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第八章 戦争編其の一 忍び寄る足音にゃ~

214 北の街に急行にゃ~

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『にゃ~ん にゃ~ん にゃ~ん』

 島の探索に取り掛かろうとしたわし達だったが、突如、首輪型通信魔道具が鳴り響き、歩みを止める。

 いまから探検に行くところだったのに、誰じゃ! って、緊急依頼なんじゃろうな~。イサベレも鳴らせるけど、イサベレの反応なら、音と一緒に宝石も光るから違うな。
 しかし、よくこんな遠い所まで魔力が届いたもんじゃ。音だけだからか? それとも、アイラーバ達が近くまで来ているおかげか? もっと詳しく、ティーサから仕組みを聞いておけばよかったな。

 通信魔道具の音が途切れると、リータがわしに問う。

「緊急依頼ですか?」
「たぶんにゃ。だから探検は中止にゃ。エミリ、仕事が入ったから、探検はまた今度にしてくれにゃ。ごめんにゃ~」
「ううん。すっごく楽しかったです! ありがとうございました」
「それはよかったにゃ。それじゃあ、急いでギルドに顔を出すにゃ~」
「わかったニャー!」
「急ぎましょう!」

 メイバイとリータの賛同の声を聞くと、わしは島にマーキングし、片付けを済ませ、皆を船に乗せて出航する。最初に転移した場所まで来ると、車や出した物を全て回収して、王都の我が家の寝室に転移。
 全員で軽くシャワーを浴びると家から飛び出て、エミリを送り届ける為に孤児院に向かう。だが、エミリは大丈夫だからと、走って孤児院に帰って行った。

 エミリと別れるとギルドへ急ぎ、到着するが、ギルド内は込み合う時間帯でも無いのに、珍しく受付は長蛇の列となっていた。
 並ぶのは面倒だったので、わし達はアポ無しでギルマスのスティナの部屋に押し掛ける。

「いきなりどうしたの? すんごく忙しいんだけど……」
「すまないにゃ。緊急依頼が入ったけど、下だと時間が掛かりそうだったにゃ」
「あ~。それなら仕方ないか」
「こっちでも、どんにゃ依頼が来たかわかるかにゃ?」
「ええ。女王陛下から、北の街に、ただちに向かって欲しいと言われているわ。内容は、フェンリルの討伐よ」
「フェンリルって、北の山にいる伝説の奴にゃ?」
「知っているのね。そのフェンリルに、現在、北の街が襲われているの」
「それほどの大物にゃら、軍が動かないにゃ?」
「それが……」

 スティナの話では、昨日、北の森に入ったハンターが、フェンリルとそれを取り巻く獣の群れを発見したとのこと。幸いハンターは追われる事も無く逃げ切ったようで、ギルドに報告を入れたようだ。
 ギルドは報告を聞くとすぐに国と連絡を取り、その日の内に、東に配備していた軍隊が出動する事となった。だが、本日、東からも白い獣と、それを取り巻く獣の群れを確認したと聞いて、軍は反転。徒歩、六日以上かかる北の街よりも、近い、東に出現した白い獣を討伐する事と決まったみたいだ。
 東の獣を討伐した後、軍は北の街に向かう予定なので、それまではハンター達で持たしてくれと、少し前に連絡が入ったらしい。

「情報によると、白い獣は東の街に向かっているみたい」
「ローザの街ににゃ……。その白い獣はどんにゃ奴なんにゃ?」
「まだ遠くで確認しただけだから、形まではわからなかったみたいだけど、二匹いて、大きさからキョリスではないかと推測しているの」
「キョリスがにゃ? アイツは自分に害が無い限り、縄張りから出ないにゃ」
「あ! シラタマちゃんは、キョリスにも詳しかったね。まだ断言は出来ていない状況よ」

 う~ん……緊急依頼の前に、ローザを助けたいと思ってしまう。キョリスクラスだと、わししか相手にならないと思うし……。人として、ハンターとして、どっちを優先すべきなんじゃろ? 悩む……

「そうにゃんだ。他に情報は無いかにゃ?」
「あとは、白い獣の近くに人が居たらしいけど、これも未確認情報よ」

 人? 白い獣の近くに? どうなっておるんじゃ? あ、人が居ると言う事は、人間嫌いのキョリスの線は消えたか。群れで動いているのも有り得ないしな。
 でも、不確定な情報ばかりで、判断がつかん。現場に行くしかないか。

