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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生
282 猫会議 その壱にゃ~
しおりを挟むリータとメイバイの策略と脅しに屈し、国と街の名前は決まって会議は続く。
「はぁ……次の議題にゃ。会議の名前も決めておこうかにゃ? はぁ」
「猫の国なのですから、猫会議でいいのではないですか?」
「シラタマ殿に似合って素敵ニャー! みんなもそう思うニャー?」
リータが名前を決め、メイバイが投げ掛けると、皆は拍手で応える。
「はぁ……では、決定にゃ。これより正式に、第一回猫会議を始めるにゃ~……はぁ」
「シラタマさん! ため息ばかりついてないで、ちゃんとしてください!」
「王の威厳をしっかり持ってくれないと、家臣がついて来てくれないニャー!」
威厳が消えたのは、リータさんとメイバイさんのせいですよ? うん。めっちゃ睨まれた。真面目にやらないと、このあと埋められる未来しか待っておらんな。気を取り直して、ちゃんとするか。
「次は、国の形と方針をしっかり決めたいにゃ。まずは、わしの話を聞いてくれにゃ。質問はそのあとにゃ」
皆の注目を集めると、わしは語り始める。
国の統治は、各街の代表者が話し合って行う。法律や税金も各街の代表者が話し合って決める。最高責任者は王のわしだが、議案を提出した場合は一人で決定しないで、極力多数決を行う事にする。会議の場は、街の持ち回しで行う旨を伝える。
これは、君主がみずから動かない、なんちゃって民主主義だ。
わしが話し終わると、黙って聞いていたリータとメイバイから指摘が入る。
「それって、シラタマさんが楽をしたいからじゃないですか?」
「まぁそうにゃ」
「そんなのダメニャー!」
「そうは言っても、わしは王様になるのは初めてだから、どうやって統治していいか、法律についても詳しくないにゃ。にゃらば、みんにゃで話し合って決めたほうが、国民にとって、より良い統治が出来るとは思わないかにゃ?」
「たしかに……」
「一理あるニャ……」
「もちろん初期の道筋には、わしが大きく関わるにゃ。今回は、十年後を見据えての処置にゃ」
わしの発言に、センジが手を上げる。
「十年後とは、どういった事でしょう?」
「今回は街の代表者をわしが決めるにゃ。まぁ王制にゃら当然にゃろ?」
「はい」
「十年後からは、街の者が街の代表者を決め、その者が国の統治を行うにゃ」
「それでは猫陛下の国では無くなるのではないですか?」
「いんにゃ。そこにもわしの力が必要になるにゃ。変にゃ政策をとっているにゃら、わしの一言で、その政策を潰せるようにするにゃ。言うなれば、わしはチェック機能になるわけにゃ」
「……なるほど」
「その十年後には、チェック機能も街の者が決めるようにしたいにゃ」
この発言に、リータとメイバイは「やっぱりサボる気?」と睨んで来た。なのでわしは、恐る恐る言葉を続ける。
「人民の、人民による、人民の為の政治。これは民主主義と言う、王政からとって変わる素晴らしいシステムにゃ。みんにゃはどう思うにゃ?」
わしの質問に、皆、考え込むので補足する。
「権力者を民が決めると言う事は、その権力者が腐敗すれば、民が蹴落とす事が出来るにゃ。それに、民が政治を行うにゃら、自分達の暮らしをより良くする方向に考えるにゃろ? 私益を求める者は、民とわしが裁くにゃ」
静かに考えていた皆の中で、ホウジツだけが賛成の声をあげる。
「僕は素晴らしい考えだと思います! どこか商売に似ていますね」
「そうだにゃ。じゃあ、質問にゃ。ジャガイモの値段を決めるのは誰にゃ?」
「それは売り手です」
「そう見えるけど、実際には違うにゃ。ジャガイモの数が増えたら価格は下がるにゃ。数が減ったら価格は上がるにゃ。さらに、景気によって価格も上下するにゃ」
「あ……本当です」
「これは市場原理が働いているんにゃ。見えない所で多くの民が価格を決めているのに、国の統治は一人で決めていいにゃ?」
わしの質問に、今度は皆、顔を上げて口を揃える。
「「「「「本当に猫!?」」」」」
場は大荒れ。どうやらわしが賢過ぎて、猫と疑い出したようだ。転生を知っているリータとメイバイが抑えに掛かるが、二人も問い詰められて困っている。
