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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生

280 会議の準備にゃ~

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 村の視察を行って八日。最後の三件は比較的安全な場所だったので、猫問題以外の問題は起きなかったから、予定の二日で終わった。
 紆余曲折うよきょくせつはあったが、わし達視察団は、ついに十件あった村を回りきる事が出来た。

「やっと終わりました~」
「シラタマ殿のせいで、時間が掛かったニャー」
「本当に……」
「ゴロゴロ~」

 帰りの機内では、リータとメイバイがわしに愚痴を言う。撫でながら……

「終わったんだからいいにゃ~」
「そうですけど、明後日には即位式の出席者が集まるのですよ?」
「明日もジャガイモ収穫で忙しいニャー」
「予定通り進んでいたら、出席者の到着する日取りも遅らせずに、余裕を持って準備できたんです」
「そうニャー。どうするニャー?」
「どうするもにゃにも……もしもの時は、式自体をズラせばいいにゃ。その日にちも会議で決める予定にゃんだから、どうとでもなるにゃ」
「式の出席者も忙しいのですから、早くしないとダメですよ~」
「たしかににゃ。時間が無ければ、式自体も形式だけにして、国民には盛大にやったと言おうかにゃ?」

 わしが即位式を短縮しようと言うと、メイバイは焦った顔を見せる。

「そんなのダメニャー! シラタマ殿と私達の晴れ舞台ニャ。絶対にやるニャー!」
「私達にゃ?」
「メイバイさん!」
「あ! なんでもないニャー。それよりお腹すいたニャー」
「……にゃんか話を逸らしてにゃい?」
「明日だったらジャガイモも食べれたんですけどね~」
「にゃあにゃあ?」
「明日が楽しみニャー」
「ゴロゴロ~」
「そうですね~」
「ゴロゴロ~」

 それ以降、わしが質問しても無視をされて、ただ、撫でるだけだ。絶対に何かを隠していると思う。だって質問しようとしたら、鋭い目を向けて黙らせるんじゃもん。

 街に帰宅すると食事会議で各自報告を聞き、明日の準備と騒がしい入浴を終わらせ、各々の寝床で眠る。
 わしは今日は、何故かコリスとセンジに抱かれて眠る事となった。きっとわしに質問させない為で、一晩眠れば忘れると思っているのだろう。事実、忘れた……


 朝、目が覚めると、モフモフうるさいコリスとセンジから抜け出し、車で寝ているリータとメイバイを起こす。その時、ワンヂェンが抱かれて寝ていた。

 浮気じゃないのか? 寂しかったからつい? 寝ていたら拉致された? わしに泣き付くな!

 ワンヂェンが抱きついて来たので、逆に浮気認定をされて、朝から追い回される事となった。
 だが、今日は忙しい一日。遊んでいる場合じゃない。住人の集まる朝食の席で、わしは宣言する。

『第二回、ジャガイモ収穫大会を開催しますにゃ~~~!』
「「「「「わああああ」」」」」

 今回は、皆の口に入ると説明してあったので、住人は嬉しそうな声をあげる。その後、即位式に関係のある仕事をする者以外を連れて街を出る。
 今回も班分けし、次々と集まるジャガイモは種芋に変わる。違う点は、主要メンバーは最初から集まって、せっせと栄養水作りだ。二度目の収穫ともあり、慣れたものだから、お喋りしながら栄養水を作っている。

「ヨキ。収穫時期が七日と踏んでいたんにゃけど、ずいぶん遅れたんだにゃ~」
「大雨のせいじゃないですか? それで栄養水が薄れたのかもしれません」
「にゃるほど。ヨキがよく見ていてくれたから、この収穫に漕ぎ着けられたんだにゃ。ありがとにゃ~」
「僕ひとりじゃないですよ。広い畑は、みんなで管理していたんですからね」
「それでも、ヨキが農業担当の責任者にゃ。これからも、みんにゃを率いて頑張ってにゃ~」
「はい!」

 お喋りをしていても作業は続き、ジャガイモが収穫された畑は軽く耕されると再び種芋が植えられ、そこに栄養水を掛けて、次の収穫が祈られる。
 今回の収穫は大収穫。四分の一を種芋に変えたら、残りは住人の腹に入る。おそらく、街の者の腹を半年は満たしてくれる量だ。

 今日食べない分はどうするか? えっと……考えていませんでした!

