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第八章 戦争編其の一 忍び寄る足音にゃ~

220 開戦にゃ~

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「まったく……信じられんことをする猫だ」

 兵士達と宴会をしていたら、王のオッサンに説教された。だが、右から左に受け流した。どうやらオッサンも、わしが聞く耳持たずなのを察して諦めたみたいだ。

「それで、いまから潜入するにゃ?」
「いや、もう少し時間をずらす」
「まだ時間が掛かるんにゃ~」
「猫達のせいで、向こうの陣営が慌ただしく動いているからだ!」
「にゃ~~~?」
「猫の作戦では寝込みを襲うんだろ! いまやったら効果も半減だ!」

 あ! 寝かせない作戦じゃった。たしかに、いまやったらもったいない。でも、はからずも一回目が成功しておるな。うん。わしのおかげじゃわい。

「………」
「なんにゃ?」
「はぁ。時間を空けて、また呼びに来るからな。静かにしてろよ」

 そう言うと、オッサンは疲れた顔をして去って行った。心を読まれた気がしたが、気のせいだろう。


 わしはオッサンに、兵士は隊長クラスに叱られて、宴は解散。やる事も無いので、リータ達とお風呂に入る。何も無い平地でお風呂に入れるなんて、魔法様々だ。
 車の横に出したお風呂で、三人でキャッキャッと入っていたら、不穏な気配を感じ、裸のままお風呂の壁に飛び乗る。
 兵士がお風呂をのぞきに来やがった。王族に比べると、美人度は下がるが美少女二人。男の性が出たのであろう。

 猫VS覗き魔との死闘がここに開幕する。

 リータとメイバイの裸体を守る為、わしは弱い風魔法で撃退。だが、兵士も諦めず、スクラムを組んで突進。
 四方から来る覗き魔との闘いは長く続き、また騒ぎとなって、オッサン登場。

「だから、何をやっているんだ!!」
「あいつらに言ってくれにゃ~! わしの仲間の裸を覗こうとしてたんにゃ~」
「こんな所で風呂に入るからだ! また襲撃の時間が伸びただろ! しかも、わざと私に魔法を放っただろ!!」

 オッサンには、どさくさに紛れて【風玉】をぶつけたから、激オコである。

「覗き魔と間違えただけにゃ~。ヒュ~~~」
「それで口笛のつもりか……はぁ。次こそは襲撃するからな。静かにしてろよ!」

 そう言ってオッサンは、お風呂に入ってから帰って行きやがった。兵士にブーイングされていたけど、王様って偉いんじゃないのか?
 兵士もお風呂に入りたそうだったので、お風呂を開放。と言っても、大人数過ぎてゆっくり入れないから、湯で湿らせた布で軽く拭くだけ。魔道具を渡したから勝手に使ってもらう。隊長さんやらが列を整理してくれているので、あとは任せた。
 その後、車を少し移動させて中でゴロゴロしていたら、お呼びの声が掛かる。リータとメイバイには先に寝るように言って、オッサンの元に案内される。


「いけそうにゃ?」
「ああ。静かなものだ。それでは、作戦開始だ!」

 オッサンの合図で、急遽編成された夜襲部隊の兵士は闇に紛れ、静かに歩を進める。そうして街の近くまで来ると、突如、兵士は叫ぶ。

「「「「「おおおお!!」」」」」

 その声に、街の中が騒がしくなり、外壁の上に多くの松明が揺らめく。そこを魔法使いが弱い魔法、弓士も弓を放ち、即座に撤退。
 敵が応戦した時には、もうそこには誰の姿も無かった。




 わしはその頃、街を大きく回り込み、裏からひとっ飛びで街に侵入。オッサンから借りた黒いフード付きマントで闇に紛れ、屋根を飛び交う。

 勝手知ったるローザの街。特に荒らされておらんみたいじゃな。探知魔法で引っ掛かったデカイの二匹は、街の広場に居るみたいじゃな。急ごう。

 びょんぴょんと屋根を跳び、広場の近くの家の煙突に隠れ、そっと様子をうかがう。

 やっぱりキョリスではなかったな。あのシルエットは、デカイ熊じゃ。静かだし、寝てるのかな? 角は無いみたいじゃが、尻尾が……よくわからん。ボリュームから見て、複数付いていそうじゃ。力も寝ているから測れないな。
 街の中にいる戦力は獣らしき反応が……建物が邪魔でいまいちわからんが、多くて三千ぐらいか?
 兵士は壁に登っている奴が二百人そこそこ居て、こちらも建物が邪魔でわかり難いが、千人ぐらいかな? 二匹の熊だけ落とせば、こっちは一万。あとは楽勝になりそうじゃな。
 いまは光の線が見えないけど……繋がっていないのか? ラッキーじゃ。オッサンの手柄を奪ってしまうのは申し訳ないが、猫耳族の命が掛かっている。ひとおもいにヤッてやろう。

 わしはチャンスと見て、屋根から飛び降りて広場に走る。だが、広場に入ると違和感を感じ、飛び退く。

 なんじゃ今の感覚……体に何かへばりつくような感覚だったな。罠か? それとも、熊達がおとなしくしているのは、このせいか?

