92 / 755
第四章 ハンター編其の二 怖い思いをするにゃ~
090 御使い様ってなんだにゃ~?
しおりを挟むイナゴの黒い副ボスは、わしのかっこいい攻撃で息絶えた。次はボスじゃな。おうおう。ギリギリと音を立てて怒っておるのう。そんなに怒っても怖くないわい。
わしは黒いボスイナゴに戦いを挑むべく、歩み寄る。だが、ボス戦にはまだ少し早かったみたいだ。
ブーン、ブーン、ブーン、ブーン……
ブンブン、ブンブンうるさいわ! うお! 大量のイナゴが飛んで集まって来ておる! 気色悪い……てか、ギリギリ言っておったのは仲間を呼んでおったのか。探知魔法!
あら? 外にいたイナゴが全部向かって来ておる……このボスイナゴは汚い奴じゃのう。男の喧嘩はタイマンじゃろう。空から【氷槍】で虐殺しまくった奴に言われたくないか。
しかし、リータの所に、二匹接触しているっぽい。大丈夫じゃと思うが、急がせてもらおう。
わしは一気に決めるべく、【氷槍】をイナゴの数だけ浮かび上がらせる。そして、もう一本の刀、【黒猫刀】を次元倉庫から取り出し二刀流になる。
さあ、行こうか!
わしは一直線にボスイナゴに向かって走り出す。ボスイナゴはギイギイ鳴くと、イナゴは空から、地上から、波状的にわしに襲い掛かる。
わしは近いイナゴには、二本の刀で斬り伏せ、遠いイナゴには【氷槍】を突き刺して、次々に数を減らしていく。
ボスイナゴは隙を窺い、チャンスがあれば【風の刃】を飛ばし、時には味方のイナゴを目隠しにして、イナゴごと、わしに攻撃を加えようとする。
わしはそんな攻撃も冷静に【土壁】で、イナゴを【風の刃】とサンドイッチにして数を減らす。
これでラスト!
わしは残った最後のイナゴを刀で斬り伏せ、ボスと一対一に持ち込んだ。
ボスイナゴが味方を切り刻んでくれたから時短になったわい。ありがたやありがたや。っと、遊んでないで、さっさと終わらせないと、リータが危ない。
わしは一息吸うと、ボスイナゴに向かって走り、刀を振るう。ボスイナゴは跳んでかわし、わしの後ろに付くと、太い後ろ足で蹴りを放つ。わしは前方に飛び、残っていた【氷槍】を全て、ボスイナゴに放つ。
う~ん。けっこう硬いな。【氷槍】じゃ、かすり傷を追わすぐらいか。それにあの蹴りは強い。当たったら何処まで飛んで行くんじゃろう? まぁ当たればの話じゃけど、なっ!
わしは再び走る。そしてすぐに止まって、近距離から地面と平行に得意の【鎌鼬】を二発放つ。ボスイナゴは羽を広げて飛び上がり、数を増やした【風の刃】をわしに飛ばす。
だが、わしも跳んで避ける。ボスイナゴは、わしの跳び上がった進路に、向けて【風の刃】を飛ばすが、わしは風魔法を操作して空を飛び、全ての【風の刃】を掻い潜り、ボスイナゴの背中に着地する。
「チェックメイトにゃ!」
わしは瞬(またた)く間に羽を斬り裂き、【白猫刀】と【黒猫刀】をボスイナゴの頭に深く突き刺す。
ボスイナゴとわしは地に落ちるが、わしは激突する前に、突き刺した刀で頭を縦に斬り裂きながら飛び降り、大きな地響きと共に決着がついた。
これもかっこよく決まったんじゃないか? ビデオでもあれば再生できるのに……アマテラスに頼めば見せてくれるかな? どうせこれも、女房と見ておるじゃろうしな。
会いたくは無いけど……おっと、決め台詞を忘れておったな。
「ん、んん~……またつまらぬ物を切っ」
「猫!!」
「御使い様じゃ~!!」
誰じゃ! わしの決め台詞を邪魔する奴は!!
わしが声の方向に怒りの表情を向けると、建物の扉が開いていた。
ん? 建物の扉から誰か顔を出しておる……村人か? それにしても御使い様とはなんじゃ? まぁわしを見て気が動転しておるのじゃろう。安心させる言葉でも掛けてやるか。
「わしは悪い猫じゃないにゃ~。イナゴの群れを駆除しに来たにゃ~」
「わかっています。わかっていますとも。有難う御座います」
なに? 話が早過ぎない?? なんか土下座までされてるし……怖がられるよりマシじゃけど、ここまでされると気持ちが悪い。
「頭を上げるにゃ。わしは仕事で、ここに来ただけにゃ」
「いえ。もう命は無いと覚悟しておりました。御使い様に助けてもらいましたのに、お礼の品も何もありません。せめてこうやって感謝を表すしか出来ません。有り難う御座いました」
「あの……ひとついいかにゃ?」
「はっ! なんなりと」
「その御使い様ってなんにゃ?」
「御使い様とは、村が獣に襲われていれば、どこからか現れて救い、飢饉で食料に困っている村があれば、食べ物を分け与える。この国の弱き村人を助けて回るお猫様。あなた様の事です」
なに、その聖人みたいな猫? わし以外に歩く猫がいるのか? って、絶対わしの事を言っておるよな。たしかにその場で狩った動物の肉は寄付しておるが、依頼を受けて、解体を代わってもらい、対価を動物の肉で払っただけじゃ。
討伐も食料もきちんと報酬を受け取っておる。他の村の者が誇張して歩いておるのか?
しかし、このジジイのわしを見る目がキラキラしていて痛い。目が食料を寄越せと言っておるかのようじゃ。ちょっとぐらいなら、次元倉庫の物があるけど、そんな施しはしたくない。ほとんどが高級肉じゃから出したくないってのもあるな。
あ、イナゴって食えたよな? 黒いほうは買い取ってもらえるから、食えるんじゃろうけど、小さいほうは? 佃煮にして食べる地方があるし、このイナゴも食べれるんじゃろうか?
1メートルのイナゴの佃煮か……考えただけで食欲が無くなる。とりあえず、いまはわしが聖人では無いとハッキリさせておこう。
「さっきも言ったけど、わしはハンターで、緊急依頼を受けて、ここに来たにゃ。だからイナゴも全て、わしの取り分にゃ」
「そ、そんな……」
お! 御使い様バラメーターが下がった。しかし、ジジイの絶望の顔、凄まじいのう。人ってこんな顔が出来るのか……ちょっと可愛そうじゃが、聖人パラメーターを上げるわけにはいかん。黒イナゴは譲れん!
「でも、こんにゃに多くはいらないから、わしは黒いイナゴと討伐部位だけ貰って行くにゃ」
わしの言葉にジジイは破顔し、涙ながらに頭を地面に擦りつける。
「はは~~~。有り難き幸せ。これでこの村は救われます!!」
聖人パラメーター限界突破じゃ!!
0
お気に入りに追加
1,171
あなたにおすすめの小説
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる