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第六章 ハンター編其の四 遊ぶにゃ~

142 旅の報告にゃ~

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 我輩は猫又である。名前はシラタマだ。わしの家は溜まり場ではない。
 女王誕生祭での贈り物を手に入れて来いと、ハンターギルドや商業ギルドから押し付けられ、南の小国ビーダールまで足を運び、紆余曲折はあったが無事仕事を終えて帰って来たのだが……

「スティナ! 起きるにゃ!」
「うう~ん……シラタマちゃん?」
「また服を脱いでるにゃ~」
「あれ? いつの間に……」
「いいからお風呂に入ってスッキリして来るにゃ。みんにゃ、もう入ってるにゃ」
「シラタマちゃんがいるから、湯船が広くなってるのね! やっぱりお風呂は広くなくっちゃ」
「それにゃら、大衆浴場に行けばいいにゃ~」
「もう。いじわる~。入って来るわ~」
「せめて服を来て歩くにゃ~」
「はいは~い」

 ビーダールへの旅から戻った翌日、居間で酔い潰れて寝ていたアダルトフォーを起こし、最後の一人、スティナを風呂場に送り込む。
 エミリは早くに起きて、全員分の朝食を作ってくれているので、わしはキッチンに移動して労いの言葉を掛ける。

「エミリ。ありがとうにゃ」
「いえ。ねこさんに料理を作れて嬉しいです」
「少し疲れているように見えるけど、ちゃんと休んでいるにゃ?」
「休んでますよ。昨日、いっぱい寝ましたから大丈夫です」
「それにゃらいいんにゃが……あ、エミリにプレゼントがあるにゃ」
「え? プレゼントなら調味料を……」

 わしは昨日作ったペンダントを、エミリの首に掛けてあげる。そして、使えるように、魔法の練習をする旨も伝える。エミリのアクセサリーには暴漢対策に、風の玉を入れておいた。

「わあ~。綺麗です~……でも、こんな高そうな物、貰えません」
「いつも美味しい料理を作ってもらっているお礼にゃ」
「そんな……お給金も貰っているのに……」
「感謝の気持ちだから貰ってくれにゃ」
「……はい。お返しです」

 エミリはわしに抱きつき、頬にキスをする。そんな姿を見ている者がいた。

「シラタマさん……何しているのですか?」
「堂々と浮気してるニャー!」

 リータとメイバイだ。何やら勘違いして怒っているようだ。

「二人とも、子供のやる事にゃ。そんにゃに怒る事じゃないにゃ」
「「でも~」」
「心配しなくても、わしが秘密を話せるのは二人だけにゃ」
「そうですね!」

 二人は納得してくれたが、エミリはわし達の会話が気になるようだ。

「ねこさんの秘密ってなんですか?」
「秘密ニャー!」
「??」
「ほら、料理を運ぶの手伝ってくれにゃ」
「「は~い(ニャ)」」

 わしは料理を持ったリータとメイバイを連れて、居間に移動する。そうして配膳していると、二人はエミリについて質問して来た。

「シラタマ殿は、なんでエミリを気にかけるニャ?」
「……これも秘密なんにゃが、エミリの死んだお母さんは、わしの同郷にゃ」
「え……元の世界ですか?」
「そうにゃ。だからわしは、エミリを自分の子供のように思っているのかも知れないにゃ」
「そうだったニャ!?」
「先の話ににゃるけど、エミリにその事を伝えてもいいかにゃ?」
「はい。エミリちゃんはお母さんの事を、知る権利があります」
「シラタマ殿の好きにしていいニャ!」
「二人とも……ありがとにゃ」

 わしは二人を抱き締めたいが、背が足りないので抱きつく。二人はそんなわしを撫で回す。

「ゴロゴロ~」
「またやっているのか……」

 お風呂から上がったらガウリカに、わし達のスキンシップをジト目で見られてしまった。

「ゴロゴロ~」
「ああ、はいはい。それで、今日はどこから回る?」
「ゴロゴロ~。主要メンバーが揃っているから城を最後にして、みんにゃに予定を聞こうにゃ」
「たしかに。その方がいいか」
「ゴロゴロ~」

 ガウリカと今日の予定をゴロゴロ言いながら話し合っていると、エンマとフレアが居間に入って来た。

「あら? シラタマさん。今日はおとなしいのですね。私も撫でさせてください」
「私も私も!」
「「あ!」」

 リータとメイバイは、お風呂から上がって来たエンマとフレヤに、わしを奪い取られる。わしは撫でられるのを断るのが面倒なので、ぬいぐるみとなって、甘んじて撫で回しを受ける。

「ゴロゴロ~」
「ホントおとなしいね~」
「「シラタマ(殿)さん!」」
「猫……お前も大変だな~」

 わかってくれるか。ガウリカが一番の理解者かもしれない。そんな事を言うと角が立ちそうだから、絶対言わないけど……

「ゴロゴロ~」
「わ! おとなしい……私も抱く!!」

 わしが撫でられてゴロゴロ言っていると、お風呂上りのスティナが近付くが、リータとメイバイが通せんぼする。

「スティナさんはダメです!」
「服を着るニャー!」
「ケチ~」
「ゴロゴロ~」

 お! リータとメイバイが、わしの代弁をしてくれている。ゴロゴロ言っているほうが楽じゃわい。

「シラタマさんも、いい加減にしてください!」
「そうニャ! いつまでゴロゴロ言ってるニャー!」

 あれ? 怒られた。やり過ぎじゃったかのう。仕方ない。

「みんにゃ揃ったし、朝ごはんにするにゃ~。あと、スティナは服を着て来るにゃ!」
「え~~~!」
「え~。じゃにゃい! 着て来ないと、ごはん抜きにするにゃ」
「わかったわよ~」
「にゃはは」
「なに笑ってるのよ~」
「にゃんでもないにゃ……にゃははは」
「「「「アハハハハ」」」」
「みんなまで……もう! アハハハハ」

 騒がしい一日の始まり。わしは長旅から帰って来たのだと嬉しくなって笑う。皆もいつもの一日を思い出し、釣られて笑うのであった。


 朝食を食べ始め、旅の報告をどこからするかを決める。
 エンマは朝に来客があるらしいので最後になり、スティナが早くして欲しいとのことで一番。フレヤはいつでもいいみたいなので二番となった。

 朝食の後片付けを終えると、全員で家を出る。
 皆、同じ道を歩き、別れ道が来ると一人、また一人と職場に向かう。エミリと別れる時には、留守の家の管理をしてくれていた子供に、今日からはいらない事を伝えてもらう。
 最後の一人、目的地のスティナの職場、ハンターギルドに入ると、ギルドマスターの部屋で旅の報告を行う。

「動物は白一、黒二と狩って来たけど、どれを王のオッサンに売るにゃ?」
「迷わず白でしょう! それ以外ないわ!!」
「白にゃ~……」
「どうしたの?」
「白は大きいにゃ。女王にサプライズで贈るとしたら、バレてしまうにゃ」
「なるほど……そんな物を買い取ったら目立つわね。いいわ。王殿下と相談してから、買い取る日取りを決めるわ」
「わかったにゃ」
「お金の支払いは、それ以降になるけど大丈夫?」
「黒を二匹売るから問題ないにゃ」
「それも助かるわ~。シラタマちゃんが来てから、私の評価が上がって仕方ないわ~」
「たまには良い酒を奢るにゃ~」
「いいわよ。今度持って行くから楽しみにしててね」
「わかったにゃ。それじゃあ、行くにゃ~」

