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第七章 ハンター編其の五 女王誕生祭にゃ~
190 女王誕生祭 五日目 1
しおりを挟む女王誕生祭、五日目。今日は朝からお城に向かう。お城では、女王誕生祭への贈り物が展示されているらしく、城を一般解放されているみたいだ。その他、騎士や魔法使いの演習も、民衆に人気だとのこと。
区画ごとに入城する日付や時間が決まっているみたいで、アイパーティを引き連れて向かっている。
城に近付くにつれて人が増え、リータとメイバイは人の多さに驚いているみたいだ。
「すごい人ですね」
「なかなか進まないニャー」
一区画と言っても、これだけの人間が住んでおったのか。それとも区画自体が広いのかな? 誕生祭は残り三日で、三時間刻みで交代制を取っていると聞いたし、区画を広く取るしかないんじゃな。
「リータも初めてだったにゃ?」
「はい。去年はまだ村にいましたので」
「みんな初体験ニャー!」
その言い方、やめてくれんかのう。またアイ達が聞こえるコソコソ声で、OLみたいになっておる。
アイ達のコソコソは無視して、賑わう行列をゆっくり進む。その時、何人かの住人に感謝をされたが、何故だかわからずじまいで城に入る。
騎士が案内板を高く上げ、民衆の進路を誘導し、第一の見世物、女王への贈り物の部屋に辿り着いた。
「高そうな物ばっかりです~」
「綺麗な物がいっぱいニャー」
「そうだにゃ。宝石もいっぱいだにゃ~」
「あそこの人だかりは、なんでしょう?」
わしはリータとメイバイと喋りながら、贈り物を見物する民衆にまざり、何があるかを確認する。
「私達が買って来たティアラニャー」
「エンマが言っていた通り、他と比べて少し地味だにゃ」
「でも、人は集まっていますよ」
「にゃにか書いてあるにゃ……魔道具の世紀の大発見ってなってるにゃ」
「あ! シラタマ殿が発見したってなってるニャー」
「にゃ? 元々リータの発見にゃのに……。リータの発見だと、オッサンに文句言いに行くにゃ!」
わしが踵を返すと、リータが慌てて止める。
「や、やめてください! 私はたいした事はしてないです。シラタマさんのカット技術があってこそです」
「わしもたいした事はしてないにゃ~。うぅぅ。また目立ってしまうにゃ……やっぱり怒鳴り込んでくるにゃ!」
「シラタマさんは、もう目立っていますよ」
「その姿で騒がれてるから、いまさらニャー」
だからじゃよ! 少しでも騒がれる要素は排除したいんじゃ。
「あっちも人だかりがあるニャー。行こうニャー」
「なんですかね?」
「行ってみたらわかるにゃ~」
わしはオッサンへの文句は諦め、二人に手を引かれて順路に沿って移動する。そうして人だかりの出来ている品物を見て、感嘆の声をあげる。
「「「にゃ~~~」」」
猫じゃないリータまで、「にゃ~~~」と言っているのは謎だ。
「綺麗です~」
「綺麗ニャー」
「そうだにゃ~」
これは出品者がさっちゃんになっておる。大蚕のドレスか。わしの着流しと違って光沢が違う。プロが作ると、ここまで違うのか。
「猫君?」
わし達がドレスに見惚れていると、後ろから声を掛けられた。
「にゃ? フレヤも今日だったにゃ?」
「猫君の家に近いからね。みんなも来てるよ」
「そうにゃの?」
「起きたら猫ちゃん達がいないから、急いで追い掛けたよ~」
アダルトフォーは、みんなご近所さんじゃったのか。初耳じゃ。どうりで毎日、家に集まるわけじゃ。
「プロの目から見て、このドレスはどうにゃ?」
「素晴らしいの一言ね。こんなドレスを作った人に嫉妬しちゃう」
「わしの服も、フレヤが大蚕の糸で作ったら違うのかにゃ?」
「そりゃそうよ。布から作ればもっと良くなるわ」
「ふ~ん……大蚕の糸はあるし、作ってもらおうかにゃ」
「いいの!?」
フレヤは乗り気みたいじゃな。しかし釘を刺しておかないと、酷い目にあいそうじゃ。わしはドレスなんて着たくないからな。
「デザインは、わしに任せてくれるなら頼みたいにゃ」
