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第七章 ハンター編其の五 女王誕生祭にゃ~
179 護衛依頼にゃ~
しおりを挟む「馬車の手配はお願いするにゃ。それじゃあ、いってきにゃ~す」
「「いってらっしゃい(ニャ)」」
リータとメイバイに送り出されたわしは、一人で依頼を受ける。女王誕生祭もいよいよ明日となり、ローザ親子の護衛依頼を受ける為だ。
朝早くから街を歩くと、いつもの街並みとガラっと変わり、準備が終わりに近付いている事に気付かされる。
ブラブラ街を歩き、門から外に出て人の来ない場所まで走ると、転移してローザの街近くに飛ぶ。そして、そこからも走って街に入る。
わしの登場で賑やかになった街中を走り、屋敷に到着して門に立つ騎士に声を掛ける。騎士が屋敷の中に入り、しばらく待つと扉から、ローザ、ロランス、フェリシーちゃん達が出て来た。
「おはようにゃ~」
「ねこさん! おはようございます」
「猫ちゃん。おはよう」
「ねこさんだ~」
「フェリシーちゃん。元気だったにゃ?」
「うん!」
フェリシーはわしを見た瞬間に走り寄って来たので、頭を撫でると嬉しそうな顔になる。ローザも何やらモゾモゾしていたので手招きすると、わしをモフモフし出した。その光景を微笑ましく見ていたロランスは、出発を告げる。
「それじゃあ、行きましょうか」
「にゃ!? その馬車五台にゃ?」
「女王陛下への贈り物も積んでるから当然よ。持ち物の制限は無かったわよね?」
「にゃいけど、多いにゃ~」
「減らすわけには……」
「いいにゃ。わしが持つにゃ。ロランスさんと、荷物の確認できる侍女さん。わしについて来てくれにゃ」
「猫ちゃんが持つ?」
「まあまあ。あの馬車からいこうにゃ~」
わしは近い馬車から乗り込んで、次々と荷物を次元倉庫に入れていく。ロランスも侍女も驚いて、ちゃんと見ていたか不安なので忘れ物が無いか、もう一度、五台の馬車を確認してもらう。
確認が終わると、王都に向かうメンバー、護衛二人、侍女二人、ローザとロランス、フェリシーちゃんで一台の馬車に乗り込み、街の外に向けて走り出した。
そうしてローザ達にわしは撫で回されて進むのだが、ロランスはいつもの街との変化に気付いたようだ。
「街がなんだか騒がしいわね」
「どうしたんにゃろ~?」
「ねこさん……」
わしは本当にわからないので質問するが、ローザの目が冷たい。どうやら、ロランスとローザは、街が騒がしい理由がわかっているみたいだ。
「失敗したわ。街の外で待ち合わせすれば、よかったわね」
「にゃんで?」
「ねこさんが騒ぎの原因です!」
「にゃ!? そうだったにゃ!」
「今ごろ気付いたのですか?」
「王都では騒がれる事が無くなったから、すっかり忘れていたにゃ~」
わしは事実を話すのだが、ロランスとローザが信じてくれない。
「本当?」
「嘘です! すっごく騒がれていたじゃないですか」
「ローザの居た頃は騒がれていたにゃ。でも、いまはわしを見ても普通に通り過ぎて行くにゃ」
「本当ですか?」
「嘘は言わないにゃ~。王都で一緒に歩けばわかるにゃ~」
わしのこの発言で、何故かローザの目が輝く。
「お母様。ねこさんから、デートに誘われました!」
「よかったわね~」
「ただの散歩にゃ~」
「お母様。ねこさんがペットになってくれました!」
「よかったわね~」
「それも違うにゃ~!」
無駄口を叩いていても馬車は進み、街を出て、街から少し離れると皆に降りるように促す。皆が降りて馬車が出発すると、わしは次元倉庫から飛行機を取り出す。
飛行機は女王との旅以降、八人乗りに改造してあるから猫型に戻らなくとも、全員ゆったり座れる。
突然巨大な物が現れたので、一同驚いていたが、復活したロランスがわしに質問する。
「猫ちゃんは凄いわね。さっきの荷物といい、こんなに大きな物が収納魔法で収まるなんて、聞いた事がないわ」
「わしは魔力が多いからにゃ。それより席順はどうするにゃ?」
「「「一番前 (です)!」」」
ローザとロランス、フェリシーちゃんは最前列をご所望なので、護衛と侍女の四人には後部座席に座ってもらう。
三人が最前列に座るには席が足りないので、真ん中に土魔法で席を増設して、猫型に戻ったわしは三人の内の誰かに抱かれて操縦する事にした。せっかく八人乗りにしたのに……
