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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生

276 村の視察 ケース3ー2

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 村の視察を行っていた視察団一行は、盗賊と接触し、戦闘状態となってしまった。

「二人とも、絶対に無茶しないでくださいね!」
「シラタマ殿の言葉を忘れちゃダメニャー!」

 盗賊の集団に囲まれたケンフとシェンメイに、リータとメイバイが声を掛ける。シラタマには生け捕りにするように言われていたので、盗賊相手に「殺さない」とは言えない。なので、言葉をボカして伝えたようだ。
 二人は振り返って笑顔で頷いたが、悪い笑顔だったので、リータ達は心配する事となった。

「お前達、敵はたった五人だ! 武術バカも筋肉猫も、噂ほど強いわけがない。殺ってしまえ~~~!」

 盗賊は、先制攻撃をされたので待ったなし。剣を抜いてケンフとシェンメイに襲い掛かる。しかし、二人の敵ではない。バッタバッタと薙ぎ倒される。
 その様子を見ながら、リータ、メイバイ、ノエミは雑談をしている。

「う~ん……私達の出番は無さそうですね」
「たしかに……人がゴミのように飛んでるニャー」
「そうね。でも、村に入る者がいるかもしれないから、そこだけ警戒しておきましょう」
「ですね……」

 三人で喋っていると、戦況が変わる。

「あ! 馬が反転しました」
「形勢が悪いから、アイツ一人で逃げるみたい」
「仲間を切り捨てるなんて、酷いニャー!」
「まぁあの方向なら、シラタマさんの読み通りですね」
「もっと酷い目にあうかもね」
「「ホントに……」」

 三人は、度々やらかす猫の顔を思い浮かべ、心配事が増えるのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 ケンフ達が盗賊と交戦を繰り広げている間、わしは探知魔法を使いながら、コリスと一緒に盗賊の後方に移動していた。
 そして、コリスと一緒にサボ……逃げて来た盗賊を捕らえようという作戦だ。

 しかし馬鹿な盗賊じゃったな。まさか匂いに誘われてやって来るとは……ダメ元で、匂いの強いタレを使って風魔法で送ったんじゃが、探す手間がはぶけて大成功と受け取るか。
 じゃが、探知魔法の感じだと、ケンフとシェンメイが突っ掛けたみたいじゃな。人が次々と空を飛んでおる。二人でも余裕だとは思っていたけど、二人だけでやらなくてもいいのに……。これはあとで、手当が必要になりそうじゃ。
 まぁこれならわしの出番は無さそうじゃな。モフモフのコリスベッドで休ませてもらうか。コリスもホロホロ言って嬉しそうじゃしのう。

 しばしコリスに抱かれてボーっとしていると、戦況が変わった。

 ん? 馬に乗ったヤツがこっちに向かって来ておる。あの二人なら、走れば馬ぐらい追い付けるじゃろうに……。他の盗賊に注意が向き過ぎておるな。致し方ない。

「コリス。遊び相手が来たぞ~」
「叩いたらいいんだよね?」
「おう。でも、思いっきりはダメじゃからな」
「わかった~」

 わしはコリスの背に移動すると、念話で指示を出して、逃げて来た盗賊に向かって走らせる。すると対面して走っていたので、すぐに盗賊の親分が目に入る。
 親分はコリスの姿を見るや否や、何やらおぞましい物を見た顔に変わり、馬も震えて止まった。コリスは力を隠す隠蔽魔法を使っていないから、少し威嚇しただけで、この始末となってしまったわけだ。
 わしはその姿を見て、親分を馬から軽く殴り落とし、馬を優しく撫でて避難させる。親分は、その落下の痛みで我に返ったようだ。

「厄災リスが、何故ここに……」
「わしの妹分に、酷い事を言わないでくれにゃ~」
「猫が喋った!!」
「あ、そう言うのはいらないにゃ。帝都でわしの姿は見なかったにゃ?」
「見たが……猫が喋っているんだぞ!」

