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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生
279 犬と猫は反省するにゃ~
しおりを挟む大蟻のクイーンを倒したわしは、文句を言うコリスを宥め、残っていた黒蟻を斬り捨てた。
「ほい。終わったぞ」
「むう……モフモフ、ぜんぜん手伝ってくれなかった~」
「わっ! ポコポコするな~」
コリスのポコポコは素でドコンドコンじゃから、一気に埋まってしまいそうじゃ。リータ達のマネをしておるのか? これからはやらないように懇願しておこう。
「危ない時には助けたじゃろ?」
「そうだけど~」
「それにあまり手を貸すと、お母さんにわしが怒られてしまう。だから、コリスも頑張って戦おうな?」
「……うん。わかった~」
「それじゃあ、みんなを助けに行こう。コリスはあっちのザコをお願いするな。終わったら、美味しい物を食べさせてやるからな」
「おいしいもの!? がんばる~」
コリスは餌に釣られて駆け出し、大蟻を次々と叩き潰す。わしは反対側を走り、あまり見ないように斬り捨てて進み、リータ達の戦闘を見守る。
黒蟻二匹には、ケンフとシェンメイがタイマンであたって、ザコはその他が対応しておるのか。黒蟻と比べるとケンフ達の強さは、ややケンフ達が上か? じゃが、大きいから戦いづらそうにしておるな。
わしが加勢してもいいが、それでは二人は納得せんじゃろう。わしが相手をすると、一瞬で方が付くしのう。
わしは大蟻を斬り裂きながらコリスと合流すると、リータ達の戦闘に加わる。
「ただいまにゃ~」
「あ! シラタマさん。もう終わったのですか?」
「そうにゃ。残りのザコは、わしとコリスで相手するから、リータ達はケンフ達に助太刀に行ってにゃ」
「わかりました。では、私とワンヂェンさんがケンフさんの応援を。メイバイさんは、ノエミさんを連れてシェンメイさんを手助けしてください」
「わかったニャー!」
皆が別れて黒蟻に向かうと、わしとコリスは皆の戦闘に邪魔が入らないように、大蟻を倒していく。
ケンフの戦っていた黒蟻は、合流したリータの盾を崩せずに、ケンフの抜き手とワンヂェンの風魔法で斬り刻まれて沈黙する。
シェンメイの戦っていた黒蟻は、メイバイの素早い動きと、ノエミの風魔法に翻弄され、隙をついたシェンメイの大斧に、一刀両断で斬り殺された。
ボスクラスが倒れると掃討戦に移行。わしとコリスはバラバラに走り、リータ達は、黒蟻と戦ったパーティで大蟻を駆逐する。
地上が片付くと、次は地下。と言っても、中に入るのは勇気がいるので、見えている穴に【火の玉】を入れて蓋をする。大蟻の蒸し焼きが完成するまで時間があるので、ここで休憩にする。
テーブルセットを出して皆に飲み物を渡すと、わしは大蟻を次元倉庫に入れる為に走る。それが終われば、お待ちかねのランチだ。
「みんにゃ。お疲れ様にゃ~。今日は巨象のサンドイッチとスープを召し上がれにゃ~」
「「「「「いただきにゃす」」」」」
皆、食べ物を口に入れると、あまりの美味しさに驚きの顔を見せ、貪り食う。当然お代わりを欲しがるので、もうひとつだけ渡す。まだ何か起こるかもしれないので、動けなくなると支障が出るからだ。
だから、コリスがいっぱい食べてるのを羨ましく見ないで! コリスは体が大きいんじゃ! シェンメイも大きいけど、いつもそんなに食べてないじゃろ!
