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第四章 ハンター編其の二 怖い思いをするにゃ~

109 分け与えるにゃ~

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 蟻の駆除を完了したわしは、死んだ大量の蟻に群がるヨダレを垂らした肉食獣や、潤んだ瞳で見つめる雑食獣を脅して回り、白と黒の蟻を回収する。その後、形の綺麗な蟻を集めてくれたら他は食っていいと交渉(脅す)して集めてもらう。
 巣の中にも、まだ子供や卵、兵隊蟻以外も居るはずなので、ボス狼をリーダーに任命(丸投げ)し、戦闘が出来る獣の連合軍で巣の探索に当たらせた。
 そこからも、わしがピンハネ……ゲフゲフ。報酬を割り当てる予定だ。

 そうして暇になった……手の空いたわしは、リータ達と共にお茶休憩にする。

「一時はどうなる事かと思いましたよ~」
「あんなに獣に囲まれて怖かったニャー」
「わしもにゃ」

 わしの発言に、リータとメイバイはジト目で見て来た。

「嘘ばっかり」
「みんな震えていたニャー」
「嘘じゃないにゃ~」

 わしの手柄を根こそぎ奪われかけて、怖かったのは本当じゃ。あいつら……わしが脅して回ったら、ブーブー言いやがって!

「それにしても、なんでみんな、シラタマさんの言う事を聞いているんですか?」
「きっと脅して回ったニャ」
「失礼にゃ~! 人徳にゃ~!!」

 脅して回ったけど……

「今日は大量のエサがあるから、おとなしいみたいにゃ。それに、みんにゃ蟻に困っていたにゃ。そこに現れたわしは、みんにゃのヒーローにゃ!」
「本当ですか?」
「本当かニャ~?」
「ほ、本当にゃ! みんにゃに聞けばわかるにゃ! にゃ~?」
「「く~ん」」

 わしが二匹の子熊を撫でながら弁解すると、子熊は答えてくれる。

「何言ってるかわかりません」
「わからないニャー」
「わしの事をかっこいいヒーローって言ってるにゃ。にゃ~?」
「「く~ん??」」
「違うみたいですね」
「にゃぜそれを……」
「シラタマ殿はかわいいニャ?」
「「く~ん!!」」
「熊さん達も、かわいいって言ってますよ」

 どうしてわかる! 二人は念話なんて使えないはずなのに……。わしの嘘がバレて、ばつが悪いし、逃げておくか。

「だいぶ集まって来たし、回収して来るにゃ~」
「また逃げる~」
「シラタマ殿はよく逃げるニャー」
「子熊、撫でたくないかにゃ?」
「いいんですか?」
「撫でるニャー!」
「「く~ん」」
「いいって言ってるにゃ」
「「わ~~~」」

 わしは子熊をダシに、リータとメイバイから逃げる。いや、蟻達を回収するために離れる。二人は子熊をさっそく撫でていたから、それ以上の追及はなかったので、してやったりだ。


 蟻は巣穴の中を含め、わしのざっくり計算で二千匹は下らない。その中で状態のいいモノを次元倉庫に入れていくわけだが、三百匹は入れた。
 動物達もかなりの数が居たが、二千匹以上の蟻を処理できず、状態の悪いモノが五百匹以上余った。気持ち悪いけど、もったいないから、わしの次元倉庫行きとなった。

 大勢の動物達の手(前足?)によって蟻の処理も終わり、解散となるのだが、また巣穴に蟻達が戻って来ても困るので、わしの土魔法で地形の変わった土地をきれいにならしてから森の我が家に戻る。
 リータとメイバイは、子熊をお持ち帰りしたいと言い出したので「浮気にゃ」と言ってみたら、慌てて母熊に返していた。




「疲れたニャー」
「いい湯です~」

 わし達は我が家に戻ると、家の前にある露天風呂で汗を流す。もちろんわしは、元の猫又の姿に戻っている。無理矢理一緒に入らされるから、ささやかな抵抗だ。

「星がきれいニャー」
「星は……」
「にゃはは」
「シラタマさんったら……もう!」
「二人してなんニャー?」
「なんでもないです」
「にゃんでもないにゃ」
「気になるニャー!」

 リータの前世が岩だったなんて言っても、わし以外信じる者はおらん。わしも、かなり驚いたからな。メイバイも前世の記憶があれば面白いんじゃが……

「メイバイの前世は、にゃにかわかるかにゃ?」
「わかるニャ」
「本当ですか?」

 マジですか? なんとなく聞いただけなのに……

「お姫様ニャ! きっとシラタマ殿に似た、ご先祖様の隣で幸せに暮らしていたニャー。いまみたいに」

 嘘か……脅かしよって。それにしても……

「抱くにゃ~。尻尾もからめるにゃ~」
「幸せニャー」
「ずるいです! 私にも抱かせてください」

 リータがメイバイからわしを受け取ると、わしはリータの頭をポンポンと叩く。すると、リータはわしをギュッと抱き締める。

「幸せです~」
「なんでリータは受け入れるニャー!」
「正妻の力です」
「正妻って、にゃに?」
「なんでもないです」
「なんでもないニャ」
「??」

 わしの疑問に二人は答えなかった。気にはなったが、お風呂から上がり、みんなで我が家のベッドに横になる。
 それから二人がわしの森での生活を聞いて来るので答えていると、スースーと寝息が聞こえ、そのリズムにわしも気持ちよくなって眠るのであった。


 翌朝……

「わしは縄張りのパトロールと挨拶回りをしてくるから、もしもの事もあるから、なるべく家から出るにゃ。お昼までには戻って来るからにゃ?」

 朝食を済ませたわしは、お出掛けの挨拶をする。

「わかってますって」
「心配性だニャー」
「それじゃあ、行って来るにゃ。【転移】にゃ」

 わしは二人を置いて、パトロールの前にキョリスに会いに行く。二人も来たがったが、今度、人型で寝るのと交換に説得した。二人にもしもの事があってはいけないので、泣く泣く交渉に応じたのだ。泣く泣く……

「コリス~。来たぞ~」
「モフモフ~!」

 キョリスの巣を覗き、わしの念話に気付いたコリスは、ダッシュで抱きついて来た。2メートルのコリスが、人型でも1メートルちょっとしか無いわしに飛び掛かって来る姿はちょっと怖い。

「やっぱり、ワレーだったか、ワレー!」

 コリスを撫で回していると、キョリス達も巣から出て来た。

「ん? 何がですか?」
「昨日暴れていただろ、ワレー!」
「かなり離れていたけど、わかるのですか?」
「なんとなくな。何と戦っていた、ワレー!」
「蟻って言ってわかります? こんな形の奴ですが……」

 わしは蟻の形を思い出し、地面に書いて見せる。キョリスもハハリスも、わしの下手くそな絵を見て、わかってくれたようだ。

「ああ、そいつらか。そいつらは森を荒らすから、早めに殺さないといけないな。全部殺したか、ワレー!」
「はい。いっぱい居たけど、もう大丈夫です」
「よくやったぞ、ワレー!」
「あら、珍しい。こんな所まで来たのね」
「お母さんは、蟻の来た場所を知っているのですか?」
「山を越えた、さらに先よ。こっちに来たとしても、私達が追い返しているのに、どうしてかしら?」

 あの蟻達は山を越えて来たのか……お母さんが知っているって事は、お母さんは山向こうの出身かな? 女王が言ってた戦争の相手も山向こうじゃし、情報を仕入れておくか。

「モフモフ~。話してないであそぼうよ~」
「いまちょっと取り込んで……わ~!」
「あんまり遠くに行っちゃダメよ~」
「は~い!」
「まだ話しの途中~~~!!」

 わしはコリスに抱えられ、山の中を連れ回され、散々遊びに付き合わされた。そのせいで、ハハリスから情報を得られないまま昼になってしまい、渋々我が家に帰るのであった。


 コリスと遊び終わったわしは、リータ達を待たせているので、急いで縄張りのパトロールに回る。
 苦手だけど、大蚕の元に行き、有り余る蟻と糸を交換しておいた。状態の悪い蟻の処分が出来て一石二鳥だ。ホクホク顔になったわしは、リータ達の元に戻る。

「ただいまにゃ~」
「お帰りなさい」
「お帰りニャー」
「これからどうしますか?」
「そうだにゃ~……大量の蟻をさばきたいから、近くのハンターギルドに顔を出すにゃ。お昼を食べたら、ローザの街に行こうと思うにゃ」
「ローザ様の街ですか?」
「山から一番近い街にゃ~」
「その街はここからどれくらいかかるニャ?」
「わしなら一日で着くけど、二人の歩きだと四、五日かにゃ?」
「遠いニャー」
「大丈夫にゃ。小一時間で着く方法があるにゃ」

 わしが早く着く方法があると言うと、リータの顔が青くなる。どうやら、空から落とされた恐怖を覚えていたようだ。

「それって……飛行機ですか……」
「改良するにゃ! 寒くないようにするにゃ!」
「寒いより、怖くないようにして下さい」
「たぶん……大丈夫にゃ……」

 お昼を済ますと、わしはさっそく飛行機の改良に取りかかる。

 こないだ作った飛行機は、ゼロ戦にガラスが無い形じゃったから、わしも怖かった。上空は寒いし、今回はセスナにしよう。蟻の巣に入った時に、ガラスも手に入れたし、材料も大丈夫じゃ。

 メイバイも居るから三人乗りか……中途半端じゃし、四人乗りにしておくか。いや、念のため六人乗りにしておこうかな? さっちゃんや兄弟にバレたら乗りたいと必ず言うし、作り直すのも手間じゃしのう。
 土魔法でちょちょいと形を作って、硝子魔法で窓を嵌め込めば、あっと言う間に完成。席は真ん中の通路を挟んで、窓側に一列ずつの計六席。椅子に毛皮を引いておいて、内装はまた今度にしよう。
 しかし、見た目はセスナじゃが、通路を付けたせいで実物より大きくなってしまったかも? まぁいっか。

 わしが完成した飛行機をしげしげと見ていると、メイバイとリータが近付いて来た。

「これが飛行機ニャ?」
「こないだより大きいですね」
「これなら寒く無いし、安全にゃ。さあ、乗り込むにゃ……その前に……」

 わしは白い木の下に行き、おっかさんの石像型お墓に手を合わせる。するとリータ達もわしの後ろに立って、不思議そうに質問して来る。

「気になっていたのですが、その猫の石像はなんですか?」
「おっかさんのお墓にゃ」
「猫だニャー」
「おっかさんの姿にゃ~」
「私もお参りしたいけど……作法ってあるのですか?」
「手を合わせて目を閉じるにゃ。あとは好きな事を、心の中で語り掛けてくれにゃ」
「それだけなら……私も手を合わせてもいいですか?」
「私もするニャー」
「一緒にしようにゃ」

 わし達は、おっかさんのお墓に手を合わせる。わしは街での近況を……。リータとメイバイはわからない。でも、おっかさんは喜んで聞いてくれていると、わしは直感する。


 お墓参りが終わると、我が家の戸締まりをして飛行機に乗り込む。リータとメイバイのどちらがわしの隣に座るか揉めたので、じゃんけんをさせて決めさせたが、リータが負けて落ち込んでしまった。
 あまりにも落ち込んでいたので、わしが元の猫又に戻り、膝の上に乗る事となった。

「メイバイさん、どうぞ」
「いいニャ?」
「じゃんけんで負けたのは私ですから」
「じゃあ、交代でシラタマ殿を抱くニャー」
「ありがとうございます」

 仲が良いのはいいんじゃが、そこまでわしの譲り合いするなら、後ろの席に座ってくれたらいいのに……

「それじゃあ、出発するにゃ~。【突風】にゃ~」

 風魔法の【突風】で、上空に打ち上げられた飛行機は、程よい高さになると、羽の下に取り付けられている射出口から【突風】を吹き出し、水平飛行に移る。

「高いニャー! すごいニャー! きれいニャー!」
「興奮するにゃ~」
「だって、空を飛んでるニャー!」
「前にも飛んだ事あるにゃ~」

 わしでも怖い、逆バンジーで……

「あれも楽しかったけど、すぐに終わったニャ。今回は長いニャー」
「メイバイさんは、怖くないのですか?」
「前のはちょっと怖かったけど、シラタマ殿に抱きついてると安心ニャー」
「操縦し辛いから動くにゃ~。墜ちてしまうにゃ~」
「うぅ……リータ、交代ニャ」
「え? もうですか?」
「私じゃシラタマ殿の邪魔になってしまうニャ」
「おとなしくしていればいいじゃないですか?」
「それは無理ニャー!」

 リータの言い分が正しいんじゃが、即答しやがったな。空を飛ぶなんて、この世界では出来ない事じゃし、わからんでもない。前回は、わしも空の旅を楽しむ余裕は無かったから、少し楽しいからな。

「リータは怖くないかにゃ?」
「はい。前の時と比べたら乗り心地もいいですね」
「そうだにゃ」
「シラタマさんに抱きつけますし」

 そっち? 前回も抱いてたじゃろ? せっかく改良したのに……


 飛行機の移動はメイバイがうるさい以外順調で、すぐに目的地のローザの街が見えて来る。

「あれかにゃ?」
「大きな街ですね」
「もう着いたニャ! 速いニャー!」
「着陸は危ないから席に着くにゃ~。リータもしっかりわしを抱いてるにゃ」
「わかったニャ!」
「ぎゅ~~~」

 なんか違う……固定しろって意味だったんじゃけど……嬉しそうじゃし、まぁいいか。

 わしは着陸しやすそうな場所を見定め、高度を下げて行く。そして飛行機のタイヤか地面に接触した感触を受け取り、土魔法を操作してスピードを落としていく。

「着陸成功にゃ。外に出るにゃ~」
「もっと飛んでいたかったニャ……」
「まだ街まで離れていますね。歩きますか?」
「時間がもったいないし、車で行くにゃ」

 わしは次元倉庫に飛行機を仕舞い、車を取り出す。

「これはなんニャ!?」
「車にゃ。さっさと乗るにゃ~」

 リータは何度も見ているからすぐに乗り込むが、初めて車を見たメイバイは飛行機の興奮が収まらないのか、テンションが高い。
 なのでわしはメイバイを持ち上げ、車の後部座席に投げ込み、車を発進させる。

「ひどいニャー」
「メイバイさんが、おとなしくしないからですよ」
「だって~……この車も速いニャー! 揺れないニャー!!」
「また……」
「リータより子供にゃ……」

 騒ぐメイバイを乗せ、車はひた走る。幸い、東には森があるだけなので、すれ違う者は徒歩のハンターぐらい。けっこう飛ばして通り過ぎたので、何を叫んでいたかわからないが、馬の居ない馬車に驚いているのであろう。
 街の外壁が見えて来るとスピードを落とし、門の場所を探しながらゆっくりと進み、到着となった。

 ここは西門。東と南の門は閉まっていたので、わざわざ回り込んで馬車の列に並んだのだが、わし達の順番になる前に、門兵に取り囲まれてしまった。

「これはなんだ! 馬車か!?」

 おっと、いつものように乗り付けてしまった。ここは王都じゃないんじゃった。車に乗ったまま王都でも入れなかったけど、いちおう聞いてみよう。

 わしはいきり立つ門兵や、驚く商人、他の街からやって来た驚く男や女や子供を安心させる為に、車のドアを開けて外に出る。

「驚かせてすまないにゃ。このまま中に入ってもいいかにゃ?」
「「「「「猫!!??」」」」」

 わしが車から降りると、さっきより、さらに驚かせてしまうのであった。
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