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第三章 ハンター編其の一 王都を騒がすにゃ~
080 同居人は騒がしいにゃ~
しおりを挟むアイパーティは、しばらく王都に滞在すると言うので、わし達と共同生活を送る事となった。と言っても仕事は別々で、わいわいと食事やお風呂を済ますぐらいだ。
皆で一緒にお風呂に入るのは、ハンターの習慣なのか、この世界の常識なのか、いまだにわからない。出来れば一人で入りたいのだが……ホンマホンマ。
「ねこさん達は、今日もお休みですか?」
わしは庭いじり、リータは魔法の訓練をしていたら、マリーが不思議そうな顔で尋ねて来た。
「休みにゃ。どうしたにゃ?」
「あんまり仕事をしていないように見えるので……」
「そうかにゃ?」
「そうですよ」
う~ん……そう言えば、週三日しかハンターの仕事をしていないな。たしかに少ないか? でも、一回の仕事で家賃の二ヶ月分は稼いでいるから、仕事のし過ぎな気もする。
「マリー達も、王都で仕事をしてないにゃ。いいのかにゃ?」
「王都にはねこさんに会いに、長期休暇で来たんです。ついでに武器や防具のメンテナンスや新調もしています。最前線では、毎日の様に狩りに行っていましたよ」
なんと!? ハンターは毎日仕事をするものじゃったか。これでは仕事をしていないと思われても仕方ない。少し言い訳をしておくか。
「マリー達と違ってわし達は二人にゃ。だから、このペースでもそれなりに稼げているにゃ」
「ちなみにどんな依頼を受けているのですか?」
「普通にゃ。一昨日受けた依頼はCランクの討伐系で、大きなネズミが四十匹ぐらい居たかにゃ?」
「え……それって、複数のハンターで受ける依頼じゃないですか……」
たしかティーサもそんなこと言っていたかな? 最初の頃に止められた気がする。
「それを二人だけで達成しているのですか!?」
驚いている? ほぼわし一人で倒していると言ったらよけい驚かれるか……
「そうにゃ。リータと協力して達成してるにゃ」
「猫さん! 嘘言わないでください。ほとんど猫さんが倒しているのです」
わしがちょっと誤魔化してマリーに説明していたら、魔法の訓練をしていたリータが驚いた声を出して会話に入って来た。
「リータも、こにゃいだ八匹倒したにゃ~」
「それは猫さんがお膳立てしてくれたからですよ」
「そんにゃ事ないにゃ。わしは一対一にしただけだから、リータの実力にゃ~」
「たしかに四十匹も一日に狩って売れば、毎日仕事をしなくてもいいですね。それにしてもリータも強いのですね」
「そ、そんな事ないです。猫さんあっての私です」
「ただいま~」
庭いじりをしながらマリーの質問に答えていたら、買い出しに出ていたアイ達が帰って来たようだ。皆は荷物を居間に置くと、縁側に腰掛ける。
「何してたの?」
「ねこさん達の仕事の話を聞いていました」
「へ~。それは興味あるわね。私にも聞かせて」
「ねこさん達が、一昨日受けた依頼なんですが……」
マリーはわし達と話していた内容を、アイの質問に応えて皆に伝える。
「二人で四十匹……」
「やっぱり収納魔法か~」
「ネズミ肉の臭みを取るには……」
モリーは数に驚いて、エレナはわしの次元倉庫を羨ましがっておるな。ルウだけ食べ物の話になっておるけど、ちゃんと話を聞いていたのか疑問じゃ。アイは……リータに驚いてる?
「リータ。そんなに強かったの!?」
「猫さんにいろいろ教えてもらったから、戦えるようになりました」
「そうなんだ。リータがどれぐらい強いか、ちょっと手合わせしよっか?」
「私なんか、アイさんの足元にも及びませんよ」
「ちょっとだけよ。猫ちゃん、いいよね?」
アイはCランクじゃったよな? リータはわしとしか手合わせした事がないから、調度いいかもしれん。わしもリータがどれぐらい強いのか、いまいちわからんしな。
「手加減抜きでやるにゃらいいにゃ」
「ね、猫さん!」
「保護者の許可も出たし、準備しましょう」
そう言うとアイは、いつも使っている胸当てを装着し始める。わしはあわあわ準備をしているリータに近付き、アドバイスをする。
「緊張してるかにゃ?」
「は、はい!」
「ガチガチにゃ~。いつもの様にやればいいだけにゃ~」
「そんなこと言われても……」
「わしより遅いから、よく見れば大丈夫にゃ。それと土魔法を使う時は、先を丸くするイメージを忘れるにゃ」
「は、はい!」
わしはアドバイスを終えると、アイの立つ庭の中心に、リータを送り出す。すると、皆の頭にクエスチョンマークが表れた。
「「「「「盾?」」」」」
「アイの武器はどうするにゃ?」
「いや、その前に……なんで盾なの?」
「リータの武器にゃ」
わしが盾を武器と言うと、皆は首を傾げて口々に否定する。
「盾は防具よ」
「防具だ」
「防具よね」
「盾で殴るのかしら?」
「防具ですよ」
「まぁやってみればわかるにゃ。それより、武器をどうするにゃ?」
「主武器を使うつもりよ。当てないから心配しないで」
「じゃあ、わしが作るにゃ」
「「「「「作る?」」」」」
また、皆の頭にクエスチョンマークが浮かんだが無視して、アイの武器と同じ大きさの頑丈な剣を、土魔法で作り出す。
「これでいいかにゃ?」
「ありがとう……相変わらず変な事に魔法を使うのね。うん。使いやすいわ」
「それはよかったにゃ。じゃあ、始めにゃ!」
「まだ質問をしたいんだけど……」
「始めにゃ!」
「わかったわよ! リータ、行くわよ!」
わしが質問には答えず開始を宣言すると、アイは渋々武器を構え、リータも盾を構えて模擬戦が始まる。
アイは小手調べと言わんばかりにリータに近付くと、土の剣を両手で振りかぶり、振り降ろす。大振りのアイの剣は、リータの盾で簡単に受け止められる。
「【土柱】」
リータはチャンスと見て、動きの止まったアイの真下から、魔法で土の柱を突き立てる。
遅い! 緊張で集中力が乱れておるな。いつもの速度と違う。アイに避けられてしまったわい。
「あっぶな! 土魔法を使えたんだったわね」
いまので決めていればよかったんじゃがな。まぁそれはそれで味気ないか。
土槍を避けたアイは右から回り込み、リータの隙を探す。リータも同じく動き、アイを自分の正面から外さない。それを見たアイはフェイントを交え、リータを翻弄しようとする。
それぐらいのスピードなら、わしのスピードに慣れたリータを出し抜く事は出来んな。かと言って、リータはカウンターで戦うから攻撃手段に乏しい。
リータは土魔法で何度か攻撃するが、アイは常に動き回るから、どれも外れてしまう。アイはリータの魔法を使った隙を突いて剣を振るが、これも盾に防がれ、意味を成さない。
リータは余裕が出来たのか、考えて戦っているな。逆にアイは、攻撃がまったく通じないから焦ってきておる。
アイは動き回るのをやめ、盾の上から何度も剣で叩く。リータの土魔法だけを注意し、出て来た柱は避けて、また剣を振るう。リータは下がりながら、アイの剣を受け止める。
アイが幾度も剣を振るい、疲れが見えたその時、それは起こる。
リータは突如、アイの剣に合わせて地を蹴り、勢いよく盾を押し出した。アイはリータの意外な攻撃で、後方に押し飛ばされ、土の柱に打ち付けられてしまった。
そこで初めてリータは前に出て、拳を振るう……
「そこまでにゃ!」
わしは勝敗を見極め、リータとアイの間に一瞬で飛び込み、パンチを受け止めて模擬戦も止める。
「アイ。大丈夫かにゃ?」
「いたた。頭をちょっと打ったけど大丈夫よ」
ホッ。大丈夫そうじゃな。でも、リータのパンチを喰らっていたら、こんなもんじゃ済まなかったじゃろう。
しかし、リータは上手く闘ったのう。何本も土の柱を立てて、そこにアイを力任せに打ち付ける。動きの止まったところで、トドメのパンチか。よく考えている。
アイの無事を確認すると、次は、自分の勝利に驚いているリータに近付く。
「アイさんに勝ってしまいました……」
「いまのは初見だからにゃ。あまり浮かれるにゃよ?」
「……はい」
リータは浮かれてはいなかったが、調子に乗って無茶をされる前に釘を刺す。すると、アイがリータの前に立ち、優しい顔を見せる。
「ううん。それでも強かったわ。あのリータが、こんなに強くなったなんて信じられないわ」
「アイさん……」
「こんな事ならパーティに入れておくんだったわ。いまからでも入らない?」
「アイさんに認めてもらえて、嬉しいのですけど……」
「けど?」
「猫さんと一生添い遂げると決めているから、ごめんなさい!」
言い方! リータよ。それは結婚の時に使うんじゃ!!
