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第六章 ハンター編其の四 遊ぶにゃ~

145 女王と交渉にゃ~

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 依頼の品、皆へのお土産を配った翌日、リータとメイバイは朝から狩りに出掛けたみたいだ。仲間外れにされて少し寂しいが、何か理由があるのだと割り切る事にしている。
 さっちゃんを海に行かせる女王への説得は、昼を過ぎてから行うので、それまで暇なわしは、朝食と掃除等を済ませると街に出る。大通りを歩くと皆から声を掛けられるが、軽く挨拶をして孤児院にお邪魔する。

 勝手に扉を開けて我が家のように歩き、キッチンに行くと院長のヨンナが座っていたので、挨拶する。

「ババア! 景気はどうにゃ?」
「どうもこうもないよ。儲かって仕方ない。ヒッヒッヒッヒ」

 かなり失礼な挨拶をしたにも関わらず、ヨンナはおぞましい笑い方で応えてくれたけど、怖すぎて体がブルっとしてしまった。

「その笑い方は怖いからやめるにゃ~」
「おっと、失礼」
「子供達も元気にしてるかにゃ?」
「ああ。仕事もある。綺麗な服も食べ物もある。笑顔が増えて嬉しいね。ヒッヒッヒッヒ」
「だから、怖いにゃ~」

 わしが恐怖に震えていると、ヨンナは話を変える。

「猫は何しに来たんだい?」
「子供達を見に来たのと、お土産を持って来たにゃ。おやつにでも出してやってくれにゃ」
「ありがとよ」

 わしは次元倉庫からドーナツを大量に取り出し、ヨンナに渡す。そして、仕事をしていない小さな子供と遊び、仕事をしている子供には声を掛けてから孤児院をあとにする。


「あら、猫ちゃん」

 お昼には少し早かったので、ハンターギルドに顔を出し、暇潰しで依頼ボードを眺めていると、ティーサに声を掛けられた。

「こんにゃちは」
「こんにちは。一人でどうしたのですか?」
「にゃにか面白い依頼がないか見ていたにゃ」
「そんな基準で選ばないで、ランクの高い依頼を受けてください。リータちゃんもメイバイちゃんも……あ!」

 この反応……ティーサは、二人のしている事を知っているみたいじゃな。

「言い掛けたんだから、最後まで言うにゃ~」
「な、なんでもないです」
「気になるにゃ~。教えて欲しいにゃ~」
「かわいい……じゃなくて、秘密です!」

 目を潤ませただけじゃダメか。ティーサはなかなかやるな。じゃが、もうひと押しってところか……仕方ない。

 わしはティーサの側に寄り、必殺スリスリ攻撃を炸裂させる。

「知りたいにゃ~。いまにゃら撫で放題も付けるにゃ~」
「うぅ……二人には言わないでくださいね」

 落ちたな。わしの人としての尊厳も、またひとつ落ちたけど……


 ティーサはお昼休憩に出る時に、わしを発見したみたいだったので、食事に誘って詳しい話を聞く事にする。今回も奢ると言って、お勧めの店に案内してもらった。しかし席に着き、メニューを見ると、わしは驚く事となる。

「た、高いにゃ~」
「情報提供するんですから当然の権利です。私が選びますね~」

 やられた……ティーサはこんなにしっかりしていたのか。高級店に連れて来られたあげく、ずっと撫で続けておる。撫で放題なんて言うんじゃなかった。次からは気を付けよう。

 食事が次々と運ばれ、わしとティーサは舌鼓を打ちながら会話をする。

「美味しいにゃ~」
「ですよね~。高いから滅多に来れないんですよ」
「お城の料理並みにゃ~」
「ここの料理長が、元王宮料理長なんですよ。でも、猫ちゃんがお城の味なんて、なんで知っているのですか?」
「言って無かったにゃ? ハンターになる前は、お城に住んでたにゃ」
「そうなんですか。あ! だから職業のペットは、女王陛下の許可が必要なんですね」
「そうにゃの……」

 あれ? リータ達の情報を聞きに来たのに、わしの情報を聞き出されている。ここまでサービスしておるんじゃから、聞き出さなくては!

「どうしたのですか?」
「わしの事じゃなくて、リータ達の事を聞きに来たにゃ!」
「あ、バレました。上手く誘導できていたのに~」

 やっぱりか。危うくティーサの策に嵌まるとこじゃったわい。

「それで、リータ達はどんにゃ依頼を受けているにゃ?」
「仕方ないですね。と、言っても、たいした依頼は受けてませんよ」
「にゃんでもいいにゃ」
「だいたい常時依頼ですね。大きな獲物で、鹿や猪なんかを持ち帰っています。あとはたまに、初心者パーティの方と組んだりしていますね」
「初心者パーティにゃ?」
「キャットカップの打ち上げに、連れて行ったパーティですよ」
「あ~。あの子達にゃ。そんにゃ事もしてるんにゃ~」
「ええ。森の奥に行く手助けをしているみたいです。薬草なんかも分け合っていましたよ」

 なるほど。怪我をしないように稼いでいるって感じか。二人が無茶な依頼を受けていないとわかってよかった。わしの目の届かないところで怪我でもしていないか心配じゃったから、話を聞けて安心したわい。

「猫ちゃんほど稼げていませんけど、一般的なハンター程度には稼いでいますよ。だから、猫ちゃんも頑張ってください」
「わしはボチボチやるにゃ~」
「そんなこと言わずに~」
「わしが来てから、ギルドの評価は上がっているんにゃろ? このペースでも十分にゃ」
「そうですけど……休んでばっかりに見えて、もったいなく思うんですよ」

 たしかに週三日しか働いていないから、そう見えるか。今回の旅でもかなり稼げたから、しばらく休むつもりじゃし。じゃが、体が資本の仕事じゃから、休みも大事じゃ。

「にゃんでも、ほどほどが一番にゃ。わしが本気を出したら、王都の周りの獣がいなくなっちゃうにゃ。そうなったら、王都から移住しにゃくちゃいけないにゃ」
「それは困ります! 他のハンターの仕事が無くなるのも、猫ちゃんがいなくなるのも困りま、す……あれ? そうなると、いまのペースがベストなの?」
「ほらにゃ」
「なんだか納得がいきません」
「まあまあ。これあげるから落ち着くにゃ」

 わしはティーサにネックレスを手渡す。

「わ! きれいですね~」
「ビーダールで買って来た物にゃ。安物で申し訳ないけど、気に入ってくれたみたいだにゃ」
「ありがとうございます。大事にしますね。でも、昨日も会ったのに、どうしてその時、渡してくれなかったのですか?」
「えっと、それは……忘れてたにゃ」

 リータとメイバイに見られると、また浮気だなんだと言われ兼ねないからな。買う時も、バレないようにガウリカに頼んだから、大丈夫なはず。


 その後、ティーサは世間話をしながらわしを撫で回し、休憩時間の終わりが近付くと、ギルドに帰って行った。わしは乱れた毛を櫛で整え、頃合いと見て、城に向かう。
 城に着いて門兵に挨拶をすると、話が通っていたらしく、女王の待つ執務室に案内され、礼を言って中に入る。

「お邪魔するにゃ~……にゃ?」

 そこには、女王とさっちゃんだけでなく、双子王女までいた。さっちゃん以外、鋭くわしを見つめ、重たい空気をまとい、女王が口を開く。

「シラタマは海に行くのよね……」
「そ、そうにゃ。にゃんだか、みんにゃ怖いにゃ~」
「私も行く!」
「「わたくし達も行きますわ!」」

 話も早々に、女王はいきなり海に行きたいと言い出し、続いて双子王女も声を揃えた。

「にゃ!? さっちゃん。これはどういう事にゃ?」
「いや~。お姉様方にも説得を頼んでみたら、こうなっちゃった。てへぺろ」

 女王達の態度に驚いて、さっちゃんに質問したが、舌を出すだけ。さっちゃんの「てへぺろ」にイラッと来たわしは、問い詰めようとするが、その前に、女王と双子王女がわしを問い詰める。