「え~! 猫ちゃんに似合う服を考えるのは楽しそうなのに~」
「プロにゃら客の意見を聞くにゃ~」
「う~ん。大蚕の糸を使えるなら、折れるしか無いか……」
一から作れないのは、あまり乗り気じゃないみたいじゃな。
「わしの絵は、そんにゃに上手くないからフレヤの力が必要にゃ。大まかなデザインだけ守ってくれたら、それでいいにゃ」
「それならやる気が出る! 私に任せて!!」
「近々、草案を纏めて持って行くにゃ~」
「うん。待ってるわ」
ちょっとはやる気が出たみたいじゃな。じゃが、出来るだけ上手く書いて持って行かないと、変な物を作られそうで怖いな。
誰か絵の上手い人に手伝ってもらうか。リータ達の服も作ってもらいたいし、人選は気を付けないといけないな。
フレヤと約束を交わし、まだ見ていると言うのでここで別れる。
わし達は、貴族や商人、他国の王からの贈り物を見ながら進み、また人だかりが出来ている場所があったので、そこで止まると見知った人物が立っていた。
「ガウリカ?」
「ん? ああ。猫か……」
「真剣にゃ顔で、にゃにを見てたにゃ?」
「馬車だよ。国王様から、揺れの少ない馬車があったら送ってくれと言われているんだ。この馬車は揺れが少ないと書いてあるから、要望に応えられるかと思って見てたんだよ」
バハードゥから? この馬車か。なになに……キャットシリーズ? サスペンションで揺れを軽減? 躍動感のあるわしがくっついておる……
「さすがガウリカさん。お目が高い」
わしが馬車やその横の立て札を見ていると、見知った人物が近付いて来た。
「エンマ!?」
「この馬車はシラタマさんの協力の元、鍛冶職人と馬車職人が苦労して作り出した逸品です」
「そうなんだ。猫の車ぐらい揺れないのですか?」
「シラタマさんの車は存じませんが、一度乗った事のある私の感想では、従来の馬車と比べ物にならないぐらい、揺れは軽減されています」
エンマはいきなり現れて、何そのサービストーク? この馬車は女王の贈り物で、売り物じゃないんじゃないのか? わからないものは聞くしかないか。
「この馬車は売り物にゃの?」
「シラタマさんはご存知ないのですね。この辺りの品物は職人ブースなので、購入可能です。贈り物を兼ねた、我が国の技術力を披露する場となっています」
ふ~ん。見本市になっているのか。孫に連れて行けとうるさかった、ゲーム博覧会みたいじゃな。
「ところで、キャットシリーズってなんにゃ?」
「サスペンション搭載の馬車の名称です。これ以外は、サスペンションが使われていない馬車となって、区別されています」
「にゃんですと……」
え~と。察するに、わしのエンブレムが付いた馬車が、これからそこかしこを走り回るって事か? いや、サスペンション搭載なんて、高いからそこまで広がらないじゃろう。
わしが嫌な予感を振り払っていると、ガウリカとエンマの交渉が始まる。
「なるほど。この馬車を二台、手配できますか? ビーダールの国王様に頼まれているんです」
「そんな大物が購入なさってくれるのですか! 本来なら時間が掛かるのですが、王族とガウリカさんの顔を立てまして、急がせてもらいます」
「ありがとうございます!」
ヤバイ! 購入が決まってしまった。このままではビーダールまで、わしが走り回る事になってしまう!!
「あの~?」
「どうかしましたか?」
「その猫はいらにゃいんじゃないかにゃ~?」
「いえ。これが無いと締まりません」
猫の方が締まらんじゃろう!
「猫じゃにゃくても、ビーダールでは象が人気があるにゃ。売る時には、違うエンブレムを付けたほうがいいんじゃないかにゃ~?」
わしがナイスアイデアでエンマを説得していると、ガウリカがよけいな事を言いながら会話にまざる。
「国王様なら、猫で喜びそうだぞ?」
「そう言えば、最近国旗が変わったと聞きましたね。丸い猫の……」
「そうそう。こいつです」
「それなら何も問題無いですね」
大アリじゃよ! こういうエンブレムは速そうな動物の、馬や豹とかじゃろ? 丸い猫ではない!
