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第八章 戦争編其の一 忍び寄る足音にゃ~
199 情報を仕入れるにゃ~
しおりを挟むローザ達を領地へ送って街から逃げ出したわしは、転移魔法で王都に飛ぶ。ハンターギルドは込み合う時間帯であったが、依頼完了の報告をすんなり出来るか覗いてから帰る事にした。
ああ。やっぱりこんでおるな。みんな仕事始めかな? ティーサに尋ねたい事もあったんじゃが……仕方ない。後日にするかのう。
今日は違うところから情報を仕入れておこう。
わしはギルドを出ると、孤児院に顔を出す。そして院長のババアから詳しい話を聞いて、帰路に就く。
家ではいつも通り、リータとメイバイにゴロゴロ言わされ、アダルトフォーの襲来は軽くいなし、眠りに就いた。
翌日は、リータとメイバイと一緒に狩りをする。まだオフシーズンとのことで、わしの実家に転移して狩りをすることにした。
新年初仕事とあって無理はせず、わしの縄張りに居る動物の間引きをする程度にするので二人に任せ、わしはリス家族に挨拶をしに行く。
途中、黒い獣が喧嘩を吹っ掛けて来たので、サクッと次元倉庫行きにしておいた。
リス家族に挨拶に行くと夫婦喧嘩中だったらしく、巻き込まれそうだったので、コリスと一緒に退避。
コリスと遊んでいると静かになったので、改めて挨拶をしに行くが、キョリスは仰向けに倒れ、ピクピクしていた。
静かでいいと、ハハリスに新年の挨拶をして、今日のところはお暇する。キョリスに八つ当たりされないようにだ。
我が家に向けて走ると、リータとメイバイの反応があったので、三人で昼食をとってから狩りを再開。ほどほどに間引きが済むと王都に転移。
今日は込み合う前にギルドに入り、収穫を買い取ってもらう。わしが黒い獣を出したら、リータとメイバイが膨れていた。
これは危険信号と感じたわしは、二人に飛び付き、スリスリ攻撃を繰り出して回避した。
二人を宥め終わると、ティーサに依頼完了書と報告書を提出する。
「今年もよろしくにゃ~」
「はい。今年もよろしくお願いします。リータちゃんも、メイバイちゃんもよろしくお願いしますね」
「「よろしくお願いします(ニャ)」」
ティーサとは会う機会が無かったので、わし達は軽く挨拶をすると、ティーサも笑顔で返してくれた。それから報告書に目を通したティーサは、さらに嬉しそうな顔をする。
「初仕事から、こんなに獲物を持ち帰って来るなんて、さすが猫ちゃんです。今年も期待していますよ」
「それほどでもないにゃ。他のハンターは、どんな状況にゃ?」
「オフシーズンですから、さっぱりですね」
「まぁ仕方ないにゃ~」
「そうですね。では、処理を済ませますね」
ティーサはわし達の仕事の処理を石板を叩き、素早く済ませる。それが終わるのを見て、わしは話を切り出す。
「その石板には、ハンターの情報が入っているにゃ?」
「正確に言うと、ギルドの情報収集魔道具にです。この石板を使えば、情報を見る事と、入れる事が出来るのです」
「それって、過去の情報も見れるにゃ? 例えば、仕事で亡くなった人なんかにゃ」
「数年は保管するので、昔過ぎなければ見れますよ。ただし、個人情報ですので、それなりの権限がある人にしか見れません」
「わしがお願いしてもダメにゃ?」
「うっ……目を潤ませてもダメです!」
チッ。うるうる攻撃に耐性がついてしまったか。わしはリータとメイバイの睨み攻撃に、まだ耐性はついてないから、違うアプローチをしよう。
「スティナにでも頼んでみるにゃ」
「あ! そうでした。ギルマスが、猫ちゃんが来たら部屋に来るように言ってましたよ。何かやらかしたんですか?」
また大事な報告を忘れていたのか……。このままじゃ、キャットガールじゃ済まない衣装を着せられるぞ? それにわしは何もやらかした事がない。何故か怒られるだけじゃ。
「個人情報は漏らさないにゃ~」
「教えてくれてもいいじゃないですか~」
「にゃはは。仕返しにゃ~」
「もう! 人が……猫が悪いですよ」
別に言い直さなくても……猫じゃけど。
「本当は、にゃんで呼び出されているか知らないにゃ。ちょっと行って来るにゃ」