 そんなにキレながら言わなくても……。面倒じゃし、痛い目にあわせてからお持ち帰りしよう。

「コリス。やっておしまい!」
「わかった~!」

 わしの言葉を聞いたコリスは、親分にゆっくり近付く。

「ま、待て! 私は貴族だぞ。そんな事をしたら……」
「そんにゃ事をしたらなんにゃ? わしは王様だけど、お前にゃんて知らないにゃ」
「……ゆ、由緒正しい血筋が途絶えてしまう!」
「わしの国に、お前の汚い血にゃんかいらないにゃ。反論を聞いてやってもいいけど、もうコリスの間合いに入っているにゃ。そのままでいいにゃ?」
「くっ……クソー!」

 親分は覚悟を決めて剣を抜く。そして、剣を振り上げるとコリスを斬り付けようとする。しかし、力の差は歴然。ただの人間が白い獣に勝てるわけがない。
 親分は近付いた瞬間コリスの尻尾で、ベチコーンと叩き潰されてしまった。

「あちゃ。やり過ぎじゃ~」
「シェンメイは大丈夫だったよ~?」

 さっきシェンメイと何して遊んでいたんじゃ? まさか殴り合いとか?
 しかし、コリスも強くなっておったんじゃな。わしも尻尾が増えて強くなったから当然か。いまではイサベレの三倍近く強くなっておる。
 それよりも、盗賊を治してやらんと、背骨が折れているから死んでしまう。手も足も逆に向いておるな。痛いの痛いの飛んで行け~。こんなもんかな? もう少し、コリスと遊んでもらわんといかんからのう。
 さて、盗賊にはそろそろ起きてもらうおうか。


 わしは魔法で水の玉を作ると、盗賊の親分にぶっかける。

「うわ! な、なんだ!?」
「寝てる場合じゃないにゃ。必死でやらにゃいと、死ぬから気を付けるにゃ」
「……え?」

 親分は、先ほど自分に起きた事態を思い出したのか、剣を持つ手が震えている。

「コリスも、もう少し手加減してやれ」
「うん!」

 再びコリスは親分に近付く。すると親分は剣筋も関係なく、ブンブンと振り回す。
 だが、コリスはその剣に当たっても、ものともせずに進み、親分の顔面にリスパンチを減り込ませる。
 リスパンチを喰らった親分は、地面に何度もバウンドして転がる事となった。

 わしは親分に駆け寄ると、陥没した顔を回復魔法で治し、再び剣を握らせる。

「コリス~。剣は避けないとダメじゃ。こいつが弱くなかったら、怪我しておったぞ」
「そうなの? 痛くなさそうだったからよけなかったの~」
「それじゃあ練習にならないから、次は避けるんじゃぞ? それと、もう少し力を抑えてやるんじゃ」
「むずかし~い」
「難しいから、練習しておるんじゃ。頼むぞ?」
「うぅぅ。わかった~」

 コリスへのアドバイスが終わると、今度は親分にアドバイスをする。

「ほれ。お前も真面目に剣を振るにゃ。黒魔鉱の剣が泣いてるにゃ~」
「え? いや、私は剣を習っていないから……」
「そんにゃこと聞いてないにゃ。コリスに勝たないと死ぬだけにゃ。さっさと構えろにゃ」
「いや、もう二回も負けているから降参する……いえ、降参させてください! あ、押さないで……」
「ほれ。構えにゃいと、コリスに殴られるにゃ~」
「ギャーーー」

 わしは親分の背中を押して、力加減をシャドーボクシングで確かめているコリスの前に連れて行く。
 親分はわしの方を向いていたが、振り返った瞬間、リスパンチをもらって悲鳴をあげる事となった。どうやらコリスは、一発で気絶させない程度の手加減を覚えたみたいだ。
 しかし、往復リスパンチを喰らうとフラフラと倒れたので、今度は水だけ掛けて起こしてあげる。そして「押すな押すな」と言う親分を押してあげて、コリスの元へ連れて行くのであった。





「シラタマ殿~。こっちは終わったニャー」

 コリスと一緒に遊んでいると、メイバイが手を振りながら走って来た。

「おっと。コリス。アッパーカットじゃ!」
「え~い!」

 メイバイが走り寄って来たので、コリスにトドメを刺させる。親分はリスアッパーを喰らうと、吹っ飛んで仰向けに倒れる事となった。

「コリス。よくやったな」
「うん! ホロッホロッ」

 わしは労いの言葉を掛けて、よしよしと頭を撫でる。わしに褒められたコリスはご満悦だ。

「メイバイ達は、もう終わったんにゃ」
「そうニャー。シラタマ殿が遊んでいるうちに終わらせたニャー」
「あ、遊んでないにゃ~。コリスの練習に付き合ってたんにゃ~」
「何度も盗賊を起き上がらせてたニャ……」
「にゃ!? 見てたにゃ!?」
「見てないと思ったニャー!」
「すいにゃせん!」