仕方がないので、落ち着くまで会議は一時中断となって、リータ達とコリスの寝床に逃げ込んだ。
「「「はぁ……」」」
「難しかったです~」
「ちんぷんかんぷんニャー」
「ちょっと知識をひけらかしてしまったにゃ~」
わしとリータとメイバイは、同時にため息を吐くが、二人のため息はわしとは違ったようだ。
「こんなに難しい事を知っているなんて、シラタマさんは、元の世界では王様だったのですか?」
「初めてって言ったにゃ~」
「じゃあ、学者先生だったニャー?」
「ただの一般人にゃ」
「一般人? 平民って事ですか?」
「そうにゃ。わしの元の世界では、平民がわしと同じくらいの知識を平等に教えられていたんにゃ」
「そんなに難しいのにニャ!?」
何を言っても二人は過大評価して来るので、自分の評価を下げようとしてみる。
「いや。これは難しい事ではないにゃ。わしにゃんて、頭の悪い部類に入っていたにゃ」
「シラタマさんが!?」
「天才にしか見えないニャー!」
どう言ってもリータとメイバイが、わしをキラキラした目で見るので恥ずかしい。なので、今度は話を強引に変えてみる。
「わしが天才にゃんて、おこがましいにゃ。それより、この国にも学校を作らないとにゃ~」
「学校って、貴族様が通う所ですか?」
「この世界の事はよく知らないけど、それかにゃ? そう言えば、リータ達は文字や計算を誰に習ったにゃ?」
「私はお母さんに習いました。それで、兄弟達に教えていました」
「私は主様と暮らすようになってから、教えてもらったニャー。普通の奴隷は、教えてもらう事はなかったニャー」
「あ、村でも読み書きが出来る人は少なかったです」
ふ~ん。リータの家庭は、特別なのか……。ひょっとしたら、リータの母親は街で暮らしていたのかもしれないな。
それよりも、元奴隷と子供達が問題じゃ。猫の街の三分の二が、読み書き出来ない事になっておる。先生一人じゃ厳しいな。まぁこれは、追々考えるとするか。
「そろそろ落ち着いた頃かにゃ? 会議を再開しようにゃ」
作戦通り、リータとメイバイも落ち着いたようなので、会議が執り行われている食堂に入る。そこでまた質問攻めにあうが、話が進まないと言って、強引に打ち切った。
「国の方針は、民主主義をとる事で決定にゃ。十年後、また代表者になりたいにゃら、民に好かれる政策をとってくれにゃ」
「「「「はっ!」」」」
「次は法律にゃけど、法律の前に、わしの事を決めておくにゃ。わしはこの国の法律から除外するにゃ。これはチェック機能を行うので、必要な措置にゃ」
ウンチョウが手を上げるので、発言を許可する。
「と、言う事は、シラタマ王はどのような犯罪を犯しても裁けないと言う事でしょうか?」
「そうにゃ。人を殺そうが犯そうが、罪にならないにゃ」
「……王様ならば、それぐらいしますか……」
「ウンチョウは、わしがそんにゃ事をすると思っていたにゃ?」
「い、いえ。申し訳ありません!」
ウンチョウは慌てて頭を下げるので、わしは笑う。
「にゃはは。冗談にゃ。わしはこの国の王にゃ。民の模範になれるように、誰にも恥じる事のない振る舞いをして生きるにゃ。もちろんチェック機能にゃから、悪には正義の鉄槌を喰らわせるにゃ。その過程で、個人的に死罪にする場合があるから、法律から離れる措置にしたにゃ」
「なるほど……」
「異論はあるかにゃ?」
皆は賛成してくれたので、話を続ける。
「では、犯罪の認定と罰を決めようにゃ」
犯罪者の認定は裁判を開く予定だが、いまは人手が足りないので、警備兵の裁量に任せる。奴隷紋で縛る予定なので、嘘はつけないから冤罪は少ないはずだ。
罰は、今回は簡単に行う。倍返しだ。盗みを行ったなら、その価値の倍を返却させる。払えない場合は体で払ってもらう。
わしの見立てでは猫の国は貧乏なので、安い給料で強制労働させる事になるから、実質は四倍を超えると思うが、それが嫌なら盗まなければいい。
人殺しの罪は死で償ってもらうが、それでは倍返しにならないので、強制労働をさせてから死んでもらう。こちらも奴隷紋で縛ってしまうので、手を抜く事も許されない。
「よし! これも異論が無しだにゃ。法律も決まった事にゃし、元奴隷の猫耳族から、裁いて欲しい聞き取りの報告を受けようかにゃ」