 わし達はギルマスの部屋を出て、買い取りカウンターに向かうのだが、ガウリカが難しい顔をしている。

「猫……大きさの事を言わなくてよかったのか?」
「言ったにゃ」
「いや、あれでは伝わっていないと思うぞ」
「あんなに大きな物、いきなり出したら驚かれますよ」
「ぜったい問題になるニャー」

 ガウリカに続き、リータとメイバイもわしに注意する。

「ちゃんと大きさを確認しにゃかった、スティナが悪いにゃ。それに……」
「「「それに?」」」
「そのほうが面白いにゃ?」
「怒られても知りませんからね」
「そこは全体責任でお願いするにゃ~」
「「「ダメ!」」」
「そんにゃ~」

 そうこう言いながら、買い取りカウンターで黒鷹と黒丸鼠まるねずみ、丸鼠五十匹を買い取ってもらう。オアシスの村で譲った五十数匹の丸鼠の証明部位も、忘れずに提出した。
 相談の上、ガウリカに十匹の丸鼠の代金を受け取ってもらい、ポイントも各自に振り分ける。その報告書を持って、ティーサに挨拶をする。

「ただいまにゃ~」
「猫ちゃん、おかえりなさい。猫ちゃんの居ない間、ギルドが静かで寂しかったんですよ~」
「静かなほうが、わしは好きにゃ~」

 ティーサがわしの帰りを嬉しそうに出迎えて頭を撫でていると、リータが会話に入って来る。

「そう言えば、シラタマさんがハンターになる前は、もっと静かでしたね。今日も猫、猫と言っています」
「でしょう? これぐらい活気が無いと眠くなっちゃいます」
「寝るにゃ~!」
「アハハ。嫌だな~。冗談ですよ」
「ホントかにゃ~?」
「それより、報告書を出しに来たのですよね?」
「話を変えたにゃ……」
「アハハハ」

 わしがジト目で見ると、ティーサは笑ってごまかすので、呆れて追及はやめる。

「はぁ。他所のギルドの依頼完了書でも、ここで受け取れたにゃ?」
「はい。支払いは遅れますけど。大丈夫です」
「それじゃあ、お願いするにゃ」
「黒鷹……黒丸鼠……丸鼠が百!?」

 依頼完了書と報告書に目を通したティーサは、驚きのあまり声が大きくなった。

「ポイントの振り分けは決めてあるから、そうしてくれにゃ」
「はぁ。ホント猫ちゃんには驚かされてばっかりです。このDランクの依頼完了書は安いですけど、受けたのですか? 珍しいですね」
「ちょっと面白そうだったから受けたにゃ」
「そんなので決めるなんて、変わっていますね」
「にゃはは」

 わしが笑ってごまかしていると、ティーサは石板をカタカタと打って、しばらくすると顔を上げた。

「はい。終了です。この調子で行くと、王都ナンバーワンハンターになる日もすぐですね」
「そんにゃの興味ないにゃ」
「そんなこと言わず、頑張ってください」
「ボチボチやるにゃ。ほにゃ、さいにゃら~」

 ティーサは何を期待しておるんじゃ。そんなものになって何が楽しい。リータ達のキラキラした目は痛いが、興味ない物は興味ない。それに、こんな事を考えているとフラグが立ちそうじゃし、考えるのはやめに……


