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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生

281 脅しにゃ~

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 空の旅は静かに終わり、飛行機は街の着陸ポイントに降りる。そこからホウジツ達を連行し、内壁の門を潜る。しばらくして、お通夜のように歩くわし達に気付いたリータが、コリスに乗って現れた。

「シラタマさん。そちらの方達は、ソウの街の方達ですか?」
「そうにゃ」
「何かおびえているように見えるのですが……」
「あ~。コリスの説明を忘れていたにゃ~」
「もう! 大事な事なんですから、ちゃんと説明してくださいよ~。この子は優しい良い子だから、怖くないですよ」
「は、はあ……」

 リータの説明に、ホウジツ達は、何故かわしを見た。

「シラタマさん? コリスちゃんより、シラタマさんに怯えていません?」
「そんにゃ事ないにゃ~。にゃ?」
「はは、はい!」
「ほら~。何したんですか!」
「にゃにもしてないにゃ~。にゃ?」
「ははは、はい!」
「……わかりました。案内は私がしますので、シラタマさんはコリスちゃんをお願いします」
「いいにゃ!? コリス。行っくにゃ~」
「モフモフ~」

 わしは仕事が減ったと喜び、コリスと一緒にシェルターに走る。だが、シェルターの前でメイバイに捕まった。

「シラタマ殿~。セイボクさんと、ウンチョウさんが着いているニャー。コリスちゃんと遊んでいないで、挨拶するニャー」
「あ~……コリス~。メイバイと遊んでもらうか?」
「う~ん……みんなでむずかしい話するんでしょ? 巣でねてる~」
「そうか。晩ごはんには呼びに行くな」
「うん!」

 こうして、束の間の休憩をメイバイに奪い取られ、抱きかかえられてシェルターの食堂に連行されるわしであった。


 食堂に入ると、セイボク、ウンチョウ、コウウン、センジが椅子に腰掛けていたが、わしの姿を見て立ち上がるので、「そのままそのまま」と言って座らせる。

「さて、遠い我が街に来てくれてありがとにゃ。みんにゃは、わしの街の説明を聞いてくれたかにゃ?」
「「「……はい」」」
「にゃ? にゃにか変な事でもあったにゃ?」
「「「変な事だらけです!」」」

 センジに続き、説明を受けたにも関わらず、わしの街の変な点を羅列する三人。わしは右から左に受け流し、センジは苦笑いだ。ようやく落ち着いたところで、ホウジツを連れたリータが入って来た。

「シラタマさん!!」
「にゃ!? 急に大声出してどうしたにゃ?」
「ホウジツさんから聞きましたよ!」
「にゃにか怒ってませんかにゃ?」
「脅すなんて、なにしてるんですか!」
「いや……うるさかったから、ちょ~っと……」
「あとで説教です」
「いや……」
「……説教です」
「……はいにゃ」

 どうやらリータは、わしとホウジツを引き離して、怯えている理由を事情聴取していたみたいだ。わしは説教に怯えながら、各街に頼んでいた服を受け取る。
 受け取った服は、夕食の際に配ってもらい、明日から使用してもらう予定だ。


 今日の夕食会議は各街のトップが揃っているので、シェルターの食堂で執り行う。各担当を紹介しながら食事をとり、他所の街の現状を聞く。

「ふ~ん。一番マズイのはソウの街にゃ~」
「も、申し訳ありません」
「まぁ貴族の称号を奪われたら、反発するのはわかるにゃ。どの街も、少なからず反発する者がいるみたいにゃし、みんにゃが帰る前に法律を作ってしまおうにゃ。突貫工事で穴があるけど、そこは各自の采配に任せるにゃ」
「「はっ!」」

 わしの発案に、センジとホウジツが返事をするが、セイボクは返事をしなかったので、元々の法律があったのかと思って声を掛ける。

「猫耳の里には関係の無い話だったにゃ?」
「いえ、我が里でも法律が有りませんし、適用していただけると規律が保たれますじゃ」
「それじゃあ決定にゃ」
「はい!」

 セイボクと話をしていたので、わしは気になる事があったからそのまま話を続ける。

「そう言えば、猫耳の里はあのままでいいにゃ?」
「は?」
「ジンリーからわしの街に残っている理由を聞いたんにゃけど、息苦しく感じる者もいるみたいにゃ」
「……と言いますと?」
「移住にゃ。国は平定したから、もう隠れて住まなくてもいいんにゃよ?」
「あ……」
「気付いてなかったにゃ?」
「なにぶん、里から出ようとも思っていなかったので、考えが行き届いておりませんでしたじゃ」

 今まで暮らしていた故郷じゃし、急に言われても困るわな。じゃが、出たい者もいるはずじゃ。今後の課題としておくか。

「焦る必要はないにゃ。持ち帰って住民に聞いてくれにゃ。わしの街で受け入れてもいいしにゃ。それと先の話だけど、猫耳の里も森を切り開く範囲に入っているから、どうして欲しいか考えておいてにゃ」
「はい!」
「さてと、難しい話は明日にして、今日は酒を用意したから、人族、猫耳族の親睦を深めようにゃ」

