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第九章 戦争編其の二 帝国と戦うにゃ~
257 決着にゃ~
しおりを挟む「ワハハハハハ。この圧倒的な戦力差に、恐れおののけ! 行け~~~!!」
皇帝は六体の自身の影、【シャドウマン】を、わしに向けて嗾ける。
大剣、二刀流、槍、棒、鞭、トンファーか。全て握りまで白魔鉱の武器っぽいから、戦利品に戴こう。この中で注意すべきは鞭と棒かな?
鞭は、形状は鞭だが、握り以外が白く薄い刃で出来ている。棒も、わしの作った棒と同じく、九節棍に変わって中距離攻撃をして来るもしれんしのう。
わしは戦力確認を終えると、次元倉庫から【黒猫刀】を取り出す。そして、十個の青い火の玉を周りに漂わせる。
準備万端。猫又流剣術開祖、行きま~す!
相変わらずどうでもいい事を考えるわしは、飛び込んで来る影との戦闘を始める。
影の直接攻撃は受けてしまうと刃毀れが心配なので全てかわし、カウンターで刀を振るう。中距離で攻撃して来る影には高温の火の玉で軌道をずらし、直撃を避ける。こちらには刀が届かないので、浮かしている火の玉をぶつける。
う~ん……ダメージになってない? 体は斬れるが、すぐにくっつくし、腕を斬って得物を落としても、それも拾ってくっつけていたな。【火の玉】も喰らえば穴は開くが、すぐに塞がる。またタネ明かしが必要か……
こうして、わしと影との戦いは長引くのであった。
* * * * * * * * *
シラタマが影との斬り合いを繰り広げる中、皇帝は腕を組んで眺めていた。
この戦力差でも、まだ立っていられるのか……変わった猫だ。
若干、ディスりながら……
ようやくここまで来たのだ……
そして、これまでの自身の歩みを追想する。
朕が皇位を継いでからというもの、我が一族の悲願、山向こうの桃源郷征服計画は加速した。桃源郷など無いと言う者もいるが、朕は必ずあると信じていた。
初代皇帝は、あの山を越えて帝国を作ったのだからな。
征服計画の準備にはまず、兵を鍛え、パンダを捕まえて禁術を用い、強大な兵力を蓄えて来た。これで我が一族が代々受け継いで来たトンネルが開通すれば、文句はなかったのだが、待っているのも面白くない。
これほどの兵力があるのだ、山を越えればいいだけだ。
山越えのルートを探すため、何年も兵を差し向けて調査をしてみたが、戻って来る者は少なかった。森の獣は強く、数がいるのでろくに調査が進まなかったが、一部持ち帰って来た情報は、朕を興奮させた。
伝説にあった北の山に居ると言われるフェンリル、南のケルベロス。百年もの昔、帝国で暴れた西の厄災リス。伝説級の白い獣が実在したと確認が取れたので、興奮せざるを得なかった。
伝説の獣を手懐ければ、易々と山を越えられるのだからな。
しかし戻って来た兵では、命からがら森を抜けて来たから巣の位置がわからない。また何年も兵を差し向け、禁術を使える者も派遣したが、一向に良い報告が聞こえない。
その間、時折帝国に現れる白い暴れ牛シユウを探してみたが、出没場所はいつも違うので、巣を発見する事すら出来なかった。
一度、ケルベロスを禁術で操ったという報告はあったが、その後、連絡が途絶えたから事実であったかどうかもわからない。一年も音沙汰がないのだから、もう確認も取れないだろう。
そんなある日、トンネルが開通したと報告を受けた。
我が一族の悲願、朕の代で叶った事は天命だと確信した。去年、一昨年と不作で兵を維持するにも難しくなった頃、ちょうどトンネルが開通したのは、天が朕に味方をしたのだろう。
世界を我が物にしろとな。
トンネルが開通して、桃源郷征服計画は現実となり、帝都はかつてないほど沸き上がった。いつしか帝国は、黒い森に埋め尽くされるとの不安があったからかもしれない。
だが、まずは対話の場を持つべきだと朕に直訴する輩が現れた。言っている意味がわからない。
奪えばいいのだからな。
