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第六章 ハンター編其の四 遊ぶにゃ~
152 見えない敵にゃ~
しおりを挟む大きなヘビを倒し、お昼休憩の終わったわし達は、新たな獲物を求めて歩き出す。おやつをかじりながら……
「二人とも食べるにゃら、座って食べればよかったにゃ~」
食後のデザートを拒否されたわしの文句に、リータはメイバイを見る。
「だって……ねえ?」
「やっぱり食べたくなったニャー」
さっきまでの緊張感が無くなっておる……わしのせいか? いや、わしのせいではないはずじゃ。
「シラタマさんのせいですからね!」
「そうニャー!」
また心を読まれた。こんなに心が読めるなら、一緒にお風呂やベッドを共にしないで欲しいんじゃが……
「さあ、集中しましょう!」
「気合いニャー!」
スルー? さっきまで的確に心を読んでいたじゃろ? ここでスルーするの?
「次の獣は、どんな獣でしょうね?」
「さっきも大きな角付きのヘビが出たから、黒もいそうニャー」
あ、やっぱりスルーなんじゃ。これは読まれないって事なのか? 試しに……二人とも、愛してるよ~。なんつって……
わしが二人を見ると、リータとメイバイはもじもじしだした。
「やだ……シラタマさんったら……」
「私も愛してるニャー!」
「にゃんでにゃ~~~!!」
「「あ……」」
やはり心が読まれておる! ここは謎解きしておかないと、これからの生活に支障をきたす!!
「顔に出てるにゃ?」
「いえ……」
「心が読めるにゃ?」
「読めないニャー」
「じゃあ、にゃんでにゃ~!」
「急ぎましょう」
「にゃあにゃあ?」
「獣はどこかニャー?」
「にゃあにゃあ?」
「「うるさい!」」
「にゃ……」
その後、二人は探索に集中し、わしが口を挟めない雰囲気を作り出す。なのでわしは、いじけて小石を蹴りながら二人のあとに続くのであった。
しばらく無言で進み、森が開けた岩場で、わしの狙っていた獲物が近くなる。
あれ? もう見えてもいいんじゃけど、どこにいるんじゃ? 探知魔法の反響だと、あそこなんじゃが、リータとメイバイも見えてない? あ……形から察するに、アイツか。
「二人とも、ストップにゃ。身を低くして森から出るにゃ」
「はい……でも、どうしたのですか?」
「あそこを見てくれにゃ」
わしは獲物がいる場所を指差すが、二人は不思議そうな顔をする。
「何もいないニャー」
「いや。いるにゃ」
「え? 何も見えません」
「二人は擬態って言葉を知っているかにゃ?」
「いえ。知りません」
「知らないニャ」
「生物の中には、景色に紛れる生物がいるにゃ。石に見せたり、枝に見せたり、葉っぱに見せたりするにゃ。それを擬態と言うにゃ」
わしの親切な説明に、二人は首を傾げてしまった。
「そんなのいるニャ?」
「どうしてそんな事を知っているのですか?」
「前世の記憶にゃ。あそこにいるのは、おそらくカメレオンと言って、トカゲに似ている生物にゃ。擬態とはちょっと違うんにゃけど、肌の色を岩の色に変えているにゃ」
二人はわしの転生を知っているので、ようやく納得のいった顔になった。
「前世の記憶……シラタマさんは、そのカメレオンが見えているのですか?」
「いや、見えてないにゃ。わしは探知魔法が使えるからわかっているだけにゃ」
「探知魔法って、なんニャ?」
「簡単に言うと、遠くにある物が、手に取るようにわかる魔法にゃ」
「あ! だからシラタマさんは、すぐに獲物を見つけるのですね」
「便利ニャー」
獲物がいる事を二人が完全に信用してくれたところで、次の話に移る。
「リータ。獲物を見付けたけど、どうするにゃ?」
「大きさはどうですか?」
「およそ10メートル超えってところにゃ」
「そんなに大きいニャ……」
「色は……わからないんですよね。角や尻尾はどうですか?」
「尻尾は一本だけど、角は二本付いてるにゃ。わしの感だと強さ的に、おそらく黒にゃ」
「シラタマ殿は、強さもわかるんだニャー」
「大まかだけどにゃ」
質問が終わったリータは難しい顔になり、考え込んでしまった。わしとメイバイは邪魔にならないように、黙ってリータの決断を待つ。
「黒……角二本……見えない敵……。私では対応できない。シラタマさん。すみませんが、リーダーを変わってください」
「謝る事じゃないにゃ。それが正しい判断にゃ」
「対応できないのに、正しいのですか?」
「そうにゃ。対応できない事を認めるのが難しい事なんにゃ。できないのに無理をすると、最悪、パーティが全滅するにゃ。そうにゃらないように逃げるのも、リーダーの資質のひとつにゃ」
「そうなんですか……」
「いま、リータは褒められているニャ。よかったニャー」
「メイバイさん……はい!」
メイバイのおかげで、少し気落ちしていたリータも持ち直したか。メイバイはムードメーカーじゃな。いいパーティじゃ。
「それじゃあ、わしが指揮を取るにゃ。でも、後方支援に徹するから、二人とも頑張ってくれにゃ~」
「「はい(ニャ)!」」
「作戦会議にゃ~」
と、言ったものの、わしもカメレオンの生態は詳しく無いので、舌が伸びる事を伝え、様子見で防御重視に徹する事を伝える。
「それじゃあ、魔法で牽制してみるにゃ。【風玉】にゃ!」
わしは探知魔法を小まめに飛ばしながら【風玉】も飛ばす。するとリータとメイバイにも、何か居る事が見て取れたようだ。
「あ!」
「一瞬、景色が歪んだニャ」
「避けられたにゃ。リータ、にゃんか来るにゃ! 盾を構えて力を抜くにゃ!」
「はい!」
わしの指示が飛び、リータが力強く盾を構えたその瞬間、衝撃音があがる。
「クッ……何か当たりました!」
舌まで見えないのか。ここまでの透明度は魔法かな?
「え? 引っ張られています!」
「メイバイ! 前に出て盾の延長線状にナイフを振るうにゃ。適当でいいから当たるまで振るにゃ!」
「わかったニャ!」
盾を引っ張られて耐えているリータの後ろからメイバイが飛び出て、ナイフを振るう。素早く何度も振るい、手応えを感じたようだ。
「当たったみたいニャ。でも、斬れた感じがしないニャー」
おそらく、舌の粘液で張り付けて、引っ張っているのじゃろう。舌の弾力とその粘液が斬りづらくしておるのか……
「メイバイ。【風の刃】にゃ。リータから離れるまで何発も撃つにゃ」
「はいニャー!」
「おっと。【土壁】にゃ!」
「これもニャー!」
メイバイが魔道具の【風の刃】を舌に向けて放っていると、もう一本の舌らしき物が飛んで来た。わしはそれを、【土壁】で防御する。
メイバイは【風の刃】ではらちがあかないと感じたのか、ナイフに魔力を流して切っ先を伸ばし、斬り付ける。するとリータは、後ろに倒れそうになったが、わしが支えて事なきを得る。
「離れました!」
「ちょっと斬れたニャー」
「よし! リータ。盾を土魔法でコーティングするにゃ」
「なるほど……引っ張られたら解除するのですね!」
「そうにゃ。わしが少し見えやすくするにゃ。それと、舌は二本あるから気を付けるにゃ。前進にゃ~」
「「にゃ~!」」
相変わらずの気の抜ける返事を受けて、リータを先頭にじりじりと進む。その前進をしながら、わしは【土玉】をカメレオンに放ち、方向をリータ達に知らせる。
リータは盾に纏った土を、衝撃が起きる度に脱ぎ捨て、新しい土を覆い被せる。
そうして幾度かの衝撃を乗り越え、ついにメイバイの射程範囲に入る。
「土埃のおかげで、よく見えるニャー!」
「尻尾にも気を付けるにゃ~」
「わたしも攻撃に回ります!」
「わしが防御に専念するけど、リータも気を付けるにゃ~」
「「はい(ニャー)」」
近付きさえすれば長い舌は役に立たず、大きな図体のトカゲだ。土埃のおかげで姿も見える。あとはどう料理するかだ。
わしはカメレオンの正面に立ち、目線をリータ達にやれないように【土玉】を何発も放ち続ける。するとカメレオンは【土玉】を喰らわないように、舌で迎撃する。その結果、さらに土埃が舞い上がり、常にカメレオンの姿が見える展開となる。
カメレオンの右に回ったメイバイは脚を斬り裂き、健を絶ち斬って動きを止める。
左に回ったリータも同じく脚に拳を振るい、骨を砕いていく。
数分後、全ての脚の機能を失ったカメレオンは地に腹を着け、黒い体が現れる。そこをリータの強引なアッパーカットで引っくり返され、メイバイが飛び乗り、何度も喉元を斬り裂く。
そして、わしは……頭を抱える。
マジか……リータが、あの巨体をひっくり返したぞ。メイバイも凄い速度のナイフ捌きで、カメレオンを掘ってるし……
二人に【肉体強化】の宝石を渡したのは失敗だったかもしれん。簡単なレベルアップ方法になってしまった。これでは、いつかわしは埋められる!
わしが顔を青くして二人を見ている間も攻撃が続き、カメレオンの命が尽きたと気付いた二人は、喋りながらわしの元へと近付く。
「終ったニャー」
「お疲れ様です。やっぱり、メイバイさんのナイフ捌きは速いし、凄いですね」
「リータのパンチも凄かったニャー。あんなの引っくり返せないニャー」
「シラタマさん?」
「どうしたニャー?」
わしの元へ戻って来た二人は、わしの顔色の変化に気付いたようだ。
「いや……お疲れ様ですにゃ」
「「なんで敬語(ニャ?)なんですか?」」
リータとメイバイは、同時に首をかしげた。
「お願いですから、普段は強化魔法を使わにゃいでくださいにゃ」
「なんのことですか?」
「わからないニャー」
「二人にポコポコされると埋まってしまうにゃ~。ポコポコもやめてくれにゃ~」
「そんな事……しませんよ」
「うん……しないニャー」
今度は、二人して目を逸らしやがった。
「その間はなんにゃ~! わしの目を見るにゃ~!」
「シラタマさん。収納してください」
「私はお風呂に入りたいニャー」
「にゃあにゃあ~?」
「「うるさい(ニャ)!」」
「にゃ……」
うるさいと言われてへこむわし。そんなわしを撫でる二人。文句を言いたかったが、またうるさいと怒られそうなので、黙ってカメレオンを収納する。
返り血を浴びたメイバイだけ軽くシャワーを浴びさせ、わしとリータは見張りにあたる。砂でザラザラだが、危険な森では仕方がない。
その後、大物を仕留めた事もあり、狩りは十分な成果となったので終了。二人を抱えてキョリスに挨拶をして、森の我が家に戻ってお風呂に入る。
「シラタマさん。まだジャリジャリしてます」
「なかなか取れないニャー」
「あ、こうするにゃ」
お風呂に入るといつものように二人でわしを洗うが、砂まみれになったせいで、毛の中に砂が入り込んでしまった。そこをわしは土魔法を操作して、体についた砂を落とす。
「あ……」
「その手があったニャー」
「私もお願いします」
「私もニャー」
リータとメイバイの髪の毛に付いた砂も魔法で除去し、綺麗に洗ってから湯船に入る。
「今日はどうだったにゃ?」
「勉強になりました」
「楽しかったニャー」
「それはよかったにゃ」
「でも、キョリスは怖かったです」
「ハハリスも大きかったニャー」
「キョリスとも、戦いたかったにゃ?」
二人の感想を聞き、質問をしてみたら、二人とも首をブンブンと横に振った。
「む、無理です! 正真正銘の化け物ですよ」
「シラタマ殿は戦った事があるニャ?」
「何度も殺されかけたにゃ」
「はぁ……よく生きていられましたね」
「なんでそこまでして戦ったニャ?」
「兄弟達を取り戻す為に、強くならなきゃダメだったにゃ。国を相手にするつもりだったから、キョリスに練習相手になってもらったにゃ。怖いけど、話せばわかる奴にゃ」
「国を相手にって……シラタマさんが強いわけがわかりました」
わしの答えを聞いて、リータは納得のいった顔になるが、メイバイは難しい顔をする。
「シラタマ殿がいれば、国を滅ぼせるニャ?」
「……メイバイは滅ぼして欲しい国があるにゃ?」
「いや、そんなわけでは……ないニャ……」
ありそうじゃな……。まぁ故郷の事じゃろう。
「力を貸して欲しいにゃら、いつでも言うにゃ。滅ぼすまではやらないけど、出来るだけ、メイバイの力になるにゃ」
「シラタマ殿……」
「さあ、王都に帰るにゃ~」
「「はい(ニャ)」」
お風呂から上がると王都に転移し、ハンターギルドで今日の狩りの成果を報告する。大きな黒いカメレオンは新種だったらしく、高く買い取ってもらえた。
大きな蛇も、なかなかの値段が付き、わし達は、ホクホク顔で家路に着いたのであった。
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