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第五章 ハンター編其の三 旅に出るにゃ~
114 いらぬ世話を焼いたかにゃ~?
しおりを挟むお昼休憩を挟み、キャットカップ、最終グループをティーサが紹介する。今回はまともな紹介で、ハンター達は胸を撫で下ろしていた。
ただ、メイバイの紹介の時に野太い声援があがって、メイバイがリータの後ろに隠れて怯えている姿があった。
「一人目、始め!」
ティーサの合図に剣士風のハンターは走り出し、片手に持った剣で何度もわしに斬り掛かる。わしは避ける事はせずに刃引きの刀で受けるのみ。
なるほど。ティーサの言う通り、まともじゃ。さっきまでのハンター達は鍛練を怠っておるのか? 今回の試験はもしかすると、そう言ったハンターに引導を渡す為なのかもしれんのう。出来れば奮起して、鍛練して欲しいともんじゃ。
しかし、この剣士……ずっと片手で斬り付けておるが、いつまで左手に持っている物を隠しておるんじゃろう? バレバレなんじゃから、さっさと使えばいいのに……
わしは剣士の剣を受けながら、左手の注意を外さない。それから時間も過ぎ、残り時間がわずかとなったその時、ついに剣士の左手が動く。
伸ばした左手の手首から、釘のような物が飛んで来た。わしはきれいにキャッチして、まじまじと見つめる。
暗器? 鉄製の短い弓ってところか……弓にしてはそれらしい物は無い。まさか、スプリング……
「くそ!」
剣士は斬り付けるのをやめ、連続して暗器を発射する。わしは全てキャッチし、弾切れとなった瞬間、タイムアップとなった。
『そこまで!』
「どうして当たらないんだ……」
「もったい振るから、バレバレだったにゃ」
「そんな……」
「単体で使わず、コンビネーションに使うか、最初に見せて牽制に使うと面白いにゃ」
「なるほど……」
「精進するにゃ~」
「は、はい?」
猫のわしに教えを乞うたせいか、首を傾げて下がって行ったな。しかし、スプリングが武器に転用されておったとは……少し悲しいな。今度、商業ギルドで何に使われているか聞きに行こう。
「次、始め!」
「【ヘル・ファイア】」
「【中水玉】にゃ」
ティーサの開始の合図と共に、大きな炎がわしを襲う。わしは通常より大きな【水玉】を出して防御に回す。
この男、いきなりなんちゅう魔法を使うんじゃ! わしじゃなかったら火傷しておるぞ? ビックリしたわ!! じゃが、炎の大きさの割に威力は低い。通常サイズの【水玉】でも余裕で防御出来ていたな。
「【ヘル・ファイア】【ヘル・ファイア】【ヘル・ファイア】」
今度は大きな炎の連続攻撃。わしは冷静に、五個の【水玉】を周りに回転させ、全てを掻き消していく。
難しい火魔法を連発とは、なかなかの魔力量じゃな。しかも、言霊か? 完全では無いが、コツは掴めているのかもしれん。天才って奴か……じゃが、馬鹿のひとつ覚えはいただけない。
わしは男の魔法の途切れた瞬間を狙って声を掛ける。
「ちょっといいかにゃ?」
「なんだ!」
「火魔法以外は使わないのかにゃ?」
「ああ。かっこいいだろ?」
中二の人でしたか……
「わしは君を魔法使いの天才だと思うにゃ」
「そ、そうだろ!? なのにあいつら……」
中二でコミュ症か……合併症で仲間に捨てられたのかな?
