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第五章 ハンター編其の三 旅に出るにゃ~

113 ティーサは意外と……にゃ~

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 キャットカップ(昇級試験官)が始まり、最初の挑戦者、Fランクハンターの四人の内、三人のハンターは、わしがグチグチ言っている間に試験が終わってしまっていた。

 三人の死体が転がっておる。わし、防御しかしとらんよね? 乗り気でないとは言え、悪い事をしてしまった。ちょっとは試験官らしくマジメにやるか。

「えっと……君は魔法使いかにゃ?」
「さっき使ったじゃないですか~」
「あ、ごめんにゃ~。今からマジメにやるにゃ。さあ! 掛かって来るにゃ~!」
「はい! 【エアカッター】」
「【鎌鼬】にゃ~」

 わしは気合を入れると、魔法少女セルマの攻撃魔法を近くまで寄せてから【鎌鼬】で迎撃する。

 ヤベッ! 魔法少女が真っ二つになってしまう。……よっと。

 わしは【鎌鼬】を操作して、無理矢理直角に落とす。その結果、セルマの足下の地面には、深い切れ目が出来上がり、セルマは尻餅をつく。

「あわわわわ」
「コラー! シラタマちゃんは攻撃しちゃダメって言ったでしょ!!」
「ごめんにゃ~」

 脅えるセルマ、怒るスティナ、怒られてしょぼんとするわし。とりあえず制限時間があるので、セルマを宥めながら試験を再開する。

「今度は自分の周りだけ守るから、怖がらにゃいで。にゃ?」
「は、はい」
「【土玉】×3にゃ~」

 わしはみっつの土の玉を自分の周りに漂わせる。

「好きなだけ撃って来るにゃ」
「い、行きます!」

 セルマは【エアカッター】を、わしに向けて連続して放つ。わしはその都度、周りに漂っている【土玉】をぶつけてかき消す。何度かのやり取りがあり、わしの【土玉】には傷も付かずに、セルマは魔力切れに陥った。

「もうダメです……」
「まだ時間もあるし、その杖で殴るにゃ」
「え?」
「外に出たら魔力切れになる事もあるにゃ。そんにゃ時、どうするにゃ? 死ぬのをただ待つのかにゃ?」
「いえ……」
「魔法使いだからって、ひとつの闘い方にこだわらず、二の矢、三の矢は持ってるほうがいいにゃ。さあ、来るにゃ~」
「は、はい。え~い!」

 セルマは走り、わしに向けて杖を振りかぶる。わしはその大振りの杖を片手で受けようと手を伸ばす。が、セルマはつまずき、前のめりに倒れ込んだ。
 なのでわしは、円から出ないギリギリまで前に出て、セルマを受け止めるが、肩に杖が当たってしまった。
 ティーサは杖での攻撃の判定を悩み、審査員を見る。当然、審査員は首を横に振るが、スティナがすごい勢いで何度も首を縦に振り、ティーサは渋々判定を宣言する。

「ヒット~! そしてタイムアップで~す!」
「「「「なんじゃそりゃ~~~!!」」」」

 スティナ、魔法少女に賭けておったな……イカサマじゃ! ブーイングも起きておる。まさかわしも加担しておると思われておらんよな?
 しかし、魔法少女はいつになったら離れるんじゃろう? わしの胸に顔を埋めないで欲しいんじゃが……

「モフモフ幸せ~」
「いや、そろそろ離れてくれにゃ~」
「はっ! すみません!!」

 幸せそうにしていたセルマがわしから離れると、試験官らしき事をしてみる。

「さっき言ったこと、覚えてるかにゃ?」
「はい!」
「時間があったら、他の受験者の闘い方を見て行くといいにゃ。その中で、自分でも出来そうな攻撃手段を模索するといいにゃ」
「はい。勉強して帰ります。ところで、私をすごくにらんでいる人がいるのですが……」
「ああ。わしの仲間にゃ」
「何か怒ってます?」
「……あとでわしが怒られるから気にするにゃ」
「はあ……」

 転んだから抱きとめただけなのに、そんなに睨まないで! これもそれもスティナのせいじゃ。なにガッツポーズしとるんじゃ!!

 わしがスティナの態度に腹を立てていると、ティーサが近付いて来て声を掛ける。

「猫ちゃん。次、始めてもいいですか?」
「大丈夫にゃ。でも、イカサマはダメにゃ~」
「うっ。ギルマスには逆らえません」
「ティーサを首にしたら、わしが王都を壊滅してやるにゃ!」
「アハハ。その時は頼みますね」


 ティーサはわしの話を冗談だと受け取り、わしから離れ、次のメンバーを呼び込み、観客に説明する。次からはEランクは飛んで、Dランクハンターになるみたいだ。一人の持ち時間も少し延びて、三分になるとのこと。
 人数も一気に増えて、全部で五グループ。四組は五人一組。最後の一組は六人で、ここにリータとメイバイが含まれている。このグループ事に、賭けが行われるらしい。
 Cランクに上がれず、くすぶっているハンターを、この機会に審査するらしいが、ティーサの言い方が悪かったのか、Dランクハンターのほとんどのテンションが下がった。

「誰が落ち目だ~!!」
「誰が年寄りだ~!!」
「誰が長いだけだ~!!」
「二十年やってて悪いか~!!」
「俺だって生きてるんだぞ~!!」

 と、ティーサの酷いハンター紹介で、心に傷を負ったハンター達が、やけくそになってわしに襲い掛かる。
 わしは直接攻撃には刃引きの刀で受け止め、魔法には【土玉】で掻き消し、弓や投撃にはキャッチして返してあげる。そして、二十人の屍が作り上げられる。

 う~ん。ティーサの説明通りの実力じゃったけど、もう少しオブラートに包んであげたほうがよかったのに……何人か泣いていたぞ?
 泣いていたのは弓士と投げナイフの人じゃったけど、あんな紹介されると泣きたくもなるじゃろうな。

 わしがDランクハンターの批評をしていると、ティーサが駆け寄って来た。

「猫ちゃんは疲れないのですか?」
「にゃ? これぐらい平気にゃ」
「すごい体力ですね」
「それより、あんにゃ言い方したらかわいそうにゃ~」
「事実ですよ。ギルドにも貢献していないクズです!」
「ひどいにゃ~。泣いてた奴もいたにゃ~」
「それは猫ちゃんが、飛んで来る矢やナイフを受け取って返すからですよ! 自信無くなるに決まってるじゃないですか!」

 どうやらわしも、ハンターの心を折るのに、片棒を担でいたみたいだ。




 キャットカップも大詰め、最後のグループとなる。わしは大丈夫だから始めてくれと言ったが、お昼休憩を挟むみたいだ。
 試験の参加者には軽食を用意してあるが、観客席には売り子が多数湧いていた。おそらくこの売り上げの為に、少し早いがお昼休憩にしたと、わしは見ている。

 その観客席の様子を見ていたら、リータとメイバイが労いの言葉を掛けてくれた。

「シラタマさん。お疲れ様です」
「すごかったニャー」
「ありがとにゃ。お昼、それで足りるかにゃ?」
「はい。程々にしないと動けなくなってしまいますからね」
「私は足りないニャー」
「じゃあ、収納魔法に入ってる肉、出してあげるにゃ」
「いいニャ?」
「いっぱい食べ過ぎて、動けないにゃんて事にならなかったらいいにゃ」
「わかったニャー!」

 わしは次元倉庫から、焼いた肉の串を多めに取り出し、空いている皿に乗せる。

「多く出したから、わしと最初に闘ったFランクの新人さんにも分けてあげてくれにゃ」
「あの女の子にですか……」
「分けるぐらいなら全部食べるニャー!」
「勘違いにゃ! 大事な試験にゃのに、わしのせいで迷惑を掛けたからにゃ~」
「「本当(ニャ?)ですか?」」
「本当にゃ~」
「冗談ですよ。シラタマさんは優しいですもんね」
「私は信じてないニャ……」
「しつこいにゃ~」

 二人と会話を終えると、わしは観客席に目を向ける。

「シラタマさんは、どこか行くのですか?」
「女王が来てるから挨拶に行って来るにゃ」
「王女様もいるからですか……」
「それもあるにゃ」
「やっぱり二人は付き合ってるニャ?」
「友達にゃ! 行って来るにゃ~」


 わしは駆け足で女王の座っている観客席へと向かう。そして、2メートル以上の高さにある、観客席にひとっ飛びで登る。護衛に失礼な態度を取られたが、気にせず挨拶を交わす。

「邪魔するにゃ~」
「シラタマちゃん、お疲れ様~」
「シラタマ……せめて一声かけてから来なさい。皆も剣を降ろせ」

 わしの登場で、さっちゃんはにこやかに迎えてくれるが、女王は苛立っているようだ。

「みんにゃ、わしのこと知ってるからいいにゃろ~」
「それとこれとは関係ない。女王よ? 偉いのよ? 偉い人の周りには護衛がいるの。ビックリさせないで! わかった?」
「せっかく挨拶に来たのににゃ……」
「わかった??」
「はいにゃ……」

 挨拶に来なかったら怒られると思ったから来たのに、結局、怒られてしまった……。怒られているんだから、さっちゃんはわしの頭をよしよしするの、やめようか?

「それで何用だ?」
「挨拶に来ただけにゃ」
「それだけ?」
「大事な事にゃ。来なかったら二人ともあとから怒るにゃ」
「そんな事は……ねえ、サティ?」
「ないよね~。お母様?」
「目を合わせるにゃ!」

 やっぱりじゃ。この似た者親子め!

「ゴホンッ! それより大蟻を討伐したとは本当か?」

 話を逸らす気か……まぁこれでわしの無礼も話が逸れるし、乗ってやるか。

「もう聞いたにゃ?」
「ええ。それを一人で討伐したのだろ? 信じられぬ」
「一人じゃないにゃ。リータとメイバイも居たにゃ」
「あの者達もか……」
「シラタマちゃん、大蟻ってなに?」
「山の中に、エリザベスぐらいの蟻がいっぱい居たにゃ」
「いっぱいってどれぐらい?」
「卵や幼体を含めると二千匹以上にゃ。うじゃうじゃ居て気持ち悪かったにゃ~」
「うぅ……想像しちゃった」
「それを一人。いや、三人でか……この小さな体の、どこに力があるの? 本当に信じられないわ」

 女王はそう言って、わし脇に手を入れて持ち上げる。

「信じられないにゃら持って帰って来たから、余興がわりに見るかにゃ?」
「兵やハンター達の勉強になるか……頼む」
「オッケーにゃ。スティナに相談してくるから待ってるにゃ」


 わしは観客席から飛び降り、スティナの元へ走る。スティナに事情を話すと、スティナにはまだ連絡が入ってなかったらしく、東の街のギルマスに会ったら、アルコール中毒で殺すと怒っていた。
 だが、大蟻のクイーンとキングをこのギルドで買い取って欲しいと言ったら喜び、公衆の面前で挟まれた。どことは言わないが、怒られない事を祈る。

 スティナの指示した場所に大蟻、精鋭蟻、キング、クイーンと並べ、その大きさに観客は驚き、感嘆の声をあげる。それらを並べ終わるとわしは、女王の元へ戻る。

「大きいわね。それにダブル……」
「すごいね~」
「ちょっと苦労したにゃ」

 見た目の気持ち悪さで……

「ホワイト二匹をちょっとって……イサベレ、あなたなら勝てる?」
「あの大きさだと、一対一でも難しいです」
「そう……」
「わしのおっかさん相手の時はどうしたにゃ?」
「そ、それは……」
「もう気にしてないにゃ。おっかさんの最後の勇姿を知りたいだけにゃ」
「……わかった」

 暗い顔をするイサベレからおっかさんの最後を聞こうとしたら、女王から待ったが掛かった。

「シラタマ。休憩は終わりだと、スティナが呼んでるぞ」
「あ! まだお昼も食べてないにゃ! ここの食べていいかにゃ?」
「大蟻討伐の報酬もあるから、好きなだけ食べなさい」
「ありがとにゃ~」

 わしは食べ物を口の中に詰め込めるだけ放り込むと、モゴモゴと言って女王の元を離れる。さっちゃんに行儀が悪いと、頬袋をつつかれたが、吐き出さずに我慢できた。
 急いでスティナの元に走り、蟻達は次元倉庫に入れて、あとでギルドに買い取ってもらう事になった。

「シラタマちゃん、ありがとうね。これで私の評価もうなぎのぼりよ! このギルドで、ホワイトなんて見たの何年振りかしら」
「目の前にいるにゃ~」
「あ……本当だ!!」

 やっぱり王都はいいのう。わしを見てもモンスター扱いされないし、騒がれる事も少ない。森の我が家も名残惜しいが、ここで永住するのもいいかもしれん。

「さあ、これからも私のために、バリバリ働いてよ~」

 仕事を押し付けられさえしなければ……
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