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第五章 ハンター編其の三 旅に出るにゃ~

134 白い巨象をぶちのめすにゃ~

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「あなた達、わかった? 交尾なら巣でやりなさい!!」
「「「はい! すみませんでした!!」」」

 わし達がイチャイチャしていたら、白象にこっぴどく怒られた。白象は、土魔法を交えた大きな足の打ち付けで地面を揺らし、わし達に向けて地割れを起こして、落とそうとしやがった。

 わしは交尾もイチャイチャもしとらんのじゃけど……ただ撫でられただけじゃ。おっと、よけいな事を考えるのはよそう。次は直撃されかねない。
 てか、話は聞いたが、これは無理じゃな。白い巨象は、さっきの白象の攻撃の余波を受けてもヒビすら入っていない。うん。断ろう。

「ことわ……」
「その願い、うけたまわったニャー!」
「シラタマさんに任せてください! 絶対にご先祖様を救ってくれます!」

 わしが断ろうとしているのに、リータとメイバイが勝手に仕事を受ける。

「いや、わしは……」
「ホント? ありがとう。ありがとう……パオ~~~ン!」
「待っ……」
「「「「「パオ~~~ン!」」」」」
「「ぱお~~~ん!(ニャー!)」」

 二人の念話を聞いた白象は涙を流し、歓喜の声をあげる。その声に反応し、全ての象と、リータとメイバイが呼応する。
 そんな中、わしは受けたつもりがないので黙り込むのだが……

「ほら、シラタマさんも。ぱお~ん!」
「シラタマ殿も言うニャー。ぱお~んニャ!」

 ジーーーー

「………くそ! ぱお~~~んにゃ!!」
「「「「「パオ~~~ン!」」」」」
「「「ぱお~~~ん(にゃ)!」」」

 全象の涙ぐむ視線を受けて、わしはヤケクソになって叫ぶしかなかったとさ。


 まだ解決もしていないのに、解決したような喜びようなんじゃが……どうやって殺したらいいんじゃ? てか、この中で一番小さいわしを頼るな!!

 当然、わしの心の声は誰にも届かなかった。喜ぶ象達の大合唱は、森の中に響き渡り、なかなか終わる気配がなかったので、強引に止めさせてもらった。

 ああ! 耳が痛い。どんだけデカイ声を出すんじゃ。リータは両手で塞げるけど、わしとメイバイはうまく塞げないんじゃぞ! メイバイ……生きておるか?

 わしが動く気配のないメイバイの心配をしていると、白象が前に出て来た。

「それで、どうやって殺すの?」
「そんな方法、わしが聞きたいわ!」
「はあ? 受けたじゃない! 殺す方法があるから受けたんでしょ!!」
「いや、わしは断る気じゃったけど、あの二人が……」
「え……シラタマさんでも無理なんですか?」
「シラタマ殿なら出来ると思っていたニャー」

 リータとメイバイが驚いていると、白象は二人に冷たい視線を送る。

「人間に騙された……やっぱり人間は滅ぼすしか……」
「ま、待て! やるだけやるから、物騒な事を言うな。それに、お前達が出来ない事をやるんじゃぞ? 失敗しても四の五の言うなよ」
「うぅ。わかったわよ」

 ついに自分からやるって言ってしまった……。さて、やるからにはどうやって殺そう?
 次元倉庫に入れるか? 生き物なら拒否されなければ殺せるじゃろうが、現在、岩山だから完全に息の根を止められるとは限らない。
 これは最終手段で、殺したって事にするか。嘘になるが、この世界からは居なくなるから、半分達成ってとこじゃな。
 次に可能性があるのが、今まで貯め込んだ魔力のストックを使った最大魔法。これで死ななきゃ無理じゃ。ただ、死ななかったら魔力の無駄使いになる。貧乏性だから出来れば使いたくない。
 とりあえず、強度確認だけはしておくか。


「白象! ちょっと協力しろ」
「出来る事ならするわ」

 わしは白象に、巨象の頭だと思われる周辺の木を移動してもらう。広範囲となってしまったが、白象に疲れが見え始めた頃に、巨象の顔があらわになった。

「こいつは……」
「なに、この鼻の数……」
「五、六、七本あるニャ……」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないわ!」

