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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生

277 街への来訪者にゃ~

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 村に出た盗賊を退治したわし達視察団一行は、長い説教を受けながら街へと帰る。ケンフとシェンメイも遊んでいたのに、わしのほうが説教が長いのは不条理だ。

「「へ~~~」」
「すいにゃせん!」

 迂闊うかつな事を考えたせいでさらに説教が延びたが、無事、街の着陸ポイントに到着した。今日は村への視察が一件だけだったので、夕食の支度をしている住人に声を掛けながら街を歩く。
 そうしていると、わしの帰りに気付いたであろうズーウェイが走り寄って来た。

「シラタマ様! おかえりなさいませ」
「ただいまにゃ~。でも、慌ててどうしたにゃ?」
「来訪者が来ておりまして、どう扱っていいかわからず、お屋敷に待機してもらっているのです」
「来訪者にゃ? 悪い奴にゃ?」
「いえ。ラサの街から来たセンジ様です。シラタマ様のお知り合いと言っていましたが、事実でしょうか?」
「にゃ! 知り合いにゃ~」
「どどどど、どうしましょう?」
「そんにゃに焦ってどうしたんにゃ~」
「実は……」

 ズーウェイは、わしの居なかった間の、街での出来事を説明する。

 西から見られない馬車を発見した見張りの子供から、報告を受けたジンリーが、兵を連れて出撃。取り囲んで剣を向けたそうだ。
 センジ達は馬車から降りると、敵じゃないと武器を捨て、わしの名前を出したそうだ。しかし、相手をしていたジンリーでは判断が出来なかったらしく、連行して屋敷に軟禁しているらしい。

「シラタマ様のお客様に、失礼な事をして申し訳ありません!」
「ズーウェイが謝る事じゃないにゃ。わしが知らせてなかったのが悪いんにゃ。あとで、近々街にやって来る者のリストを渡すから、警備兵に回してくれにゃ」
「はい!」

 ズーウェイを宥めると屋敷に案内してもらい、応接室でセンジと対面する。

「わしの街の者が失礼をしたみたいで悪かったにゃ」
「いえ。シラタマ王の名前を出したら丁重に扱われましたので、その様には思っていませんよ。それに、猫耳族の方なら、私達は剣を向けられても仕方ありません」
「わしの街に入った怪しい人物だから剣を向けただけにゃ。間違っても、人族だからと言う理由で剣を向けたわけじゃないにゃ。もし、そんにゃ事で剣を向けたと言うにゃらわしが裁くから、我慢しないで言ってくれにゃ」
「あ……申し訳ありません」

 う~ん……なんの謝罪なんじゃろう? 猫耳族を悪く言ったと思ったのかな? これはセンジの意識改革も必要かもしれんな。

「センジは猫耳族に、過度にびているみたいだにゃ。その心は大事にゃけど、もっと普通に接していいんにゃ。やり過ぎると、それも差別に繋がるからにゃ」
「……わかりました」

 ちょっとは伝わったかな? あとは、時間が解決してくれるのを待つとするか。

「それで、今日はどうしたにゃ?」
「ウンチョウさんが、即位式の準備に人手が必要だろうと、私を派遣しました」

 即位式の準備か……。わしが言い出したのに、何ひとつ準備をしておらんかったな。そもそも何をどう準備していいかもわからん。
 ここは元首長の娘のセンジを頼るか。センジを寄越してくれたウンチョウのファインプレーじゃな。シェンメイじゃ、戦う事しか出来んからのう。


 わしはひとまず、センジの連れて来た者も誘って夕食に連れ出す。街の者にはしばらく滞在するので仲良くするように伝え、センジには夕食会議に出席してもらう。

「「「「「いただきにゃす」」」」」
「……いただきにゃす」

 会議の開始は、食事の開始。食べながら、街の様子を聞きながら、変わった事がなければ労いの言葉をムゴムゴと掛ける。
 その姿を疑問に思う者が、また居た。センジだ。

「あの……これが会議ですか?」
「まぁ変だろうけど、会議にゃ」
「変だと思っていたのですね……」

 シェンメイに続き、センジまで疑問に思うのか。何故か全員生温い目で見て来るし、言い訳のひとつでもしておこう。

「つい最近まで忙しかったから、食事の時ぐらいしか、みんにゃが集まる時間が合わにゃかった……」

 わしは言い訳をしている最中に、ある事に気付いて言葉が止まる。

「どうしたのですか?」
「にゃ~! この会議、わしが始めたんじゃなかったにゃ! いっつもわしが帰って来たら、食事が始まっていたんにゃ!!」

 わしは誰が犯人かを当てようと、ひとりひとり目を見て確認する。だが、わしが犯人探しをしていたら、リータが止めに入った。

「いつもシラタマさんが、食事会議と言っていたじゃないですか?」
「そうにゃけど、食事の時に話し合っていたからそう呼んでいたにゃ。だからわしを見て、変だと思わにゃいで~」
「そ、そんなこと思っていませんよ。みなさんもそうですよね?」
「「「「「そうそう」」」」」

 嘘くせ~。全員わしを見ないで頷いておるのは、全ての罪をわしに押し付けようとしてるじゃろ! 絶対、犯人を見付けてやる!!

「あと、変なところは……」

 あ……センジに台詞を先越されてしまった。まだ変なところがあるのか?

