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第十一章 王様編其の二 外遊にゃ~
286 変身にゃ~
しおりを挟む我が輩は猫又である。名前はシラタマだ。職業は……王様らしい……
即位式が終わって数日。各街の代表は、第三回ジャガイモ収穫大会が行われる前に帰って行った。
どの街も二日は馬車を走らせるので、時間短縮でわしが飛行機で送り届けてあげた。皆、悩み事が増えたようだったが気にしない。
リータとメイバイとの初夜は、特に何もなかった。裸だった理由も、どうやら綺麗な着物にシワが付かないための処置で脱いでいたため。わしが先に寝てしまったので着替えが無く、裸で寝ていたとのこと。
わしは猫(紋)付き袴だけ脱げば、着流しになるからそのまま寝かせてくれたらいいのに、モフモフを全身で感じたかったら脱がせたしい。その証拠に、寝言もわしを撫でている夢を見ていたようだ。
ただし、合体に関しては土下座をしながら、まだ心の準備が出来ていないと泣き付いた。二人も無理矢理結婚した手前、渋々だが理解してくれた。でも、恋愛指南書は愛読しているようだ。
そんなこんなで即位式から五日が経ち、今日は庭いじり。シェルターの畑で作っていた物が実を結んだ。
おお! 麦も米も、もう頭を垂れておる。大豆もいけそうじゃな。さすが巨象の血、原液の威力は半端ないのう。十六倍では、一ヶ月以上かかったからな。
きっとうまいんじゃろうな……このまま食べたいところじゃが、ぐっと我慢。なんだかんだで、血のストックがかなり減っておるから無駄遣いはできん。
さて、さっさと刈り取らないと、急速に枯れてしまいそうじゃ。
わしは小さな畑と田んぼに【風の刃】を平行に放ち、風を操作して農作物を一ヶ所に集める。それが終われば、次元倉庫に入れて農業従事者の猫耳族と、村から連れて来た者を集める。この二組は、米、大豆担当と、麦担当だ。
農業担当はヨキだったのだが、作物が増える事を言ったら「こんなに無理!」と断られ、地位も格下げしてくれと泣き付かれたので、ジャガイモ担当になった。現在、まとめ役を選別中だ。
そのヨキには、先日の収穫以降、植える量を調整してもらい、わしと一緒に子供も均等に配置し直したので、人数的には問題ない。
畑を耕す牛担当の猫耳族も居るので、このあとわしの出番は栄養水の管理と収穫で顔を出すのみだ。
今回の栄養水の濃度は八倍。リータの村で麦の検証をした結果、この濃度で魔力の無い水を使って育てた麦は、十六倍濃度の魔力の有る水で育てた麦と、味にさほど違いが無かったので、お堀の水を使ってもらえれば危険は無いはずだ。
田んぼに関しては、水田と水を引く水路が必要になるので、これだけはわしが手を貸す。早く食べたいからのう。
農業は街の者に丸投げ……任せて、わしはお昼までボーっとする予定が、リータ達にからまれた。猫魔法が上手く出来ないんだとか……
皆にギャーギャー教えてくれと泣き付かれたから教えたけど、猫魔法じゃない。ただの猫の形を動かしているんだからな!
ノエミとワンヂェンは魔法が得意だったから、風魔法と土魔法で上手く出来るようになったけど、リータはあと少しってところ。メイバイは、まだ風魔法を教えて間もないから、まだまだだ。
コリスも勉強しているが、土魔法でキョリスとハハリスを作るのが趣味になりつつある。どう見ても、ドロドロの化け物だが……
魔法の訓練を終えると昼食会議に出席し、各自の報告を聞くと、上手くやってと言って終了。早く終わったので雑談に移行。トウキンに頼んでいた水場の調査と、面白い本があったか聞いてみた。
水場は何ヵ所か見付けたが、行ってみないとわからないとのこと。どれも遠い距離だったので、一旦保留。暇が出来たら探しに行く予定だ。面白い本は、わしが興味を持つ話が思い付かないらしい。
だって猫じゃもん。
なので、単語を適当に言わせてみた。その中で、歴史関係に興味を示したので、今度まとめてくれるようになった。ただ、ひとつ気になった単語があったので、その場で内容を聞く。
「時の賢者って、この国にも居たんにゃ~」
「山向こうにも居たのですか?」
「にゃんか、いろいろやらかしていたみたいにゃ。同一人物かにゃ?」
「それはなんとも……本も読める所が少ないのでわかりません。あ、ソウの街にある砂時計は、時の賢者様が作ったと言い伝えられています」
「ほう……東の国でも砂時計を作っていたから、可能性が高いにゃ。あとは、読めた所はあるかにゃ?」
「そうですね……最後の一文に、太陽に向かって出発したとありました。なんでも、大陸を横断して海を越えた島に行くとなっていました」
海を越えた島? たしか千年以上昔ならば、まだ文明が栄えていて、横断出来たのかな? その先に海があるのか……。何しに行ったかわからないが、ひょっとしたら島国があるのかも? ちょっと面白そうじゃな。
「にゃるほど。面白い話をありがとにゃ~」
「いえ。もったいないお言葉……」
「あ、そうにゃ。そろそろ水場探しはやめて、次の仕事を頼みたいにゃ」
「次の仕事ですか?」
「学校を作りたいにゃ。にゃんとかならないかにゃ?」
「学校ですか……教える内容によりますね」
「文字の読み書きと、計算だけでいいにゃ。それにゃら、二十人から三十人をいっぺんに教えられるにゃろ?」
「それぐらいならば……」
「よし! トウキンは校長になってもらって……」
その後、数人の教師を見付ける事を指示し、学校の場所は指定して、建物の事は建設担当、猫耳秘書のファリンに丸投げ。これでダーシーに話が行くから問題ないだろう。
わしが全てやらなくていいから楽ちんだ。だが、リータとメイバイが睨んでいたからスリスリしておく。わしにやらせた方が早いけど、手を出し過ぎるのもよくないので、どうしていいか悩んでいるみたいだ。
まぁスリスリ効果で機嫌が良くなったから、昼食会議が終わればお昼寝だ。
と、思っていたが、ワンヂェンにスリスリとからまれた。なんでも、変身魔法はいつ教えてくれるんだとか……。忘れてました!