「それじゃあ、これから空を飛ぶにゃ。みんにゃ、空の旅を楽しんでくれにゃ~」
「空を飛ぶ?」
「ねこさん?」
「行っくにゃ~。【突風】にゃ~~~」
「「「「キャーーー!」」」」
「すご~い!」
飛行機の垂直離陸と共に、女性陣は叫び出す。フェリシーちゃんは楽しそうだが、護衛の男達が静かなところを察するに、きっと我慢しているのだろう。
程よい高さになると、水平飛行に移行して王都を目指すのだが、ローザとロランスさんは落ち着きがない。
「お母様……飛んでいます」
「ローザ……飛んでいるわね」
「どうしたにゃ?」
「「飛ぶなんて聞いてない(です)わ!」」
「にゃ!? 言ってなかったにゃ?」
「「聞いてません!」」
だから悲鳴があがっておったのか。猫の姿で騒がれる事といい、物忘れがひどくなっておるのう。もう遅いけど、説明しておくか。
「二時間コースは空の移動で、十時間コースは陸路にゃ。ロランスさんは二時間コースを選んだから、空の移動になったにゃ」
だからわしは悪くない。
「「悪い!」」
「にゃ!? ロランスさんも、わしの心が読めるにゃ? にゃんでわかるにゃ?」
「それは……ねえ?」
「ねえ?」
「『ねえ?』じゃ、わからないにゃ~」
「あ、お母様。もう隣街ですよ!」
わしが質問しているのにも関わらず、ローザは話を逸らそうとする。
「本当ね。隣街は空から見ると、こうなっているんだ」
「教えてにゃ~」
「わたし達の街と比べて、どうですか?」
「う~ん。空から見た事が無いから一概には言えないけど、外からの攻撃に少し脆弱に見えるわね」
「にゃあにゃあ?」
「「うるさい(です)!」」
「にゃ……」
怒られた。ちょっと質問しただけなのに……。わし、しょんぼりじゃ。
「猫ちゃん。空から私の街を見たいから、戻ってくれない?」
「わしの心を読む秘密を教えてくれたら戻るにゃ」
「まだ言ってるのですか? そんなこと出来るわけないじゃないですか」
「いや、さっき……」
「やっぱりいいわ。帰りに見ましょう」
「そうですね。勉強よりも、空の旅を楽しみたいです」
また話を逸らされた! ローザ達にも怒られてしまったし、これ以上は聞きづらいな。いちおう、ひとつ試してみるか。ローザはかわいいな~。
「……」
う~ん……わからん。残念ながら、心を読むスキルの謎は保留か。
わしはスキルの謎を諦めて、飛行機を飛ばす。乗っているメンバーは楽しそうに会話をしているが、離陸して一時間が経つと王都が見えて来た。
「王都にゃ」
「もうですか!?」
「猫ちゃんが遠い街に、気軽に来れるわけだわ」
「それじゃあ、着陸するにゃ。少し揺れるからしっかり掴まっているにゃ~」
「はい!」
わしが着陸の注意点を伝えると、皆は心配なのか、備え付けの取っ手を握り、着陸の衝撃に備える。そんな皆の心配を裏切り、飛行機は静かに着陸したのであった。
「もう大丈夫にゃ」
「思ったより揺れなかったわね」
「運転手の腕がいいからにゃ。乗り物を変えるから降りてくれにゃ」
「わかったわ」
ロランス達が降りるのを確認し、忘れ物が無いか侍女と機内を確かめてから、次元倉庫に飛行機を仕舞って、女王用に作った車を取り出す。そして、皆が乗り込むと発車する。
その車内では運転席に座るわしに、ローザとロランスから質問が来るので、時々振り返って答えてあげる。
「これって、動いたのですね。それに前のねこさんのお家と違いますね。ベッドもキッチンも無いです」
「ああ。それは一号車にゃ。こっちは女王を乗せるのに作った二号車にゃ」
「女王陛下が乗ったの!?」
「ちょうどロランスさんが座ってるソファーに座っていたにゃ」
「え!?」
「危にゃいから座っているにゃ~」
ロランスさんが驚いている姿を見るのは、初めてで新鮮じゃな。わしの姿で驚かなかったのに、女王の事では驚くんじゃな。まさか女王に負けるとは……
車の移動も順調で、王都に着くと貴族専用の門へ、車で横付けする。すると、兵士が一人、駆け寄って来た。
「猫ちゃん。ここは貴族専用よ。ひょっとして、あたしに会いに来てくれたのかしら?」
「にゃ!? 寄るな! 触れるにゃ~!!」
わしが車から出ると、半分男の兵士に詰め寄られた。
「今日は貴族様の護衛依頼だから、こっちに来たにゃ」