敵の戦力がわからないというのは朕にも合点がいったが、そんな軟弱な配下は必要ない。しかし同じ意見はあったので、第一陣に組み込み、前線に送ってやった。朕に意見して首が飛ばなかっただけ有難く思え。
第一陣にはパンダも送り込む予定だが、二年ほど前に逃がした大蟻のクイーンもいれば、盤石だったのが少し惜しい。朕みずから全軍で捕獲に当たったのだが、まさかホワイトが二匹もいるとは誤算だった。
戦闘じたいは我が軍が押していたのに、そこから二匹で協力して逃げ出すとは思いもよらなかった。だが、逃げた方向は西だ。山を越えて混乱を引き起こしているかもしれない。
天が朕に味方をしているのだからな。
トンネルが開通してから、山向こうの情報を仕入れるとたいした戦力も無く、パンダを向かわせれば簡単に街を落とせるとの報告も受けた。
だが、何故か我が軍より多くの軍隊が集まっていると聞き、念には念を入れ、報告にあったフェンリルの巣に、一人の若い男を派遣する事に決めた。
まず、間違いなく失敗するとは思っていたが、死ぬのは猫耳族ばかりだ。何も問題ない。
しかし、男はやってのけた。朕が山を越えた際には、名を覚えてやろう。
これが天に愛された朕の運だ。
その後、街は戦闘も行われずに奪ったと報告を受けるが、山向こうは腰抜けばかりだと驚かされた。まぁ巨大なパンダを見たのならば、怖気づいても仕方がない。それに、兵を減らす事なく拠点を作れたのだ。これほどの成果は無い。
パンダ、三千の獣、兵士千人。そこに北からフェンリルを合流させれば、誰も街を取り返す事は出来ないだろう。
ここに、ガクヒとセイチュウ率いる一万の兵を使い、奪い尽くしてやる。
朕は血で染まった首都に立てばいいだけだ。
そんな矢先、トンネルが崩れたと報告を受けた。かなり慎重に作らせたはずだが、ここに来てそんなミスを起こすとは許しがたい。もう一度、開通させるまでは生かしてやるが、それ以降は用済みだ。
だが、また掘るとなると時間が掛かる。一度兵を戻さない事には兵糧が尽きる。逸る気持ちはあるが、国盗りは数日の辛抱だ。パンダとフェンリルだけでも過剰戦力だからな。
何も問題ない。計画も狂うわけもない。
そう思って掘削要員の準備をしていたが、ラサの街が落とされたと一報が入った。
食糧難だ。出兵にあたり、かなりの量の食糧を徴収したのだから、内紛が起こったのだと思った。
しかし、報告では猫耳族が兵を上げて奪ったと聞いた。
虫けらが、いまさら立ち上がっただと……
ただでさえトンネルが塞がって苛立っているのに、くだらない事をしてくれる。ならば、全て捕らえて白い獣を操る生贄にしてやる。いや、死んでもかまわん。命乞いして来る者だけ捕らえれば事足りる。
一万の兵で踏みつぶしてくれる。
トンネルが開通するまでの暇潰し、ただの余興のつもりだった。帝国軍が猫耳族の軍と戦闘に入ったとまでは報告が入った。たった二千人ほどの軍だとも聞いた。
なのに、一夜明けてもその後の報告は入って来なかった。次の日も、次の日も……その代わり、巨大な化け物が攻めて来たと報告を受けた。
いったい何が起こっている。
宮殿のバルコニーから帝都を一望していると、変な声が聞こえて来た。我が軍が敗けただと? 「にゃ~にゃ~」とふざけた事を言ってくれる。
だが、外に巨大な亀がある事と、巨大な火の鳥が旋回した事によって事実と受け止める他なかった。おそらく、猫耳族の魔法使いを大量に使い、脅しを掛けて来たのであろう。
朕と似たような魔法を使うとは、不快な虫けらだ。
あのような大魔法は朕と違い、連続で使う事は難しいだろ。集団で詠唱、その使用魔力量にも限界がある。それすらわからん馬鹿な民のせいで、兵の半分を失ったが、地下にさえおびき寄せられれば、朕に敵う者はいない。
無限に魔力が湧いているのだからな。
予定通り、朕は玉座に座り、猫耳族の猛者が来るのを静かに待った。だが、扉が壊され、現れたのは女子供。しかも、先頭を歩いているのは、白い猫のぬいぐるみ。
なんだアレは??
その上、ぺちゃくちゃと喋りながら緊張感も無く近付いて来る。聞き耳を立ててみると、朕をエルフと言っていた。
朕は王の中の王。皇帝だ。この世の人間を統べる者だ。それを猫耳族と同じ亜人風情と馬鹿にするとは、どこぞの馬鹿貴族の首を刎ねたとき以来だ。
それを本物のエルフとチェンジしろだと!?
少し興奮してしまったが、朕は皇帝。この程度の事で取り乱す事もない。
くっ……「にゃ~にゃ~」うるさい猫だ……
猫耳族の王とほざく猫がここにいると言う事は、ガクヒが敗けたのであろう。この猫を殺したあとは、上にいる猫耳族が雪崩れ込むのを待って、全員を血祭りにあげてやる。
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「死ね! 【ファイアーバード】!!」
皇帝はシラタマに向けて、巨大な火の鳥を放つのであった。
* * * * * * * * *
おっと、【氷猫】発射!
影との斬り合いが長引くと、皇帝から火の鳥が飛んで来た。火の鳥は影を呑み込み、そのままわしに直進。【氷猫】とぶつかると同時に消失する。
ちょっと遊び過ぎたか。刀の練習にちょうどいい相手で、楽しくなってしまったわい。人間では、わしに付き合ってくれる人がいなかったもんな。じゃが、闘いの最中じゃった。わし反省。
それはそうと、いま、影は火の鳥に呑み込まれたはずなんじゃが、ピンピン動いておるな。
「にゃ!?」
わしが反省して、影に目をやっている隙に、影が一斉に飛び掛かる。反応が遅れたせいで、受けるしか手がない。
「にゃ! そにゃ!! そにゃにゃにゃにゃにゃ~~~!」
わしは二本の刀で受け止めると同時に、全ての武器を弾き返し、さらに巧みに刀を振るって、影の腕や体を素早く斬り刻む。
その素早い攻撃で、全ての影は武器を落とし、しゃがんで拾おうとする。わしは追い討ちをかけようとするが、生き残っていた土亀が突進して来たので、跳んで避けながら【鎌鼬斬り】を数度振るい、大きな岩に変えた。
ふぅ。さすがにイサベレの三倍強い相手が七人もいると、面倒じゃな。それに斬っても死なないから質が悪い。
いまのところ影の情報は、死なない。魔法は使えないのみか……タネもわからんし、本丸に斬り込むか……
あれ?
武器を落とした影達は、各々武器を拾うが、一体だけ違う動きをし、後方に刺さっている武器を取りに下がって行った。
武器は、わしの角度から見えておるんじゃけど、影からは土亀の破片で見えておらんのか? 武器を取りに行くより、中間地点にあったんじゃから、わしに向かって拾った方が早いと思うんじゃが……
う~ん。本丸の前に、念の為、調べておくか。
影達はわしが考えている間も、近付いて取り囲み、一体減っていてもかまわず攻撃を繰り返す。
わしは、そんな影の攻撃をかわしながら腕を斬り、落とした武器は、次元倉庫に入れてしまう。
すると影はキョロキョロとした後、武器を取りに下がって行く。次も、その次の影も、武器を取りに下がって行った。
ひょっとして……武器が無いと攻撃できんのか? そう言えば、奪った武器は全て柄まで白魔鉱じゃった。白魔鉱じゃないと、持てないのかも。もしかすると、黒魔鉱でも持てるかもしれんが……
なるほど。わしの武器も魔鉱じゃから、斬った感触があったんじゃな。これが普通の武器なら空振って、すぐに謎解き出来たのにしてやられたわ。
最初の【突風】も大剣の腹で受けていなかったら、飛んで行く事もなかったのに、それにも騙されてしまったな。
まぁ弱点がわかれば、武器を没収してやればいいだけじゃ。
わしは向かってくる影の腕を斬っては、武器を次元倉庫に入れていく。数度繰り返したが武器は多くあるので、攻撃して来る影達の武器を一斉に没収するタイミングを作る。
影達が一斉に武器を振り下ろした瞬間を狙って、全員の腕を切断。そして、武器を奪い取ったらすぐに武器の山まで走り、一気に次元倉庫に入れてしまう。
すると影達は、ウロウロするだけで、わしへの攻撃は止まった。
やはり武器が無いと、何も出来ないんじゃな。何度か蹴飛ばした時も空振ったし、実体はなかったんじゃな。
わしはウロウロしている影達は無視して、皇帝に歩み寄る。
「さて……これで手詰まりかにゃ?」
「なかなかやるな」
「まだにゃにかあるにゃ?」
「当然だ」
マジか~。心を折ってから、猫耳族に差し出そうと思っていたのに、なかなか折れてくれんな。
「最強魔法……もう詠唱は済んでおる。【ドラゴンフレア】」
皇帝の魔法と共に、5メートルはある炎のドラゴンが出現し、辺りに高熱を振り撒く。
あっついの~。ここは【雪化粧】。よし。涼し~い。
てか、皇帝は最強魔法と言ったな。これを破れば、さすがに心は折れるかな?
