ」
「そうにゃんだ。でも、よく会えたにゃ~」
「そりゃ、猫って噂と、馬の居ない馬車がここに入って行ったって聞いたらわかるわよ。まぁ面識はあっても領主様の屋敷だから、声を掛けられなくてちょっと待つ事になったけどね」
「そう言えば、モリー達は居ないにゃ?」
「なかなか出て来ないから、宿に帰っちゃった。私はマリーの付き添いよ」
「モフモフ~」

 う~ん。マリーが何を言っているかわからん。久し振りに会ったから、かまってあげたいけど時間がない。

「アイ達は、まだこの街に残るにゃ?」
「いいえ。猫ちゃんと会えないから、近々、王都に行こうかと話していたの」
「じゃあ、明日、一緒に帰ろうにゃ。あ、仕事があるかにゃ~?」
「最近は常時依頼しかやってないから、すぐに動けるわよ」
「わしはやる事があるから、詳しい話は明日って事で……」

 アイには明日の朝、門で待ち合わせをして、マリーをひっぺがしてもらい、猫耳族の元へ向かう。マリーに抱きつかれていたせいか、ローザが頬を膨らませていたので、ローザに抱きかかえられて屋敷に到着した。
 中に入ると、ズーウェイが猫耳族に囲まれて話をしていたので、その輪に入る。

 皆、感謝しているのか、感謝の言葉と共に撫で回された。撫でたいだけではないかと聞いたが、こんなに幸せな暮らしが出来て、感謝で撫でているらしい。
 一緒に居たローザまで感謝の言葉を掛けられ、照れくさそうにしていた。
 わしも長く話をしていたかったが、晩ごはんが待っているので、数日後、迎えに来ると言って、ズーウェイを残してローザの屋敷に戻る。

 そこで夕食を美味しくいただくが、質問の続きを右から左に受け流していたら、わしの話したい事が一切できずに夕食が終わった。
 日も完全に落ちてしまったので宿を取ろうとしたが、近くに砦を作っていたせいもあり、ペルグラン領は出稼ぎのハンターが増えていて、こんな時間に行っても宿は埋まっているらしい。
 それでは仕方がないかとバスで寝ようかと考えていると、ロランスに泊まって行けと言われたので、お言葉に甘える事にする。
 お風呂はコリスと入ろうとしたが、ひと悶着あって、わしとワンヂェンは、ローザとロランスと一緒に入る事となった。

 王様と巫女様への接待らしいけど、一緒に入りたいだけじゃろ? 泡立ちがいいって、わし達で洗っているし……

 お風呂から上がると、リータ、メイバイ、じい様、親父さんからめちゃくちゃ睨まれた。

 リータ達は王妃なんだから、止めてくれたらよかったのでは? 領主様に意見するのは、まだ緊張するのですか。そうですか。

 そして寝室にまで連れ込まれ、わしとワンヂェンはゴロゴロ就寝。翌朝早くに目を覚ますと、二人でモフモフロックから逃げ出そうとしたが、ガッシリ捕まって失敗。激しい撫で回しを受けて起床するのであった。
 ちなみにノエミは用意された部屋で一人で寝て、リータとメイバイはコリスと一緒に寝たとのこと。聞いた話だと、朝起きたらメイバイがコリスの下敷きになっていて、救出に時間が掛かったらしい。


 朝食を済ませると、もう一度猫耳族に挨拶し、ズーウェイを残してバスに乗り込む。何故かローザとロランスがバスに入って来たので、二人は畳に座らせる事になったけど、コリスソファーがあるから幸せそうな声を出していた。
 騎士の操る馬に先導されて街を進み、門に着いたら最後の撫で回しを受けて脱出。アイ達をバスに積み込んで街から離れると皆を降ろし、飛行機の改造。アイ達はコリスを見て固まっているから静かなものだ。
 とりあえず説明はリータ達に任せて飛行機を横に拡張したら、復活してうるさくなったアイパーティと、宥めるリータ達を乗せて離陸する。

 初めて飛行機に乗るモリーは怖がって静かだが、エレナとルウがやかましい。ひとまずリータに、コリスのモフモフロックで拘束させ、ひと噛みしてもらったら、静かになったので席に戻す。
 わしはマリーのモフモフロックで拘束されたまま飛行機を操縦し、アイの質問に答えていると王都が見えたので、着陸してバスに乗り換える。

 皆をバスに乗り込ませている間に、わしとリータとメイバイは、飛行機で正装にお着替え。わしは猫(紋)付き袴。リータとメイバイは猫柄付き振袖だ。
 着替えが済むとバスを発進させ、門に近付くとアイパーティを降ろし、我が家で合流する約束をしておいた。

 その後、ワンヂェンとコリスの変身魔法が完了すると、貴族専用の門にバスを横付けする。ノエミまで変身していたけど、胸でガッカリするならしなきゃいいのに……
 わしが説明する為にバスから降りると、半分男にからまれたが、王様がバスに乗っていると聞いていたようなので、ろくに中を確認されないまま解放された。しかも、バスのまま中に通されて、騎士の先導のもと、城へ直行。