「この二台で進めてください」
「わかりました」
ゲッ! 心の中でツッコンでいたら、商談が成立してしまった。もう、広がらない事を祈るしかない。
エンマとガウリカは、手続きをすると言うので別室に去って行った。わしは気を取り直し、皆と続きを見て回り、外の訓練場に向かう。
そこでは多くの騎士や兵士が、民衆の目の前で訓練をしていた。
「兵士が訓練をしていますね」
「公開訓練かにゃ?」
リータとわしが喋っている横では、騎士や兵士が持っている武器をジッと見ているメイバイの姿がある。
「あの武器って、シラタマ殿の武器ニャー?」
「にゃ……」
刺又に十手? わしが遊びで作った物が、何故ここに……。誰かに見せたのも、イサベレと踊った時にしか……あ! 女王がパクったのか!?
「あ、シラタマちゃん。やっと見つけた」
わしが女王のパクリ疑惑に驚いていたら、後ろから声を掛けられた。
「スティナ! スティナまで来てたにゃ?」
「いちゃダメなの?」
「いや、そう言うわけではないにゃ」
「それより、あの武器はなかなか良さそうね。刺又って言ったっけ? 敵を無力化するのにいいわね」
「まぁそうにゃけど……スティナに必要にゃの?」
「兵士の休暇がある時は、ハンターギルドで街を警備をするからね。今までは剣や魔法で犯人も死んだりしていたから、アレなら無傷で捕らえる事が出来そう」
ギルドの依頼ボードに、たまに貼ってあったな。なるほど。捕らえて裁判をして更正させようって腹か。スティナのくせに、考えているんじゃな。
「これで鉱山送りに出来て、報償金もガッポリよ!」
そっちでしたか!? 金を優先するとは、スティナらしいな。
「シラタマ殿、あっちの魔法使いは変な事してるニャー」
「あれもシラタマさんの……」
スティナの言い分にわしが呆れていると、メイバイとリータが先ほど訓練場に入って来た集団を指差す。
あいつらは何をしておるんじゃ? こういう場では、攻撃魔法を派手に練習するんじゃないのか? 魔法で絵を書いて遊んでおる。
「そう言えば、シラタマちゃんが新年にやった魔法のお絵描き? アレ、かなり話題になっていたわよ」
「そうにゃの!?」
「一部では、何処かの国の攻撃じゃないかと騒ぎになったみたいだけど、猫の絵が浮かんでからは、みんな誰がやったかすぐにわかったみたいね」
あ、ここに来るまでに、何人かに礼を言われたのは見ていた人じゃったのか。しかし、スティナは情報通じゃな。ずっと家に居たのに、どこから情報を仕入れておるんじゃ?
「凧も話題になっていたわよ。シラタマちゃんは目立つのが好きよね」
「目立ちたくないにゃ~!」
「その姿で言われてもね~」
ああ。猫じゃよ! 今日も他所の地から来てる者には、猫、猫と目立って恥ずかしい。
呆気に取られる事の連続でわしが遠い目をしていると、その横では、メイバイとリータが唸っている。
「う~ん。あんまり上手くないニャー」
「本当です。シラタマさんのほうが、かわいく描けてました」
魔法使いまで、猫の絵を書いて遊んでおる。恥ずかしいからやめてくれ。知らない内に、この国にわしが増殖している気がする。このまま行くと、わしの国になるんじゃなかろうか?
「あの人は上手ですね」
「本当ニャー」
ん? あのちびっこは……どこかで見た事があるな。どこじゃったかな?
「あ、もうやめちゃいました」
「逃げるように、行ったニャー」
たしかにわしと目が合って、焦ってどっかに行ったように見えた。う~ん。思い出せん。これは城ですれ違った程度かもしれんな。
「シラタマさんは、あの人に何かしたのですか?」
「怪しいニャー」
「にゃ!? 知らないにゃ~」
「女の子でしたよ?」
「シラタマ殿は、すぐ女の子に手を出すニャー」
「知らないって言ってるにゃ~」
「なかなか吐きませんね」
そりゃ、まったく身に覚えがないんじゃから、何も出んじゃろう。
「アレやるニャー!」
「アレって、にゃんですか?」
「「モフモフの刑!!」」
「ゴロゴロゴロゴロ~」
わしは二人に拷問され、ただただ、ゴロゴロ言わされるのであった。
撫でたいだけじゃろ~~~!
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