 角は無いが、鼻七本か。白象が三本でキョリスよりやや弱い。キョリスが尻尾三本、角二本。その上がハハリスで尻尾四本。
 わしの力は森を出た時より強くなっているから、およそハハリスの二倍。これは人間最強のイサベレの二十倍以上になる。
 では、巨象は? 高さ50メートルを超える巨体と七本の鼻。少なく見積もってもわしの三倍。多くて六倍。死にかけと言っていたから、下限の三倍が妥当か……
 まぁ動かないから怪我をする事は無い。やるだけやってみよう。


 わしは全員を下がらせると、動かない巨象との戦闘を始める。

 まずは下準備。象の額付近に飛び乗り、触れながらの探知魔法……オン! う~ん。体内に魔力を飛ばして見たが、臓器などの位置がよくわからん。致し方ない。当たりをつけて、下準備のマーキング。よし! これで下準備はオッケーじゃ。

 それじゃあ、小手調べから行きますか。通常使っている【鎌鼬】じゃ!

 ………まったく傷は無し。

 ならば【白猫刀】に【鎌鼬】を纏わせて、ちぇすと~!!

 ………つっ! 痺れた~。

 刃毀はこぼれは……無し。ホッ。じゃなくて、これも傷は無し。

 硬い……岩ならもっと簡単に傷が付いてもいいんじゃがな。巨象の防御力が、岩で強化されておるのか? 厄介じゃな。

 ダメ元で、土魔法操作!

 ………反応がない。土とは違うのか。


 わしが動きを止めて考えていると、リータが寄って来て声を掛ける。

「シラタマさん。どうですか?」
「これは硬いにゃ。本気を出すから、もっと離れるように言って来て欲しいにゃ」
「わかりました」

 リータはわしの指示に従い、白象の元に駆け寄って言葉を掛ける。全員が離れるのを見て、わしは変身魔法を解いて、元の猫又に戻る。

 さあて……やりますか。まずは【大鎌】じゃ!

 わしは【鎌鼬】を巨大にした風魔法を使う。【大鎌】は巨象を一刀両断できるほどの大きさで、音速に近い速度で巨象にぶつかる。

 少し傷が付いたかな? どんどん行こう! 次は【朱雀】!

 【朱雀】は、対キョリス用に作った強力な火魔法だ。10メートルの巨大な鳥を模した姿を持ち、岩をも溶かす熱量で巨象に張り付く。

 これは布石で、次の【青龍】。行け!

 次に放つは、巨大な龍を型取った氷の塊。【青龍】の飛ぶ軌跡は一瞬で凍りつき、巨象を急速に冷やす。【朱雀】と【青龍】の寒暖差による岩の劣化を期待する。

 もういっちょ! 【大鎌】からの【肉体強化マックス】!!

 急速に冷やされた巨象に【大鎌】をぶつけ、【肉体強化】をしたわしが、スリップストリートに入り、頭から突撃する。
 そして、ネコパンチネコパンチネコパンチ。ひかっきを入れてからの頭突き。巨象に向けて、体を使った攻撃を数百行い、辺りには轟音が響き渡る。

 ラスト! 【大鎌二連】!!


 二本の大きな鎌が巨象にぶつかって霧散すると、わしは大きく息を吐く。

「ふぅ~~~」

 これだけやって傷が付いただけか……鼻の一本ぐらい折ってやりたかった。強くなったと思ったけど、まだまだじゃわい。

「今日のところは、これで終わりじゃ……あれ?」

 わしは終りを告げて振り返るが、皆の姿が遠く離れていた。

 おお! 集中していたから気付かなかったけど、100メートルぐらい押し込んだか。80センチしかないわしが、50メートルの巨象をこんなに動かすとは……これはこれで、おかしな話じゃわい。

 わしは走ってリータ達の元に戻り、念話で白象に話し掛ける。

「今日のところは、この辺で終りにしていいか?」
「う、うん……」
「どうした?」
「なんでそんなに小さいのに、私より力があるのよ!!」

 どうやら白象は、わしと同じ疑問を持っていたようだ。
 そうして白象のツッコミを軽く流していると、リータとメイバイが心配した声を出す。

「シラタマさん。血が出てます……」
「痛そうニャー」
「ああ、これぐらい大丈夫じゃ。痛いの痛いの飛んで行け~」

 わしは頭突きや爪を使った際に、痛めた体を回復魔法で癒す。

 心配をかけたか? キョリスとの修行の日々で、もっとひどい怪我を負った事があるから、痛みに鈍感になっていたかもしれない。
 あとは水魔法と吸収魔法で綺麗さっぱりじゃ。綺麗になったものの魔力が少ないし、しばらく猫又のままでいるか。

「え……治ったのですか?」
「わしはこれぐらいの傷なら、魔法で簡単に治せるから心配するな」
「そんな魔法まで……シラタマさんはやっぱり凄いんですね!」
「魔法も凄かったニャー! 大きな火の鳥が出たニャー!」
「ネコパンチも凄かったです!」
「人型より、元の姿のほうが強いって本当だったニャ!」
「この小さな体の、どこに力があるんでしょうか?」
「ホントに。モフモフしてるのにニャー?」

 モフモフと力は関係無いと思うんじゃが……そんなに触っても、わかるのは毛並みだけじゃぞ?

「それとずっと気になっていたのですが……」
「なんじゃ?」
「その口調はなんですか?」
「『にゃ』が、付いてないニャー」

 あ……猫被るの忘れてた。まぁ二人だったら本当の事を言っていいじゃろう。

「これが本来の喋り方じゃ。人型に変身した時は、口のせいで『にゃ』が付いてしまっているが、念話で話す時は、いつもは怖がらせないように猫被っていたんじゃ」
「猫被るって……」
「もう被っているニャー!」
「脱げるんですか?」
「わ! 脱げないから引っ張るな~」

 その後、二人におもちゃにされていたら、白象にまた怒られたのは言うまでもない。


 そうして皆が落ち着いたところで、白象と今後の話に移る。

「白象。今日は魔法を使い過ぎたから帰る。続きはまた明日じゃ」
「そう。それで殺せそう?」
「手応えはある。なんとかなりそうじゃ」
「本当! よかった~」
「つきましては、報酬の話しに移りたいと思います」
「急に改まって、なに?」
「わしが巨象を殺せたら、死体をいただきたい」
「そんなこと? 獲物は強者の物。自然のルールじゃない」
「これは人間の腹に入る事を意味しているんじゃ」
「……いいわ。好きにしなさい」
「交渉成立じゃな」
「報酬か……良い物があるかも。乗りなさい」

 白象は長い鼻を使い、わし達を背に乗せて移動を始める。木々を避けさせ、ズシンズシンと音を立てて進み、最後に避けた木々の間から遺跡らしき建物が現れた。

「「うわ~」」
「ここは?」
「人間の住んでいた場所よ」

 ふ~ん。何百年経っているんじゃろう? 言っちゃなんじゃが、森に押し潰されて、いい物なんてありそうにない。わしの別荘にするかな? 蒸し暑いからやめたほうがいいか。念の為、マーキングだけしておくか。

「リータ、メイバイ。危ないから中に入るな。入るのは、わしと一緒の時だけじゃ」
「はい」
「いや、抱かなくてもいいんじゃぞ?」
「リータ。あっち行くニャー」

 わしの訴えは聞く耳を持たず。メイバイは中央を目指して走って行き、リータは猫型のわしを抱き抱え、メイバイを追う。中央には大きな神殿のような物があり、木々があちこちから飛び出して崩れかけているが、形は保っていた。
 その入口付近まで近付くと石像があったので、わし達はじっくりと観察する。

「これは人と象の石像でしょうか?」
「みたいだにゃ」
「握手しるみたいニャー」

 なるほど。白象が人間の姿を知っていたのは、この石像のおかげか。たしかに石像を見る限り、昔は仲が良かったんじゃな。

「ここから入れそうニャー」
「メイバイさん。はい。交替です」
「ありがとニャー」
「わしも歩く……」
「行きましょう」

 今度はメイバイに抱き抱えられ、神殿の中に進む。

「広いニャー」
「外とは違い、象の石像は多くありますけど、それ以外は何もないですね」
「シラタマ殿の石像のほうが、かわいいニャー」
「そうですね」

 なんでそうなる? じゃなく、ここは祭壇か? いや、闘技場? 昔テレビで見た事があるような……競馬場のパドックが近いかな? もしかしたら、白象教の総本山ってところかのう。

