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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生

265 仕事と休日にゃ~

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 街を再興して三日目。今日は住人を二班に分け、一班には休みを言い渡す。多くの者は、「なにそれ?」という顔をするので、どうしてかと聞くと、休みがわからないそうだ。
 わしの街の住人は、浮浪児、元奴隷、帝都の住人と魔法使い少人数で構成されている。なので、休みという概念を知らない者が、三分の二も居る。

 休みの説明をしてみるが、今度は何をしていいかを聞いて来る。
 困ったわしは、子供達には遊具を作り、「これで遊べ。疲れたらごはんを食べて寝てろ」と説明し、猫耳族には「子供達を見てろ。一緒に寝ろ」と言って、あとはリータ達に丸投げする。
 主要メンバーも半数は休みを言い渡しているので、今日の休みの者が居るから、なんとかなるだろう。

 面倒事は皆に押し付けたので、わしは変人大工、ダーシーに会いに行く。ダーシーはすでに作業をしているらしく、わしが訪れても気付かないのか、まったく作業の手を休めない。

「にゃあにゃあ? ちょっといいかにゃ?」
「なんだ? いまは忙しいんだ……ね、猫王様!!」

 うん? 驚いている。わしの姿のせいか?

「ビックリさせて、すまないにゃ」
「いえ。猫王様に謝らせて、こちらこそすみません」
「いいにゃ、いいにゃ。それより話をしに来たんにゃけど……その前に、お風呂は入っているにゃ?」
「えっと……いえ、最後に入ったのはたしか……」

 くさいわけじゃ。お風呂に入った日すら覚えておらんとは……髪も髭も汚いし、服も体も汚い。どうりでリータ達がお勧めしないわけじゃ。

「ここは貴族の屋敷にゃろ? お風呂もあるだろうし、先にお風呂に入るにゃ」
「いえ。まだそこは修理していないので、俺はこのままでもいいのですが……」
「わしが臭くてたまらないにゃ。これは命令にゃ!」
「は、はい!」

 強制的にダーシーをお風呂に連行すると、土魔法で湯船をちょちょいと綺麗にして、お湯をぶちこむ。
 石鹸と布を渡したら、わしはそのかたわらで、土魔法で作った簡易洗濯機でダーシーの服を何度も洗い、綺麗にする。
 ダーシーは、王のわしに洗濯させてしまっている事に謝って来たが、もっとゴシゴシしっかり洗えと命令し、綺麗になったところで話を再開する。

「それで、猫耳族を嫁にしたいんにゃって?」
「も、申し訳ありません!」
「別に怒る為に来たんじゃないにゃ。協力はするつもりだけど、相手が嫌がっているから無理強いは出来ないにゃ」
「嫌がっているのですか……でしたら、次の候補に行きます!」

 ん? ポジティブじゃな。猫耳族なら誰でもいいのか?

「いや、ひとまずダーシーを建設担当のトップに任命するにゃ。それと、断られた猫耳族を秘書として配置するから、あとは頑張ってくれにゃ」
「建設担当トップ!?」
「権力を持っているほうが、女がなびきやすいにゃろ?」
「たしかに!!」
「まぁ身だしなみも大事にゃ。毎日お風呂に入って、そのボサボサの髪と髭も、にゃんとかするにゃ」
「しかし、俺は大工が趣味みたいなもので、これほど多くの家が修理できるのが楽しくって、ついつい時間も忘れてしまうんです」

 時間を忘れるって……今までずっと修理しておったのか? なんかくまも凄いし……寝てないんじゃないか? 有り難いんじゃけど、過労で倒れてしまうぞ。早く気付いて良かった。

「一人でやると時間が掛かるにゃ。建設担当のトップとして皆を率い、新人にも教えて、一軒でも多く住めるようにして欲しいにゃ」
「うっ。教えながらですか……」
「出来ないにゃら、この話は無しにゃ。他に大工が出来る人に頼むにゃ。その人が秘書に付けた猫耳族と結婚するかもにゃ~?」

 さあ。アメを取り上げられたらどう出る?

「他にやらせるぐらいなら、自分がやります! 猫王様の期待に恥じないように、立派な猫耳嫁を手に入れてみせます!!」

 うん。効果はあったが、方向がズレておるな。立派な街にして欲しいんじゃが……まぁ今のやる気を削ぐのも、もったいないか。


 話が終わると、今日は必ず休む事と身だしなみを整えるようにと伝え、屋敷をあとにする。
 そして次の目的地、猫耳族のお姉さんに挨拶をしに行く。何人かに居場所を聞くと、遊具場に居ると聞いたのでそちらに向かう。だが、猫耳族の女性は数人固まっていたから、誰が目的の人物かわからないので、声を掛けてみる。

「えっと……ファリンさんは、どなたかにゃ?」
「は、はい! 猫王様。私でございます」
「ああ。そう緊張しにゃいでくれにゃ。ちょっと聞きたいんにゃけど、ダーシーって人を知ってるにゃ?」
「はあ。知っていますが、どうかしましたか?」
「ファリンさんには明日から、ダーシーの下で働いて欲しいにゃ。嫌だったら断ってくれにゃ。あ、わしが言うと断り難いんだったにゃ。強制じゃないし、嫌だったら今の仕事を続けていいからにゃ?」
「いえ……どんな仕事でも、私はやらせていただきます」

