41 / 755
第二章 王都編 友達が出来たにゃ~
040 到着だにゃ~
しおりを挟むわしはさっちゃん暗殺犯であろう五人の賊を峰打ちで斬り伏せ、意識を刈り取った。そして、賊を一箇所に集めると持ち物を没収して、土魔法で作り出した頑丈な檻に閉じ込める。
賊を閉じ込めると、わしはフードを深く被り直し、水魔法を賊にぶっかけて起こす。
「なんだ!?」
「……水?」
賊を起こすと、わしは地面にあった枯木に火を点ける。うっすらと辺りが明るくなったところで、賊は自分達の置かれた状態とわしの存在に気付く。
「檻?」
「お前は誰だ!」
「わし? わしは護衛にゃ」
「そんな小さいのに王女の護衛か」
「「「ギャハハハ」」」
やっぱり馬鹿じゃのう。王女など一言も言ってないのに。それにその小さい奴に負けたと気付かないのか? 笑いやがって!
ちょっとだけいたぶってもいいじゃろ? ちょっとだけじゃ。
「【小火の玉】【小火の玉】【小火の玉】にゃ」
「ギャーーー!」
「あち~~~!」
「やめろ~~~」
「け、消せ~~~」
「【ウォーターーー】!」
賊はわしの【小火の玉】で服を焦がし、騒ぎ出す。その騒ぎの中、魔法使いらしき男が少量の水を出して、なんとか消火したようだ。
「次、騒いだら殺すにゃ」
「なにを~」
「【小火の玉】にゃ」
「ウ、【ウォーター】」
「わしの質問に答えるにゃら殺さないけど、どうするにゃ?」
「誰が答えるか!」
「じゃあ死ぬにゃ~」
わしは土魔法を操作し、ゆっくりと檻を小さくしていく。賊は最初は騒ぎ、暴れていたが、檻が小さくなっていくと物理的に静かになっていく。静かになると、わしは小さくなるのを止める。
「で、最後の言葉は『誰が答えるか』で間違いないかにゃ?」
「待て!」
「『待て』が最後の言葉かにゃ? わかったにゃ」
「待て……待ってください!」
「うるさいのは嫌いにゃ。代表が話すにゃ」
暗殺犯のリーダーらしき男が、わしの質問に重い口で答えていく。
なんでも王都ではハンターをしているが、ハンターギルド以外の非合法な仕事も引き受けているらしい。そこで、黒服の怪しい男に声を掛けられ、報酬が良かったから飛びついたと言う事だとさ。
「お前達が馬鹿なのは、よ~くわかったにゃ」
「待ってください! 全て話したんだから逃がしてください」
「馬鹿にゃお前達に教えてやるにゃ。王女暗殺は重罪にゃ。逃がす訳が無いにゃ」
「そんな……」
「せ、せめて檻を広くしてください」
暗殺犯は、身動き取れないぐらいぎゅうぎゅう詰めじゃな。広げてやってもいいが……
「広げてやるから騒ぐにゃ! もしもお前達の声がわしの耳に入ったら、どうにゃるかわかるにゃ?」
「……はい」
わしは暗殺犯が寝転べるぐらいに檻を広げ、馬車に戻る。馬車に戻ると意外な人物……いや、意外な猫が出迎えてくれた。
「終わったの?」
「ああ。エリザベスとルシウスは何をしておるんじゃ?」
「昼に寝過ぎて眠れないだけよ」
「エリザベスが見張り代わってくれるってさ」
「ルシウス! 噛むわよ!!」
「にゃ~!」
逃げるルシウス。追うエリザベス。どっちも本気じゃなさそうじゃ。
やっぱりエリザベスはいい子じゃな。わしの食べ物を取らなければ……あと、ネコパンチしなければ……ん? あんまりいい子じゃない??