「あらあら。そういう関係だったの?」
「パ、パーティ仲間って事ですよ!」
「ホントに~?」
「本当ですって!」
「ねこさんは渡しません!」
「マリーまで? 猫ちゃんはモテるわね~」
「茶化すにゃ~」
あ~。ビックリした。プロポーズでもされたかと思ったわい。こんな得たいの知れない猫と結婚したがる奴なんて……けっこういるな。王族筆頭に……
しかし、リータはわしが思っているより強くなっているのう。最後のパンチも、わしが割って入らなかったら、アイは大怪我をしていた。これなら他のパーティーでもやっていけそうなんじゃが、そんな事を言ったらまた泣かれるな。
わしがドキドキを落ち着かせていると、アイが質問して来る。
「リータがこれだけ強くなれたのって、猫ちゃんのおかげ?」
「違うにゃ」「はい」
わしの否定の声とリータの肯定の声が重なった。
「猫さんのおかげですよ」
「リータは元々才能があったにゃ~」
「そんな事ないです」
「自分でも気付いてなかっただけにゃ。そこをちょっとアドバイスしただけにゃ」
「それでこんなに強くなれるんだ。私にもアドバイスしてくれない?」
アイか……なんも思い付かん。いいところと言えば……面倒見がいい? これは戦闘と関係ないな。適当に言っておくか。
「アイは肉体強化魔法を使うといいにゃ」
「それが出来たら苦労しないわよ」
「魔法は使えないのかにゃ?」
「魔力量が少ないから、戦闘で使えないの」
「少ないなら、一瞬だけ使えばいいにゃ。それだけでも相手は驚くにゃ」
「たしかにそうかも……その魔法、教えてくれない?」
「教えてもいいけど、わしの授業は難しいにゃ。大丈夫かにゃ?」
「猫ちゃんがわかる事なんでしょう? 大丈夫よ」
「それじゃあ始めるにゃ~」
土魔法で作った大きな板に、字を書くこと数十分……そこには、生ける屍が六体出来上がった。
「もうダメ。猫ちゃんは、なんの話をしているの?」
「思考停止……」
「こんなに数字がいっぱいある。金貨に換算すると……」
「食欲無くなるわ~」
「魔法の先生より難しいです~」
「何度聞いてもわかりません」
みんなギブアップか……わしも説明しているが、半分以上わかっておらん。アマテラスから貰った魔法書の丸写しじゃ。
「だから難しいって言ったにゃ~」
「こんなに難しいとは思わなかったわ!」
「何か簡単な方法はないのですか?」
魔法を強化する言霊って簡単な方法があるけど、これはこの世界で使っている者を見たことがないな。
肉体強化だけなら教えてもいいかも知れんが、そうなると、魔法使いのマリーとの力の差が出来てしまう。
「ないにゃ。魔法は現象を深く理解する事が近道にゃ」
「難しいよ~」
「とりあえず、理解できる所だけ解ればいいにゃ。それだけでも威力は変わってくるにゃ」
「そうなんだ」
「ねこさん。わたしにも何か教えてください!」
マリーか……戦闘で風魔法と土魔法を少し使っていたな。う~ん……水魔法でいいか。
「マリーは、水魔法は使えるかにゃ?」
「少しです。コップに一杯出せるぐらいです」
「戦闘には使えないかもしれにゃいけど、いっぱい出せたらいいと思うかにゃ?」
「そうですね。それなら旅が楽になります」
「じゃあ簡単に……」
わしはマリーに、普段使っている水魔法を見せてもらい、二、三質問する。それが終わると水の知識を説明して、お風呂場に向かう。
「聞く限り、マリーは今まで、その場の水分を搾って水を出していたにゃ。今度はそこに自分の魔力を水に変えるイメージでやってみるといいにゃ」