「東の街の状況はわかるかにゃ?」
「まだ戦闘は行われていないけど、軍が間に合うと聞いてるから大丈夫だと思うわよ」

 東の街は交戦していないなら、イサベレも軍隊もいるし、キョリスクラスじゃなければしばらくは持つか。ローザには悪いが、交戦中のフェンリルを優先するしかないか。

「わかったにゃ。すぐに北の街に向かうにゃ」
「お願い。北の街のハンター達は苦戦しているみたいだから、急いであげて」
「オッケーにゃ!」


 わし達はギルドを出ると、走って北門から王都を出る。そして、次元倉庫から飛行機を取り出して出発する。
 そうして空を飛ぶ機内では、リータが心配そうに質問して来る。

「シラタマさん。大丈夫ですか?」
「北の街にゃら、行ってみにゃいとわからないにゃ」
「いえ、そういう事じゃなくて……」
「にゃ~?」

 わしが疑問を口にすると、メイバイが答える。

「今日、転移魔法を二回も使ったニャ。魔力が少なくて大丈夫か聞いてるニャー」
「ああ。大丈夫にゃ。いざとなったらストックを使うにゃ」
「ストックニャ?」
「わしの収納魔法は特別で、魔力を保管できるにゃ」
「あ、だからシラタマさんは、魔力切れで倒れたりしないんですね」
「巨象の時に、何度も大魔法が使えたのは、それのおかげだったんだニャー」
「まぁにゃ」
「この小さい体のどこに入っているか、不思議に思っていたんです」
「にゃ? 服の中に手を入れるにゃ~」
「ここかニャ?」
「いにゃ~~~ん」

 急いでいるのに、機内で二人にセクハラを受ける。メイバイが下半身をまさぐったせいで、操縦をミスって墜落し掛けた。
 その事があって、さすがに二人も反省しているようなので、頭とあごしか撫でなくなった。それで反省しているのかどうかはわからないが……




 飛行時間が一時間となった頃、北の街周辺に着いたと思われる。

「ダメにゃ。見えないにゃ」
「もう三月なのに、吹雪にあうなんて……」
「どこが街かわからないニャー!」

 急いでいるのに、ついてない。いや……フェンリルって、孫とやったゲームの中では巨大な狼で、氷の魔法を使っていたはず。孫は一緒にクエスト受けてくれなかったから、一人で倒したけど……
 そうだとしたら、季節外れのこの吹雪も、フェンリルの仕業かもしれんな。このまま飛行しても街は見えないし、車に乗り換えるか。

 わしはリータ達に着陸する旨を伝え、高度を下げていく。道は吹雪のせいでよく見えないので、平らな場所を見付けて垂直降下。衝撃で体が浮いたてしまったが、怖かったからって、飛行機の中でポコポコしないで!
 ひとまず飛行機から出ると、リータ達は寒さに震えながら周りを見渡している。

「どっちに行けば、街があるのでしょう?」
「とりあえず、方位磁石で北に向かうにゃ」
「「方位磁石 (ニャ)?」」
「寒いにゃろ? 説明はあとでするから、車に乗り込んでくれにゃ」

 わし達は次元倉庫から出した車に乗り込むと、二人が寒そうにしていたので火の魔道具に魔力を流してから発車する。そして、二人に方位磁石の説明をする。
 電気の仕組みが上手うまく伝わらなかったが、針が常に北を指すという事だけはわかってくれた。元々、方位磁石は、車や飛行機の運転席に付けてあったのだが、飾りだと思われていたみたいだ。

 吹雪でよく前が見えない中、車はノロノロ進み、うっすらと街のような物が見えて来た。なので、わし達の乗せた車はスピードを上げて、街の門に近付く。
 門に着くと多少の猫騒動は起きたが、女王の短刀効果でなんとか収め、事情を聞いて、街の中へ入る。街の中では住民が屋内に避難しているらしく、人っ子一人歩いていない。

 わし達は走りやすい大道りを抜け、北の街のハンターギルドの扉を開いた。

「「「「「猫!?」」」」」

 おっと、ここでも猫騒動か。フェンリル騒動はいいのじゃろうか?

