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第五章 ハンター編其の三 旅に出るにゃ~
123 チョコとコーヒーを召し上がれにゃ~
しおりを挟むエミリの協力のもと、チョコレートを作ったものの、豆と砂糖のコストが高い。庶民に行き届きさえすれば、単価は下がるんじゃけど……先は長いな。
「う~ん。口溶けを滑らかにするには……」
「まだやってるにゃ~?」
「ねこさんも考えてください!」
「わしは料理人じゃにゃくて、ハンターにゃ~」
わしがエミリに言い訳していると、ガウリカが笑いながらわしを見る。
「猫がハンター……フフフ」
「いま、狩られる側だと思ったにゃ?」
「ああ」
「そこは否定してくれにゃ~」
「遊んでないで考える!」
「「はい(にゃ)!」」
料理人モードのエミリに怒られた……。わしとガウリカは素人なんじゃから、大目に見て欲しいもんじゃ。それに売るとしても金持ち商人か、貴族ぐらいにしか売れないからやる気も出ない。お! そうじゃ。
「それにゃら、プロにアドバイスをもらったらどうにゃ?」
「プロですか?」
「ついでに売り込みもするにゃ。売れる見込みが出来たら、ガウリカもコーヒー豆を仕入れてくれるかにゃ?」
「まぁ……でも、遠い国だから高くなるぞ?」
「そこがネックにゃけど、金持ちに売り付けて、普及して行けばコストは下がって行くと思うにゃ」
「猫が難しい事を言ってる……」
「ねこさんは、とっても賢いんですよ」
「さあ、出掛けるにゃ~」
と、言う訳で、やって来ました目的地。
「「むりむりむりむり~~~!」」
城の門に着いたそばから、ガウリカとエミリは、首を横に高速で振り出した。
「にゃにがにゃ?」
「猫はわかっていないから教えてやるけど、この中にはとっても偉い人がいるんだ。そんな所にあたし達平民が入れるわけがないだろう」
「ああ。一時、ここで暮らしていたから大丈夫にゃ」
「城に!?」
「王女様と友達なのは知っていますけど、こんな汚い服じゃ入れないです。わたしなんか、ぜったい追い出されます!」
「もしそんにゃ事をする奴がいたら、ぶん殴ってやるにゃ!」
「やめろ!」
「ダメです!」
「冗談にゃ。みんにゃ優しいから大丈夫にゃ。さあ、行くにゃ~」
震える二人を連れ、門兵に事情を説明して城に入る。二人とも、わしの手を握って離さないから、門兵に嫌な勘繰りをされたが、冗談だと受け止める事にした。
女王に会うには、さっちゃんに頼んだほうが早いな。部屋に向かうか? ……この時間だと、さっちゃんは勉強に飽きて庭かな?
予想をつけて庭に行くと、緊張する二人は庭に目を奪われ「ここが天国」と呟いていた。せっかくリラックスしているので、これから地獄に行くとは伝えなかった。
そうこうすると庭の中央にあるテーブルに、さっちゃんを発見したが、その他大勢もいた。
あら、珍しい。女王に三人の王女が揃い踏み。さっちゃんに頼む手間は省けたが、エミリとガウリカは高貴なオーラに当たって、魂が抜け出して来ておるな。
「シラタマちゃん! なに、その女!!」
さっちゃんのクリティカルヒット~! 二人は生ける屍となりました……と、アホな事を考えてる場合じゃないな。
「さっちゃん。その話は待ってくれにゃ。メイドさん、端でいいから椅子を用意してくれにゃ」
気絶し掛けの二人を椅子に座らせ、水を与えてからさっちゃん達のテーブルにまざる。
「邪魔するにゃ~」
「あの女~」
「さっちゃんと女王は会った事がある料理人のエミリと、南の小国ビーダールから移住して来たガウリカにゃ。あの二人に協力してもらって、面白い物を持って来たにゃ」
「面白い物? 見たい!!」
女より面白い物に反応したか。子供じゃのう。
「においがキツい物にゃから、人によって臭いと感じる人もいるから、気を付けてくれにゃ」
わしは注意事項を述べて、次元倉庫から淹れたてのコーヒーとチョコを取り出して、女王と三王女のカップにコーヒーを注ぐ。すると、さっちゃんは顔をしかめる。
「シラタマちゃん、臭いよ~」
「これは……コーヒー?」
「女王は知ってるにゃ?」
「何度か飲んだ事があるわ。あまり美味しいと思わなかったけど……」
「まぁ一口飲んでみてくれにゃ」
わしの言葉に、皆、恐る恐るカップを口に運ぶ。
