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第七章 ハンター編其の五 女王誕生祭にゃ~
177 オッサンが来たにゃ~
しおりを挟む狩りから帰宅し、皆への魔道具を配布すると、ルウの腹が鳴り出す。あまりにうるさかったので、世間話を中断して夕食をどうするかの話に移らざるを得なかった。
その時、ルウは何かを思い出したようで、わしに質問する。
「そうだ! 小さい女の子が料理を作りに来てたけど、入れてよかったのよね?」
「いいにゃ。料理人として雇っているエミリにゃ」
「あの子が料理人だったんだ!?」
「毎日じゃないけどにゃ」
「それでも豪勢よ~」
「ちょっと行って来るにゃ。ルウは……手伝えにゃ」
「はいは~い」
わしはルウを連れて、エミリの居るキッチンに移動する。すると、笑顔のエミリが、パタパタとわしに駆け寄って来た。
「ねこさん。お疲れ様です」
「お疲れ様にゃ。今日から人数が増えるけど、大丈夫かにゃ?」
「はい。大丈夫です。ねこさんは、何が食べたいですか?」
「今日はスティナ達も来るから、鍋にしようにゃ~」
「いいですね」
「あと、このルウにも手伝わせるにゃ」
わしはルウをぐいっと前に出して挨拶させる。
「よろしくね~」
「よろしくお願いします」
「あっちにルウ専用冷蔵庫があるから、ルウにはその肉を使うにゃ」
「なんで分けているのですか?」
「信じられないぐらい食うにゃ。エミリも覚悟しておくにゃ」
「腕が鳴ります!」
と、エミリが言って、夕食が始まる。
「……腕が折れそうです」
と、夕食早々にエミリの泣き言が入る。
「みんなでふたつの鍋で食べてるのに、なんでルウさんだけで鍋がふたついるんですか!」
そう。エミリがツッコんだ理由は、わし達は八人でふたつの鍋を囲んでいるのに、ルウは一人でふたつの鍋を交互につついているからだ。
「にゃ~? あんなののペースに合わせちゃダメにゃ」
「本当です。鍋にしてよかったです……」
「まぁルウは自由にさせて、エミリはこっちを頼むにゃ」
「……わかりました」
ルウの一人戦場をあとにして、わし達は和気あいあいと鍋をつつく。皆には箸の使い方を教えているので、まだ不慣れだが、鍋を食べるには支障がない。
ほどよく腹が膨らんだ頃、宣言通りアイツがやって来た。
「シラタマちゃ~ん。てやんで~」
スティナだ。右手に酒瓶を握って、ガウリカの肩を借りている。
「もう酔ってるにゃ!?」
「酔わなきゃやってられないのよ!」
「みんにゃも止めてくれにゃ~」
わしが止めろと言うと、エンマ、ガウリカ、フレヤが言い訳する。
「止めたんですけど……」
「酒を買った側から飲みだしたんだよ」
「今日は荒れてるからね~」
「とりあえず、離れに行くにゃ。料理運んで来るから待っててにゃ~」
「私から逃げるの~?」
「すぐ行くから頭に乗せるにゃ~」
わしの頭に、ふたつの大きな物を乗せるスティナから逃げ出し、エミリに用意してもらっていた鍋を次元倉庫に入れて、アダルトフォーの巣くう離れに向かうのだが……
「本当にギルマスが来た」
「あの綺麗な人は誰?」
「かっこいい女の人もいたわ」
「猫ちゃんって、若い子が好きじゃなかったの?」
「大人もいけるのね」
「これで何又?」
「たしか……九又?」
「獣の伝説クラスね」
わしがアダルトフォーの食事を運ぶのに居間を通ったら、いつものように、アイ、ルウ、エレナがコソコソと話す。
「だから~。そう言うのは、わしに聞こえるように言わないでくれにゃ~」
「「「あははは」」」
この三人は、どんだけ他人の色恋沙汰が好きなんじゃ。まるでスティナ達みたい……
そうじゃ! いっそ、この三人をぶつけてみよう。スティナは荒れているみたいじゃし、このままわしだけ行くとからまれ続けるかもしれんからな。
「アイ達も離れに行くかにゃ?」
「ギルマスと飲むの?」
「さっき言ってた綺麗な人は、商業ギルドのサブマスにゃ。かっこいいのはビーダールから来て、商売を始めるにゃ。もう一人は仕立て屋にゃ。縁を結んでおいたら、もしかしたら、仕事をもらえるかもしれないにゃ」
「たしかに……」
「商業ギルドのサブマスなんて、有料物件ね。大商人や貴族の護衛なんか推薦してくれるかも。みんな、行くわよ!」
「「「おお!」」」
「わたしも……」
エレナの号令で、アイパーティは離れに向かう。マリーも来ようとしたが、わしは静かに首を横に振って止めた。
「「「「「男がなんだ~!」」」」」
だって、こうなるんじゃもん。
男日照りのアダルトフォーに、マリーを除く、アイパーティが加わり、男への愚痴に拍車が掛かった。そんな中、スティナとアイは、再度グラスを合わせる。
「あなた達。気が合うわね」
「ギルマスも、こんなに話が合うとは思いませんでした」
「今日は飲み明かしましょう」
「「「はい!」」」
「シラタマちゃん。酒~!」
「はいにゃ~」
うぅ。いたたまれない! こんなに女性は男に不満を抱いているのか。わしも男なんじゃが、居酒屋の店主になって空気になるしかない。
「ツマミが無いわよ~」
「黒蛇の炙りでございますにゃ。こちらのタレに付けて食べてくださいにゃ」
「ん! 美味しい」
次元倉庫から出した料理はすぐにスティナの口に入り、皆に回される。
「これもどおぞですにゃ。魚の一夜干しですにゃ。骨に気を付けてくださいにゃ」
「いいですね。温かいお酒ください」
エンマの注文に、わしは火魔法で温めていたお湯で割ったウィスキーを目の前に置く。
「はいにゃ。ウィスキーのお湯割り、お待ちですにゃ~」
「「「「「おかわり~」」」」」
「はいにゃ~」
と、「居酒屋猫」を開店していると、うまい肴と盛り上がる男の愚痴で、きつい酒のペースが上がり、バッタバッタと倒れて行く離れのメンバー。
最後のスティナがグラスを持ったまま倒れると、全員に毛皮を掛けて、そっと離れをあとにするわしであった。
ふぅ。わりと早く酔い潰れたな。女王の誕生際が近いから疲れているのかな?
まさか、モリーまで参加するとは思っておらんかった。ガウリカと話が合っているように見えたから、モリーもあっちの趣味のお人かもしれん。
リータ達はさすがにもう寝てるか……。さて、わしは飲み直すとするかのう。
ガシッ!
「にゃ!?」
わしは居間に戻り、キッチンに行こうとすると、誰かに足首を掴まれて驚く。
「ねこさ~ん。モフモフは~?」
「マリー!? 起きてたにゃ?」
「むにゃむにゃ」
ハッキリした寝言じゃな……致し方ない。
わしはマリーをお姫様抱っこして、アイパーティ用の部屋のベッドに寝かせる。そして猫型に戻って、マリーに抱かれて眠りに就くのであった。
翌朝、マリーのふくよかな物に挟まって寝ていたらしく、アイ達の殺気を感じて目が覚めたのであったとさ。
「朝風呂、最高ね~」
「こんにゃに人が居るんだから、服を着るにゃ~」
「もう! わかったわよ~」
下着姿でだらしのない格好のスティナを諫め、静かな朝食が始まる。なぜ静かなのかと言うと、ほとんどが二日酔いだ。
朝食が終わると仕事に向かうメンバーと、自室に向かうメンバー、家事に勤しむメンバーに分かれ、わしはスティナと共にハンターギルドに向かう。
「歩けるから降ろしてくれにゃ~」
「冬は寒いのよ~」
「だったら、もっと暖かい服を着るにゃ~」
「私のポリシーよ!」
肌を出したエロイ格好がポリシーって……
「そんにゃ格好しても、男は寄って来ないにゃ~」
「ああん!?」
「にゃんでもにゃいです」
こうして、力いっぱい抱き締められながら、依頼の取り合いで騒がしいハンターギルドに入る。スティナが自室に向かうと、やっと解放された。何人かに驚かれたが、ぬいぐるみが動き出したと思われたみたいだ。
そんな皆の視線は無視して、買い取りカウンターのおっちゃんと言葉を交わし、訓練場に黒アヒルを出して、その場を後にする。
解体が終わるのが昼以降なので、ドワーフの経営する武器屋に顔を出し、少し手伝ってから昼食を食べに家に帰る。
「シラタマさん! 大変です!!」
家に帰ると、慌てた様子のリータに出迎えられた。
「どうしたにゃ?」
「お、王様が来ています!」
「オッサンがにゃ?」
「そんな不敬な態度を取ったら、首が飛びますよ!」
不敬と言われても、わしの中ではオッサンで固まってしまっている。リータもオッサンと喧嘩しているところを見てたはずなんじゃが、忘れておるのか?
