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第六章 ハンター編其の四 遊ぶにゃ~

147 また世継ぎ争いかにゃ?

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 盗賊の拷問……ゲフゲフ。情報提供も終わり、襲われていた馬車に戻ると、幼女に抱きつかれた。わしは幼女の言葉で、頭の上にクエスチョンマークが浮かび、二本の尻尾もクエスチョンマークとなってしまった。

 誰じゃったかいのう? 見覚えはある気がしないでもないが、まったく記憶に無い。認知症か?
 いや、わしは二歳じゃから、そんなわけはない。元の世界でも、古い記憶はしっかりしておった! 前日の晩メシも思い出せなかったから、自信満々で言う事ではないか……まぁわからないものは聞くしかないな。

 わしは、抱きついて離れない幼女に頬ずりされながらも、声を掛けてみる。

「ねこさ~ん」
「どうしたにゃ~?」
「あいたかったの~」
「わしと会った事があるにゃ?」
「モフモフしてる~」

 うん。会話になっておらんな。

 なかなか会話が成立しない中、わし達に女性が走り寄って来て、慌てた声を出す。

「お嬢様! 離れてください!」
「別に取って食ったりしないにゃ。そっちの騎士様から、話は聞いてなかったにゃ?」
「聞きましたが……猫が立って喋っているのですよ!!」

 そんな逆ギレされても困る。まぁ気持ちはわかるけどな。しかし、この女の子が離れてくれないし、どうしたものか? 落ち着くまで好きにさせるか……

 わしは幼女に頬ずりされながらも、向きを変えて、さっき話をしていた中年の騎士を見る。

「騎士様。ちょっといいかにゃ?」
「あ、ああ……」
「あの盗賊はどうするにゃ? わしにもちょっとぐらい、分け前をくれにゃ~」
「貴様! 横取りしておいて、金をよこせだと!!」

 若い騎士に怒られた……。横取りしたけど、全員わしが捕まえたんじゃから、ちょっとぐらい、いいじゃろうに……

「待て。我々は助けられたんだ。ちょっとと言わず、全部持って行け」

 おお! おっちゃん騎士はいい人じゃ。

「いいにゃ!?」
「かまわん。どうせ俺達には、こいつらを運ぶ手段も無い。持ち物を没収して殺すだけだ」

 いい人かと思ったが、発想は盗賊と変わっておらんな。どっちが盗賊か、わからなくなるわい。

「ありがとにゃ。しかし、お偉いさんが、こんにゃ所で何をしてるにゃ?」
「ただの散歩だ。奥方にフェリシー様を、近くの丘に連れて行ってくれと頼まれてな」
「ピクニックにゃ? フェリシーちゃん。よかったにゃ~?」

 わしがフェリシーと呼ばれた幼女の頭を撫でると、ようやく離れて、顔を見せてくれた。

「うん! ねこさんもいっしょにきて~」
「ごめんにゃ~。わしは仕事で忙しいにゃ~」
「ダメなの……」

 うっ。今にも泣き出しそう。こんな時は、アレじゃ。影武者に出て来てもらおう。

 わしは背中越しに次元倉庫を開き、ぬいぐるみを取り出す。

「これあげるにゃ」
「ねこさんがふえた!」
「大事にしてくれにゃ」
「うん!」

 よし。ぬいぐるみに気が行っておる。いまの内に距離をとってと……騎士のおっちゃんの側に寄る。

「騎士のおっちゃん」
「なんだ?」
「つかぬ事を聞きたいにゃ。この子は、領主の娘かにゃ?」
「そうだ」
「さっき盗賊と話したんにゃけど、どうやら頼まれて襲ったみたいにゃ」

 わしの発言で、騎士のおっちゃんは、驚いた顔になった。

「本当か?」
「わしが嘘を言う理由はないにゃ。それで、心当たりはあるかにゃ?」
「……いや。無いな」
「じゃあ、奥さんが怪しいのかにゃ~? 世継ぎ争いとか、起きてないかにゃ?」
「そんなわけが……」

 騎士のおっちゃんは否定はするが、何かを言い辛そうにして、あごを触る。

「ありそうだにゃ」
「わからないが、可能性の話だ。奥方の子供は連れ子だ。だが、そんな事があるはずがない!」
「おっちゃんは信用してるんだにゃ。でも、盗賊が頼まれて襲って来たにゃら、調査は必要じゃないかにゃ?」
「……たしかにそうだな。だが、どうしたらいい?」