「苦い~! シラタマちゃんが毒盛った~!!」
「こういう味にゃ! 人聞きの悪いこと言うにゃ!! みんにゃはどうにゃ?」
さっちゃんが叫ぶのを宥め、女王と双子王女に話を振る。
「私は美味しいと感じた……なんで?」
「わたくしは美味しくないわ」
「そう? 苦いけど、新しい風味で悪くないかも?」
女王は美味しいと言ったな。双子王女は一人はダメで、一人はもうひと押しか。
「じゃあ、砂糖と牛乳を入れて飲んでみるにゃ」
全員に砂糖と牛乳を適量入れたコーヒーを配り、飲んでもらう。
「まだ苦いよ~」
「う~ん。私はさっきのほうが好きかな?」
「飲めるようになったけど、わたくしはダメね」
「わたくしは気に入ったわ」
お! 半々になった。
「これは大人の飲み物だから、さっちゃんには早かったかにゃ?」
「シラタマちゃんだって子供じゃない」
「わしは……大人にゃ……」
「自信無さそうじゃない!」
「それより、こっちのお菓子も食べてみるにゃ」
「黒いけど、お菓子だったんだ!」
皆、チョコレートを指でつまむと、口に入れる。
「ん! おいしい!!」
「これはいいわね」
「甘いと苦いが混ざってるのね。美味しいわ」
「美味しいわ。コーヒーと味が似てるわね」
「そうにゃ。これはコーヒー豆から作った、チョコレートって言うお菓子にゃ」
わしが皆に説明していると、さっちゃんが食べ終えて目を輝かせる。
「シラタマちゃん、これはどこで買えるの?」
「まだ試作段階だから売り物じゃないにゃ」
「これで試作段階なの!?」
「わしも美味しいと思うにゃ。でも、エミリがまだ完成だと言わないにゃ。だから、ここの料理長にアドバイスをもらえないか聞きに来たにゃ」
わしのお願いに、女王はわしの後方を眺めて心配そうに応える。
「それぐらいかまわないけど……大丈夫かしら?」
「……エミリ! ガウリカ~! 戻って来るにゃ~~~」
わしが振り返ると、二人は口から魂が飛び出たあとだった。ホンマホンマ。
緊張のあまり飛び出たエミリとガウリカの魂を捕まえ、口に押し込んで復活した二人は、別室に運ばれて行った。あとから聞いた話だが、エミリはチョコレートを食べた料理長に連れ攫われたらしい。
少しトラブルはあったものの、わしはそのまま残って女王達と話し合う。
「シラタマちゃんは、また変な事してるのね~」
「変って言うにゃ~」
「変だと思うわよ」
「「わたくしも」」
満場一致ですか。そうですか。話を戻そう。
「この国でチョコとコーヒーを普及させたいんにゃけど、コストが高いから金持ちにしか売れないにゃ。貴族とかに売れるかにゃ? 出来れば販売してくれるところ、仕入れルートを確保したいにゃ」
「チョコは売れるだろうけど、コーヒーはどうかしらね」
「味とにおいは好みにゃけど、効能として眠気を飛ばしてくれるにゃ。薬としてどうかにゃ?」
「忙しい時には助かるわね。でも、なんでシラタマがそんなこと知ってるの?」
あ……現世の知識を出してしまった。良い言い訳が思い付かない。
「猫だからにゃ」
「「「「あ~~~」」」」
あれ? 言い訳になるの??
「「「「納得するわけないでしょ!!」」」」
ですよね~。ここは話を逸らそう。
「それより、最近、女王は暇そうにゃ。例の件はいいのかにゃ?」
「もう冬になるから、さすがに無いでしょう」
「あ~。自然休戦にゃ」
「なんでシラタマがそんな事まで知ってるのよ……」
「それは……王女様方の歴史の授業で習ったにゃ」
「シラタマちゃん。自然休戦って何?」
「本に載ってたにゃ~。にゃ?」
さっちゃんの質問に、わしは双子王女に確認を取る。
「たしかに載ってたけど少しですわよ。よく勉強してるわね」
「シラタマちゃんは偉いわね。それに比べてサティは……勉強時間を増やそうかしら?」
「あ! 思い出した!! アレね。アレ」
「「本当かしら……」」
さっちゃんの目が、バタ足かってぐらい泳いでおるな。今日は助けてあげるか。
「そのアレにゃ。戦争が長期間になったら、季節が変って冬になるにゃ。そうにゃったら食糧も、兵士の士気にも関わるから、指揮官は冬の戦争を避けるにゃ」
「そうそう。わたしが言いたかったのに、シラタマちゃんに取られたな~」
「まったく……」
さっちゃんはグッジョブって言っておるのか? 尻尾をニギニギしないで!
「お母様はシラタマちゃんに教えていたのですね」
「メイバイを預かった時に聞いたにゃ」
「春までは大丈夫だと思うけど、気は抜けないわね」
「体を壊さないように、いまのうちにしっかり休むにゃ」
「心配してくれてありがとう。褒美にペットにしてあげます」
「褒美になってないにゃ~! そうにゃ! ハンターの職業も、いい加減ペット以外にさせてくれにゃ~」
「それは、無理ね」
「シラタマちゃんにピッタリじゃない」
「私も似合っていると思うわ」
「何がダメなの?」
ダメじゃろう? 職業って、ハンターの得意な攻撃方法の職業を書くんじゃ。え? わしがおかしいの?
「それにしても、このチョコレート、美味しいわね」
わしがパニクっているのに、話を変えないでいただきたい。
「ペットは嫌にゃ~」
「お母様の誕生祭に出してはどうかしら?」
「無視するにゃ~」
「そうね。出席者もビックリするわね」
「聞くにゃ~」
「レシピはエミリに頼めばいいのかしら?」
「コーヒー豆の仕入れが問題になりますね。こっちはガウリカに頼めばいいかしら?」
「さっちゃ~ん」
「よしよし」
女王と双子王女はわしを無視して話を続けるので、さっちゃんに泣き付いてみたが、撫でるだけだ。
「シラタマはそれが目的で来たんでしょ? 貴族に普及する絶好のチャンスだし、国としての輸入も出来るわよ」
「そうにゃけど、ペットも……」
「よしよし」
「心配しなくても権利関係はしっかりするわよ」
「いや、ペットをにゃ?」
「仕方ないわね」
「にゃ!?」
「コーヒー豆も原価で譲るわ」
「そっちじゃないにゃ~!」
「よしよし」
さっちゃんは撫でたいだけじゃろ? これはペットの話は、もうする気が無いのか……
「はぁ。女王の誕生祭って、いつにゃ?」
「この国の国民なら、誰でも知っていると思ったのに……ヨヨヨヨヨヨ」
「嘘泣きするにゃ~。わしはこの国の国民になって、まだ二ヶ月にゃ。知らない事のほうが多いにゃ」
「変な事は知ってるのに……」
「変って言うにゃ~」
「よしよし」
「一カ月後よ。ちなみに年齢は……秘密よ」
うぜ~。さっちゃんはまだ撫で続けているし……
「そんにゃに若く見えるんだから、言ってもみんにゃが褒めてくれるだけにゃ」
「あら、あらあらあら。嬉しいこと言ってくれるのね。抱いてあげる」
「にゃ~」
「お母様ズルいです~」
「ずっと撫でてたでしょ。今度は私の番よ」
この親子は……膝に乗せられると胸が当たるんじゃよなぁ。やめて欲しいわい。ホンマホンマ。
「一カ月後だと、メニュー開発や準備もあるし、コーヒー豆を仕入れるのは間に合うのかにゃ?」
「いま、どのぐらいのコーヒー豆があるの?」
「そこそこあると思うけど、大規模なパーティーには足りにゃいんじゃないかにゃ?」
「こちらから馬車を出して向かうと、往復で三十日以上。ガウリカに頼むと間に合わないわね。連絡用の魔道具で、用意できそうな所に発注を掛けましょうか?」
「う~ん。どんにゃ種類の豆があるか見たいし、第一便は、わしが直接買い付けに行くにゃ」
わしが買い付けに行くと発言すると、さっちゃんと女王が止めに入る。
「そんなに長い期間、王都を離れちゃダメ-!」
「私も許さない!!」
「すぐ帰って来るにゃ。一週間も掛からないにゃ~」
「どうやって行くの?」
「女王には秘密にゃ」
「なんでよ~~~!」
女王は最近さっちゃんに似てきたな。飛行機で行くつもりじゃから、国のトップに知られたくはない。軍事利用されてしまうのは避けたいから、口が裂けても言えないな。
「どうせ飛んで行くんでしょうけど……」
バレて~ら。
この後わしは、女王と三王女の拷問に耐え切り、口を割らずにゴロゴロと言い続けるのであった。
て言うか、撫でられただけであった。
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