「他の部屋も、特に何も無いですね」
「あそこ。地下がありそうニャ-」

 広い空間から何個も部屋を見て回るが、半数がもぬけの殻、半数が潰れてしまっていた。なので、メイバイが発見した地下へと続く階段を下る。

「ここも何も無いニャー」
「価値のある物は持ち出されたあとみたいじゃな」
「この石板は、何でしょう?」
「字が書いてあるニャ-」
「シラタマさん。読めませんか?」
「なんでわしが?」
「読めそうな気がします」
「シラタマ殿なら読めるニャ!」
「う~ん。どれどれ……」

 これは象形文字じゃな。遠い昔には、英語以外にも文字があったのか。じゃが、わしに読めるわけがない。二人のキラキラした目が痛いし、本当の事を言おう。

「これは読めん。依頼主のジジイのお土産にしよう」
「そうなんですか……」
「がっかりニャー」

 いや、そんなに残念そうな顔をしないで!

「そんなに気を落とさないでもいいじゃろう。それより、ろくな物も無いし、そろそろ帰るとしよう。あ、その前に、お風呂にしようかのう?」
「はい!」
「癒すニャー」

 復活した……わしとお風呂に入るのが、そんなに嬉しいのか?


 お風呂を済ませると白象に帰る旨を伝え、飛行機と車を乗り継いで帰路に着く。門の近くになると人型に変身して、騒がしい街の中に入り、依頼主の老人がいるであろう酒場の扉を潜る。
 すると、酒場の中は騒がしく、またわしを見て騒いでいるのかと思ったが、どうも違うようだ。
 不思議に思えたが、先に依頼主の老人を探そうとキョロキョロしていたら、ガウリカがわしに気付いて近付いて来た。

「戻ったのか?」
「ガウリカ。にゃにを騒いでいるにゃ?」
「こいつらが森で変な声を気いたんだとさ。白い巨象が帰って来たんじゃないかと街で騒ぎになっている」
「へ~。そんにゃに遠くまで聞こえたんにゃ~」
「何か知っているのか? まさか、白い巨象に会ったのか!?」
「まぁにゃ。ジジイは……あそこだにゃ。報告して来るにゃ」
「あたしも聞く!」

 わし達は酒場の奥に移動するが、ガウリカだけでなく、酒場にいた全員が、わし達を取り囲む。老人はまた酔い潰れて寝ていたので、叩き起こして依頼の報告をする。
 伝説の白い巨象が生きていたと知った人々は喜ぶが、高さ50メートルの岩山になっていたと聞くと、疑い出す。さらに人間の行いを説明すると、そんな事はないと罵声ばせいが飛び交う。

「うるさいにゃ! 本当の事にゃ! あと、これ。南西の森の奥にあった神殿から持ち帰ったにゃ」

 ブーイングをしている者を怒鳴り付けたわしは、次元倉庫から石板を取り出して老人の前に並べる。

「石板か……かなり古い物だな」
「読めるかにゃ?」
「ああ。この国の古い文字だから、学者や王族なら誰でも読める」
「にゃにが書いてあるにゃ?」
「ちょっと待て。このマークは白象教のシンボルだな。それと……象の売買記録? こっちは食用の象の価格? あとは……魔法陣?」
「魔法陣にゃ?」
「待て、待て! 思考が追い付いていない」

 老人は考え込み、ブツブツと言い出した。その間に、数人の学者と名乗る者が見せてくれと頼んで来たので、減る物でもないので見せる。
 学者は石板を読み終わると青い顔をして、慌てて酒場から飛び出す。すると先程まで騒いでいた人々は静まり返る事となった。

 なんで学者は慌てて出ていったんじゃろう? ジジイもこっちの世界に帰って来ないし……とりあえず、メシにするか。

「おっちゃん! メシと酒を三人分頼むにゃ!」
「猫……この雰囲気で、よく食えるな」
「仕事をして帰ったら、お腹がすくにゃ~。にゃ?」

 わしが店主に料理を頼むと、ガウリカが変な事を言うので、リータとメイバイに同意を求める。当然、二人もお腹がへっているので、頷いてくれる……

「シラタマさん……」
「シラタマ殿……」

 残念ながら、呆れた顔で見られた。どうやら空気を読めないのは、わしだけだったみたいだ。
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