147 / 755
第六章 ハンター編其の四 遊ぶにゃ~
145 女王と交渉にゃ~
しおりを挟む依頼の品、皆へのお土産を配った翌日、リータとメイバイは朝から狩りに出掛けたみたいだ。仲間外れにされて少し寂しいが、何か理由があるのだと割り切る事にしている。
さっちゃんを海に行かせる女王への説得は、昼を過ぎてから行うので、それまで暇なわしは、朝食と掃除等を済ませると街に出る。大通りを歩くと皆から声を掛けられるが、軽く挨拶をして孤児院にお邪魔する。
勝手に扉を開けて我が家のように歩き、キッチンに行くと院長のヨンナが座っていたので、挨拶する。
「ババア! 景気はどうにゃ?」
「どうもこうもないよ。儲かって仕方ない。ヒッヒッヒッヒ」
かなり失礼な挨拶をしたにも関わらず、ヨンナは悍ましい笑い方で応えてくれたけど、怖すぎて体がブルっとしてしまった。
「その笑い方は怖いからやめるにゃ~」
「おっと、失礼」
「子供達も元気にしてるかにゃ?」
「ああ。仕事もある。綺麗な服も食べ物もある。笑顔が増えて嬉しいね。ヒッヒッヒッヒ」
「だから、怖いにゃ~」
わしが恐怖に震えていると、ヨンナは話を変える。
「猫は何しに来たんだい?」
「子供達を見に来たのと、お土産を持って来たにゃ。おやつにでも出してやってくれにゃ」
「ありがとよ」
わしは次元倉庫からドーナツを大量に取り出し、ヨンナに渡す。そして、仕事をしていない小さな子供と遊び、仕事をしている子供には声を掛けてから孤児院をあとにする。
「あら、猫ちゃん」
お昼には少し早かったので、ハンターギルドに顔を出し、暇潰しで依頼ボードを眺めていると、ティーサに声を掛けられた。
「こんにゃちは」
「こんにちは。一人でどうしたのですか?」
「にゃにか面白い依頼がないか見ていたにゃ」
「そんな基準で選ばないで、ランクの高い依頼を受けてください。リータちゃんもメイバイちゃんも……あ!」
この反応……ティーサは、二人のしている事を知っているみたいじゃな。
「言い掛けたんだから、最後まで言うにゃ~」
「な、なんでもないです」
「気になるにゃ~。教えて欲しいにゃ~」
「かわいい……じゃなくて、秘密です!」
目を潤ませただけじゃダメか。ティーサはなかなかやるな。じゃが、もうひと押しってところか……仕方ない。
わしはティーサの側に寄り、必殺スリスリ攻撃を炸裂させる。
「知りたいにゃ~。いまにゃら撫で放題も付けるにゃ~」
「うぅ……二人には言わないでくださいね」
落ちたな。わしの人としての尊厳も、またひとつ落ちたけど……
ティーサはお昼休憩に出る時に、わしを発見したみたいだったので、食事に誘って詳しい話を聞く事にする。今回も奢ると言って、お勧めの店に案内してもらった。しかし席に着き、メニューを見ると、わしは驚く事となる。
「た、高いにゃ~」
「情報提供するんですから当然の権利です。私が選びますね~」
やられた……ティーサはこんなにしっかりしていたのか。高級店に連れて来られたあげく、ずっと撫で続けておる。撫で放題なんて言うんじゃなかった。次からは気を付けよう。
食事が次々と運ばれ、わしとティーサは舌鼓を打ちながら会話をする。
「美味しいにゃ~」
「ですよね~。高いから滅多に来れないんですよ」
「お城の料理並みにゃ~」
「ここの料理長が、元王宮料理長なんですよ。でも、猫ちゃんがお城の味なんて、なんで知っているのですか?」
「言って無かったにゃ? ハンターになる前は、お城に住んでたにゃ」
「そうなんですか。あ! だから職業のペットは、女王陛下の許可が必要なんですね」
「そうにゃの……」
あれ? リータ達の情報を聞きに来たのに、わしの情報を聞き出されている。ここまでサービスしておるんじゃから、聞き出さなくては!
「どうしたのですか?」
「わしの事じゃなくて、リータ達の事を聞きに来たにゃ!」
「あ、バレました。上手く誘導できていたのに~」
やっぱりか。危うくティーサの策に嵌まるとこじゃったわい。
「それで、リータ達はどんにゃ依頼を受けているにゃ?」
「仕方ないですね。と、言っても、たいした依頼は受けてませんよ」
「にゃんでもいいにゃ」
「だいたい常時依頼ですね。大きな獲物で、鹿や猪なんかを持ち帰っています。あとはたまに、初心者パーティの方と組んだりしていますね」
「初心者パーティにゃ?」
「キャットカップの打ち上げに、連れて行ったパーティですよ」
「あ~。あの子達にゃ。そんにゃ事もしてるんにゃ~」
「ええ。森の奥に行く手助けをしているみたいです。薬草なんかも分け合っていましたよ」
なるほど。怪我をしないように稼いでいるって感じか。二人が無茶な依頼を受けていないとわかってよかった。わしの目の届かないところで怪我でもしていないか心配じゃったから、話を聞けて安心したわい。
「猫ちゃんほど稼げていませんけど、一般的なハンター程度には稼いでいますよ。だから、猫ちゃんも頑張ってください」
「わしはボチボチやるにゃ~」
「そんなこと言わずに~」
「わしが来てから、ギルドの評価は上がっているんにゃろ? このペースでも十分にゃ」
「そうですけど……休んでばっかりに見えて、もったいなく思うんですよ」
たしかに週三日しか働いていないから、そう見えるか。今回の旅でもかなり稼げたから、しばらく休むつもりじゃし。じゃが、体が資本の仕事じゃから、休みも大事じゃ。
「にゃんでも、ほどほどが一番にゃ。わしが本気を出したら、王都の周りの獣がいなくなっちゃうにゃ。そうなったら、王都から移住しにゃくちゃいけないにゃ」
「それは困ります! 他のハンターの仕事が無くなるのも、猫ちゃんがいなくなるのも困りま、す……あれ? そうなると、いまのペースがベストなの?」
「ほらにゃ」
「なんだか納得がいきません」
「まあまあ。これあげるから落ち着くにゃ」
わしはティーサにネックレスを手渡す。
「わ! きれいですね~」
「ビーダールで買って来た物にゃ。安物で申し訳ないけど、気に入ってくれたみたいだにゃ」
「ありがとうございます。大事にしますね。でも、昨日も会ったのに、どうしてその時、渡してくれなかったのですか?」
「えっと、それは……忘れてたにゃ」
リータとメイバイに見られると、また浮気だなんだと言われ兼ねないからな。買う時も、バレないようにガウリカに頼んだから、大丈夫なはず。
その後、ティーサは世間話をしながらわしを撫で回し、休憩時間の終わりが近付くと、ギルドに帰って行った。わしは乱れた毛を櫛で整え、頃合いと見て、城に向かう。
城に着いて門兵に挨拶をすると、話が通っていたらしく、女王の待つ執務室に案内され、礼を言って中に入る。
「お邪魔するにゃ~……にゃ?」
そこには、女王とさっちゃんだけでなく、双子王女までいた。さっちゃん以外、鋭くわしを見つめ、重たい空気を纏い、女王が口を開く。
「シラタマは海に行くのよね……」
「そ、そうにゃ。にゃんだか、みんにゃ怖いにゃ~」
「私も行く!」
「「わたくし達も行きますわ!」」
話も早々に、女王はいきなり海に行きたいと言い出し、続いて双子王女も声を揃えた。
「にゃ!? さっちゃん。これはどういう事にゃ?」
「いや~。お姉様方にも説得を頼んでみたら、こうなっちゃった。てへぺろ」
女王達の態度に驚いて、さっちゃんに質問したが、舌を出すだけ。さっちゃんの「てへぺろ」にイラッと来たわしは、問い詰めようとするが、その前に、女王と双子王女がわしを問い詰める。
「なにコソコソ話しているのよ。私も行くって言ってるの。答えはイエスよね?」
「そうよ。わたくし達が頼んでいるのよ」
「連れて行く以外の選択肢はないわよね?」