 コリスとは違い、メイバイは不機嫌なので、すぐさまスリスリと謝る。それでは足りないみたいなので、お姫様抱っこで皆の元まで戻る。
 ちなみに盗賊の親分はコリスの尻尾に拘束して運んでもらい、馬は勝手について来た。

 皆の元へ着くと、盗賊の何人かは怪我が酷かったので、治療をしながらワンヂェンを呼びに、ケンフを走らせる。
 ワンヂェンが来ると、ノエミを加えて盗賊達を奴隷紋で縛ってしまう。全員の処置が終わると入口に座らせて、村人達にもう安全だと伝え、炊き出しの続きを行う。

 わいわいと炊き出しをしていると、村長が息子に肩を借りて、ムシャムシャしているわしとコリスの元までやって来た。

「猫王様。この度は、村を救っていただき、有り難う御座いました」
「村長……。死にかけていたんだから、動いちゃダメにゃ~。すぐに座るにゃ~」
「は、はい。失礼します。ですが、ここまで回復すればもう大丈夫です」
「いまは無理矢理体力が上がっているだけにゃ。ひとまずこれを食えにゃ」

 わしは調理済みの巨象の肉を取り出すと、食べやすいように細かく切って皿に乗せる。

「これは?」
「めちゃくちゃうまい肉にゃ。ひょっとしたら、最後の食事になるかもしれにゃいからサービスにゃ」
「私は死ぬのですか……」
「村長の傷は死ぬほどの傷だったから、正直わからないにゃ。でも、さっき飲ませた物と、この肉を食べれば奇跡が起こるかもしれないにゃ」
「そうですか……有り難くいただかせてもらいます」

 村長はそう言うと、ひと切れつまんで口に入れる。肉を噛むと目を見開き、ゴクリと飲み込む。そして、がっつくように食べ出した。その姿を見ながらリータに、もうひとりの重傷者にも食べさせるように皿を渡して頼む。

「落ち着いて食べろにゃ~」
「……はっ! あまりにも美味しくて、つい……申し訳ありません」
「それを食べたら、すぐに寝て、体を休めるんにゃ」
「しかし……」
「村の事が心配なのはわかるにゃ。でも、自分の体も大切にしてくれにゃ。にゃ?」

 わしが村長を説得していると、息子が会話に入って来る。

「親父。あとは俺に任せてくれ。猫王様の言う通り、たまには俺を頼ってくれよ」
「……わかった。また、肩を貸してくれるか?」
「ああ!」

 村長は肉を平らげると、息子の肩を借りて掘っ建て小屋に入って行った。チラッと見えた村長の横顔は、自分が助かったよりも、息子の成長が嬉しいといった顔をしていた。


 お腹が膨れると、村長の息子と相談しながら溜め池を作り、避難所と氷室を建設する。食糧もプレゼントしたから、次の収穫まで余裕で持つはずだ。
 それが済むと、奴隷にした盗賊の処置。この村で使って欲しいが、恨みを持つ村人の前に置いておけないので、わしの街に送る。
 馬が一頭いるので馬車に水と干し肉を積み込んで、二十一人は行進だ。剣も返したので、強い獣が出ない限り大丈夫だろう。
 わしの街に着いたなら、強制労働が待っているのだから、誰ひとり欠ける事なく着いて欲しいものだ。

 村での用件が済めば、今日は遅くなったので、次々と感謝を述べる村人を押し退け、街へと飛び立つ。その機内では……

「ケンフとシェンメイはやり過ぎにゃ~。遊んでいいとは言ってないにゃ~」
「「申し訳ありません!」」

 わしの説教が始まる。

「シラタマさんも遊んでいたのですよね?」
「にゃ!? そんにゃ事ないにゃ~」
「ずっと見てたって言ったニャー!」
「すいにゃせん!」

 リータとメイバイの、わしへの長い説教も始まるのであった。
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