「わかりました。……えい!」
マリーが魔力を放出すると、浴槽に、およそ1リットルの水が現れた。
「わ! こんなに出ました。呪文も唱えてないのに……すごいです!」
「理解とイメージがあれば、魔法は使えるにゃ。そこに呪文も加えると、もっと水が出るはずにゃ」
「そうなると、今までが間違っていたのですか?」
「わしが思うに、呪文って言うのは現象を研究して文章にしていると思うにゃ。研究して理解をするって事は間違いじゃないにゃ。ただ、理解もせずに文章を読み上げている人が多いんじゃにゃいかにゃ~?」
「ひょっとして、これって大発見なんじゃないですか?」
どうなんじゃろ? 無詠唱で魔法を使っている人は……そんなにいないかも? まぁマリーなら口止めしておけば大丈夫じゃろう。
「この方法は秘密にしておいて欲しいにゃ」
「ねこさんがそう言うなら誰にも言いません。《二人だけ》の秘密ですね」
なんか笑顔で二人だけに力か入っていたけど、気のせいか? リータも無詠唱なんじゃが、マリーの笑顔が曇りそうじゃし黙っておこう。
「この方法をアレンジすれば、火魔法も使えそうですね」
「そうなるにゃ」
「えっと……こうして……えい!」
「にゃ~! 【水玉】、【水玉】にゃ~!!」
「きゃ~~~!」
マリーの出した火は、魔力の量を間違い、大きな炎となって天井まで届いてしまった。わしは慌てて水魔法で消火したが、天井は焦げ、わし達は水浸しになってしまった。
「いきなりやっちゃ危ないにゃ~」
「うぅ。ごめんなさい」
「怪我は無いかにゃ?」
「はい。大丈夫です」
「どうしたの!?」
わしがマリーの心配をしていると、悲鳴が外まで漏れていたらしく、アイとリータが風呂場へ駆け付けて来た。
「まさか猫ちゃん……マリーを襲ったの?」
「猫さんのエッチ……」
「にゃんでそうなるにゃ~!」
「ねこさんならいつでも……」
「マリーもにゃにを言ってるにゃ! 修理するから、みんにゃ出て行くにゃ~!」
わしは風呂場から全員を追い出し、焦げた所を薄い土魔法で覆い隠す。もう夜も近く、お風呂にするにはいい時間なので、ついでにお風呂の準備をして、皆に入れる旨を伝える。
わしは皆が終わってから入ると言っているのに、捕まってしまった。渋々……渋々、猫型に戻ってお風呂に入る。
そうして皆で汗を流していると、わしの行動に疑問を思ったアイが質問して来る。
「なんでいつも断るの?」
「わしは男にゃ! みんにゃも見られて恥ずかしいはずにゃ~!」
「恥ずかしい?」
わしの台詞に、アイは皆に話を振る。
「猫だから何も思わない」
「猫だしね」
「泡立ちがいいよね」
「ねこさんと入ると気持ちいいです」
「猫さんを洗うの好きです」
猫の見た目のせいで、性別はお構いなしですか……。エレナだけ、わしをバススポンジ扱いしておるのが気になる。あんな所やそんな所が当たるからやめて欲しい。ホンマホンマ。
「本当は嬉しいくせに~」
「そんにゃ事ないにゃ~!」
「もう私達も猫ちゃんの弟子なんだから、師匠を洗うのは弟子の務めよ」
「そうそう。はい、ゴシゴシ~」
ルウはわしを石鹸で泡立てて体を洗う。だが、わしは納得がいかない。
「わしで体を洗うにゃ~~~!」
エレナ以外にも全員に、バススポンジ扱いされているわしであったとさ。
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