「いや、その~」
「なによ? こんなに頼んでいるのにダメだと言うの?」
わしは頼まれたの? 行くとしか聞いていないんじゃけど……。しかし、美人に一斉に睨まれるのは、こんなに怖いのか。断れる雰囲気でも無いけど、女王が行くとなると、人数的に無理っぽいな。
わしの飛行機の定員は六人。無理して九人。出来れば、猫型になって六人と一匹がベストなんじゃが。
さっちゃんと愉快な仲間達が四人。女王と双子王女を足すと七人でこれがギリギリか。そこに護衛が未知数。それと従者も未知数。
うん。無理じゃな。遠巻きに断ってみよう。
「つかぬ事をお聞きするにゃ~」
「なに?」
「女王様と王女様方に付ける護衛と、従者の数は何人になるにゃ?」
「そうね……サティの護衛を務めている者が三人でしょ。あとはイサベレを連れて行くとして……二十人以上にはなるでしょうね」
「多いにゃ! 乗せ切れないにゃ~」
「じゃあ、減らすわよ。サティの護衛とは約束しているのよね? そこにイサベレだけにする」
「それは少にゃ過ぎではないかにゃ?」
「従者は我慢するし、シラタマとイサベレがいれば大丈夫でしょ?」
「戦力的には大丈夫にゃんだけど……女王の周りを世話する人は必要じゃにゃいのかにゃ~?」
「もう! さっきからごちゃごちゃと……まさか、私達を連れて行きたくないって事なの?」
そうじゃよ! わかっているならやめてくれ!! うっ。睨まれた。また心を読まれてしまっている。
わしを睨んでいた女王と双子王女は、急におねだりモードに突入する。
「そんなこと言わず、連れてってよ~」
「お願いしますわ~」
「一度でいいから海を見てみたいの~」
うお! ここでデレるか。脅しからの優しい言葉って、なんだか策略臭いんじゃけど……
「し、仕事はいいのかにゃ?」
「夫に投げ出すわ」
女王……それでいいのか?
「冗談よ。いまの時期は少ないから、なんとかなるわ。それに私が居ないほうが都合がいい事もあるのよ」
誕生祭のサプライズ的な物かな?
「そんにゃに海が見たいにゃ?」
「だって海よ。海! この数百年、誰も見たこと無いんだから、見たいに決まっているじゃない!」
「はぁ……わかったにゃ」
「本当!?」
「その前に、移動方法を考えさせてくれにゃ」
「いいわよ」
転移魔法は人数に比例して、必要な魔力量が増えていく。さっちゃんたち四人で転移して九割持っていかれたから、この方法は難しい。それに女王に転移魔法は見せたくない。ゴロゴロ。
そうなると、移動は飛行機になる。現在、飛行機は縦三席、横二席の六人乗り。これの乗員を増やす方法がベターか……ゴロゴロ。
となると、増設。大人数を乗せる飛行機は、何度も使うわけではないから、一から作るのは面倒臭い。いまある飛行機の容量を増やすか……ゴロゴロ。
縦に伸ばすとガラスがネックになる。少し不細工じゃが、横に伸ばして、倍の十二人乗りにするか。前後の座席に一席ずつ足せば、十四人乗れるな。ゴロゴロ。
ゴロゴロ~……え~い。うっとうしい! 人(猫)が考えているんだから三人で回すな! 撫で回すな! すな!!
「あの~。考えているんにゃから、そっとしておいてくれにゃいかにゃ?」
「「「「あ……」」」」
「あ……にゃ?」
「「「「おとなしいから、つい……」」」」
全員さっちゃん化! 鶏が先か、卵が先か、どれが始まりなんじゃ?
「はぁ。連れて行けるのは、マックス十四人までにゃ。出来れば十三人が理想にゃ。人数配分を決めてくれにゃ」
今度は女王が考え出し、双子王女も交えて話し合う。さっちゃんはと言うと、話しに参加しないで、わしを撫で回す。
女王とのやり取りに疲れているわしは、ゴロゴロ言うだけであった。
2
お気に入りに追加
1,168
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる