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第八章 戦争編其の一 忍び寄る足音にゃ~
212 お葬式にゃ~
しおりを挟むカミラの白骨遺体の発見に、すすり泣いていたわし達であったが、遺体の確認に取り掛かる。
「グズッ……にゃにか他に持ち物がないかにゃ?」
「あのカバン、収納袋じゃないかニャ? 私達のカバンに似てるニャー」
「わかったにゃ。一度、外に出ようにゃ。みんにゃに日の光を当ててやろうにゃ」
「「はい(ニャ)!」」
わしはカミラパーティの遺体と、持ち物を次元倉庫に入れて洞窟の外に出る。外に出ると日が赤く照っていた。
その光の中に、遺体をそっと並べる。そして、収納袋の中身を地面に広げる。
金、食料、布や生活必需品……と、手紙が五通。手紙には名前と届け先か。カミラさんの手紙は……これじゃな。
カミラさんの手紙も気になるが、他の人の手紙も何が書かれているか気になる。勝手に読むのは気が引けるが、何の手紙か気になるから読んでおこう。まずはこれから……
わしは一通目の手紙に目を通す。その様子をリータとメイバイは黙って見守り、わしが読み終えると声を掛ける。
「どうでした?」
「何が書いてあるニャ?」
「遺書にゃ。もし、自分の死体を見付けた人がいるなら、この手紙を家族に届けてくれと書いてあるにゃ」
「遺書ですか。ハンターなら死ぬ事だってあるんですよね……私達も書いたほうがよさそうですね」
「そうだにゃ。まぁわしがそんにゃ事は絶対させないけどにゃ。でも、念の為、帰ったらみんにゃで書こうにゃ。とりあえず、残りを確かめるにゃ」
わしは全員分の遺書に目を通し、遺体と荷物を次元倉庫に入れて立ち上がる。
「カミラさんは、何を書いていたのですか?」
「他の人と似たような事と、エミリの事を書いていたにゃ。それと、日本語でも転生者だと書いてあったにゃ」
「日本語ニャ?」
「わしの国の文字にゃ」
「もし、伝えられなかったらいいんですけど、内容を聞いてもいいですか?」
内容か……リータ達はわしの転生の事を知っているし、まぁいっか。
「いいにゃ。『もしもこの文字が読める人がいたら、娘のエミリを少しでも助けてあげてくださいにゃ。可能にゃら、私の元の世界の話を、娘のエミリに聞かせてくださいにゃ。藤原恵美里』にゃ」
「それって……」
「もう助けてるニャー!」
「にゃはは。順番が逆になっちゃったにゃ」
「次は元の世界の話ですね!」
「そうだにゃ。さて、探索終了にゃ~! 帰るにゃ~!!」
「「にゃ~~~!」」
わし達はカミラの遺体の発見に喜び、手を上げて叫ぶ。
「おっと、その前に」
わしは、まったく話し掛けられないで寂しそうにしているゴリラブラザーズの元へ近付く。
「今日はありがとうな。お前達のおかげで、探していた者に会えた。本当にありがとう」
「礼を言われるような事はしてない、ヨー」
「頭を上げて、デース」
「いや、感謝している」
「アニキはもう帰る、ヨー?」
「ああ」
「また会える、デース?」
こいつら、またわしと会いたいのか。まさかゴリラに好かれる日が来るとは思わなんだ。猫なのに……
「う~ん。たまに顔を出す。その時は、一緒に踊ろう!」
「「アニキー!」」
「ほな、さいなら~」
ゴリラブラザーズと別れると、王都近辺に転移。この日は夜になりかけていたのでギルドには寄らずに、二人と手を繋いだまま帰宅した。
翌昼……
院長のババアが暇な時間を狙って、孤児院にお邪魔する。孤児院に入るとババアにカミラの事を耳打ちして、エミリの手を引き、四人と一匹でハンターギルドに向かう。
ギルドに入るとティーサにギルマスに会いたい旨を伝える。どうやらスティナも休憩中だったらしく、待たずに会える事となった。
「急に時間を作らせて悪かったにゃ」
「シラタマちゃんならいいのよ。でも、私に会いたいなんてどうしたの? 家でもよかったんじゃない?」
「仕事絡みの話だったんにゃ。家には極力仕事を持ち帰りたくないからにゃ」
「そうね。帰ったら飲まないといけないもんね」
「いや、わしの家に帰るって言い方はおかしいにゃ。隣の家に帰れにゃ~」