ワンヂェンがスリスリするからゴロゴロ言ってしまい、リータとメイバイに浮気認定されて、埋められそうになってしまった。
約束は約束なので、ひとまずいつも魔法の練習しているシェルターの庭に、ワンヂェンを連れて移動する。
「二人だけにはさせません!」
「シラタマ殿は、目を離すとすぐ浮気するからニャー」
なにやら、殺気を放ってリータとメイバイがついて来た。
「モフモフ~。わたしもおしえて~」
「その魔法があれば、ボンッキュッボンに~~~!!」
なにやら、おかしな二人もついて来た。コリスは魔法が楽しいお年頃で、ノエミは何を夢に見ているのだか……
「コリスとワンヂェンはいいとして、他は必要にゃの?」
「「えっと……」」
「私の野望の為に必要よ!」
「ちびっこだもんにゃ~」
「誰がちびっこじゃい!」
リータとメイバイは、ついて来ただけなので必要ないようだ。教えたところで魔力が足りないので、二人には得意魔法の練習を付き合う事にする。
ノエミはうるさくなったから渋々教える。ポコポコを笑って無視していたら、コリスがマネしてドコンドコンとして来たから埋まってしまいそうになったからだ。
変身魔法を教えると、皆、わしの説明を頑張って聞いていたが、頭から煙が出て来たので言霊に変更。ノエミには教えたくなかったが、言霊の概念を省いて教えたので、なんとか誤魔化す事が出来た。
そうして始まる変身ショー。
一人目のワンヂェンから魔法を使う。
「へんしんにゃ~!」
この言葉と共に、ワンヂェンはくるりと回る。そんな事は教えていないのに、ポーズは大事なんだとか……
魔法を唱えると、ワンヂェンの背が目に見えて高くなり、毛もつるつるとなって黒髪の美人さんへと変身する。
「「「「おお~~~!」」」」
「ど、どう? 上手くいった?」
「ヤーイー、そっくりにゃ~」
「本当!? やった~~~!!」
ワンヂェンは、ヤーイーを想像して変身したのか。一発で成功させるとは、たいしたものじゃ。それに、猫の口じゃなくなっておる。わしも歳を取れば、「にゃ」から卒業出来るって事か。
そう言えば、ワンヂェンっていくつなんじゃろう? 女性に歳を聞くのは失礼じゃが、猫だからセーフじゃろう。それに、後学の為に聞いておきたい。
「ワンヂェンって、にゃん歳にゃ?」
「十九よ。これなら、子供扱いされないわね」
う、羨ましい! じゃが、わしも同じ歳になれば、ニヒルでダンディなわしが帰って来るわけじゃな。
ワンヂェンには残り魔力を気にしながら変身を維持させ、次の挑戦者、ノエミに……いや、ノエミはオオトリを希望したので、コリスの出番となった。
「へ~んしん!」
コリスは無難に手を回して変身する。すると、背が縮み、毛がつるつるとなって、リス耳と二本の尻尾が付いた白髪の小さな女の子の姿となった。
「さ……さっちゃんにゃ~!?」
「ほ、本当です!」
「王女様ニャー!」
コリスはさっちゃんそっくりなので、見た事のあるリータとメイバイ、ノエミも驚く事となった。しかし素っ裸だったので、驚いている場合ではなく、わしの着流しを着せて体を隠す。
「あれ~? 尻尾も耳もある~。これってしっぱい?」
「まぁ初めてにしては、上手く出来ておる。でも、どうしてさっちゃんなんじゃ?」
「あの子、かわいかったの~」
「そっか。ひとまずコリスも魔力に気を付けて、維持するんじゃ」
「わかった~」
コリスはわしを抱き抱え、頬擦りして座る。リータとメイバイに睨まれているが、リスの姿の時はそんな顔をしなかったのに、なんでじゃろう?
そしてオオトリ。ノエミの出番だ。
「私の美貌を見よ! へ~んしん! とう!!」
ノエミはノリノリで腕を回し、ジャンプして変身魔法を使い、着地する。まったくジャンプをした意味は無かったが、わしもやった事があったので、ツッコむのはやめてあげた。
ノエミは着地と同時に背が高くなり、しばらくして止まった。
「どう? どう? スレンダーで出る所が出た、女の美貌は!!」
「「「「う~~~ん……」」」」
わし達は腕を組んで、ノエミに掛ける言葉を探す。
「え? なんで何も言ってくれないのよ!」
「自分で胸を触ってみろにゃ」
「こう? ……うそ! なんでよ~!!」
残念ながら、ノエミの胸はぺったんこ。元の胸のままだった。背は伸びたのだが、胸の形の想像力が欠けていたようだ。
この日を境に、ノエミは巨乳を見付けてはあとを追い回し、公衆浴場に足繁く通うようになったとさ。
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