 うん。あからさまに嫌そうじゃな。ダーシーには、早く次の相手を見繕みつくろわないといけないかも。

「やっぱり嫌いかにゃ? 臭いし汚いのがダメだったにゃ?」
「それもありますが、人族の方は苦手でして……それに、いきなり結婚してくれと言われたので、少し気持ち悪いです」

 マイナス要素のオンパレードじゃな。一発で嫌われるとは……ダーシーはよくもまぁ求婚なんて出来るな。

「じゃあ、数日だけついてみてくれにゃ。いちおう身だしなみだけは整えるように言っておいたから、においは大丈夫だと思うにゃ」
「……わかりました」
「耐えられないにゃら、絶対に言ってにゃ? わしはこの街のみんにゃに幸せになって欲しいから、強制にゃんかしたくないからにゃ?」
「幸せ……」
「いまはまだ考えられにゃいだろうけど、所帯を持って、家族で笑いながらごはんを食べて欲しいにゃ。一人が幸せって言うにゃら、それもかまわにゃいけどにゃ。でも、目の前で遊ぶ子供が、自分の子供だったらかわいいと思わないかにゃ?」

 わしと猫耳族の女性達は、キャッキャッと遊ぶ子供に目を移す。皆、思う事があるのか、子供の姿を無言で眺めている。

「ちょっとは所帯を持つ事は考えられたかにゃ? ここには猫耳族の男も居るし、猫耳の里って所にも居るにゃ。もちろん人族の男に恋をするのも自由にゃ」
「恋をするのも自由ですか……」
「そうにゃ。ここには自由があるにゃ。でも、自由だからって仕事はしてにゃ? じゃないと、わしが困るにゃ~」
「は、はい」
「まぁ将来の事は、ゆっくり考えてくれにゃ」

 皆、自由という言葉に戸惑っていたが、子供達のはしゃぐ声を聞くと優しい目になっていたので、わしはこの場をあとにする。きっと大丈夫なはずだ。


 その後、わしも休もうとシェルターに向かっていたら、リータとメイバイにからまれた。

「仕事はどうしたのですか?」
「にゃ? 今日は休もうかにゃ~っと……」
「まだやる事はあるはずニャー!」
「休みも大事かにゃ~?」
「暇なのですよね?」
「いや、寝ようかと……」
「暇みたいニャー」
「ちょっと寝たいにゃ~」
「「それが暇なの!」」

 結局、二人に両脇を抱えられ、仕事に連行されるわしであった。

 どうやらダーシー以外の街の修復班から、木が邪魔で、なんとかして欲しいという要望があったみたいだ。
 たしかにメインストリート以外は、まだまだ木が生い茂っている。だが、今日は休むと決めている。

「埋めますよ?」
「針で刺されたいニャ?」

 と脅されたので、街の木を切り倒し、次元倉庫に入れて歩く。いや、浮いているので二人は歩く。
 メインストリートは南からシェルターを行き止まりに、西に直角に曲がっている。今回は、北と東に道を作る事がわしのミッションだ。
 二人とぺちゃくちゃと世間話をしながら木を切り倒していると、あっと言う間にメインストリートが十字になった。
 これでわしの仕事は終了。昼食を食べたらお昼寝だ。

「まだ路地が残っています」
「それが終わるまで、休み無しニャー」
「そんにゃ~~~」

 まだまだ休めないらしい。


 ここ数日、睡眠時間が少ないわしは、必死にスリスリして、小一時間のお昼寝タイムをもらった。なので、二人もわしに付き合って、気持ち良さそうに仮住まいで寝ている。
 だが、頼んでいたズーウェイ目覚ましの前に、街に轟音が響いて飛び起きる事となった。

「さっきの音はなんでしょう?」
「凄い音だったニャー!」
「むぅ……さっき寝たところにゃったのに……」
「いまはそれどころじゃないですよ」
「街が心配ニャー」
「そうだにゃ。急ごうにゃ!」

 わし達は仮住まいから飛び出ると街を走り、先行していたわしは、南門に到着する。そうして外に出ると、街に向かっているワンヂェンを見付けた。

「ワンヂェン! さっきの音はなんにゃ?」
「わからないにゃ~。いちおう避難させてるけど、これでよかったにゃ?」
「いいにゃ。ありがとにゃ。それで、音はどっち方面から聞こえて来たにゃ?」
「だいたい東かにゃ?」
「わかったにゃ。行ってみるにゃ。あとからリータ達も来るから、避難誘導はお願いするにゃ~」
「シラタマなら大丈夫だと思うけど、気を付けてにゃ~」


 ワンヂェンの心配を笑って応え、わしは探知魔法を飛ばしながら東へ走る。探知魔法には北に向かう賑やかな反応があったので、わしは修正しながらスピードを上げる。

 マジか……あの外壁を破壊したのか。東はお堀に橋は掛かっているけど、扉はないから硬いんじゃが……。
 音から察するに、一撃で破ったんじゃろう。そんな事が出来るのは、そうおらんはずしゃ。しかも、壁の中にかなりの数の獣が入っておる。
 デカイので全長15メートルか。こいつが壁を破壊した犯人じゃろう。白なら厄介じゃな。いや、わしの魔法を破るぐらいじゃから、間違いなく白じゃろう。
 くそ! せっかく外壁が完成したのに、壊しやがって! わしの仕事が増えるじゃろう!! 絶対にぶん殴ってやる。わしの休みが減る~~~!!


 街の危機に最高速で走りながら、敵の正体よりも、自分の休みの心配をするわしであったとさ。
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