「はっ! まずは俺から……」
ウンチョウから始まり、セイボク、リータがわしに用紙を渡す。わしはその用紙に目を通すと怒りを通り越し、目に涙が溜まる。リータとメイバイが、わしに心配そうな目を向けるので、袖で涙を拭い、言葉を吐き出す。
「……粛清にゃ。街に戻ったら、こいつらを捕らえる兵を配備しろにゃ! 一人も捕り逃がすにゃ!!」
「「「はっ!」」」
わしの怒りの声を聞いた皆は、力強く返事をする。
「それと、罰は十年強制労働したら、生かしてやると伝えろにゃ!」
「え? それだけですか?」
「ウンチョウ! そんにゃわけないにゃろ! その後、死刑にゃ! 希望から絶望に落としてやれにゃ!! わかったにゃ!!」
「「「はい!」」」
わしの怒りの声に、皆、怯えるように返事をする。するとリータが、わしに声を掛ける。
「シラタマさん。そろそろお昼休憩にしましょうか?」
「あ、ああ。そうだにゃ。ウンチョウ……強く当たってすまなかったにゃ」
「い、いえ。我々猫耳族が持つ怒りを王に代弁していただき、感謝しております」
「それじゃあ休憩にゃ。……センジ、ホウジツ。ちょっとついて来てくれにゃ」
「「はい……」」
わしは二人を連れ出すと、庭に置いてある車に乗せる。
「……さっきのわしは、人族の二人にはどう見えたにゃ?」
「正直、少し怖かったです……」
「ぼ、僕は特には……」
センジは怖かったと述べるが、ホウジツは言葉を濁す。
「ホウジツ。嘘はやめてくれにゃ」
「……怖かったです」
「だろうにゃ。今回の判決は、わしの独断にゃ。わしを悪者にしていいから、人族の怒りが猫耳族に向かにゃいようにしてくれないかにゃ?」
「それでいいのですか?」
「まぁにゃ」
「あの……その犯罪者リストを見せてもらっても、よろしいでしょうか?」
「気持ちのいい物じゃないにゃ」
「だいたいの察しはついております。人族の罪が書かれているのですよね? でしたら、ソウの街の代表として読んでおくべきだと思います」
「……わかったにゃ」
わしがホウジツに用紙を渡すと、センジが言葉を発する。
「私も読みます!」
「わかった……いや、やめておいたほうがいいにゃ」
「私の家族も居るのですね……」
「……そうにゃ」
「あれだけ酷い事をしていたのですから、仕方ないですよね……」
「……すまないにゃ」
「いえ。覚悟はしていました。私は家族の分まで、罪を償っていきます!」
「……その気持ちは大事にゃけど、加害者の娘だからって、無理しにゃくていいにゃ。センジだって、幸せになっていいんにゃよ?」
わしの発言に、センジは気迫のこもった顔から、呆気にとられた顔に変わった。
「私が……幸せに?」
「そうにゃ。そのリストには、センジの名前は無かったにゃ。センジはもう、許されているにゃ」
「私が、許されている……」
「センジ……今まで悔やんでいたんだにゃ。にゃにも出来ない自分を責めていたんだにゃ。もういいんにゃ。自分を許してやれにゃ」
「……はい。……うぅぅぅ」
わしの言葉にセンジは泣き崩れた。なのでわしは優しく抱き締め、落ち着くのを待つ。しばらくして、涙を止めたセンジとホウジツを車に残し、わしは外に出る。
車の外に出ると、笑顔のリータとメイバイが料理を持って立っていた。
「シラタマさん。お腹すいてるでしょ?」
「持って来てあげたニャー」
「ありがとにゃ」
わしは次元倉庫からテーブルセットを取り出すと、リータ達と席に着く。
「はい。あ~ん」
「自分で食べれるにゃ~」
「また両手が塞がっているじゃないですか?」
「にゃ? 手は空いてるにゃ」
わしは二人に肉球を見せて、閉じたり開いたりする。
「重たい荷物は、私達も持つって言ったニャー!」
「そうですよ。シラタマさんの罪だって、私達が持ちます!」
「にゃ……」
「手を出してニャー」
「はい。私もです」
わしは目に涙を溜め、二人の手の平に肉球を重ねる。すると、スッと心が軽くなるような気がした。
その後、二人に無理矢理餌付けされながらランチをしていたら、センジとホウジツが車から出て来たのでランチに誘う。
腹いっぱい食べたら、会議の続行だ。わしは立ち上がり、会議場に向かうのであった。
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