 わしが話を変えると、セイボクとウンチョウがお供の者に酒瓶を持って来させる。

「我が里もご用意しましたじゃ。お召し上がりください」
「ラサでも残っていた酒をかき集めて来ました。どうぞお飲みください」
「お! ソウの街は、にゃにもないのかにゃ~?」
「もちろん、とっておきの品を用意しております。お猫様の収納魔法に入っているので、出してくださいませ~」
「おお~! どの街が一番うまいか飲み比べにゃ~。かんぱいにゃ~~~!」
「「「「「かんぱいにゃ~!」」」」」

 こうして食事会議は酒盛りへと変わり、大人組は酒を酌み交わす。ヨキは子供で明日も農作業があるので、早く寝るようにと追い出し、コリスは酒を一杯飲んだだけで寝てしまったので、シェンメイに協力してもらって巣に放り込む。
 子供がまだ一人残っていたので追い出そうとしたら、引っ掻かれた。どうやらノエミだったみたいだ。


 そうして酒が進み、騒がしさが落ち着くと、わしは皆を眺める。

 心配していた人族とセイボクの接触は問題なさそうじゃな。ホウジツの人と柄のせいか? 揉み手でセイボク達を立てているみたいじゃな。
 肩まで組んで、どうやったら小一時間で、そこまで仲良くなるんじゃ? 商人の接待術は凄まじいのう。

 あっちはシェンメイ姉妹とセンジが、何やら語り合っておるな。……男の趣味か? センジはおじさんが好きで、シェンメイ姉妹は若い男の子が好きなのか。
 どちらも熱く語り合っておるけど、声が大きいし、ドン引きじゃ。シェンメイ姉妹は、わしの街から追い出したほうがいいかもしれん。

 ノエミとワンヂェンは仲良しじゃな。ちびっこだから、通じ合うものがあるのかもしれない。
 でも、お互い「にゃ~にゃ~」言って、意思疏通は出来ておるのか? 間でヤーイが苦笑いをしておるぞ? 聞いていてもさっぱりわからんのじゃろうな。

 リータとメイバイはいつも通りわしに甘えて撫でて来るけど、このまま酔い潰れてくれたら、今日の説教は無くなるから出来るだけ飲ませよう。

 あっちは……ケンフとズーウェイか。なかなかいい雰囲気じゃないか? ケンフのリハビリ相手のつもりじゃったが、このままゴールインさせてもいいかも。ズーウェイの性的趣向が問題だけどな。
 ケンフには、女に暴力を振るうなとだけアドバイスしておこう。それじゃあ、フラれるか。

 他の主要メンバーも、久し振りの酒で嬉しそうじゃな。もっと食糧があれば酒作りに移行できるんじゃが……楽しみも必要か。平行してやってみるか。セイボクが持って来た酒を量産したいしのう。


「シラタマさ~ん。飲んでますか~?」

 わしが楽しそうに飲んでいる皆を眺めていると、リータとメイバイが頬を引っ張って来た。

「にゃ? 飲んでるにゃ~」
「私達も撫でてニャー」
「よしよし~。ほっぺを引っ張るのはやめてにゃ~」
「「モフモフ~」」
「聞いてるにゃ?」
「式が楽しみですね~」
「うんにゃ。ほっぺをにゃ?」
「早く式をしたいニャー」
「引っ張るのは……」
「「むにゃむにゃ」」

 寝てしまったか……。式を楽しみにしてるなんて、そんなにわしを王様にしたいのか? わしはちっとも王様なんかになりたくないのに……
 まぁ早く寝てくれたなら、説教が無くなってありがたい。わしもやる事が残っておるし、宴はお開きにするかのう。


 わしが宴の終わりを告げると、残念がる声が聞こえる。まだ飲みたいなら各自に与えた屋敷で飲めとシェルターから追い出し、眠っている者は、男の子部屋、女の子部屋に放り込み、リータとメイバイは優しく車のベッドに寝かせる。

 車の中では、明日の為の作業。ソファーに腰掛け、ウィスキーを片手に深夜遅くまで、物書きを続けるわしであった。






「シラタマさん。起きてください」
「ふにゃ~……」

 どうやらわしは、ソファーで寝落ちしていたらしく、リータにゆさゆさと揺すられて起こされた。

「おはようございます」
「おはようにゃ~。ふにゃ~……」
「おはようニャー。またソファーで寝てたけど、私達と一緒に寝るのは嫌ニャー?」
「にゃ!? そんにゃんじゃないにゃ~。仕事をしていたら寝てしまったにゃ~」
「その書類が仕事ですか?」

 ヤバイ! リータ達に見られたか? 一番上は……ホッ。各地の名産品のリストじゃ。これなら気付かれていないじゃろう。

「そうにゃ。王様は忙しくて困るにゃ~」
「お疲れ様ニャー」
「それじゃあ仕方ないですね。お疲れ様です」

 ん? 珍しい。いつもなら言い訳すると、怒られておったのに……それに、寝ているわしを、強引にベッドに連れ込んでいないのも珍しいな。まぁ実際仕事をしていたから、労ってくれてるのかな?