「あはは。それで仕事絡みってどういうこと? エミリが居るって事は、まさか……」
話を変えやがった! また今日も来るのか……。スティナに言ったところで、聞く耳持たないか。それよりも、要件じゃな。
「そのまさかにゃ。カミラさんの遺体を見付けたから、二人に話そうと連れて来たにゃ」
「見付けたの!?」
「お母さんの……いたい?」
スティナは驚愕の表情。それとは違い、エミリはキョトンとした顔でわしを見る。なのでわしは、エミリの正面に移動して、目線を合わせて語り掛ける。
「エミリ……気をしっかり持って聞いてくれにゃ」
「ねこさん?」
「わし達はこの数ヶ月、エミリのお母さんの遺体を探していたにゃ」
「お母さんの……」
「そうにゃ。遺体を見付けて持ち帰って来たにゃ。それと、これはカミラさんの遺書にゃ」
「いしょ?」
「最後の手紙にゃ。わしは読んでしまったけど、たぶんカミラさんは、エミリにしか読んで欲しいと思っていないにゃ。だから読んでも、誰にも内容は話さないほうがいいにゃ」
「……はい」
わしはエミリに遺書を手渡す。そして隣に座り、エミリの読めない文字があると補足する。最後の日本語は、周りに人が多いので、あとで話すと伝えておく。
スティナには身分証明書となっているペンダントと収納袋、残りの四人の遺書を次元倉庫から取り出して渡した。
そうして手紙を読み終えたエミリは、わしの手を強く握って来た。
「ねこさん……」
「お母さんは最後まで、エミリの事を心配していたみたいだにゃ」
「……うん」
「忘れていた悲しみを思い出させてしまったかもしれにゃいけど、お母さんを連れて帰って来たから、一緒に供養しようにゃ」
「……うん。ねこさん……うわ~ん」
エミリは堰を切ったように泣き出す。わしはそんなエミリを抱き締め続けるしかなかった。
エミリの涙が止まり、リータとメイバイに任せると、わしはスティナと今後の話に移る。
「遺体はどうしたらいいにゃ?」
「そうね……。明日、墓地に行きましょう。ただ、お墓の無い人は、ハンターの共同のお墓になるけど、それでいい?」
「ああ。カミラさんは身寄りが無かったみたいだし、わしが建てるにゃ。パーティメンバーも、お墓が無いにゃらわしがお金を用意するにゃ」
「なんで見ず知らずの死んだ者に、そこまでするの?」
「ただの気紛れにゃ」
「……そう。わかったわ。明日、また話をしましょう。今日は弔いに飲むわよ~」
「いつものことにゃ~」
この後、遺体を見付けた報償金は断って、家族の居る者には手厚く支払われるようにしてもらい、わし達は引き上げる。
ババアは孤児院に、わし達はエミリを連れて家に帰る。家に帰ると、エミリが料理を作ろうとするので止めて、いつも多く作ってもらっている食事を皆で済まし、お風呂に入る。
アダルトフォーの襲来はあったが、少しお酒を付き合い、今日は相手が出来ないと謝って抜け出した。
寝室に入ったわしは、カミラの遺書をエミリに読んで聞かせ、転生の話について質問する。
「エミリ。お母さんの手紙にあった転生について、本当だと思うかにゃ?」
「……わからないです」
「それは事実にゃ。エミリは、お母さんの料理に疑問を持った事がないかにゃ? どれもこの国に無い料理にゃ。それこそが、お母さんが転生者だという証拠にゃ」
「ねこさんは、信じられるのですか?」
「もちろんにゃ。わしもカミラさんと同じ世界からやって来た、転生者にゃ」
「え??」
エミリの驚く顔を見ながら、わしは手を合わせて言葉を発する。
「いただきにゃす。ごちそうさにゃ。どれも、元の世界の言葉にゃ」
「うそ……」
「カミラさんのレシピにも、遺書にも読めない文字があったにゃろ?」
「うん」
「あれは日本語と言って、レシピに書かれていた文字は、名前にゃ。『藤原恵美里』。お母さんの元の世界での名前が、エミリの名前にゃ」
「ふじわらえみり?」
「そうにゃ。これからお母さんに頼まれている、元の世界の話を聞かせるにゃ。まずは……」
わしは布団に入る三人の間で、元の世界の話を語る。今日はエミリが喜びそうな飲食関係の話にした。
この国と比べられないほど多種多様な料理。多種多様なお店。日本伝統の習慣で食べる料理を聞かせる。