「猫ちゃん達、起きて来たけど、どうしたのかしら?」
「わしと見張りを代わってくれるにゃ」
「そうなんだ。優しい兄弟だね」
「自慢の兄弟にゃ」
「そう言えば、敵はどうなったの?」
「檻に閉じ込めて来たから大丈夫にゃ。また連絡、お願いするにゃ」
「オッケー。今じゃ繋がらないかもしれないから、朝一でするわ。ここに埋めるって伝えたらいいの?」
「面倒だけど、そんなに離れていないし、朝に十人の盗賊の所に埋めに行くにゃ」
「猫ちゃんがそうするなら伝えておくわ」
「よろしくにゃ。おやすみにゃ~」
「おやすみ~」
わしはアイノに挨拶を済ませると、兄弟達に感謝と誰かが来たら必ず起こすように伝える、エリザベスは終始、わしの為で無いと言っていたが、あれは孫から教わったツンデレだと思う。
そして、わしは猫型に戻ると欠伸をしながらさっちゃんのベッドに、起こさないように潜り込む。だが、眠ったままのさっちゃんにガッシリと捕まって、抱かれたまま眠りに落ちていくのであった。
翌朝、さっちゃんの胸の中で目を覚ますと、ゆっくりさっちゃんから脱出する。尻尾を掴まれるハプニングはあったが、からくも逃げ出した。
「ふにゃ~」
「シラタマ様、おはようございます」
「ソフィ、おはようにゃ~」
「昨夜はまた暗殺犯が出たみたいですね」
「そうにゃ。わしの寝てる間に、何も無かったかにゃ?」
「その一件だけです」
よかった。もしも強い奴が来ていたり、エリザベスが無茶していたら大変じゃ。何もないに越した事はない。
わしはソフィと軽く挨拶をすると猫型のまま、暗殺犯の元へ向かう。猫、猫と朝からうるさかったので【水玉】を静かになるまでぶつけて黙らせた。そして、土魔法で檻を浮かせると車輪を付け、檻の上に乗って馬車に向けて動かす。
う~ん。大きめの車輪を付けたけど、揺れがひどい。スピードを出す予定じゃからこのままだと、盗賊の所まではちとキツイのう。わしが引っ張るのは嫌じゃし、車で牽引するか。
檻に乗って馬車に戻ると、起きて来た皆に、また呆れた顔をされた。不思議じゃ。
「こいつらを盗賊の所に埋めて来るにゃ。みんなは朝ご飯を用意するから食べて待ってるにゃ」
「ううん。シラタマちゃんと一緒に食べるよ」
「すぐ戻るからいいにゃ」
「シラタマちゃんが何をするか、すご~~~く気になるのよ」
なんかみんな頷いておる……兄弟達まで!! 何故に??
「別にたいした事しないにゃ。すぐに戻るから待ってるにゃ!」
わしは車と檻を土魔法で繋げると、人型になって運転席の中央に乗り込む。人型になるのは猫型では座席が低くて見えないからだ。
運転席が中央にある理由は、サイドレバーも無いから右や左に寄せる必要が感じられなかった為、見やすさ重視に作ったからだ。
わしが乗り込むと、さっちゃんとアイノがわしを押し込むように乗り込み、ソフィ、ドロテ、兄弟達が後部座席(居住スペース)に座る。
「なんでみんな乗ってるにゃ?」
「気になるからよ」
「気になりますから」
「気になります」
「気になるよね」
「にゃ~(気になる~)」
「にゃにゃにゃにゃ!(何か楽しそうな予感がするわ!)」
なに? みんなの木になる発言……わしは果物じゃないわい! このボケは面白くないのう。他に思い付くボケは……じゃなくて!