「それでは朝食会議に行きましょうか」
「少し遅れているから急ごうニャー」
「にゃ? そんにゃに寝坊したにゃ?」
「行きますよ~」
「あ! 待ってにゃ~」

 わしはリータ達に置いて行かれそうになったので、テーブルに乗っていた書類を全て懐に入れて追い掛ける。
 シェルターの門を潜り、街に出ると、朝食の準備をしている住人が目に入るが、まだ始まったばかりだった。
 わしは不思議に思いながらリータ達と配膳を手伝い、眠そうに現れる子供達や、大人達、コリスの手を引くセンジにおはようと言いながら、主要メンバーが席に着くのを待つ。

 主要メンバーが揃えば、朝食会議。働く者には大事な会議があるから、もしもの時にはシェルターに来るように言い、仕事に向かわせる。


 朝食会議が終われば、大事な会議。参加者をシェルターに集める。
 参加者は、猫耳の里からセイボク、コウウン。ラサの街からウンチョウ、センジ。ソウの街からホウジツ、秘書の女性リームォ。わしの街からリータ、メイバイ、ケンフ、ワンヂェン、シェンメイ。わしを含めた計十二人。
 ちなみにノエミは、わしの国の者ではないので、コリスと遊んでもらっている。

 議長は当然王様のわしなので、開始を宣言すると議題を提出する。

「さあて、まず最初の議題にゃ。一番大事にゃ国の名前を決めたいにゃ。みにゃさんに渡した用紙は、今まで考えていたモノを、昨夜寝る間を惜しんでまとめたにゃ。この中からわしにふさわしい国の名前、それと街の名前を決めたいと思うにゃ。ふさわしいモノに丸を付けて、一番多いモノを、わしの国と街の名前にするにゃ。よく考えてくれにゃ~」

 リータに用紙を回してもらうと、受け取った皆は、熱心に用紙を見つめる。

 この多数決で、やっと国の名前が決まるな。多数決だけど、猫は無し。わしが適当に書いた名前が用紙に書いてあるから、猫に決まるわけがない。
 アメリカやフランス、イギリスといった国の名前。ワシントンやパリ、ロンドンといった街の名前。元の世界にある国や街の名前を十個ずつ書いてあるから、選びたい放題じゃ。

 本命は、わしが最初から丸をしているジパングとキョウ。王様のわしの意向を読み取れば、それで決定じゃ。ちゃんと忖度そんたくしてくれよ~?
 まぁ忖度されなくとも票が割れれば、ジパングとキョウが最有力となる。それに決まらなくとも、猫にはならないからどれでもいいな。
 リータ達には多数決をするとは言ったが、猫を入れるとは言っておらん。決して嘘はついておらんから、決まればゴリ押しが出来る。怒られるじゃろうけど、猫以外に決まればわしの勝ちじゃ。

 さあ! アマテラスの予言すらくつがえす、わしの完璧な作戦で国名を決めてくれ!! わ~はっはっはっは~。


 わしが心の中で高笑いをしていると、リータが用紙を回収し、全てに目を通して国名を発表する。

「一名を除き、同じ国名、街の名に丸を付けましたね」

 お! 皆、ちゃんと忖度してくれたみたいじゃな。忖度してくれなかった一人は気になるが、気分がいいから不問にしてやろう。
 さあ、読み上げるがよい! わ~はっはっはっ……

「発表します。シラタマ王が治める国の名は『猫の国』。街の名は『猫の街』と決まりました!」

 は~~~~~~~~~~~~~?

「リ、リータさん? い、いま、にゃんて言いましたにゃ?」
「ですから『猫の国』、『猫の街』と決まりました」
「にゃ……にゃんで~~~~~~~!!」
「ほら、シラタマ殿。見たらわかるニャー」

 わしはメイバイから用紙を受け取ると、目を皿にしてよく見る。そこにはわしが書いた覚えのない『猫の国』と『猫の街』が書き加えられていた。
 どうやら、わしが寝ている隙に、リータとメイバイが書き加えたみたいだ。そして、バレないようにわしを急かして会議を始めたらしい……

「にゃ、にゃんでこんにゃ事に……異議申し立てるにゃ~~~~!!」
「へ~~~。多数決で決まったのにですか?」
「へ~~~。私達を騙そうとしていたのにニャー?」

 わしが文句を言うと、二人は目を妖しく光らせて低い声で語り掛けるので、あまりの恐怖に体がぷるぷると震える事となった。

「にゃ……異議を取り下げさせていただきにゃす……」


 こうしてわしは脅され、国の名は『猫の国』、街の名は『猫の街』と決定し、歴史に刻まれる事となった。

 ちくしょう!!
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