エミリは嬉しそうに話を聞くが、リータとメイバイの寝息が聞こえて来ると、限界が来たのか、返事が無くなる。
眠りに就いた三人の頭を撫で、おやすみと言ってわしも眠りに就く。
今日の夢は、家族で行った商業施設でのフードコート。楽しそうに、子供達が料理を頬張る姿にまじって、リータ、メイバイ、エミリも仲良く食べていた……
翌朝……
わし達は朝二の鐘(午前九時)が鳴ると家を出て、王都の外の墓地へ向かう。少し待ち合わせより早かったので、スティナ達が来るまで、昨日の話の続きを墓地の入口で聞かせる。
そうこうしていると、ババアが孤児院を代表して現れ、その少し後に、スティナがカミラパーティの知り合いや家族、ギルド職員を連れて現れた。
「スティナ、おはようにゃ。早速だけど、この国の埋葬の仕方を教えてくれにゃ」
「おはよう。埋葬の仕方は土葬よ。墓の管理人の所へ行きましょう」
「わかったにゃ」
わし達は集団となって、墓地の脇にある建物に向かう。そこで必要な書類にサインをし、お墓の料金を支払い、埋葬する場所に移動する。
埋葬予定地に着くと、管理人が穴を掘り出したので、わしが代わりに土魔法で穴を掘る。その穴に長方形の箱を作り、次元倉庫から遺体を入れていく。
墓の形は、カミラさんは日本風で、正面にこの世界の名前、後ろの目立たない所に元の世界の名前を刻む。残りのメンバーはその隣に連名で、周りと同じ西洋風にした。一緒にするか悩んだが、お隣さんなら寂しくないだろう。
墓が完成すると遺体を埋める。今度は魔法は使わない。最後の別れで、そんな無粋な事は、わしには出来ないからだ。
皆、別れの言葉を述べながら少しずつ土を掛けていき、エミリの順番となった。
「お母さん……わたし、頑張ってお母さんの夢を叶えるよ。いつか自分の力でお店を作る。その時は見に来てね。絶対だよ!」
エミリの言葉に、わし達は目頭を押さえる。涙を堪えていたが、わしの番が来てしまい、涙ながらに土を掛ける。
カミラさん……エミリは大丈夫じゃ。わしがずっと見守っている。でも、カミラさんなら徳を積んで、もう一度この世界の人間に生まれ変わっているかもしれんのう。
そうなれば、わしと同い年ぐらいか……。記憶を持って輪廻転生できなくても、エミリの料理が道しるべとなって、二人を出会わせてくれるかもしれない。カミラさんなら味を覚えているじゃろう?
その時には、わしも同席させてもらうぞ。これは決定事項じゃ。いつか、美味しいエミリの料理を食べながら、元の世界の話をしよう。
わしの別れが終わると、皆で手分けして土を掛ける。土を掛け終わると、スティナや他の遺族達はこの国の風習なのか、目を瞑り、黙祷をしている。
わしはエミリやリータ、メイバイに日本風の作法を教えていたので、手を合わせ、目を瞑り、心の中で念仏を唱えるのであった。
「さあ。お葬式はお仕舞い。死んだ者が羨むくらい、パーっと飲むわよ~」
埋葬が終わり、皆の別れの挨拶や黙祷も終わると、スティナが何やら言い出した。
「にゃ!? ここで飲むにゃ~?」
「そうよ。何も変な事はないわ。葬式なんだから飲まなきゃ!」
マジですか? スティナはいつも飲んでるようなモノだから、信用できないんですけど~? あ、みんな準備しだした。本当なのか……
「ほら、シラタマちゃん。何か料理出して。今日は豪華なほうがいいわ~」
「う~ん……わかったにゃ。少し時間が掛かるから、こっちをつまんでいるにゃ」
「楽しみ~!」
次元倉庫からおつまみを配ると、わしは墓地の真ん中にキッチンを作る。そこで、エミリと一緒に調理を開始する。
今日のメニューは巨象肉の唐揚げだ。あまりのうまさに悲鳴が上がっていたが、悲しいだけの葬式よりも、多少うるさくても、笑顔のある葬式も捨てがたいとわしは思ってしまった。
いい葬式じゃ。そう言えば、わしの葬式はどうだったんじゃろう? 女房が大爆笑してる姿しか思いつかんな。
――正解です――
アマテラス……人の心の声を盗み聞くな!
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