「見つけたぞ、猫!!」

 ティーサと別れを告げて、ギルドから出ようと入口に向かうと、勢いよくギルドに入って来た男が言い放つ。

「王都ナンバーワンハンターは、この俺様。バーカリアン様だ!」

 はぁ……遅かったか。

 一通り叫んだバーカリアンはマントをたなびかせて颯爽さっそうと歩き、わしに詰め寄る。

「猫! 貴様のせいで俺の人気が下がっている。どうしてくれるんだ! あの時は殊勝な奴だと関心していたが、騙したんだな! 俺様と勝負しろ!!」

 やっぱり何を言っているかわからん。馬鹿の相手は面倒じゃし、適当にあしらおう。

「お前なんかが、シラタマ殿に勝てるわけないニャー!」
「なんだと~!」

 わしが喋り出す前に、メイバイがバーカリアンに文句を言うので、わしは二人の間に体を入れる。

「メイバイ。バーカリアンさんに、失礼にゃ事を言うにゃ」
「事実ニャ……」
「今は黙っていてくれにゃ。にゃ?」
「はいニャ……」

 メイバイを宥めると、わしはバーカリアンの方向に体を向ける。

「バーカリアンさん。仲間が失礼をして、申し訳ないにゃ」
「さあ! 勝負だ!!」
「それにゃんですが、勝負したところで偉大にゃバーカリアンさんに、勝てるわけがないですにゃ~」
「に、逃げるのか!?」
「事実を言っているだけですにゃ。わしはバーカリアンさんのようにゃ素晴らしいハンターになりたくて、日々精進してますにゃ~」
「そうなのか?」
「努力して、ギルド職員からお褒めの言葉をいただけるようににゃったのですが……」
「やっぱり、貴様!」
「努力すればするほど、バーカリアンさんの偉大さを痛感していますにゃ」
「ほう……」

 これで怒りバラメーターは下がったかな? 最後の仕上げ。懐に次元倉庫を開いて、サイン色紙を取り出す。

「バーカリアンさんを尊敬するわしは、肌身離さず持ち歩いていますにゃ~」
「おお! そうだったのか。俺様も強く言い過ぎたかもしれない」
「滅相もないですにゃ」
「俺様に追い付くのは難しいだろうけど、猫君も頑張るんだぞ」
「はいにゃ!」
「では、さらばだ! ハーハッハッハー」

 笑い声と共に、バーカリアンはマントをたなびかせ、颯爽と去って行った。そうすると、わしの隣にリータとメイバイが立って、話し掛けて来る。

「また、何もしないで行っちゃいましたね……」
「なんで言いたい放題言われてたニャ?」
「バカの扱いは、アレが正しいにゃ」

 わしの発言に、二人は生温い目で見て来る。

「シラタマ殿……」
「ひどいです」
「ケンカするよりマシにゃ~!」
「いや、勝負してやったほうが、アイツの為になるんじゃないか?」
「そ、そんにゃ事ないにゃ……」

 ジーーー

「ハンターギルドの用も終わったし、つぎ行くにゃ!」

 リータとメイバイだけでなく、ガウリカまでわしを生温い目で見て来るので話をすり替え、わし達は次の目的地、フレヤの店に向かう。


 店に入ると、待ってましたとフレヤはわし達を奥へ連れて行き、そこでわしは、次元倉庫からお土産を手渡す。

「はい。お土産にゃ~」
「猫ちゃん、ありがと~」
「お礼を言うにゃら、ガウリカに言うにゃ。わしはセンスがないから、選んでもらったにゃ」
「いや、あたしは……リータとメイバイにも意見を聞いたからな」
「みんなありがとう。どれもかわいいわ。特に、これなんて」

 フレヤは広げて置いてあるお土産の服の中からひとつを選び、持ち上げて自分の体に当てる。すると、ガウリカの顔が曇った。

「それは……」
「ガウリカが選んだにゃ?」
「はい」
「意外にゃ。フリフリがいっぱい付いてるにゃ~。ガウリカも着たいにゃ?」
「バッ! そんなわけないだろう!」
「じゃあ、王女様のハリシャに着せたいんにゃ~」
「何を言って……」

 わしがガウリカをからかっていると、フレヤが身を乗り出して来た。

「なにその話! 詳しく聞かせて!!」

 おぅ……服より百合の話に食い付いたか。圧が凄い。さすが腐った脳を持つフレヤ。こっちをお土産にすれば、タダで済んだな。もったいない事をしたわい。


 それからガウリカとハリシャの関係を、ある事ない事聞かせていたら、ガウリカにわしの頭を両拳で挟まれ、グリグリされたのであった。
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