 そんなこと、わしに聞かれても……。まぁ乗り掛かった船じゃ。フェリシーちゃんの命を優先に考えてみよう。

「う~ん……調べる間、他の領地でフェリシーちゃんを預かってもらってはどうかにゃ? ペルグランの領主にゃら、知り合いだから口を利いてあげれるにゃ」
「女王陛下だけでなく、ペルグラン様とも知り合いなのか……頼めるか?」
「オッケーにゃ。それじゃあ、これからペルグラン領に行くにゃ~」

 フェリシーの避難先が決まると、騎士のおっちゃんは、移動の話し合いに移る。

「ここからだと、馬車で着くのは明日になりそうだな」
「あ、おっちゃんは先行してついて来てもらうにゃ。残りの騎士には、馬車で来てもらおうにゃ」
「馬で行くのか。そのほうが早いな」
「いや。わしが乗り物を出すにゃ」
「はあ?」
「まぁ見てるにゃ」

 わしは次元倉庫から車を取り出す。すると皆、驚いた顔で固まる。

「な、なんだこれは!?」
「馬車より速い乗り物にゃ。盗賊達も連れて行くから連結して来るにゃ」

 何か言いたげな騎士のおっちゃんから離れ、盗賊の元へ行くと、魔法で檻に車輪を付けて、車と連結する。騎士達は、その作業も呆気に取られて見ていたが無視をする。

「他の騎士達には、さっきの事を伝えてくれたかにゃ?」
「いや……まだだ」
「すぐに出発をしたいから、説明を急いでくれにゃ」
「あ、ああ」

 わしは騎士のおっちゃんを急かして、ぬいぐるみで遊んでいるフェリシーの元へ行く。

「フェリシーちゃん。移動しようにゃ」
「なにあれ~?」
「とっても面白い物にゃ。乗ったら楽しいにゃ~」
「お嬢様。なりません!」
「お姉さんも乗ってくれにゃ。(フェリシーちゃんの命に関わる事にゃ。事情はあとで説明するにゃ)」
「え……はい……」

 わしが世話係のお姉さんに小声で話すと、お姉さんは素直に従う。そして、フェリシーとお姉さん、騎士のおっちゃんを車に乗せると、馬車と二人の騎士を残して車を発車する。
 最初はゆっくり。徐々にスピードを上げ、三十分後にはローザの街が見えて来た。

 わりと早く着いたな。って、飛ばし過ぎたかな? フェリシーちゃんは喜んでいたけど、二人は放心状態じゃ。まぁ急いでいるから仕方がない。


 わしはまた、車のまま門の列にしれっと並び、門兵に止められる。しかし、前回の事もあって、怒られるような事は無かった。
 そうして貴族専用の門まで誘導され、全員を降ろすと、門兵が挨拶して来た。

「これはシラタマ様。ローザ様に会いに来られたのですか?」
「仕事で来たんにゃけど、トラブルがあって、寄らしてもらったにゃ」
「トラブルとは……後ろの盗賊?ですか?」
「盗賊は仕事で捕らえて来たにゃ。こっちのフェリシーちゃんを、しばらく預かってくれるように、ロランスさんに伝えてくれにゃいかにゃ?」

 わしがフェリシーちゃんの頭を撫でながら説明すると、門兵はじっくりと顔を見つめる。

「こちらのお嬢様を、領主様にですか……」
「わしはまだやる事があるから、詳しい話は騎士のおっちゃんに聞いてくれにゃ。あと、この盗賊は置いて行っても大丈夫かにゃ?」
「わかりました。盗賊はこちらで処理しましょうか?」
「頼めるにゃ?」
「はい。でも、扉が見受けられませんが……」
「魔法で開けるから、兵士の配置をお願いするにゃ」

 わしは、兵士が盗賊の入った檻を取り囲むのを見てから檻を開く。しかし、用心させたものの、盗賊は車の酷い揺れにあったせいか、抵抗する力もないみたいだ。
 盗賊が檻から全員出されるのを待っているのも時間の無駄だから、門兵にその場を任せ、盗賊から聞き出したアジトに向かう。


 情報が正しければ、この森の奥じゃったんじゃが……お! 探知魔法に反応有り。それじゃあ、狩りますか!