「ヨキ君でしたっけ? どうして子供まで会議に参加しているのですか?」
「農業担当のトップだからにゃ」
「こんな子供がですか!?」
「わしの街は人材不足だからにゃ。それに農業従事者は子供が多いから、ヨキが一番適任なんにゃ」
「たしかに街を見ると、子供が多いですね」
「にゃ~? 驚くだろうけど、変にゃ人選ではないにゃ」
「そうですけど……まだ変なところはいっぱいあります!」
「いっぱいあるにゃ!?」

 センジは変なところが多過ぎて聞く順番を考えていたが、会議の参加でさらに増えて、思い出しながら矢継ぎ早に質問して来る。
 わしは何も変なところはないと説明するが、皆、わしの味方をしてくれなかった。


「も、もういいにゃろ?」
「まだです! あの高い壁はなんですか!」
「わしが作った物にゃ~。あ、扉はちゃんと閉めて来てくれたかにゃ?」
「立て札に書いてありましたから閉めましたけど、それも変ですからね?」
「いまは兵も足りないからにゃ~」
「最後に……」

 やっと最後か……今までに、二十個ぐらいあったかも。疲れた~。

「猫陛下を後ろから抱いている、かわいい子はなんですか?」
「かわいい子にゃ?」
「その白いリスちゃんですよ!」
「ああ、コリスにゃ。こっちでは厄災リスってのが居たみたいにゃけど、その娘にゃ」
「厄災リスの娘??」

 あら。喋り疲れてあっちの世界に行ってしまった。いや、厄災リスに驚いておるのか。ひょっとしたら、恐怖の対象なのかな?

「あ、あの……私も抱いてもらえる事は可能でしょうか?」

 もう戻って来た! コリスはかわいいからな。デカイけど……

「コリス。センジが抱いて欲しいってさ。いいか?」
「う~ん……いいよ~」

 わしは念話で許可を取ったらコリスソファーから降りて、センジにそこに座るように勧める。センジは恐る恐るコリスに包まれると、だらしない顔に変わった。
 それから空いている席に座ろうとしたが、リータが太ももを叩いていたので、リータソファーに座る。

「それでセンジに頼みがあるんにゃけど……」
「モフモフ~」
「センジ~。聞いてくれにゃ~」
「モフ……は、はい! なんでしょうか?」
「即位式を、センジに取り仕切って欲しいにゃ」
「私がですか?」
「わし達を見てくれにゃ。この中で、貴族やしきたりといった事に、詳しい者が誰ひとり居いないにゃ」

 センジは、わし達の顔を一通り見てから口を開く。

「そうなのですか……でも、私も王族の詳しい即位式のやり方なんて知りません」
「今回は王冠を被るだけでいいにゃ。質素でいいから、それらしい式っぽくしてくれにゃ」
「なんでもよろしいのですか?」
「いいにゃ。センジに任せるにゃ~」
「わかりました。猫陛下にふさわしい即位式にしてみせます!」
「う、うんにゃ……ほどほどでいいからにゃ?」
「任せてください!」

 う~ん……何故か燃えておる。センジはお偉いさんの娘じゃったし、パーティーピーポーなのか? まぁわしも何も思い付かんし、任せるしか選択肢が無いから任せよう。あの目は少し心配じゃが……


 センジが皆に聞き取り始めたのと同時に、食事会議は終了。後片付けを少し手伝っているとセンジが寄って来て、その行動も変だと指摘された。
 変、変と言われ続けたので、センジには先程の屋敷をお供の者と使うように言って、離れさせる。

 片付けが終わるとシェルターのお風呂が空くのを、大人組と酒を飲みながら待とうとしたら、センジもついて来て、シェルターの形も変だと言われた。
 お風呂にまでついて来て、子供達のあとに入るのも変だと言われ、いい加減にして欲しい。

 お風呂から上がると寝るには頃合いなので、わし達の寝床に向かうと、センジがまだついて来て質問をして来る。

「あの……猫陛下のお家は、あっちのシェルターじゃないのですか? なんで外に出るのですか?」
「シェルターは子供達の為に作った家にゃ。わし達はこっちにゃ」
「え? えっと……」

 センジはわしの目線を追うと、そこには四角い建物と車があった。

「こちらが猫陛下のお家ですか?」
「あ~。最初はそこを使っていたんにゃけど、コリスが来てからコリスの家になってるにゃ」
「じゃあ、あちらの馬車に、三人で寝泊まりしているのですか?」
「そうにゃ」
「すっごく変です!!」
「声が大きいにゃ~。急にどうしたんにゃ~」
「だって、猫陛下は王様ですよ! どうして子供達よりも、小さな場所で寝ているのですか!!」
「「「……にゃ!!」」」

 わし、リータ、メイバイで顔を見合わせ、衝撃の事実に気が付く事となった。

「家無き猫にゃ~~~!」
「どうして皆さんが驚くのですか!」
「すっかり忘れていたにゃ。これも変かにゃ?」
「猫陛下のやる事は、全て変です!」
「リータ~、メイバイ~。センジがイジメるにゃ~」
「よしよし……たしかに変ですよね~」
「よしよし……シラタマ殿のやる事に慣れてしまっていたけど、変だニャー」

 リータとメイバイに泣き付いたら頭を撫でてくれたけど、わしは納得できない!

「慰めるにゃら、その心の声は口に出さないでにゃ~~~」
「「あ、あははは」」

 誰もわしの味方をしてくれない中、コリスという救世主が現れる。

「モフモフ~。ねむたい~」

 お! いい考えが浮かんだ。うるさいやつを排除してやる。

「今日はセンジが一緒に寝てくれるってさ。一緒に連れて行ってやるんじゃ」
「うん。ねよ~」
「え、え、ええぇぇ~……モフモフ~」

 センジは幸せそうな声をあげて、コリスのベッドに連れ込まれる事となった。わしはと言うと、リータ達へのお仕置きで、猫型で眠る事にした。

「変じゃないですよ~」
「拗ねないでニャー」
「ゴロゴロ~」

 猫型で寝ても、毎日のスキンシップは変わらないのであったとさ。
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