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第三章 ハンター編其の一 王都を騒がすにゃ~
068 昇級試験を受けるにゃ~
しおりを挟む家が完成した翌日。狩りに出てお金を稼ぎ、いつもと同じように、リータの腕の中で眠りに就く。
朝が来ると、ハンター登録も家も一段落ついたので、わしは出掛ける準備を終えてリータに声を掛ける。
「ちょっと出掛けて来るにゃ」
「私もお供します」
「野暮用を済ませるだけにゃ。今日は留守番してくれにゃ」
「そ、そんな……」
何故、そんな悲しそうな顔をするんじゃ? 昔、飼っていた犬が、わしが会社に出掛ける時に見せた顔をしている。女房や子供達はそんな顔をした事は無いが……
「夕方には帰って来るにゃ。食事はこのお金使ってくれにゃ。冷蔵庫には、肉も飲み物もあるから遠慮無く食べるにゃ」
「はい……美味しい料理作って待ってます。だから早く帰って来てくださいね」
「わかったにゃ。行って来るにゃ~」
「いってらっしゃい」
リータは新婚当初の女房みたいな事を言っておるな。女房は一ヶ月持たんかったが……
これから向かう場所は、まだリータを連れて行くのは不安じゃし、行っても仕方がない場所じゃ。置いていくしかない。
わしはリータと初めて待ち合わせした、人の来ない場所へ足早に向かう。到着すると物陰に入り、人に見られないように土魔法で穴を掘る。そしてマーキングして、転移魔法を使う。
一瞬にして森の我が家に到着したが、辺りは真っ暗なので光魔法を使って家の中を照らす。そうして内部が明るくなると、玄関や空調を全開にし、空気を入れ換えて外に出る。
そろそろ、コリスの所に顔を出さんと、寂しがって我が家まで来そうじゃ。ついでに縄張りのパトロールと、窓ガラスを作る素材も集めないとな。
わしは縄張りを走り回り、素材も集めて次元倉庫に入れていく。途中、大蚕の所に寄り、売り物にならない動物と糸を交換しておいた。一通り素材が集まるとリス家族に挨拶に行く。
キョリスとハハリスと世間話をし、コリスが疲れて寝るまで遊び相手をして、夕方には王都の家に戻った。
「ただいまにゃ~」
「ね、猫さん! 怖かったです~」
家に着くなり、リータが泣きながらわしに抱きついてきた。
「どうしたにゃ? にゃにがあったにゃ?」
「殺されるかと思いました~」
殺される? 物騒な事を……またあいつらが、リータにちょっかい掛けて来たのか。名前は……え~と。いん……陰毛? いや、インモ!
「またインモと会って、にゃにか言われたのかにゃ?」
「違います! 王女様です! 王女様がこの家に来たんです!!」
「あ~。さっ……王女様にゃ。にゃにか言ってたかにゃ?」
「なんで驚かないんですか!? 王女様が来たんですよ! 私なんか、粗相でもして、いつ死罪になるかと生きた心地しなかったのに!!」
リータは大袈裟じゃのう。それとも、これが王族に対する一般的な反応なのか?
「王女様はわしの友達にゃ。そんにゃ事しないにゃ」
「王女様と……友達?」
「そうにゃ」
「猫さんはいったい何者なんですか?」
「ただの猫だにゃ~」
「絶対、違います!!」
わしの発言にリータは声を荒げてツッコむ。わしは否定も出来ないので、リータが落ち着くまで話を聞いてあげる。
わしが出掛けた後、リータはいつものように、行進、正拳突き、魔力の感知の練習メニューをこなし、昼には買い出しと食事を広場で済まして家に戻ったそうだ。
そこで家の前に護衛の騎士を連れた豪華な馬車が止まっていて、何か用かと恐る恐る尋ねたところ、さっちゃんが登場したらしい。
リータはわしが留守だと伝えたが、さっちゃんは待たせてもらうと、家に靴を履いたまま上がり込んだみたいだ。わしの家は土足厳禁だから、リータは必死で説明して脱いでくれたとのこと。
その後、なかなか帰って来ないわしを待ちながら、家の中を護衛の騎士と一緒に「わ~わ~」言いながら探索し、リータとわしの関係を聞かれたらしいが、緊張でどう答えたかわからないみたいだ。
「それで先ほど帰られました」
コリスのご機嫌取りより、さっちゃんが先じゃったか。さっちゃんと護衛が騒いでいたと言う事は、ソフィ達も一緒じゃったのかな? まだ、家の場所も教えてないのに、よくわかったもんじゃ。
「お疲れ様にゃ。それで王女様は、にゃにか言ってたかにゃ?」
「もっと頻繁に、城に顔を見せるように言ってました」
頻繁って……まだ一週間しか経っておらん。やっと仕事と住み家が整ったところじゃ。また来られてもリータの精神に悪そうじゃし、明日、顔を出すか。
おっと、昇級試験があったな。朝からじゃし、昼には終わるかな?