 わしは探知魔法に引っ掛かった盗賊を、片っ端から峰打ちで斬り倒す。総勢四十六名。かなりの大所帯だったみたいだ。
 盗賊が動かなくなると、アジトの持ち物を没収してから檻に詰め、ボスらしき男を抱き石の刑に処し、洗いざらい吐かせる。
 一通りの処置が終わると護送になるのだが、森の中では道が狭く、車は使えなかったので檻を細くして引っ張り、森から出ると元のサイズに檻を戻し、車でペルグラン領に戻る

 街が見えて、また列に並ぼうとすると兵士が走って来たので、その案内に沿って車を移動する。
 そこで車を降りると、女の子が駆け寄って来た。

「ねこさん!」
「ローザ。元気にしてたかにゃ?」
「はい!」
「事情は聞いたかにゃ?」
「聞きましたけど……」

 ローザはわしの質問に、口を鈍らして、車に連結された檻を見る。

「どうしたにゃ?」
「その檻に入っているのは、盗賊ですか?」
「そうにゃ。依頼で捕らえて来た盗賊団にゃ」
「多過ぎです!」
「そうかにゃ? まぁ手続きをしてもらう間に、お母さんに会わせてくれにゃ」
「わかりましたけど、多過ぎですからね? 一人で受ける仕事じゃないですからね?」

 わしは盗賊と没収した持ち物を門兵に預けると、ローザの用意していた馬車に乗り込み、ローザの小言と、撫で回しを受けながら屋敷に向かう。
 屋敷に着くと、ローザの母でもある領主、ロランスに迎えられ、撫で回される。

「撫でて無いで、話をしようにゃ~」
「「あ……」」

 この親子は……ちゃんと事情は聞いてくれたんじゃろうか?

「猫ちゃんは、ボーデン家に後継者問題が起きていると疑っているのよね?」

 あ、聞いていたみたいじゃ。これなら話が早い。

「そうにゃ。さっき捕まえて来た盗賊の親分も、そのボーデン家?に、頼まれていたと言っていたにゃ。盗賊の話が証拠になるかわからにゃいけどにゃ」
「盗賊の話だけでは難しいわね。持ち物に証拠になる物があればいいんだけど」
「門兵に預けて来たから、それを待つしかにゃいかにゃ」
「そうね。猫ちゃんは、お昼まだ? 一緒に食べましょう」
「ありがとにゃ~」

 ロランスとの話は場所を変えて行う事となり、食堂に入ると、先に食事をとっていたフェリシーがわしに駆け寄って抱きつく。このままでは食事が出来ないので、わしはフェリシーを抱えて椅子に座らせてから隣に座る。

 う~む……フェリシーちゃんは、わしとぬいぐるみに挟まれて、両手に花じゃな。わしの体型が丸いから、両手に団子?

 わしが座ると食事が運ばれ、手を合わせてから食べ始める。それを見て、わしの隣に座ったローザとフェリシーは、わしを撫で始める。

「食べづらいにゃ~。二人とも、早く食べにゃいと冷めちゃうにゃ~」
「「えへへ」」

 息ピッタリじゃな。実は姉妹じゃなかろうか?

「ところで、ねこさんはフェリシーと知り合いなのですか?」
「いや……」「うん!」

 ローザの問いに、わしの否定とフェリシーの肯定が重なる。するとローザの目が鋭く輝く。

「嘘ついたのですか?」
「い、いや。さっき知り合ったばっかりにゃ。にゃんで睨むにゃ~」
「だってねこさんは、すぐに女の子に手を出すじゃないですか!」

 なに、その言い方? わしが出してるんじゃなくて、周りが手を出して、撫で回すんじゃ。

「フェリシーちゃんも嘘を言っちゃダメにゃ~」
「うそじゃないよ。まえにあったもん! たすけてくれたもん!」
「助けたにゃ?」

 わしが悩んでいると、フェリシーの世話係のお姉さんが何かを思い出したようだ。

「お嬢様。あの話ですか?」
「うん!」
「あの話にゃ?」
「三ヵ月前に、盗賊に馬車を襲われる事がありまして、お嬢様が猫さんに助けられたと言っていたのです」

 お姉さんの言葉に、騎士のおっちゃんも、その時の事を思い出して声を出す。

「あ! あの時か……。誰かに魔法で助けられた。探したけど、どこにも人影なんてなかったんだよな。たしかに、お嬢様が、猫、猫と言っていた」

 わしが助けた? 猫が人助けをするなんて、わしぐらいじゃろう。三ヵ月前か……

「にゃ!?」
「何か思い出しました?」
「ローザを助けて街に送ったあとに、馬車を助けたにゃ! 顔は見ていにゃいけど、女の子が出て来たにゃ~」
「やっぱり手を出しているじゃないですか!」
「盗賊を吹っ飛ばしただけにゃ~」

 ローザさん。言い方を気を付けてください!

 フェリシーが、わしを知る謎は解けたがローザの追及は厳しく、食事をチビチビ摘みながら落ち着かせるわしであった。
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