「ねこさん!」
「にゃ?」

 猫、猫と騒ぐ中、聞き覚えのある声が耳に入る。声の主に目を向けると、アイパーティが近付いて来ていた。

「マリーにアイ。みんにゃ、久し振りにゃ~」
「モフモフ振りです~」

 う~ん。マリーは前に会った時も、一言目がモフモフだったような……今回同様、顔もわしの胸に埋めていたな。変わりないのう。

「猫ちゃん、久し振り。猫ちゃんもフェンリル討伐?」
「そうにゃ。緊急依頼を受けて来たにゃ。アイ達もにゃ?」
「そうよ」
「まさかこんにゃ所で、みんにゃに会えると思わなかったにゃ~」
「それは私達の台詞よ。まぁ私達は、西から北に来たところで巻き込まれたってのが、正しいわね」

 ああ。王都で別れる時に、遠征の経路を聞いておったな。でも……

「巻き込まれたにゃ?」
「この街に居る、ハンター全員が召集されているのよ」
「にゃるほど。それは大変だったにゃ~」
「まったくよ」
「それで現状を知りたいんにゃけど、誰に聞いたらいいにゃ?」
「それが……」

 アイが言うには、フェンリルとそれを取り巻く獣との接触は一度あったが、いまは、何故かフェンリルが引いたとのこと。
 その一度の接触で、ハンター達はボロボロにやられ、アイ達も街を捨てて逃げようとした矢先、フェンリル達は引いて行ったので、作戦会議で立て直しをしている最中らしい。

「そんにゃに強かったんにゃ」
「ううん。フェンリル事態の強さはわからないけど、取り巻きはたいしたことなかったわ」
「じゃあ、にゃんでみんにゃ、ボロボロにゃの?」
「上がね~」
「指揮官が悪いにゃ?」
「一言で言えばね。バーカリアンがやってるんだけど、指揮もしないで突っ込んで行ったらしいわ」
「にゃ? 領主様か、ギルマスがやってるんじゃにゃいの?」
「詳しい事情はわからないけど、ハンターランクの高い人がやる事になったみたい」

 ここまで整理すると、取り巻きは弱いが、指揮する者の不手際で、ハンターは敗北。これからどうしようかと話し合っているんじゃな。
 東の街の件もあるし、急ぎたいから一人で向かうか? これだけのハンターがいて、わしだけで解決するのも、後々モメそうじゃな。ここは……

「その作戦会議、わしも参加するにゃ」
「猫ちゃんが?」
「こないだわしも、B級に上がったから資格があるにゃ」
「もうB級!? ついこないだハンターになったばかりでしょ?」
「まぁその事は今度説明するにゃ。それより、会議室に案内してくれにゃ~」
「……わかったわ」

 わしはくっついて離れないマリーを、リータとメイバイに引き剥がしてもらい、何か言いたげなアイの案内で会議室に向かう。
 会議が終わるまで誰も入れるなと、ギルド職員は言われていたっぽいが、わしを見て固まっていたから素通りする。
 わし一人で入るのも気が引けたので、アイも共犯にしてやった。


 扉を開くと、いつもの……

「「猫!?」」
「ボソッ!!」
「猫~~~~!!」

 いつもの、猫コールと若干違った。

「バーカリアンさん。久し振りにゃ~」
「また俺様の名声を奪いに来たのか!!」
「まぁまぁ落ち着くにゃ~」

 会議室に入ると、いきなりバーカリアンがからんで来たが、わしは馬鹿の相手より先に、会議室の中の確認をする。会議室の中には、男の子と女性、それと体格のいい男が居るのだが、どこかで見た事がある気がするので話し掛けてみる。

「そっちのあんちゃんは、見覚えがあるにゃ。誰だったかにゃ~?」
「忘れたのか? あれだけ北の街で有名だと言っただろう」

 北の街の有名人? どっかで聞いた事があるな。北の街の有名人……

「にゃ! 湖の時のあんちゃんにゃ! 懐かしいにゃ~」
「ああ。久し振りだな。あの時は助かった」
「それで、B級に上がれたかにゃ?」
「もう間もなくだ」
「こにゃいだも、そう言ってたにゃ~」
「うっ……あ、あとは期限だけなんだ!」
「本当かにゃ~?」
「本当だ! それより猫は、何しに来たんだ!?」

 話を変えたって事は、まだまだ掛かるのかな? 脱線していたし、まぁいいや。

「わしもB級ハンターだから、会議に参加させて欲しいにゃ。女王からの緊急依頼を受けたし、資格はあると思うにゃ」
「猫かB級? 女王陛下の依頼?」
「信じられないにゃら、ここのギルドマスターに証明してもらうにゃ。どこに居るにゃ?」
「ギルマスなら、アイツだ」

 わしはあんちゃんの指差す人物に目を向ける。そこには肩身が狭そうに座る、幸薄そうな女性が居たのであった。
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