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第六章 ハンター編其の四 遊ぶにゃ~

157 トラブルにゃ~

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 南の小国ビーダール、バハードゥ王と、東の国ペトロニーヌ女王の会談は和やかに進み、笑い声の中、お開きとなった。国のトップどうし握手を交わした後、わし達は高級宿屋に戻って来る。
 会談に参加していないメンバーも宿屋に戻っており、夜間交代で護衛に就く者は女王の部屋の前に待機し、それ以外は割り当てられた自室にて休む。
 わしはリータ達の元へ逃げようとしたが、もう少しのところで女王に首根っこを掴まれた。リータとメイバイも、さすがに女王に逆らえず、苦笑いで送り出された。

 仕方がないので、わしは嫌々、女王とさっちゃんと寝室を共にする。

「シラタマ。今日はありがとう」
「わしは連れて来ただけだから、気にするにゃ」
「いいえ。あなたがいたからバハードゥ王も信用してくれて、スムーズに話を進められたのよ」
「わしがにゃ? タダメシ食べてただけにゃ」
「あ……あのマナーの無さは、いただけなかったわね」
「にゃ!? 猫だにゃ~。大目に見るにゃ~」

 一瞬、顔の曇った女王は、わしの言い訳を聞いて優しい顔に戻った。

「フフフ。そうだったわね」
「それを言うなら女王だって、わしをペットにしようとしたにゃ!」
「そ、それは……だって~」
「あんまりしつこいと、実家に帰る前に城を破壊して帰るにゃ!」
「だから、わたしのお家を壊さないで!」

 女王に文句を言ったら、さっちゃんにツッコまれてしまった。

「さっちゃん。冗談にゃ~」
「シラタマだったら出来るのよね? すっかり忘れていたわ」
「そうにゃ。だから、怒らにゃいで~」
「また怒られる心配してる~」
「あと、自室に戻してくれにゃ」
「「いや!!」」

 軽く脅したのに、怖くないのか? 息ピッタリでわしの願いを拒否しやがる。まぁ捕まった時に、すでに猫型に戻っておるから、わしの貞操は守られるじゃろう。

「で、シラタマちゃんは、なんで変身魔法を解いてるの?」
「備え付けのお風呂も入ったし、あとは寝るだけだからにゃ。それがにゃにか?」
「シラタマちゃん。わたしに嘘ついていたでしょ?」
「にゃんのことにゃ?」
「寝る時には、変身魔法は維持できないって言ってたのに、普通に寝てたじゃない!」

 あ……そう言えば、旅から戻った日に疲れていたのか、さっちゃん達の前で寝た事がある。

「あれは……その……たまたまにゃ?」
「ぜったい嘘! リータ達とも寝ていた節があったわ」

 さっちゃんに、はしたないと言われて泣かされた時か……。いまさらじゃが、子供に泣かされたんじゃな、わし……

「なに遠い目してるのよ~。変身して一緒に寝ようよ~」
「いや……その……わしは男にゃ。そう言うわけにもいかないにゃ?」
「そんなの、気にならないよ~」

 気にしようよ! まぁわしは一見……

「ぬいぐるみと変わらないよ~」

 うん。わしの言いたい事を先に取られてしまった。さっちゃんは、心を読むだけでなく、未来まで見えるようになったのか。こうなったら……

「女王からも言ってくれにゃ~」
「え? 変身したらいいじゃない。何が悪いの?」

 悪いじゃろう! 男と女が一緒に寝たら何が起こる? わしは大人じゃから、子供のさっちゃんに、何もしないけどな!

「あ、そうそう。一緒に寝る約束してたわね。あれは人型って約束だったわよ」

 え? そんな約束は……一緒に寝る約束はしたな。じゃが、人型とは一言も言ってない!

「へ~。約束破るんだ……」
「人型なんて言ってないにゃ~」
「いいえ。言ったわ」
「お母様の記憶は正しいよ!」

 あれ? さっちゃんは、あの場にいたっけ? いや、いない!

「二人とも、嘘はいけないにゃ~」
「じゃあ、シラタマちゃんも嘘はいけないね」
「そうね。人型で寝れないって嘘だったのよね」
「にゃ……」
「嘘はいけないんでしょ~?」
「女王の私にまで嘘をつくんだ~?」

 やられた! 誘導尋問じゃった。女王の嘘は、嘘はダメってワードを引き出す為じゃったのか。

「「ねえねえ~」」

 うっ。なにそのわきゅわきゅした手付き。わしに何をする気なんじゃ?

