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第九章 戦争編其の二 帝国と戦うにゃ~

253 演説にゃ~

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 ケンフの遠吠えのせいでセイチュウ将軍を落としてしまい、急いで回復魔法で治したが、応急処置で留める。動けないままのほうが、都合がいいからだ。
 ノエミには、セイチュウに契約魔法を掛けてもらい、わしはケンフの手当てにあたる。かなりボロボロにやられていたが、わしの魔法に掛かれば、ちょちょいのちょいだ。
 ノエミが教えてくれとうるさかったから無視していたが、教えてくれないと、言うこと聞かないとおどされ、今度教える約束をした。
 ちなみにケンフは尻尾が無いのに、尻尾を振っているが如くわしを見つめるので、褒めて酒の瓶を投げておいた。


 そうこうしていると、前進していた猫耳軍の中に、コウウンを発見したので手を振り、呼び寄せる。

「王よ。帝国兵、全て穴に落としました」
「よくやったにゃ。こちらの被害はどうにゃ?」
「少し抵抗がありましたので、軽傷者が少人数いるもようです」
「その程度で済んだにゃら、大勝利だにゃ」
「はっ! さすがは、我が王です」

 コウウンが仰々しく褒め称えるので、わしはいたたまれない。

「恥ずかしいからやめてにゃ~」
「ですが……」
「これは、みんにゃの勝利にゃ。いや……これから行う成果も入れて、みんにゃの勝利にゃ。ただちに、帝国兵の処置に取り掛かるにゃ!」
「はっ!」

 わしは、ラサで使ってなんとなく次元倉庫に入れていた移動式十字架を取り出すと、セイチュウを十字架に張り付けにし、土台にコウウン達を乗せて移動する。
 音声拡張魔道具で降伏を呼び掛ける仕事は、コウウンに丸投げ……ゲフンゲフン。任せて、わしは運転に集中する。

 それもわしがやれ? だって、わしがやったら、ややこしいじゃろ? うん。納得するの早くね?

 皆ににらまれた後、言い訳したら温かい目に変わり、降伏勧告は続く。
 今回はセイチュウ将軍を契約魔法で縛ったから、敗けを素直に認めさせられ、宣伝効果抜群だ。
 帝国兵は剣を投げ捨て、座り込んで静かになる。わしはその姿を見ながら、落とし穴ごとに水を吸収魔法で消し去り、鉄魔法で武器を回収する。
 たまに反撃で、魔法や弓で応戦してくる輩には、唐辛子モドキ入りの水を浴びせ掛け、地獄にご案内。そこの穴に居た者は、連帯責任で地獄に行ってしまったが、わしのせいじゃない。

 素直に従う穴には食事を投げ入れさせ、女性や魔法使いは違う穴に移動させる。
 女性はむさ苦しい男達の中に入れておくのは忍びなく感じただけなので、他の男と扱いは変わらない。
 魔法使いは、逃亡の可能性があるので、厳重に対処。反抗的な者は、土魔法で頑丈に作った箱に入れてしまい、それ以外は穴に監禁。奴隷紋で縛って、労働力として使ってもいい。


 帝国兵は、残念ながら死者ゼロとはいかず、死者はわしの指示の元、ひとつの穴に集められる。そこに、氷魔法で出した氷の玉を敷き詰める為に向かおうとするが、わしの足が動いてくれない。

 やはりあの感覚は、人の命が消える感覚じゃったんじゃな。わしがまた人を殺した……

「シラタマさ~ん」
「シラタマ殿~」

 死者の眠る穴に向かう途中で、わしが立ち尽くしていると、リータとメイバイが駆け寄って来た。

「シラタマさん……大丈夫ですか?」
「……まぁにゃんとか」
「また無理してるニャ……」
「……すまにゃいけど、猫耳族の誰かに、死者の穴に氷を入れるように言って来てくれにゃいかにゃ?」
「いいですけど……」
「シラタマ殿! 言って来るニャー!!」
「あ、メイバイさん」

 メイバイは、わしの気持ちを汲んで、穴に向かって駆け出す。リータも一緒に穴に向かい、死者を運んでいる猫耳族の者に言伝を伝える。わしはその間、魔法で氷の玉を大量に作り、運びやすいようにリヤカーも土魔法で作る。

 そうして決心が鈍らないように、死者の姿を見ずにその場を後にした。




 一通りの処置が終わると、見張りを残して食事休憩。その後、会議となる。

「さてと……ここまで順調にゃけど、一万人もいると邪魔だにゃ。どうしようかにゃ?」
「埋めるというのは、どうでしょう?」

 わしの悩みにコウウンが答えてくれるが、到底、わしの納得のいく答えではない。

「コウウンの案は手っ取り早いんにゃけどにゃ~」
「冗談です。王はそのような処置は望みませんね」
「わかってくれて嬉しいにゃ~」
「ひとまず、魔法使いを奴隷紋で縛ってしまい、その者に、他の兵士に奴隷紋を掛けさせるのが、時間が掛かりますが妙案かと……」
「そうだにゃ~……」

 一万人に奴隷紋か……。鼠算ねずみざん式に増えて行くじゃろうが、かなり時間が掛かるじゃろうな。その間に、帝都に情報が入ってしまいそうじゃ。出来たら帝都には、虚を突いて攻め込みたいんじゃけど……

「帝都に、このまま攻め入りたいんにゃけど、ここにどれぐらい人を残せばいいにゃ?」
「すぐにですか?」
「明日か、次の日かにゃ?」
「……出来て、半数でしょうか。帝都にどれほどの軍が残っているかにもよりますね」
「そうだにゃ。会議はまた夜にするかにゃ。その間に、セイチュウ将軍から情報を聞き出すにゃ。それとウンチョウにも、勝ったと伝えてやれにゃ」
「はっ! お任せあれ」

 適材適所。指示を出すと、わしは車でくつろぐ。

 ……皆、働いているのに、わしは何をしているか? ちょっと休憩じゃ。奴隷紋を掛けに行け? もうちょっと休ませてくれ。みんなも疲れたじゃろ?

 珍しく皆、わしのサボりに付き合う。さすがにうめき声がそこかしこから聞こえた戦場はこたえたみたいだ。わしを撫で回し、鋭気を養っている。
 その後、ゴロゴロ言っていると、回復したリータ達に抱き抱えられながら、強制的に働かされる。
 しかし、二千人の魔法使いへの奴隷紋は骨が折れる。次々に魔力切れとなり、最後に残ったのは、わしとノエミ。ノエミも魔力切れになると、今日はおしまい。

 まだ余裕がある? あるけど、今日は疲れたな~。ゴロゴロ~。

 猫撫で声を出して擦り寄ってみたら、何故か強制労働から解放された。奴隷紋をほどこせたのはおよそ千人。この分なら、明日には完全掌握でき、残りの帝国兵の見張りに当てられる。

 その後、夕飯を済ませたわし達は会議に参加。コウウンから次々と報告を聞く。

 帝都に残っているのは、およそ二千人の兵。そこに帝都の住民が加わるのだが、猫耳族の奴隷が少なからずいるようだ。
 兵を率いるのは、帝国軍最強のガクヒ将軍。セイチュウ将軍いわく、本当の最強は皇帝らしいが、心酔している皇帝を立てるのは当然と受け取る。

 あっさり情報も手に入ったので、今日は休む……まだダメ? 食糧や残す兵の問題がある? 残ればいいんじゃろ!

 今日は、夜遅くまで会議となり、リータ達には早く寝るように伝えた。


 翌朝、昨夜決めた通り、食糧と猫耳兵、奴隷兵を残して千人の猫耳軍は進軍する。今回の内訳は、猫耳族の戦士七百人。支援部隊三百人。最後の戦いにおもむくのだから、全て猫耳族だ。

 残して来た猫耳兵は、戦士が二百人だが、現在進行形で奴隷が増えて行くので、反乱が起きても、唐辛子モドキと奴隷兵が居るので問題ない。しかし進軍する猫耳軍は、皆、疲れているので休憩を多く取ってゆっくりと進む。
 コウウンと猫耳軍中枢は、一号車に連結させた二号車に乗せて休ませる。倒れられると、わしが楽が出来なくなってしまうからだ。

 荒野の戦場から出発して二日目の昼過ぎ、望遠鏡で帝都が幽かに見えると、陣を張って早めの野営。偵察隊を四方に走らせ、もしもの場合に備える。
 この日の会議は早めに終わらせ、明日の勝利を祝し、たらふく食べる。皆、決定した勝ちに、笑顔で腹を膨らませ、そのまま就寝となった。


 そして、翌日……

 千人の猫耳軍の前で、コウウンの演説が始まる。

『ついにここまで来た……。今日、長きに渡る猫耳族がしいたげられていた歴史が終わるのだ。これに貢献して頂いたのが、我等が王。シラタマ王だ~~~!!』
「「「「「わああああ」」」」」
『さあ、シラタマ王の有り難いお言葉を頂戴しよう。王よ。こちらへ』
「「「「「わああああ」」」」」

 ええぇぇ~! スピーチがあるなんて、聞いておらんわ!! なんも用意しておらん。出たくね~~~!!
 リータとメイバイは、わしをキラキラした目で見ながら押して来るし……行かねばならんのか……

 わしは渋々壇上に上がり、コウウンからマイクを受け取る。

『え~。先ほど、コウウンから紹介にありにゃした、シラタマにゃ。本日はお日柄も良く、戦日和いくさびよりとなりましたにゃ』
「「「「「………」」」」」

 うっ。静かに聞かないでくれ……

『わしがこの地に立っているのは、メイバイの願いを叶える為にゃ。メイバイに助けてくれとお願いされたから、この戦争に参加しているにゃ。その事を忘れないでくれにゃ』
「「「「「メイバイ様~~~!!」」」」」

 おっ! わしへの注目がメイバイに行ったな。恥ずかしそうにしておるのう。

『最後に覚えておいてくれにゃ。みにゃさんのご先祖様同様、わしは人族も好きにゃ。この国を、猫耳族、人族と分け隔てなく、差別の無い国にしたいにゃ。リータ、メイバイ。上がって来てくれにゃ』

 わしの言葉に、猫耳兵が二人を見るので、視線にいたたまれなくなった二人は、壇上に上がる。二人を隣に立たせると、マイクを土魔法で作ったスタンドに固定する。そして、二人の手を繋ぐ。

『これが、この戦争のあとに待っている世界にゃ。しばらくは、わだかまりはあるだろうから、わしが間に入るにゃ。だから心配するにゃ』

 皆の注目の中、一呼吸置いて、わしは叫ぶ。

『この戦争に勝利し、素晴らしい未来を手に入れるにゃ~~~!!』
「「「「「にゃ~~~!!」」」」」

 わしは千人の気の抜ける掛け声を聞いてずっこけるが、リータとメイバイが両手を上げて、「にゃ~~~」と叫ぶのに合わせて浮上する。二人と手を繋いだままだったので、高々と持ち上げられてしまった。

 そのせいで皆に拝まれ、恥ずかしい思いをする事となるのであった。

 早く降ろして~~~!!
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