「明日、ギルドの試験があるから、終わってから城に行くにゃ」
「私もついて行っていいですか?」
「城にかにゃ?」
「ち、違います! ギルドです。応援させてください」
「わかったにゃ。一緒に行くにゃ~」
「はい!」
その夜、王女来襲で食事の準備をすっかり忘れていたリータを労い、一緒に夕食を作って食べる。お風呂も一緒に入り、背中を流してあげ、早めの就寝。リータの腕の中で眠る。
翌朝、ハンターギルドに入るとティーサに声を掛ける。
「おはようにゃ~」
「おはようございます。まだ早いですけど、受付、済ませちゃいますね」
わしは首から掛けたハンター証を渡しながら質問する。
「試験はどこでするにゃ?」
「ギルド専用の訓練場です。はい。受付終わりました。案内しますので、ついて来てください」
わしとリータはティーサの後に続き、ギルドの入口とは別の扉から外に出る。外に出ると、そこにはバスケットコート二面分ほどのグラウンドと、隣接した観客席が目に入る。
「ここは普段、にゃにをする所にゃ?」
「パーティが訓練するのに借りたり、大物の動物の解体や、オークションですね。あとはお祭りの時の娯楽として、武道大会として使われます」
ほう。ギルドの横に、こんなに広いスペースが必要なのかと思ったが、活用方法は多くあるんじゃな。
「それでは試験が始まるまで、自由に待っていてください」
「わかったにゃ」
わしは連れのリータがいるので観客席に移動し、見えやすい位置に席を取り、辺りを見渡す。
わし達が入ってから、人が続々と入って来るが、こんなに受験者がいるのか? ざっくり五十人以上いるぞ。
「すごい人ですね~」
「そうだにゃ。リータの時も、こんにゃに人はいたのかにゃ?」
「私は弱いし、自信がないから、受けてないのでわからないです。あ! あれ、露店のおばさんじゃないですか?」
「ホントにゃ。ハンターのわけは……ないにゃ」
「ですね」
と、なると野次馬か……娯楽でも使うような事を言っておったし……あ! ソフィとドロテもいる。騎士の仕事をサボって何しとるんじゃ?
わしに手を振ってる場合じゃなかろうが……いちおう礼儀じゃし、返しておこう。
「あの手を振っている人達、昨日来た王女様の護衛の方ですよ」
「ソフィとドロテにゃ。あの子達も友達にゃ」
「ほへ~。猫さんの友達は、偉い人が多いんですね」
たしかに、わしの交遊関係は片寄っておる。王都に来てからは、お城暮らしじゃったから仕方ないのう。
しかし、観客がさらに増えて来ておる。みんな娯楽に飢えておるのか?
「ギルマスが入って来ましたね」
ギルマスのスティナを先頭に、ハンターらしき者達が訓練場に入って来る。スティナは中心に立つと、マイクみたいなものを口に当て、声を出す。
『静まれ! これより昇級試験を執り行う。試験を受ける者は集まれ!』
スティナの声に、数人のハンターが訓練場の中心に集まって行く。
「んじゃ、わしも行って来るにゃ~」
「猫さん、頑張ってください!」
わしはリータの応援に笑顔で返し、観客席から飛び降りる。着地するや否や、大きなざわめきが起こった。
「あれが噂の猫か」
「やっぱりぬいぐるみじゃない?」
「かわいい~」
「あの猫は強いのか?」
「噂だと、動物を何匹も持ち帰っているらしい」
「それじゃあ、どこまでランクを上げられるか賭けようぜ!」
「もうあっちで受付していた。行こう!」
「ねこさ~ん。がんばって~」
「シラタマ様、ファイト!」
「サンドリーヌ様が怒ってましたよ~」
むう。ざわめきがすごい。他の受験者が出てきた時は、なんの反応もなかったのに……これはわしを見に来た観客なのかもしれん。やり辛いのう。
しかし、最後のソフィとドロテじゃよな? さっちゃん、怒ってるの? 聞こえなかった事にしよう。
わしは様々な声を聞きながら、スティナがいる中心に歩み寄る。
「揃ったな! これから試験を始める。前衛職の者には、ひとつ上のランクの者と闘ってもらう。勝てた場合、またひとつ上のランクと上がって行くからな。魔法職の者は……一人だな。お前はCランクの魔法使いに、どれだけ魔法が使えるか見てもらえ。それでは始めるぞ!」
わしは? ペットは前衛扱いか? 試験が始まったら、スティナに聞きに行くか。
それにしても、こんなに人がいるのに試験を受けるのは、わしを入れて六人か。残りの五人は、パーティっぽいな。魔法使い一人に前衛四人ってバランス的にどうなんじゃろう?
おっと、スティナが何か話しておる。順番か……わしは最後みたいじゃな。
試験が始まると、わしはスティナに近寄り、声を掛ける。
「スティナ。おはようにゃ~」
「ええ。おはよう、シラタマちゃん。どうしたの?」
「わしの試験も、前衛職でいいのかにゃ?」
「ペットだもんね。悩んだわよ。女王陛下の手紙にあったけど、剣と魔法を使うのよね?」
「そうにゃ」
「とりあえず、剣を見せてくれる? 後から魔法も見せてもらうわ」
「わかったにゃ。それにしてもすごい人にゃ~」
「まさかこんなに人が集まるとはね~」
「いつもはどうなんにゃ?」
「ハンターの身内か、知り合いが数人見に来るぐらいよ」
「原因は、やっぱりわしかにゃ?」
「そうね。それとギルドで宣伝したのも効いてるわね。チケット代は、おいしいわ~」
金取っておるんかい! この満員の人はわしのせいじゃない。スティナのせいじゃ! 宣伝なんてしやがって……ん? わしのおかげでチケットが売れたと言う事は……
「それ……わしにも分け前を貰う権利があるにゃ!」
「あ……しまった! え~と……ほら! つぎ、シラタマちゃんよ。頑張って~」
「待つにゃ~!」
スティナに押され、わしは試験官のハンターの前に連れて行かれる。そこには、陰毛じゃなく、インモが仁王立ちで待ち構えていた。
「さっさと準備しろ!」
スティナめ……まだ取り分の話は終わっておらんぞ!
「おい! 聞いているのか!」
え? あ……聞いておらんかった……
こうして、わしの昇級試験は始まるのであったが、試験官のインモはわしが話を聞いていなかったので、ご立腹となってしまった。
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