「なにコソコソ話しているのよ。私も行くって言ってるの。答えはイエスよね?」
「そうよ。わたくし達が頼んでいるのよ」
「連れて行く以外の選択肢はないわよね?」
「いや、その~」
「なによ? こんなに頼んでいるのにダメだと言うの?」

 わしは頼まれたの? 行くとしか聞いていないんじゃけど……。しかし、美人に一斉に睨まれるのは、こんなに怖いのか。断れる雰囲気でも無いけど、女王が行くとなると、人数的に無理っぽいな。
 わしの飛行機の定員は六人。無理して九人。出来れば、猫型になって六人と一匹がベストなんじゃが。
 さっちゃんと愉快な仲間達が四人。女王と双子王女を足すと七人でこれがギリギリか。そこに護衛が未知数。それと従者も未知数。
 うん。無理じゃな。遠巻きに断ってみよう。

「つかぬ事をお聞きするにゃ~」
「なに?」
「女王様と王女様方に付ける護衛と、従者の数は何人になるにゃ?」
「そうね……サティの護衛を務めている者が三人でしょ。あとはイサベレを連れて行くとして……二十人以上にはなるでしょうね」
「多いにゃ! 乗せ切れないにゃ~」
「じゃあ、減らすわよ。サティの護衛とは約束しているのよね? そこにイサベレだけにする」
「それは少にゃ過ぎではないかにゃ?」
「従者は我慢するし、シラタマとイサベレがいれば大丈夫でしょ?」
「戦力的には大丈夫にゃんだけど……女王の周りを世話する人は必要じゃにゃいのかにゃ~?」
「もう! さっきからごちゃごちゃと……まさか、私達を連れて行きたくないって事なの?」

 そうじゃよ! わかっているならやめてくれ!! うっ。睨まれた。また心を読まれてしまっている。

 わしを睨んでいた女王と双子王女は、急におねだりモードに突入する。

「そんなこと言わず、連れてってよ~」
「お願いしますわ~」
「一度でいいから海を見てみたいの~」

 うお! ここでデレるか。脅しからの優しい言葉って、なんだか策略臭いんじゃけど……

「し、仕事はいいのかにゃ?」
「夫に投げ出すわ」

 女王……それでいいのか?

「冗談よ。いまの時期は少ないから、なんとかなるわ。それに私が居ないほうが都合がいい事もあるのよ」

 誕生祭のサプライズ的な物かな?

「そんにゃに海が見たいにゃ?」
「だって海よ。海! この数百年、誰も見たこと無いんだから、見たいに決まっているじゃない!」
「はぁ……わかったにゃ」
「本当!?」
「その前に、移動方法を考えさせてくれにゃ」
「いいわよ」

 転移魔法は人数に比例して、必要な魔力量が増えていく。さっちゃんたち四人で転移して九割持っていかれたから、この方法は難しい。それに女王に転移魔法は見せたくない。ゴロゴロ。
 そうなると、移動は飛行機になる。現在、飛行機は縦三席、横二席の六人乗り。これの乗員を増やす方法がベターか……ゴロゴロ。
 となると、増設。大人数を乗せる飛行機は、何度も使うわけではないから、一から作るのは面倒臭い。いまある飛行機の容量を増やすか……ゴロゴロ。
 縦に伸ばすとガラスがネックになる。少し不細工じゃが、横に伸ばして、倍の十二人乗りにするか。前後の座席に一席ずつ足せば、十四人乗れるな。ゴロゴロ。

 ゴロゴロ~……え~い。うっとうしい! 人(猫)が考えているんだから三人で回すな! 撫で回すな! すな!!

「あの~。考えているんにゃから、そっとしておいてくれにゃいかにゃ?」
「「「「あ……」」」」
「あ……にゃ?」
「「「「おとなしいから、つい……」」」」

 全員さっちゃん化! 鶏が先か、卵が先か、どれが始まりなんじゃ?

「はぁ。連れて行けるのは、マックス十四人までにゃ。出来れば十三人が理想にゃ。人数配分を決めてくれにゃ」


 今度は女王が考え出し、双子王女も交えて話し合う。さっちゃんはと言うと、話しに参加しないで、わしを撫で回す。
 女王とのやり取りに疲れているわしは、ゴロゴロ言うだけであった。
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