 わしは広場を観察しながら周りを歩いていると、熊がわしに目を向ける。

 あちゃ。見付かってしもうた。ん? 光の線が見える。ひょっとして広場に侵入したらバレる仕組みの魔法で、使用者に伝わったとか?
 どっちにしても、熊に光の線が付いたところで失敗じゃな。下手へたな事をして猫耳族を死に追いやってしまっては本末転倒じゃ。
 ここは撤退じゃ。

 わしは屋根に飛び上がると、念の為、マーキングをしてから本陣に戻る。そして、オッサンに敵の情報を報告をして、明日に備えて休ませてもらう。夜襲部隊はこの後、三度の出番があったらしい。




 翌朝……

 わしは本陣に呼び出されたので、リータとメイバイを連れてオッサンに挨拶をする。

「おはようにゃ~」
「………」

 返事が無い。とうとう皆、諦めたみたいだ。

「それで、その二人は何故連れて来たんだ?」
「王様の護衛に付けてくれにゃ。そこが一番安全にゃろ?」
「まぁそうだが……わかった。預かる」
「ありがとにゃ~。それで、魔法陣の件はどうなったにゃ?」
「やってみないとわからないが、解除できるかもしれない。魔法部隊副隊長のノエミを連れて行け」
「ノ、ノエミよ。よろしく……」
「よろしく、にゃ~~~?」

 いつもわしを見て、逃げ出すちびっこじゃ。副隊長だったのか。どうりで魔法が上手いわけじゃ。しかし、どっかで見た事あるんじゃよな~。

「シラタマさん……何を見ているのですか?」
「もしかして……タイプニャー?」

 わしがノエミをじっと見ていると、リータとメイバイが低い声で尋ねる。

「にゃ!? そんにゃんじゃないにゃ~」
「じゃあ、なんで見つめてるんですか!」
「また浮気ニャー!」
「ポコポコするにゃ~。どこかで見た事があるから、思い出してただけにゃ~」

 わしが二人の重たいポコポコを受けると、周りからどよめきが起き、腰まで埋まったところで助け船が入った。

「二人とも、やめるんだ」
「お、王様! 失礼しました!」
「すみませんニャー」

 おお! オッサンが助けてくれた。周りも青い顔をしているが、二人の力にビビッておるのか?

「猫……お前も苦労しているんだな」
「わかってくれるにゃ? やっぱり女王も怖いにゃ?」
「ああ。女は鬼だ」

 なんだか周りの男達は頷いて、女達は殺気を放っている。やはりこの国の男達は女にしいたげられていたんじゃな。……わしは虐げられてませ~ん。だから心を読んで睨まないでくださ~い。ホッ。リータ達は下がってくれた。
 さすがにオッサンの前で、埋めようとは出来ないからな……うん? 遠くから睨んでいるよ……

「ところでノエミって、わしと会った事があるにゃ? 見た事ある気がするにゃ」
「……ないわ」
「……ありそうだにゃ」

 わしがノエミに質問していると、オッサンが会話に入る。

「猫の母親の件で、見たのかもしれないな」
「お、王殿下!?」
「ノエミ。途中でバレるより、いま、ハッキリさせたほうがいい」

 おっかさん? ……あ!!

「思い出したにゃ! あの時、落とし穴を埋めてた奴にゃ!! でも、どうしてわしから逃げてたにゃ?」
「それは……イサベレ様も、オンニも酷い目にあったと聞いたから、次は私かと思って……」
「その件はだいぶ前に片付いたにゃ。そうじゃにゃかったら、女王やさっちゃんと仲良くしてないにゃ~」
「でも、王殿下とは仲悪そうに見えるよ?」
「ただのケンカ友達にゃ」
「いつから友達になったんだ!」

 わしもオッサンの事を友達と思っていませ~ん。ノエミを怖がらせない為の方便で~す。

「犬猫(猿)の仲だったにゃ」
「フフフ。喧嘩するほど仲がいいのね」
「まぁそんにゃところにゃ。だからノエミのようにゃちびっこを、どうこうしにゃいから安心するにゃ」