「天才だからこそ、もったいないにゃ」
「どう言う事だ?」
「風魔法や土魔法を使えば、もっと強い魔法を使えるにゃ」
「地味だ」
「そうかにゃ? これを見てもかにゃ?」
わしは風魔法と土魔法の実演をする。蟻戦で使った【土槍・いっぱい】を、わしの周りに出し、【鎌鼬・円】で斬り裂く。そして【竜巻】を観客席に影響が出ない力で見せてあげた。
攻撃魔法を使ったせいで、スティナが睨んでいたが、見なかった事にした。
「カッケ-!」
「かっこいいにゃろ? でも、これは必殺技にゃ。ここぞと言う時に使うから、かっこいいにゃ」
「たしかに……」
「君にゃら、風の刃を何個も浮かべて、連発するのを主軸として、強い敵が現れた時に必殺技を使うなんてどうかにゃ~?」
「……うん。いいかも!」
「じゃあ、風魔法でわしを攻撃して来るにゃ」
「わかった!」
「【サウザンド・カッター】」
「【土壁】にゃ」
だからビックリさせるな! 何がサウザンドじゃ。それはテンじゃ! まぁ威力も有り、凡庸性も有る良い魔法じゃ。こいつは化けそうじゃ。
『終了で~す!』
「ありがとうございました!」
ティーサの声を聞いた魔法使いの男は、いい笑顔で帰って行った。それと入れ替わりに、ティーサがわしに近付いて来る。
「猫ちゃんは、何で戦い方を教えているのですか?」
「にゃ? ダメだったにゃ?」
「ダメと言う訳ではないのですが、普通のハンターは、商売敵にそんな事しませんよ」
あ~。ライバル店にアドバイスしているもんか……元の世界でもやってしまっていたな。まぁわしの会社は確固たる技術力を持っていたから、それぐらいで揺らぐ事はなかった。専務の息子には、よく怒られたけど……
「う~ん。これは病気だからやめられないにゃ」
「フフフ。そんな病気あるのですね」
「そうにゃ。治らないにゃ」
「素敵な病気ですね。さっきの二人は、才能があるけど伸び悩んでいましたから、猫ちゃんの病気のおかげで、殻を破れるかもしれません」
「うつらなければいいにゃ~」
「どうでしょうね。私としてはうつってくれたほうがいいですね。では、次いきましょう」
ティーサはわしの頭を軽く撫でて、新しい対戦相手を呼び込み、開始の合図をする。わしも制限時間をフルに使い、簡単なアドバイスをして、二人のハンターの対戦は終わる。
そして次の対戦相手、メイバイがティーサに呼び出され、観客席が沸き上がる。
「「「「「メイバイちゃ~~~ん!!!」」」」」
「シラタマ殿~。恥ずかしいニャー」
メイバイよ……自分より小さいわしの後ろに隠れても丸見えじゃ!
キャットカップも大詰め。残る挑戦者はリータとメイバイの二人だけとなった。次の挑戦者はメイバイ。出て来たものの、野太い男どもの声援に萎縮して、わしの後ろに隠れてしまった。
わしも恥ずかしいのを乗り越えてここにおるんじゃから、自分の声援ぐらい受け止めてくれんかのう。しかし、ハンターになったばかりのメイバイが、なんでこのグループにいるんじゃろう? 見た目か?
それなら、大トリはメイバイのほうが盛り上がると思うんじゃがなぁ。リータが急遽入ったからか?
「うぅぅ。恥ずかしいにニャー」
「わしだって恥ずかしいのを我慢してるにゃ。その内、みんにゃも落ち着くから、それまで我慢するにゃ」
「うんニャ……」
「それより、買ったナイフよりだいぶ短いみたいにゃけど、それで行くにゃ?」
「ちょっと使い難いけど、これしか無かったから仕方ないニャ」
「じゃあ、わしが作るにゃ。ちょっと待ってるにゃ」
わしはメイバイの使っているナイフと同じ大きさの、土で出来たナイフを土魔法で作り出す。もちろん魔力を多く込め、簡単には折れない作りにした。
「ほいにゃ」
「ニャー! 長さも重さもそっくりニャ。ありがとうニャー」
「じゃあ、そろそろやるかにゃ」
「シラタマ殿は剣一本でやるニャ? 蟻の時は二本使っていたニャ」
「にゃ? 普段は一本だから、これでいいにゃ」
「私じゃシラタマ殿の、本気の姿を見ることが出来ないニャー」
「本気の姿にゃ? いつも見てるにゃ」
「ニャ?」
「お風呂とか寝る時とかにゃ」
「あっちニャ!?」
メイバイがわしの本来の姿、猫又の姿を思い浮かべて驚いていると、ティーサが割って入って来る。
「そろそろいいですか?」
「ティーサも始めるように言ってるにゃ。位置につくにゃ」
「納得いかないニャー」
「メイバイちゃん、行きますよ」
まあ変身したほうが大きいから、人型のほうが強く見えるのじゃろう。じゃが、猫型のほうが鋭い爪と牙があるから強い……はず? 魔法ばっかり使って戦っていたからわからんな。猫失格かもしれん。すでにか……
「では、参ります。始め!」
「行っくニャー!!」
ティーサの合図と共に、メイバイは走り出す。わしは刀をだらりと構え、それを迎え撃つ。
わしとのファーストコンタクト。メイバイは、擦れ違い様にふたつの斬撃音を置いて、通り過ぎた。
うむ。なかなか速い。通り過ぎる間に、上段と中断を薙ぎ払って行きよった。速さだけなら、オンニより速いかもしれん。
「さすがニャー。次、行くニャー!」
メイバイはジグザグに走り、わしに近付く。そして上中下、時には連続して突きを出しては移動する。わしはその連続突きを冷静に刀で払いのける。
忙しなくチクチクと刺してくるな。今まで闘ったハンターでは、この速さにはついて行けず、受け切れんじゃろう。じゃが、威力が足りない。肉を切らせて骨を断たれたらどうなるじゃろう?