「何もしないから~」
「ちょっとだけ。ちょっとだけよ~」

 二人とも、なんだか女に言い寄る男みたいになって来た。これは逃げ切れないのか?

「「逃がさないわよ~」」

 らしいです。リータ、メイバイ……すまない。

 この日、わしはさっちゃん親子に犯された……と、言う訳でなく、二人にぬいぐるみとして抱かれて眠りに就くのであった。




 翌朝……

 わしは二人より早くに目を覚ます。

 はぁ……リータとメイバイも激しかったが、さっちゃん親子も、また激しかった。まさか、あんなに激しく撫で回されるとは……
 さて、どうしたものか。二人のロックは固い。女王の大きな物に挟み込まれて、さっちゃんにも抱きつかれておるから抜けられん。けっして、二つの柔らかい物に挟まれていたいわけではない。ホンマホンマ。

 わしが脱出方法を悩んでいると、朝一の鐘が鳴り終わり、女王付きの侍女が起こしに現れた。やっと解放されると思ったのに、わしゃわしゃと撫で回されてから、今日の一日が始まる。
 朝食をとり、車に乗り込んだわし達は街を出る。そして、人気ひとけが少ない場所に移動して飛行機に乗り込み、海へと向かう。今回も見晴らしのいい前列は、王族が独占しやがった。

「うわ~。あの森も東の森みたいに、黒い木が多いね~」

 飛び立ってしばらくすると、さっちゃんは望遠鏡を覗き、感嘆の声を漏らす。

「どこまでも続いていて怖いわね」
「女王でも、怖いものがあるにゃ?」
「森が一番怖いわね。森は気を抜くと、すぐに広がるから国土を維持するのは大変なのよ」

 ふ~ん。そんなに侵食が早いのか。森が広がれば民の住む場所が無くなり、獣が増えて安全も無くなるってことかな?

「ちなみに二番はなんにゃ?」
「……キョリスよ。生きている事を聞かされてから、寝れなくなったじゃない!」
「昨日はぐっすり寝てたにゃ~」
「そ、その前の話よ」
「寝れない理由って、海が見れるから、わくわくしてじゃないのかにゃ?」
「ち、違うわよ」
「嘘はダメじゃなかったにゃ~?」
「なによその顔!」
「髭を引っ張るにゃ~」

 まったく。ちょっとからかっただけで、暴力に訴えるとは……やはり東の国の女性は強く、男はしいたげられているのか。

 わしが女王に引っ張られた髭を前脚で直していると、さっちゃんが飛行機の外を指差す。

「シラタマちゃん。あそこはなんで木が無いの?」

 ん? あれは……伝説の白い巨象の通った跡か。女王のプレゼントにも関わるし、心を読まれないように慎重に……

「天災で木が倒れた跡みたいにゃ」

 あれほどの巨体なら、天災と言っても過言でない。よし! まだ、バレてない。

「あんなに一直線に倒れるものかしら?」
「そ、それは……」
「お話し中、申し訳ありません」

 お! イサベレ。ファインプレーじゃ。もう少し遅れたら、心を読まれていたかもしれない。

「申してみよ」
「危険が迫っています」
「にゃ?」
「シラタマは、わからない?」

 わしの探知魔法は、音か魔力を飛ばして反響を感じる方法だから、室内にいては役に立たない。イサベレの探知魔法は、わしのモノとは違うのか?
 そう言えば昔、さらわれた兄弟を追い掛けた時に、馬車の中から落とし穴に気付いておったな。探知魔法と言うより、危険を感じる魔法なのか? それとも女の感か? どちらにしても、ドヤ顔がウザイ。

「どの方向に危険があるにゃ?」
「あっち」

 わし達はイサベレの指差す方向を見て、黒い物体が浮いている事に気付く。すると、さっちゃんが心配そうな声を出す。

「シラタマちゃん……大きな黒い鳥が、真っ直ぐ向かって来てるよ」
「ちょっと、望遠鏡を貸してくれにゃ」

 さっちゃんの言う通り、大きなつばめみたいな鳥が進行方向から、こっちに向かっておるな。

「イサベレ。行けるかにゃ?」
「地上なら……」
「イサベレでも無理なの?」
「シラタマ……すぐに降ろしなさい!」

 さっちゃんの質問にイサベレが首を横に振ると、女王は焦りながら命令する。

「まあまあ。落ち着くにゃ。女王が取り乱したら、みんにゃが怖がるにゃ」
「そ、そうね。でも、どうするの?」
「わしが処理して来るにゃ」
「シラタマが行ったら、誰がこの飛行機を操縦するのよ?」
「この速度にゃら、すぐには落ちないにゃ。高度は徐々に下がるかもしれにゃいけど、心配するにゃ。もしもの時は、イサベレ。風魔法でクッションよろしくにゃ」
「……わかった」

 風魔法の得意なイサベレなら出来ると思ったわしだったが、あまり自身の無さそうな返事だったので、皆が不安そうな顔になってしまった。なので、皆の不安を取り除く為に、次元倉庫からお茶を出して回してもらう。

「それじゃあ、お茶でも飲んで待ってるにゃ」
「え、ええ……」

 女王の返事をもらえたところで、わしは急いで膝から飛び降り……

「あ、わしも一杯飲んでから……」
「「「「「早く行け~!」」」」」

 ……ずに、お茶を飲もうとしたら、全員から怒鳴られた。
 仕方ないのでお茶は諦めて、女王の膝から飛び降りたわしは、運転席中央に土魔法で、猫型で通れる大きさの穴を貫通しないように開ける。
 その穴に入って入口を塞ぎ、奥を開けて、飛行機の先端に出る。これで機内には風が入らなかったはずだ。外に出ると風が強いので、わしも土魔法でしっかり固定する。

 あんなに怒らなくてもいいのに……ほれ? まだ来ない。早く出過ぎたじゃろう。毛並みが乱れてしまうわい。それに高くて怖いんじゃ。もう少しゆっくりさせてくれたらよかったのに。
 と、こんな事を考えていたら、次は真面目にやれと怒られそうじゃわい。まだ少し接触に時間があるから、飛行機の高度を維持しながら、倒し方を考えるかのう。
 たしかに地上じゃないから戦いづらい。それに倒したところで回収が難しい。せっかく尻尾の二本ある、わしの飛行機ぐらいの大きさの黒い獲物じゃし、綺麗にお持ち帰りしたいな。う~ん……これで、いいか。

 【風玉】×千!!


 わしは戦いの準備に野球ボール大の【風玉】を千個用意する。これを攻撃と防御にあてる。
 黒燕はわしの準備が整うと射程範囲に入ったのか、威嚇の声と共に【風の刃】を放った。

 ふん! そんなものか。その程度の風魔法では、千個の【風玉】を撃ち落とせないぞ!

 黒燕の放つ【風の刃】は、わしの【風玉】とぶつかり、霧散する。それでも黒燕は諦めず、何度も【風の刃】を放つ。

 だいぶ距離が詰まったな。そろそろ肉弾戦に突入してくるかな?

 わしの予想通り、黒燕は速度を上げて、飛行機を貫こうとくちばしを前に突撃する。黒燕はわしの放つ【風玉】が当たっても、大きな体でものともしない。

 効いてない? それとも、我慢しておるのか? まぁどっちでもいいがな。仕上げじゃ!

 【風玉・集】!!

 近付く黒燕が、漂う【風玉】の中心に来るのを見計らい、黒燕に向けて集中砲火。その結果、黒燕は滅多打ちになる。前方から来る【風玉】に前進を止められ、下から来る【風玉】に落下を許されない。
 数百の【風玉】に打ち付けられた黒燕は悲鳴をあげていたが、しだいに声を無くし、目からも光が消える。

 こんなもんかな? 残していた一割の【風玉】を当てて、調整しながら次元倉庫に……入った! よし。ミッションコンプリートじゃ。


 わしは戦いを終えると、風が入らないように機内に戻る。すると、機内は静まり返っていた。気にはなるが、スピードが落ちて飛行機の高度も下がって来ているので、窓から外が見えるように女王の膝の上に飛び乗る。

「終わったにゃ」
「え、ええ……」

 なんじゃ? 女王の微妙な反応は。みんなもわしをジッと見ていたし……。一仕事終えたんじゃから、ねぎらいの言葉のひとつでもあってもいいじゃろう。
 飛行機の高度が下がって怖かったからか? それとも、わしが何かやらかして怒らせたのか? 怒られるのは嫌じゃし、無視しておこう。

「「「「無視するな~~~!!!」」」」

 飛行機の操縦に取り掛かったわしは、いきなり皆が大声出すものだから、体がビクッと跳ねてしまった。

「にゃ!? にゃんですか? わしは怒られるようにゃ事はしてないにゃ~」

 わしの質問に、女王は捲し立てるように喋る。

「違うわよ! 何よ、あの大魔法! それにあんなに大きな鳥が消えたわよ! どこ行ったのよ!」
「やっぱり怒ってるにゃ~」

 どうやら皆、わしの魔法に疑問を持って、静まり返っていたみたいだ。
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