「そうなんですか。終わったら聞かせてくださいね」
「聞かせていい内容ならにゃ。ほにゃ~」
ティーサの居た受付カウンターをあとにして、ギルマスの部屋に足を運ぶ。リータとメイバイには待っているように言ったが、わしとスティナが個室で何をするか心配でついて来た。これで挟まれる心配もなくなるので同行を許可した。
そしてノックをし、許可を得て部屋に入る。まだ手が話せないみたいなので、コーヒーを飲んで三人で待つ。前回、お茶を「ズズズズ」すすって飲んでいたら怒られたので、すすらないように気を付けている。やはりわしは、出来る猫じゃ。
「音を立てなくても、匂いが気になるのよ! 飲みたくなるじゃない!!」
静かにしていても、理不尽に怒られた。
「まあまあ。スティナにも淹れてあげるにゃ。ほい」
「はぁ……ありがとう」
「スティナもコーヒー、気に入ったのかにゃ?」
「ええ。ガウリカから安く売ってもらったわ。でも、これほど美味しく淹れられないのよね。何が違うのかしら?」
「これは手間が掛かっているからにゃ。片手間では、この味にはならないにゃ」
「へ~。諦めて、ガウリカの店で飲んだほうが無難か」
たしかに素人には難しいか。いや、専門の道具が少ないこの世界では、難易度が高いな。コーヒーのさらなる普及を目指すなら……
「売り方に問題があるかもにゃ。豆から買うと、どうしても難しくなるにゃ。粉にした物を売れないか聞いてみようにゃ。それにゃら片手間でも、そこそこの味が楽しめるにゃ」
「それいいわね。お湯を入れるだけで出来るのね」
「そうにゃ。じゃあ、わしは行くにゃ。ほにゃ、さいにゃら~」
「さよなら~……じゃない! 用件があるから呼んだのよ!!」
あ! わしも聞きたい事があったんじゃった。年取ると物忘れが……って、このセリフは、なんだか久し振りじゃな。
「わしも聞きたい事があったにゃ。先にスティナの用件を済ませてくれにゃ」
「用件は、王殿下の依頼の件よ。依頼完了書が発行されたわ。これが完了書よ」
「ありがとにゃ……にゃ? 依頼料が倍に増えてるにゃ」
「あれだけ大きい獲物の納品だからね。鼻一本で、いくつの魔道具が作れるかわからないわ。それが六本もあるし、肉の量もね」
う~ん。元の依頼料も高かったけど、よく考えたら、二倍でもかなりお安い依頼料じゃな。文句を言いに行くべきか否か……
「あと、王殿下からの言伝ね。『依頼料を満足に支払えなくて申し訳ない。今回は許してくれ』……だそうよ」
あら? 先に謝られてしまった。これでは、文句を言い出し難い。やられたな。あのオッサン、思ったより策士じゃのう。
「まぁお金に困ってないからいいにゃ。まだ半分以上、肉と皮膚は残っているしにゃ~」
「それはうちで買い取るわよ。値崩れしないように、一気には無理だけどね」
「週一ぐらいで売るにゃ。あとは、わし達のお腹行きにゃ」
「それも楽しみだわ~」
「いや、わしとリータとメイバイのって意味にゃよ?」
「最後に……」
「聞いてるにゃ?」
「女王陛下の指示があるわ。これは断れないからね」
無視しやがった! スティナには、こっそり黒い獣の肉と変えてやろうか。どうせ酔ってて気付かんじゃろう。
「女王からの指示にゃ? にゃんだか怖いにゃ~」
「怖くないわよ。B級に昇級させろって言われているの」
「にゃんで? 昇級には期間があるんじゃにゃいの?」
「あんな化け物を狩れるなら当然でしょ」
「う~ん……断ることは出来るにゃ?」
「なんで断るのよ! B級よ? みんな目指しているのよ?」
「だってB級に上がると、変人枠に入れられるにゃ。わしは変人じゃないにゃ~」
「シラタマちゃんは、元々、猫枠じゃない?」
だから猫枠ってなに? 猫じゃけど……。枠とか言っておいて、わし一人しかいないじゃろ? 変人枠なら仲間がいるのか……。それも嫌じゃな。とりあえず、仲間を募ろう。
「メイバイも猫枠に入るにゃ?」
「シラタマ殿より、猫じゃないニャー!」
「わし一人じゃ寂しいにゃ~」
「シラタマ殿が寂しいなら入るニャ! やっとシラタマ殿の役に立てたニャー」
入ってくれるのは嬉しいけど、そんな役の立ち方でいいのか?