 皆に睨まれたので、街に走って巨大な氷室をいそいそと作り出す。それが完成すると、荷車も作って移送班を結成。続々と氷室が埋まっていく。入りきらない分は、次元倉庫行きだ。


 作業は順調だったが畑は広いので時間が掛かり、太陽が真上に来たらお昼休憩。あまり調理に時間を掛けられないので、干し肉の出番だ。
 各班ごとに食事休憩をとってもらい、わし達も、美味しく干し肉を頬張る住人の輪に入る。そうしていると、センジがわしの元へやって来た。

「猫陛下。皆さん楽しそうですね」
「そうだにゃ~」
「王様みずから農作業をしているのも、変ですからね?」
「またにゃ~? もう勘弁してくれにゃ~」
「ウフフ。でも、皆さんの顔を見ていると、猫陛下が一緒に作業している意味はわかりました。王様が共に汗を流すから、皆さん笑っていられるのですね」
「そんにゃたいした事じゃないにゃ。指揮する者が不足しているから手伝っているだけにゃ」
「猫陛下なら、何かと理由を付けて、畑に出ていそうです」
「褒めるのも勘弁してにゃ~。それより、にゃにか用件があるんじゃないかにゃ?」

 わしは照れ臭いので話を逸らすと、センジはハッとした顔をして用件を思い出したようだ。

「そうでした。明日、ソウの街に代表を迎えに行くのですよね? その時に、猫陛下や出席者用に、立派な服を調達して来てくれませんか?」
「服にゃ?」
「さすがにそのお召し物では、即位式に似つかわしくないので……」
「そうだにゃ~……わしがいい物を持っているから、わしとリータ達のは、見てから判断してくれるかにゃ? 他の人は、適当にソウの宮殿から持って来るにゃ」
「わかりました」
「それにゃら、出席者の体格を聞かないといけないにゃ。リータ、メイバイ。ここは任せたにゃ~」
「「はい(ニャー)!」」


 わしはヤーイーを探すと、センジと共にシェルターに戻る。そこで、センジにわしの持っている一番いい服を見てもらう。
 センジは一目見て驚きながら、これなら申し分ないと太鼓判を押してくれた。

 わし達の服は解決したので、その他の出席者の服の調達に取り掛かる。センジはラサのウンチョウへ。ヤーイーは猫耳の里のセイボクへ。どちらも移動中だったらしく、用件だけ伝えると一度魔道具を切る。
 しばらく二人に撫でられながら待っていると、皆の体格を聞いたと連絡が入り、二人はメモを取る。そのメモを片手にソウのホウジツに、わしが迎えに行くまでに準備しておけと命令する。
 その時に、各街の到着時間を聞いていたので、迎えに行く時間も指定する。それが終わると撫で回す二人から逃げ出して、畑の作業に戻る。

「……遅かったですね」
「毛が乱れているニャ……」
「「浮気してきたな!」」
「にゃ~~~!」

 作業の前に、名探偵のリータメイバイに浮気がバレて追い回される。撫でられただけなのに、浮気と認定して来るから困ったものだ。

 二人から逃げながらもきっちり仕事はする。と言っても、作業は終わりが近付いていたので、各班の状況を見ながらねぎらいの声を掛けるだけだ。
 そうこうしていたら、コリスがモフッと抱きついて来た。いつもの事だから軽くあしらうが、抱きかかえられてリータとメイバイの前に連行されてしまった。
 どうやら二人に、餌で釣られたらしい。ついでに一緒にポコポコしないで!

 地面に頭だけ出して反省していると、作業が終わったと主要メンバーが声を掛けて来たが、皆、他にも何か言いたげだ。

 何故、こうなったか聞いてくれていいんじゃぞ? 助けてくれてもいいんじゃぞ? あ……置いて行かないで~!