 そして玉座の間まで、ノンストップで連れて行かれた。


 玉座の間には、女王、王、三王女の王族揃い踏み。さらに、イサベレ、ソフィ、ドロテ、アイノといった、騎士や魔法使いが数多く揃っていた。
 物々しい雰囲気の中、わしはどうしていいかもわからず、ボケーと突っ立っているが、ノエミ以外の全員で、小さいわしにしがみつくのはやめて欲しい。て言うか、浮いてるから降ろして欲しい。

 そんな中、女王が重たい口を開く。

「シラタマ。よく戻った」
「えっと……わし達はひざまずいたほうがいいのかにゃ? 作法がわからないから教えて欲しいにゃ~」
「はぁ……そのままでいいわ」
「ありがとにゃ。それじゃあ改めて……ただいまにゃ~」
「ええ。おかえりなさい」
「それで、にゃにから話したらいいかにゃ?」
「まずは……」

 女王はわしの質問に、わし達ひとりひとりに鋭い視線を送り、さっちゃんの姿をしたコリスに目を止め、頭を押さえて考え込む。

「どうしたにゃ?」
「サティ……王……いえ。やはり、キョリスの娘からにしようか」
「わかったにゃ。二人とも、変身魔法を解くにゃ~」

 わしの指示に、コリスとワンヂェンは変身魔法を解除する。すると、2メートルを超えるリスと、黒猫と、勝手に変身していたちびっこノエミの姿が現れる。
 その姿を見た玉座の間に居る全ての者は、驚いた顔になった。コリスを見た事のあるさっちゃん達は驚かないかと思ったが、黒猫ワンヂェンに驚いているようだ。
 ちなみにノエミは、誰からも注目されていないので、すんごく落ち込んでるっぽい。コリス達と一緒にやるから悪いんじゃ。

 驚いて誰も口を開こうとしないので、わしが自己紹介を始める。

「こっちの大きいリスが、キョリスの娘、コリスにゃ。そして黒猫が、猫耳族の巫女をやってるワンヂェンにゃ」
「えっと……」
「どちらも引っ掻いたりしないから大丈夫にゃ。さっちゃん、おいでにゃ~?」

 女王は、まだ復活に時間が掛かりそうだったので、手をわきゅわきゅしているさっちゃんを手招きして呼び寄せる。
 するとさっちゃんは、わしに抱きついてモフモフし、何故かワンヂェンにも抱きついてモフモフし、最後にコリスに埋もれて、モフモフと幸せそうな声をあげる。

「さっちゃん。久し振りにゃ~」
「シラタマちゃ~ん! モフモフ~」
「そっちはコリスにゃ~」
「あ……エヘヘ」

 さっちゃんはコリスから離れるとわしを抱きかかえ、目に涙を溜める。その顔を見ながら、わしはさっちゃんの頭を撫でて言葉を掛ける。

「よしよしにゃ。元気にしていたにゃ?」
「うぅぅ。急にいなくなるから、寂しかったんだよ~」
「すまないにゃ。どうしても、やらなきゃいけない事があったにゃ~」
「……猫耳族は、助かったの?」
「うんにゃ!」
「よかった~」
「さっちゃんも心配してくれてたんにゃ。ありがとにゃ」
「だって……国と戦うって聞いてたもん」
「もう大丈夫にゃ。山向こうも平定したにゃ」
「シラタマちゃんに怪我がなくてよかったよ~」
「涙を拭いてあげるにゃ~」
「うぅぅ」

 安堵して涙を流すさっちゃんの目を、わしはハンカチで優しくぬぐう。そのしばらくあと、さっちゃんはわしを降ろして、笑顔を見せて質問する。

「それにしても、コリスちゃんがわたしそっくりだったから、ビックリしたよ~」
「にゃはは。わしも初めて見た時はビックリしたにゃ」
「相変わらず、変な事してるんだから~」
「変じゃないにゃ~。コリスはさっちゃんの事を覚えていたから、マネしたみたいにゃ」
「本当? わたしも忘れたことないよ!」

 わしはさっちゃんの言葉をコリスに伝え、コリスからの言葉も通訳する。

「コリスも嬉しいってにゃ」
「やった! そう言えば、お父様から聞いたけど、王様を連れて来ているんでしょ? あっちのワンヂェンって黒猫ちゃんが王様? 女王様?」
「ワンヂェンは巫女って、紹介したにゃ~」
「じゃあ、誰が王様なの?」
「オッサンから聞いたんにゃろ? わしにゃ」
「へ??」

 さっちゃんは、わしの答えに惚けた声を出す。わしは皆の反応に不思議に思えたが、オッサンに説明した時に言った台詞を、さっちゃんにそのまま聞かせる。

「帝国は滅び、山向こうの国は猫の国となって、わしが即位したシラタマ王にゃ」
「……え?」
「だから帝国は滅んでわしが王に……」
「「「「「ええぇぇ~~~!!」」」」」


 大絶叫。パニックだ。玉座の間に居た者は、わし達猫の国の者を除いて、全員叫ぶ事となった。

 わし……ちゃんと説明したじゃろ?
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