しかし、この熱量がリータ達に向くと厄介じゃ。注意しよう。
「……喰らえ」
皇帝が低い声で命令すると、炎のドラゴンはわしに襲い掛かる。
まずは体当たり。巨体のわりに速度があり、熱と加えて、さながら隕石だ。
わしは試しに【土壁】で守るが、簡単に砕け散る。なので、次の魔法でドラゴンの突進を止める。
「【光盾】にゃ~」
五枚の透明な光の盾。女王に贈った短刀の応用。1メートル四方の五枚の盾を、わしの前に浮き上がらせ、ドラゴンは道を阻まれる。
皇帝は両手を前に魔力を込めるが、わしも同じように魔力を込めて耐える。その押し合いがしばらく続くが、先に根を上げたのは皇帝。
ドラコンを後方に引かせると、右から回り込まそうと移動する。わしもそれに合わせて、少し左に移動する。
そしてドラコンは、わしに顔を向けると口を開く。
「これで最後だ」
皇帝の言葉の後、炎のドラコンの口から、高出力のバーナーが放出される。
やりそうな事はわかっていたから、五枚の盾だったんじゃけどな……よっと!
わしはバーナーの軌道に五枚の【光盾】を重ねるように並べる。その直後、バーナーと【光盾】は接触し、火花と轟音が辺りに響く。
押し合いは数十秒続き、バーナーを放出し続けたドラコンは徐々に縮んで、最後の炎を吐き出すと、消滅する事となった。
「フハハハハハ。皇帝の朕に敵うものなどあるまい」
炎の残る空洞で、皇帝は高らかに勝利宣言を口にする。
「あの~? まだわしは生きてるんにゃけど~? 【突風】にゃ~」
わしは申し訳なさそうに声を掛けて、辺りの炎を吹き飛ばす。
「ば、馬鹿な……」
かなりの威力じゃったもんな。本来ならクイーンでも、体は残っておらんかったかもしれんのう。当たればな。
わしの【光盾】も二枚割れてしまったわい。ドラコンの顔にビビッて五枚出したけど、多過ぎたな。
じゃが、皇帝の顔に焦りが生まれた。もうひと押しで、心は折れそうじゃわい。
「もう終わりかにゃ?」
「何故……生きている?」
「簡単な事にゃ。わしがお前より強いからに決まっているにゃ」
「そんなわけがない! 誰一人、朕より上にいるはずがない!!」
「人間ならにゃ。獣には、お前レベルはそこそこいるにゃ。あ……お前の強さは、ここ限定だったにゃ。一歩外に出れば、お前にゃんて獣の足元にも及ばないにゃ」
「ふ、ふざけるな!!」
「信じられないにゃら、これから嫌と言うほど味わわせてやるにゃ」
わしは【黒猫刀】を次元倉庫に入れながら歩き出す。すると皇帝は、わしを睨み付けて叫ぶ。
「【フレアドラゴン】二体召喚! まだまだ~! 【フォーアニマル】……クッ……ハァハァ」
皇帝は二匹の炎のドラゴンと、四匹の獣を同時に作ると、無理が祟ったのか膝を突く。
あら? 外の魔力を使っているのに疲れるのか。頭を押さえているから、あれほどの大魔法の連発は、脳に負担が掛かるのかな? 勉強になるわい。
それにしても、【フォーアニマル】とは……わしのモノと違いを見せてやるかのう。少し出力を抑えてっと。
「【四獣】にゃ~!」