「女王が味方だから大丈夫にゃ。だからリータも落ち着くにゃ。てか、女王に何度も会っているから、緊張する事ないにゃ~」
「でも~」
「居間にいるのかにゃ? 会って来るにゃ~」
リータの心配を他所に、わしは居間に入る。居間には、王のオッサンとオンニが座っていたので、わしはオッサンの対面に座る。
「オッサンがわしの家に、にゃんの用にゃ?」
「またお前は……」
「用が無いにゃら帰れにゃ~」
「貴様! 殿下を愚弄するのか!」
「オンニ。よい。この猫に、礼儀を求めるのは無理だ」
礼儀ぐらいわしだってわきまえておる。ただ、偉そうなオッサンが嫌いなだけじゃ。やろうと思えば……あ、女王にもよく怒られていたな。わしは礼儀が無いのか?
「で……なんにゃ?」
「ハンターギルドのマスターから報告を受けたが、50メートルの白い象を持ち帰ったそうだな。本当なのか?」
「そうにゃ。疑っているのかにゃ?」
「信じられないのは本当だ。出来れば現物を見て確認したい」
「サプライズが無くにゃっていいなら出すにゃ」
「それは困るな……わかった。当日に頼む」
「それだけかにゃ?」
「いや……」
王は一度立ち上がり、わしの側に来て膝を折り、畳に頭をつける。
「猫殿の母君の命を奪い、大変申し訳無かった。謝罪する」
なんじゃ? オッサンが土下座までして……前にも謝っていたじゃろうに……怪しい。
「その件はもう済んだ事にゃ。気にするにゃとは言えないけど、終わった事を何度も謝罪されると、わしも困るにゃ」
「そうか。勝手だと思うが、これからもサンドリーヌ、ペトロニーヌ共々、良い付き合いをしてやってくれ」
「二人とも友達だから、言われにゃくても仲良くやるにゃ。もう頭を上げるにゃ」
「ああ。ありがとう」
本当に謝罪だけしに来たのか? ひとつカマを掛けてみるか。
「国を統治する者は大変だにゃ~。嫌いな者にも頭を下げるにゃんて……」
「そんな事はしない。本心の謝罪だ」
「これから、戦力が必要になるもんにゃ~」
「あの事か……」
小学生みたいな喧嘩をしていたのに、オッサンは全然ボロを出さんな。おそらく国を思って、巨大な白象を倒せる強大なわしの戦力を確保しに来たんじゃろう。
「オッサンも大変だにゃ~」
「お前は察しがいいんだな。子供みたいな喧嘩をするくせに……」
「オッサンに言われたくないにゃ! オッサンが先に始めたんにゃ!」
「はあ? お前が先だっただろ! このバカ猫!」
「誰がバカ猫にゃ! このバカ王!!」
「バカ王だと~! オンニ。このバカ猫を痛い目にあわせてやれ!」
オッサンはオンニに命令するが、オンニはわし達の程度の低い口喧嘩に呆れているのか、立ち上がろうとしない。
「にゃははは。オンニがわしに破れたのを忘れたのかにゃ? バカは物忘れがひどくて相手にしてられないにゃ~」
「バカバカ言うな! バカ猫~!」
「先に言ったのはそっちにゃ。バーカバーカ」
ますます口喧嘩に拍車が掛かり、熱くなってしまったら、わし達は居間に入って来た人物が声を出すまで気付かなかった。
「お父様……シラタマちゃん……」
「サティ!?」
「にゃ!?」
わしとオッサンが小学生みたいな喧嘩をしていたら、さっちゃんに生温い目で見られていた。その後ろに立つ、リータ達やアイ達にソフィ達まで、同じ目をしていた。
「さっちゃん。みんにゃ……その目はやめて欲しいにゃ~」
「「「「「はぁ~~~」」」」」
なに、その長いため息?
わしが皆の生温い目にあたふたしていると、オッサンはさっちゃんに焦りながら声を掛ける。
「サティ。どうしてこんな所に?」
「お父様が、シラタマちゃんに会いに行ったと知ったお母様に、様子を見て来てと頼まれたのですけど……。まさかお母様が言った通り、子供みたいな喧嘩をしているとは思いませんでした」
女王に予想されていたの? わしでも想定の範囲外だったのに……
「「「「「はぁ~~~~~~」」」」」
「言いたい事があるにゃら、言ってにゃ~~~!」
「「「「「はぁ~~~~~~」」」」」
この後、皆の生温い目と長いため息に、いたまれなくなったオッサンはわしを置いて逃げ出しやがった。
わしはと言うと、逃げ出す事も出来ずに、皆にため息まじりに撫で回されたのであったとさ。
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