 わしはノエミの頭をポンポンし、優しく振る舞う。

「いま、なんて言った?」
「ちびっこをどうこうしにゃいって……」
「誰がチビじゃい! わっちは四十代のレディーじゃい!!」
「にゃ……」

 ちびっこは豹変した。それはもう角が生える勢いで……。その剣幕に押され、男達は恐怖に震える事となった。男達は言葉使いに恐怖したのか、年齢を聞いて恐怖したのかは定かではない。
 あとでリータ達に、皆、どうして震えていたのかと聞かれたが、事実が怖かったので、言えなかった。

 しばしノエミのののしりは続いていたが、オッサンの咳払いで我に返り、謝って下がって行った。


「それでは、これより街を奪還する。皆、作戦通り動いてくれ。行くぞ!」
「「「「「はっ!」」」」」

 オッサンの指示に騎士が慌ただしく動き、命令を聞いた兵士は歩を進め、街の正面に陣形を組む。そうすると、街からも白い熊、獣、兵士が出て来て陣形を組み、両軍の睨み合いとなった。

 あれ? 熊かと思っていたが……パンダ? 遠いからちとわからんな。ここは望遠鏡! よしよし。よく見える。
 目も黒いし腕も黒い。やっぱりパンダじゃな。昨日は暗くてわからなかったわい。
 しかし、白と黒のコンストラストじゃ、白い獣か黒い獣か、いまいちわからんのう。もう少し近付けば、力がハッキリ感じ取れるんじゃが……

「それはなんだ?」

 わしが望遠鏡を覗いて、敵の軍を見ているとオッサンが声を掛ける。

「にゃ? 望遠鏡にゃ。これで見れば、遠くの物が見れるんにゃ」
「借りていいか?」
「いいにゃ。何個かあるから、他の人にも回してやるにゃ」
「助かる」

 わしは次元倉庫から、三本の望遠鏡を取り出し、オッサンに手渡す。

「おお! よく見える」
「白い獣が見えるにゃろ? 様子が変にゃ」
「あれは……熊?」

 熊か……パンダは知らないんじゃな。迂闊うかつな事を言わなくて正解じゃった。オッサンでわからないなら、本場の人間に聞いてみよう。

「メイバイ。望遠鏡で白い奴を見てくれにゃ」
「わかったニャー」
「あの生き物はなんにゃ?」
「む……あれは……パンダニャー!」
「ホワイトなのか、ブラックなのか、どちらかわかるか?」
「私も絵で見た事があるだけですから、わからないですニャー」

 メイバイでもわからないのか。オッサンも白か黒で悩んでいるし、ここはイサベレの出番じゃろう。

「イサベレ。どれぐらい驚異があるかわかるにゃ?」
「ん。どちらも私より強い。ホワイトで間違いない」

 ホワイトか……イサベレ達だけで大丈夫じゃろうか? イサベレの顔はアイラーバに近付いた時よりも、焦っていなさそうじゃし、見た目ほど強くないのかもしれないな。

「だってにゃ」
「そうか。だが、魔法陣のせいで弱くなっているのだろ?」
「そうにゃ。バーカリアンでもフェンリルとそこそこ戦えたから、イサベレなら大丈夫にゃ」
「ん。任せて」

 わし達がパンダについて話し合っていると、敵軍に動きがあったようで、兵がオッサンに報告して下がって行った。

「ペトロニーヌの言っていたたこか……」
「どうするにゃ?」
「この大軍なら陣形を見られても、どうってことない。数で押し切る」
「そうだにゃ……にゃ!?」
「どうした?」
「あれは凧じゃないにゃ! 絶対に近付けさせるにゃ!!」
「どういうことだ?」
「空から攻撃して来るにゃ」
「空からだと……」

 気球まで持っておったか。それなら、少ない人数でも奇襲を掛ければ、相手は総崩れになってしまう。気球を知らなければな。
 ここは魔法の世界。吹けば飛んで行く物など役に立たない。オッサンに、少し助言をしておくか。

「「風の……」」

 わしが口を開くと、オッサンと被ってしまった。

「にゃ?」
「考える事は一緒か」
「いけそうにゃ?」
「ああ。兵に援護射撃が減るが、問題無い」

 伝令の兵から次々と準備が整ったとの報告を受けると、オッサンは音声拡張魔道具を使い、声を張りあげる。

『準備は整った。行くぞ! 前進だ~~~!!』

 くして、東の国と帝国との戦争は始まるのであった。
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