課題を出してみるかのう。
わしはチクチクくるナイフを捌き、チャンスと見ると、受けたナイフごと刀を振り上げる。メイバイは下から来る刀を後方宙返りでギリギリかわし、低い姿勢で着地する。
すると、観客席から歓声があがり、メイバイは頬を膨らませる。
「攻撃は反則ニャー!」
「にゃ……しまったにゃ。でも、盛り上がってるにゃ」
「あのまま押し切るつもりだったニャー」
「いい攻撃だったけど、わしには足りないにゃ。それに破られたけど、どうするにゃ?」
「うっ。次はこれニャー!」
メイバイは低い姿勢から跳び上がり、前回りに回転しながらわしの上空から襲い掛かる。まず二本のナイフが上から降り、次に両足の踵が降ってくる。わしは刀を半回転させて四撃を刀の峰で受け止める。
メイバイは最後の踵を放つと、刀の峰を足場にして飛び上がり、体を捻りながら、わしの後ろから攻撃しようとする。
わしはすぐさまメイバイを正面に捉えるが、踵とナイフが同時に落ちてくる。それも刀の峰で受け止めると、メイバイは後方宙返りで着地。また観客の声援が起こるが、メイバイは着地と同時にわしに襲い掛かる。
今度は横回転か。ナイフと両足じゃ、さしずめ四刀流じゃな。足を痛めないか心配じゃ。それにしても身軽じゃな。猫のわしより猫じゃないが、猫のわしより猫っぽい戦い方をする。
まぁわしは着物が着崩れないように気を付けて闘っているからな。メイバイは……時々見えておる。メイド服を気に入ってるみたいじゃけど、アクロバティックな動きをするから、パンツが見えてるぞ?
さっきは人に見られてあんなに恥ずかしがっていたのに、恥ずかしくないのかのう? 集中しておるみたいじゃし黙っておくか。
「ハァハァ。ぜんぜん当たらないニャー」
「それは全部同じ方向から来てるからにゃ。攻撃手段が、せっかくよっつあるんにゃから、四方に分けて攻撃するにゃ」
「なるほど……こうかニャ?」
メイバイはわしに一直線に跳んで来ると両手を広げ、左右のナイフを同時に閉じて、わしを斬り付ける。
わしはしゃがんでかわすと下から右足の蹴り。それも、のけ反ってかわすと、すぐに右足は後頭部に戻って来る。それと同時に左足が跳ね上がり、わしの頭を挟み込もうとする。
わしはメイバイのパンツを見ながら右に避けるが、後方宙返りしているメイバイのナイフが下から迫り来る。なのでわしもメイバイの回転に合わせて、後方宙返りでナイフをかわす。
お互い中に浮き、着地する為に、くるりと回転して足が下に向いた瞬間、目が合う。お互い笑顔を交わすが、メイバイは最後の攻撃とばかりに、二本のナイフをわしに向かって投げる。その攻撃も、わしは刀で弾いて着地する。
おっとっと。慣れない事をしたから、線からはみ出すとこじゃった。
「それまで!」
メイバイは着地と共にわしに飛び掛かったが、ティーサが終了を告げる。しかし勢いは止まらず、わしはメイバイを抱きとめる事となった。
「よくやったにゃ」
「ハァハァ。シラタマ殿は疲れもしてないニャー」
「鍛えてるからにゃ。それより、みんにゃも見てるから離れるにゃ」
「ご褒美ニャーーー!」
「スリスリするにゃ~~~!」
わしは試合では疲れもしなかったが、メイバイを引き離す事に疲れる事となった。
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