食事が終わると食休み。飲み物を片手に、リータとメイバイの質問に答える。
「地下の大蟻はどうするのですか?」
「前回は動物達の手伝いがあったからにゃ~……今回はもったいないけど、埋めてしまうにゃ」
「食べ物に変わるから、なんとかならないニャー?」
「二人とも、中に入ってなかったから知らにゃいだろうけど、地下は迷路みたいになってたにゃ。この人数で手分けして探しても、一日や二日で、全てを回りきれないにゃ」
「それじゃあ仕方ないですね」
「諦めるしかないニャー」
わし達が話をしている横では、シェンメイとケンフがコソコソと話をしている。
「前回は三人で戦ったのよね? この大群相手に、よく生きて帰れたわね」
「それに俺達が苦戦していた黒蟻より強いのも、何匹もいたんだろ? 我らの王は、俺達が思っているより化け物だったんだな」
「あの顔を見ると、信じられないわね」
「本当に……」
「顔で判断するにゃ~!」
「「あ……」」
「そう言うのは、聞こえないところでやってくれにゃ~」
「「す、すみません!」」
わしが無駄に傷付くから、陰口ならせめて声のトーンを押さえてくれ。誰がとぼけた顔をしてるんじゃ! ……そんなこと言ってなかったか。
「にゃったく……二人は元気そうにゃし、この奥の巣にもついて来るにゃ?」
「え……今日ですか?」
「いまからはさすがに……」
「冗談にゃ。ここさえ潰せばしばらくは大丈夫にゃから、暇が出来たら攻め込もうにゃ」
「「はっ!」」
「それと探索班も作らないとにゃ~。この国に大蟻は多く居ると思うから、それも課題にゃ~」
話が済むと【玄武】を作り出し、巣の上を走り回らせる。ドタドタと走る超重量の亀によって、穴があった場所は地盤沈下を起こして大穴へと変わる。そこに【玄武】を座らせて土に戻すと、陥没した土壌が完成した。
【玄武】が消えると、今度はノエミとワンヂェンがコソコソと話をしている。
「あの魔法を私も使えたら……」
「あの大きさじゃ、うち達でもさすがに魔力がもたないにゃ~」
「そうね……あ! 皇帝と戦った時に似たような魔法を使っていたわよ」
「どんなのにゃ?」
「1メートルぐらいの氷の猫よ。それで三倍はある火の鳥を撃退していたわ」
「猫のシラタマが猫を作ったにゃ!?」
「そうよ。しかも撫でていたわよ」
「プッ。にゃははは」
「だから~。そう言うのは、わしの聞こえないところでやってにゃ~」
「「「「猫魔法、教えて(にゃ)~」」」」
ノエミとワンヂェンは、わしの魔法を教えて欲しいと言って来るが、猫魔法なんて存在しない。猫の形を動かしているだけだ。
二人にまざってリータとメイバイも教えてくれと言って来たが、しらんがな。全員でポコポコされても、難しいからわしが教えられない。
大蟻の駆除が終わったので、ここには用が無くなったので飛行機を取り出し、皆を乗せる……
「もう、ポコポコはやめて乗ってくれにゃ~」
ずっとポコポコされていたわしは、皆を乗せる為に今度教えると約束させられた。手形まで取られる念の押しよう。ワンヂェンと同じだけどよかったのかな?
皆が乗り込むと飛行機は離陸して、すぐに着陸する。そして、全員を降ろしてしまう。すると、不思議に思ったリータが尋ねて来た。
「シラタマさん。ここは?」
「東の国と繋がるトンネルにゃ」
「高い壁に守られているから見えないニャー」
「まぁわしも砦があるから、そう思っただけにゃ。ケンフ。ここがトンネルかにゃ?」
「はい。掘るのに獣が邪魔になるので、囲っています」
「中で人が騒いでいるみたいにゃけど、どうしたら開けてくれるかにゃ?」
「空からあんな物が降って来たら、驚くでしょうね。俺が掛け合ってみます」
「頼んだにゃ~」
ケンフが砦の門に近付くと、弓を構えた兵士が顔を出す。その兵士に大声で帝国は負けたと伝えたら、どよめきが起こる。さらに猫が王様になったと聞くと、笑い声が起こった。ケンフが殺気を放つからやめて欲しい。
しばらくして勝手口が開くと兵士が出て来て、王のわしに謁見する。
「ブッ! 猫のぬいぐるみが服を着てる~! ぎゃはははは」
その発言にわしは腹が立ったが怒る事もせず、声を掛けようとしたら、ケンフが兵士をぶっ飛ばしやがった。
そのせいで、砦から弓矢が飛んで来る事態となってしまった。
「ケンフ~。どうしてくれるにゃ~」
「も、申し訳ありません。この責は俺にあります。このケンフ。命を懸けて、砦を落として参ります」