わしの作る四匹の獣。火の鳥、風の虎、氷の龍、土の亀。相手に合わせて、全て5メートルに統一。しかし、威力は言霊が乗って、皇帝の魔法の軽く倍はある。
「貴様……真似しやがって~!」
「どっちがにゃ~~~!」
怒る皇帝。キレるわし。同時に魔法の獣を走らせる。
勝負は歴然。二体のドラゴンは、【青龍】の凍りつく巻き付きと、【白虎】の風の刃で消失。
四匹の獣も、【朱雀】に火の鳥が呑み込まれ、その熱に氷の蛇は蒸発。【玄武】の体当たりで土の亀は粉砕し、数度の噛みつきで風の虎も掻き消されてしまった。
その傍らで、一匹の猫は悠々と歩き、皇帝の目の前まで歩を進める。
「にゃ~? わしの物真似では勝てないにゃ」
「だ、黙れ~!!」
わしの挑発に、皇帝は腰に帯びた剣を抜いて振り下ろす。わしは軽く刀を振って、その場から動かない。
「ギャーーー! 手が~~~!!」
皇帝は、目にも見えぬ剣速で手首を斬り飛ばされ、悲鳴をあげて、腕を押さえる。
「それぐらいの痛みで、のたうちまわるにゃ! やっぱりお前は誰よりも弱いにゃ。奴隷にゃら、そんにゃ事をされても口を開かないんじゃないかにゃ? 当然にゃ。声を出しただけで、次の罰があるからにゃ」
「ぐっ……これしき、朕の魔法に掛かれば……」
「にゃ? 治療できる魔法も持ってるんにゃ。それは助かるにゃ~」
「ふ、ふざけるな~! ……ギャーーー!」
皇帝は腕を治すと、すぐにわしに斬り掛かる。わしは今度は、肘の下あたりから斬り落とし、ついでに右足も斬り落とした。
「ほれ。早く治さにゃいと、血を流し過ぎて死んじゃうにゃ~。仕方ないにゃ~」
わしは倒れて動かない皇帝の、右手と右足を拾って投げ渡す。皇帝は必死に治療にあたり、少し時間が掛かりそうだったので、わしは落ちてある剣と盾を没収しておいた。
「治るまでにいい事を教えてやるにゃ。お前が山向こうに差し向けた軍隊……全部わしが潰したにゃ」
「嘘を言うな!! 我が軍には……」
「パンダにゃろ? フェンリルにゃろ? あんにゃもん、わしの敵ではないにゃ」
「そんなわけがあるはずない!!」
皇帝はわしの無駄話に付き合いたくないのか、睨みながら立ち上がろうとする。
「治ったかにゃ? 武器も無くなったけど、どうするにゃ?」
「まだ魔法が……ギャーーー!」
今度は魔法を使おうとした皇帝の肩口に刀を突き刺し、グリグリとする。
「覚えてないにゃ? ついさっき、魔法でも負けたにゃ。唱えられるならやってもいいけど、敗北を認めたほうが、楽が出来ると思うにゃ~」
「朕が敗北だと? そんな事は起こりえぬ!」
「現実を見てくれにゃ~。お前の軍隊は敗れ去ったにゃ。お前の放った魔法は、尽くわしに潰されたにゃ。お前の放った剣はわしに届かず、血を流したにゃ。これを敗北と言わず、にゃんと言うにゃ?」
「朕はまだ生きている! 朕こそが皇帝であり、朕こそが帝国を統べる、この世を統べる皇帝だ~~~!」
「はぁ……わかったにゃ……」
わしは肩から抜いた刀を半回転させ、峰打ちで、皇帝の意識を刈り取るのであった。
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