「私も猫枠に入ります! 入れてください!!」
リータまで? リータは岩枠じゃないのか? この際パーティ特典で、リータも猫枠に入ってもらうか。たまに猫耳になっておるしのう。
「みんにゃ、ありがとにゃ~」
わしはリータ達に感謝を伝えるが、スティナがよけいな事を言う。
「いちおう聞くけど、それでいいの? 猫枠は、変人って意味よ?」
「にゃんでにゃ~! わしのどこが変なんにゃ!!」
「猫が立って喋っているところ?」
「ひどいにゃ~! もっとオブラートに包んでくれにゃ~」
その後、「にゃあにゃあ」と文句を言っても撫でられるだけであった。リータとメイバイも、いつの間にか猫枠から脱退していた。
「それじゃあ、あとでティーサに昇級の手続きをしてもらって。これは決定事項よ」
「まだ話が終わってないにゃ~」
「それでシラタマちゃんの用件って何?」
「猫枠は嫌にゃ~」
「そんな事を言いに来たの?」
クソッ! スティナの奴、これはもう、話す気がないって事か。重要な事じゃが、最重要な事は別にある。致し方ない。
「カミラさんってハンターに聞き覚えがないかにゃ?」
「カミラ? ……あるわよ」
「そのカミラさんの、最後の依頼内容を聞きたいにゃ」
「カミラはもう亡くなっているわよ。そんな事を聞いてどうするつもり?」
「スティナは、エミリの事を知ってるにゃろ?」
「ええ。エミリがどうしたの?」
「エミリのお母さんが、カミラさんにゃ」
わしの発表に、スティナは驚く。
「あの子がカミラの子供!?」
「ひょっとして、スティナはカミラさんと仲が良かったにゃ?」
「いえ、そう言う訳では……ただ、カミラの魔法の腕前はギルドのトップクラスで、すぐにB級に上がると、ギルド職員の誰もが噂していたの。出産から戻って、活躍していたのも珍しいから覚えていたのよ」
カミラさんは転生者だから、魔法のイメージ力に違いが出たのかな? わしでも兄弟やおっかさんより魔法が上手かったもんな。
「にゃるほど。それで教えてくれるにゃ?」
「シラタマちゃんが、何をするかによるわね」
「カミラさんの遺体を探したいにゃ。出来れば、エミリにカミラさんの持ち物を渡したいんにゃ」
「そう言う事か……」
「お願いにゃ~」
「……わかったわ。私の権限で、開示を許可するわ」
「ありがとにゃ~!」
わしが立ち上がってスティナの手を握ると、リータとメイバイも立ち上がる。
「シラタマさん。私にも手伝わせてください!」
「私も手伝うニャー!」
「これはわしの個人的な探索にゃ。依頼料も出ない仕事だけど、二人はそれでいいにゃ?」
「「もちろん(ニャ)です!」」
「二人とも……ありがとにゃ~」
わしは感謝を述べて、二人に抱きつく。リータとメイバイは嬉しそうにわしを撫でるので、カミラさんの情報はゴロゴロ言いながら聞く事となった。
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