 皆が街に向かって離れて行くので、土魔法を使って地面からい出る。そして、走って追い付き、リータとメイバイの手を握る。
 二人にブンブン振り回されて街に帰り、今日の収穫を祝して宴会だ。皆、肉とジャガイモを嬉しそうに腹いっぱい食べてにこやかだ。宴は日が暮れる間近まで行われたので、片付けが間に合わなかった。
 なので、街の大人に光の魔道具を配布し、片付けをお願いする。泥棒には酷い罰があると説明したが、そんな事をするわけがないと返された。念の為、一人の男に管理するように命令したが、翌朝には全て返って来た。
 どうやらわしの街での暮らしは幸せで、泥棒などして追い出されたくないみたいだ。杞憂きゆうだったが、規律は必要だ。




 ジャガイモ収穫大会の翌日……

 朝食会議の議題は、来訪者のおもてなし。わしの街には変わった者が多いので、大事らしい。
 南門にはジンリーとワンヂェンを派遣し、セイボクの相手。西門にはシェンメイとセンジを派遣し、ウンチョウの相手。門に入る前に、注意事項を伝えるとのこと。

 何をどこからどうやって伝えるか悩んでいたが、なんでじゃろう?

 不思議に思えたが、わしにも仕事がある。コリスと散歩ついでに、シユウに会いに行く。二匹で追いかけっこしながら、まずはクローバーのチェックだ。

 おお! 見事なクローバー畑になっておる。これで牛達の餌が出来た。……いや、もう一声か? 所々を反対の土地に移植しておこう。

 わしはクローバー畑を転々と土ごと浮かび上がらせると、前回と同じく車輪を付けて待機する。そして、穴の開いたた箇所には魔力で作った土で埋め、刈り取って風で巻き上げると栄養水を振り掛ける。
 今回も、コリスを乗せた荷車を操作して競争だ。牛舎を通り過ぎ、クローバー畑の反対側に着くとそこに移植し、先程と同じ作業をする。
 コリスも手伝ってくれたので、早く終わる事となった。

 それが終わると、コリスと競争しながらシユウと面会。今日は客が来るから、見掛けない人間を見ても襲わないように念を押す。
 しつこく言って拗ねられると困るので、ジャガイモを牛達の餌に進呈したら、快く話を受け入れてもらえた。


 懸案事項が無くなると、クローバー畑に戻って早めの昼食。今日はエミリの作ったハンバーガーを、コリスに振る舞ってあげた。
 美味しい物を食べると、頬袋に溜める癖はやめて欲しい。だが、コリスもご機嫌になったので、街に来客が来てもおとなしくしてくれると約束してくれた。
 コリスとの昼食が済めば、走って街に戻る。街では、昼食の準備が行われていたのでその中を歩き、リータを探してコリスを預け、北門に移動する。

 そこから壁を飛び出て、ソウの街に駆ける。猫型で肉体強化魔法を使えば、片道五日の距離も、一時間もすれば到着だ。
 今日は猫騒動が面倒臭いので、門兵に挨拶をすると壁に飛び乗り、屋根を飛び交い、宮殿に直行。宮殿で働く者に見付かれば猫騒動。揉み手のホウジツが登場だ。

「もうかりにゃっか?」
「ボチボチでんにゃ~。お猫様にあられましては、本日も……」
「そんにゃおべっかはいらないにゃ。それより準備は済んでるにゃ?」
「はっ! こちらにどうぞ~」

 ホウジツは揉み手のまま、人と物の集まった玉座の間にわしを案内する。

「別にいちいちここに連れて来なくていいんにゃよ?」
「も、申し訳ありません。王様と言えばこちらかと思いまして……」
「王様でも、わしは効率を優先するにゃ。ホウジツもそうにゃろ?」
「あ、はい。普段の癖が、なかなか抜けません」
「お前はそれでいいにゃ。だからお互い偉そうにしにゃいで、効率よくいこうにゃ」
「はい! 振る舞いに悩んでいたので、助かります~」
「それじゃあ、服から見せてもらおうかにゃ?」

 わしはメモを片手に、式典用の服を確認する。チェックが終われば次元倉庫に入れて、依頼していた住人への古着とベッドを次元倉庫に入れる。その他、ホウジツ達の持ち物を入れると氷室に案内させ、古着の対価でジャガイモをおすそ分け。
 このような雑用を、王様のわしが自分でやるのがおかしいのか、同行者はずっとガン見していたが、猫だからではないだろう。

 持ち物を入れ終わると広い屋外訓練場に移動し、飛行機に驚くホウジツ達を全て積み込む。飛行機が飛び立てばさらにうるさくなるが、脅して空の旅を楽しんでもらった。

「楽しいにゃろ?」
「ははははは、はい!」

 ちょっと脅し過ぎたみたいじゃ。
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