「そんにゃのいらないにゃ~。……もういいにゃ。わしが出張るにゃ」
「いえ。シラタマ陛下のお手を煩わせるわけには……」
「ケンフに任せたら、よけい拗れるにゃ~」
「ク~ン……」
わしの言葉に、ケンフは尻尾を垂らして落ち込む。尻尾が無いのに尻尾が見えるように振る舞うとは、忠犬にしてもほどがある。
「ひとまず、リータ、シェンメイ、ケンフ、ノエミ、ワンヂェンで、弓矢の中を耐えてくれにゃ。その間に、わしが制圧して来るにゃ」
「私は何するニャー?」
「メイバイは、コリスを見ていてくれにゃ~」
「う~ん……」
「頼むにゃ~」
「わかったニャー」
「それじゃあ、行っくにゃ~」
「「「「「にゃ~~~!」」」」」
わしのお願いを聞いた皆は、飛んで来る弓矢を盾で防いだり、攻撃で叩き落としたり、魔法で防いだりしながら砦の門に向かってジリジリ進む。
わしはその隙に、門とは離れた場所に移動して壁に飛び乗ると、弓士を峰打ちで斬り伏せる。素早く走りながら弓士を全員倒したら、内部に飛び降りて斬り掛かる敵も峰打ちでねじ伏せた。
そうして砦内が静かになると門を開き、仲間を招き入れる。
「ケンフ。この砦の責任者を探してくれにゃ。これはケンフにしか出来ない仕事にゃ。頼んだにゃ」
「ワ、ワン!」
ケンフは返事らしき声を出すと、尻尾を振りながら走って行った。わしが苦笑いでケンフを見送っていたら、リータがわしのそばに寄って質問して来る。
「シラタマさんが、全員気絶させるから悪いのでは?」
「いちおう聞いたんにゃけど、答えてくれにゃかったにゃ~」
「本当ですか?」
「猫、嘘つかないにゃ~」
「……本当みたいですね」
「そろそろ、わしの心を読む方法を教えてくれないかにゃ~?」
「そ、そんなこと出来ません!」
「絶対できるにゃ~!」
「モフモフ攻撃~~~!」
「にゃ!? ゴロゴロ~」
わしの尋問を、リータは撫で回して回避しようとする。それでも質問すると、メイバイを召喚して激しい撫で回しを受ける事となった。
わしが股間をガードしながらゴロゴロ言っていたら、ケンフが砦の責任者を引き摺って現れた。なので、心を読むスキルの謎はうやむやにされてしまった。
「で……わしが王様にゃけど、異論があるのかにゃ?」
水をぶっかけて起こした砦の責任者、リェンジェにわしは問い掛ける。
「い、いえ。申し訳ありませんでした! 私の命は差し出しますので、部下の命だけは、どうか助けてください!!」
リェンジェは大声で謝罪を述べながら土下座する。
「あ~。今日は王様が代わった事を伝えに来ただけにゃ。いざこざはあったけど、不問にするにゃ」
「え?」
「部下思いのお前は気に入ったにゃ。もうしばらくここに滞在して砦を守って欲しいんにゃけど、頼めるかにゃ?」
「私、一人でいいのなら……」
「一人にゃ?」
「実は、この砦には食糧がありませんので、帝国からの連絡も途絶えた事もあって、もう数日したら部下を帰そうかと考えていたのです」
「食糧があったら、部下も残ってくれるにゃ?」
「え?」
わしは、会話しながらも顔を上げないリェンジェの肩を掴んで起こし、優しく笑って見せる。
「連絡が遅くなってすまなかったにゃ。なにぶんわしは、この国に疎くてにゃ。ここの砦に気付いたのも、昨日だったにゃ。亡国の命に従い、よく今日まで守ってくれたにゃ。ありがとうにゃ」
「い、いえ……」
「食糧にゃらわしが十分に用意するから、どうかわしに仕えてくれないかにゃ? お願いにゃ~」
「……寛大な処置をとっていただき、さらに敵国であった私を評価していただき有り難う御座います。私は王様に仕えさせていただききますが、部下には家族のいる者もいますので、少し説得の時間をいただけないでしょうか?」
「そうだにゃ……それで足りなくなるにゃら、他から補うから言ってくれにゃ」
「はっ! はは~」
リェンジェが再度土下座をするので、わしは引き起こし、今後の話に移る。次回来るのはいつになるかわからなかったので、食糧を一ヶ月分渡し、通信魔道具を繋げるようにしたので、何かあれば連絡するように告げて砦をあとにした。
その機内では、反省して小さくなるケンフと……
「コリスちゃんが、シラタマ殿が全然手伝ってくれなかったって言ってたニャー」
「反省してください!」
反省してスリスリするわしの姿があったとさ。
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