「そうだったの? でも、その馬車では中を走らせるわけにはいかないわ」
「わかっているにゃ。仲間に馬車の手配はさせてるにゃ」
「そう。じゃあ手続きを開始するから、代理の方を呼んで来てくれる?」
「わかったにゃ~」
貴族の力は絶大で、ロランス一人だけの身分証を見せると、すぐに全員、中へ通される。ロランス達は少し歩く事になるが、文句は無いみたいだ。
王都の中に入ると、手筈通り雇ってくれていたレンタル馬車と、そのそばに立つリータとメイバイの姿を見付ける。わしは礼を言って、ロランス達を馬車に乗せ、リータ達と別れた。
しばらく馬車がパカパカと進むと、ロランスとローザから苦情が来た。
「揺れるわね……」
「はい……」
「これでも奮発したにゃ。我慢してくれにゃ~」
「これが普通の馬車だったわね」
「ねこさんの作ってくれた馬車ばかり乗っていたから忘れていました」
経費で落ちるから一番いい馬車を借りたけど、サスペンション搭載馬車は、まだレンタル馬車には無かったから仕方がない。
「ローザの馬車は、不具合とかは無いかにゃ?」
「う~ん。どうでしょう?」
「気付かないにゃら大丈夫かにゃ? 帰りにみんにゃを送ったら、メンテナンスしてみるにゃ」
「ありがとうございます」
歩くより馬車の移動でブーブー言われたが、人の増えた王都を進み、昼一の鐘(正午)が鳴る前に、ペルグラン邸に到着した。
久し振りに中に入り、侍女の指示の元、荷物を全て出して歩き、荷物確認も終わると、ローザ達の居る応接室に入る。
「さっきまで自領に居たのに信じられないわ」
「本当です。こんなに早く着くのですね」
自分の屋敷なのにキョロキョロしているロランスとローザに、わしは声を掛ける。
「これで行きの護衛依頼は完了でいいかにゃ?」
「ええ。また帰りはお願いね」
「わかったにゃ。じゃあ、これからは自由行動させてもらうにゃ。ローザはこのあとの予定はどうなってるにゃ?」
「えっと~……」
ローザが悩みながらロランスの顔を見ると、ロランスはにっこりと笑った。
「いいわよ。行って来なさい」
「お母様。ありがとうございます!」
「ロランスさんもどうにゃ?」
「私はこれからやる事があるの。娘達をお願いね」
「はいにゃ。フェリシーちゃんも行くにゃ~」
「「は~い」」
わしはローザとフェリシーと手を繋ぎ、王都を歩く。二人はわしと歩くのが嬉しいのか、終始笑顔だ。
「やっぱり嘘だったのですね」
大通りに出ると、ローザがこんな事を言い出した。
「にゃにが?」
「猫、猫と騒がれています!」
「あれは……王都の住人と違うにゃ。誕生祭で別の街から来てるにゃ」
「本当ですか?」
「本当にゃ! よく見たら素通りする人が多いにゃ~」
「う~ん。たしかに半分以上の人は、ねこさんに興味を持っていませんね」
「にゃ~? ここから路地に入るから、騒ぐ人はもっと減るにゃ」
「どこか目的地があるのですか?」
「楽しい所にゃ~」
と、言う訳で着きました。腐女子フレヤの仕立て屋。
「いらっしゃ~い。あら? 猫君。今日はかわいい子を連れているわね。デート?」
「違うにゃ~。フレヤに服を見立ててもらおうと来たにゃ。二人とも貴族の娘さんだから丁重に扱うにゃ」
「貴族様!?」
「ローザです」
「……フェリシーです」
「よ、ようこそ……」
ローザが挨拶をすると、フェリシーちゃんもマネして挨拶をする。すると、フレヤも緊張しながら、挨拶を返した。
しかし、フレヤはいきなり貴族が来たからか、笑顔で会釈したあと、わしの首根っこを掴んでローザ達から離れ、ポイっと投げ捨てて説明を求める。
「猫ちゃん。これはどういうこと?」
「これからキャットランドに行くから、綺麗な服が汚れたら大変にゃ。だから、二人に動きやすい庶民の服を着させて欲しいにゃ」
「いいけど……親御さんに怒られないかしら?」
「う~ん。その時はわしが怒られるにゃ。かわいいのを選んでくれにゃ~」
「猫ちゃんがいいならやるわ! こんなに素晴らしい素材は燃える」
「遊ぶ時間が減るのはかわいそうだから、早くしてくれにゃ?」
「わかったわ!」
フレヤはローザとフェリシーちゃんに、何着か服を当てて試着室に連れ込む。子供服の取り扱いは少なかったのか、思ったより早く決まったみたいだ。
二人が着替えて出て来ると、お世辞を言ってから、着ていた高そうな服は次元倉庫に仕舞い、お金を払って仕立て屋をあとにした。
ローザとフェリシーは初めて着る庶民の服に、デザインが良かったからかお互いを褒め合って歩いていたが、他にも気になる事があるようだ。
「ねこさんと普通に話をしていましたね。むしろ、貴族のわたしの方が驚かれていました」
「にゃ~? 言った通りにゃ~」
「でも、服を着替えるなんて、どこに連れて行ってくれるのですか?」
「キャットランドにゃ。前に連れて行って欲しいと頼まれた所にゃ~」
「あ! 滑り台がある所ですか?」
「そうにゃ。庶民の遊び場だから、着替えてもらったんにゃ。多少の失礼は大目に見てくれにゃ」
「はい! 楽しみです」
「たのしみ~」
程なくしてキャットランドに着くと、遊具を見た二人は走り出そうとする。わしはそんな二人に、先にごはんを食べようと言い、猫特権で孤児院のバルコニーに連れて行く。
バルコニーからは、多くの子供達が楽しそうに遊ぶ姿が見えるので、ローザとフェリシーはそわそわしている。
「うぅぅ。楽しそうです~」
「はやくいきたい!」
「いまから行ったら、お腹がすいて遊んでられなくなるにゃ。食べてから行ったほうが、いっぱい遊べるにゃ~」
「そうですけど~」
「ほら。料理が来たにゃ~」
二人は遊具に興味津々だったが、子供達に運んで来てもらった料理が並ぶと興味が移る。ハンバーガーを初めて見たらしいので、食べ方を教えてから、皆でかぶりつく。
「美味しいです!」
「おいし~」
「それはよかったにゃ」
「あの……子供が働いているように見えるのですが、この施設はなんですか?」
「孤児院兼、遊具施設にゃ」
「孤児院だったのですか!?」
ローザが驚くので、わしは簡単な経緯を教えてあげる。
「自分が貢献したと言うのは恥ずかしいんにゃけど、この孤児院は、少し前は着る物も家もボロボロで、潰れ掛けていたにゃ。そこを少し手助けして、いまでは子供達の笑顔が戻ったにゃ」
「これのどこが少しですか! あんなに立派な遊具施設もあるし、ねこさんもいっぱい居ます!」
「わしはきっかけを与えたに過ぎないにゃ。子供達が頑張って考え、運営し、働いてお金を稼いでいるんにゃ。だから、わしが偉そうにするのは違うんにゃ」
わしの説明に、ローザはため息を吐く。
「はぁ。もっと誇ってもいいと思うのですが、ねこさんらしいですね」
「そうかにゃ~?」
「そうですよ」
「あ、そうそう。これもあげるにゃ」
わしはそう言いながら、次元倉庫に入っていたある物を取り出す。
「これは?」
「猫耳カチューシャと尻尾にゃ」
「ねこさんになれるの~?」
「半分なれるにゃ」
フェリシーちゃんの質問には適当に答え、二人に猫耳と尻尾を装着してあげる。
「フェリシーちゃんが、メイバイになりました!」
「おねえさまも、ねこさんだ~」
「これも子供達が発案と製造を行っているにゃ」
「はぁ。王都の孤児院は逞しいのですね。わたしの領地でも出来るでしょうか?」
ローザは孤児院について思うところがあるようなので、わしは簡単なアドバイスをする。
「それはわからないにゃ。ケースバイケース。そこで出来る事を考え、うまく移譲出来れば、子供達もどうすれば豊かに暮らせるかわかるんじゃないかにゃ~?」
「なるほど……ねこさんの話は、とっても勉強になります!」
「むずかしい~」
「にゃはは。フェリシーちゃんにはちょっと早かったにゃ。早く食べて遊びに行こうにゃ~」
「はい!」
「うん!」
食事を堪能したローザとフェリシーを連れて、キャットランドに駆け出す。難しい話をしていたローザもここでは子供の笑顔に戻り、わしはホッとする。やはり子供は難しい顔より、笑顔が一番だ。
だが、笑顔の悪魔(子供)に取り囲まれてしまっては、わしは身動きが取れなくなってしまう。
マスコットキャラとなったわしは子供を引き付け、二人の事は会計担当のレーナに頼んで、子供の減った遊具を遊び尽くしてもらった。
そして、遊び疲れたローザと手を繋ぎ、フェリシーをおんぶして屋敷に送り届けるわしであった。
「なんでローザが庶民の服を来てるのかな~?」
「ごめんにゃさい!」
屋敷に戻るとロランスに怒られる事も忘れないわしであったとさ。
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