「みんな、ついて来るにゃ?」
「「「「うん!(はい!)にゃ~!」」」」
みんな興味津々じゃな……
「はぁ……それじゃあ飛ばすから、しっかり掴まってるにゃ」
わしは中央に座っているさっちゃんと席を変わってもらい、土魔法でゆっくり車輪を動かす。徐々にスピードを上げて行くと、皆から様々な声が聞こえて来る。
「きゃ~~~! 速い、速い!!」
「振動が少ないですね」
「単体の馬より速いかも」
「こ、怖いです~」
「「にゃ~~~!」」
みんな概ね楽しそうじゃが、ドロテは怖がりじゃのう。兄弟達は……もっと飛ばせですか。馬車は遅いからのう。
わしの体感では80キロってところか。パトカーもおらんし、兄弟達の望み通りもっと飛ばすとするか。
わしがスピードを上げようとしたその時、綺麗に咲いた朝顔……いや、盗賊の顔が見えて、慌てて減速をした。
幸い王都からの応援もまだ来ていなかったので、みんなには降りないように強く言い、檻の中の暗殺犯を盗賊と同じように朝顔の仲間入りさせて車に乗り込んだ。
さっちゃんとアイノに「ブーブー」言われたが、無視して発進。さらにスピードを上げて、往復十五分も掛からずに馬車まで戻って来た。
「速かった~」
「信じられません」
「こ、怖かった……」
「猫ちゃん。これは魔道具?」
「そんな物じゃないにゃ。それより朝ごはんにするにゃ~」
わしはいそいそと食事の準備を始める。食事中もわいわいと車の事を聞かれたが、わししか運転出来ないと言うとがっかりして質問の数は減った。
しかし、アイノに車の構造について根掘り葉掘り質問された。どうやらまだ、この世界にはスプリングは無いようなので、実物を見せてもピンと来ないみたいだった。
食事が済めば出発準備。わしがテーブルセットと車を次元倉庫に仕舞うと、さっちゃんとアイノに車に乗りたいと駄々をこねらる。たが、さっちゃん暗殺犯のあぶり出しだから、乗り物が変わるといけないと説得してなんとかやり過ごした。
また乗せる約束だけはきっちり取られたが、仕方がない。
こうして朝の騒がしさを終え、ベネエラに向かう。馬車で走るが、一日目のように盗賊に襲われると用心していたが、盗賊の待ち伏せは消えた。
順調に馬車を走らせ、昼食を挟み、まだ日が高い内にベネエラの街が見えて来た。
「シラタマ様。あの街がベネエラです」
ふ~ん。大きな湖の側にちょこんと街があるのか。湖で遊ぶには外に出ないといけないのかな? 湖があるって事は淡水魚の料理が食べられるかも。楽しみじゃのう。
しかし、高い壁はどこの街も一緒じゃのう。検閲とかあるのじゃろうか? ペットお断りとかあったら嫌じゃな。まぁ王女様のペットを没収する輩はおらんか。
馬車は街の門に向かい、近付くと、王女一行と気付いた兵に案内される。
「王女殿下。ようこそベネエラへ。お供は護衛三名とペット三匹でよろしいでしょうか?」
「ええ。しばらく滞在させてもらいます」
さっちゃんは門兵に軽く挨拶をして、街の中へと馬車を進ませる。
「ソフィ。街にはこんなに簡単に入れるにゃ?」
「王族のサンドリーヌ様が乗られていますからね。ふつうは並んで身分証明書の提示や、他国の者なら入国税の支払いで、もっと時間が掛かります」
「身分証明書にゃ?」
「一般市民なら居住区で発行しているカード。ハンターなら所属証明書扱いのペンダントですね。私も騎士の証のペンダントを付けています」
ソフィは胸元から銀色のペンダントを取り出して、わしに見せてくれる。
「わしも身分証明書が欲しいにゃ~」
「そう言えば、シラタマ様は持っていないのですね。不法入場は犯罪です」
「猫だにゃ~。大目に見るにゃ~。それより、この辺は人がいないにゃ~」
ソフィの目が怖かったので、わしは慌てて話を逸らす。
「この辺りは貴族の別荘が多い土地ですね。もう夏も終わりですので、領地に戻ったみたいです」
よしよし。わしの不法入場の話は逸らせたな。
「先ほどの話ですが……」
「あの建物は大きいにゃ~!」
「あちらは、サンドリーヌ様の滞在先になります」
ソフィはそう言うと、皆に到着するので降りる準備をするように促す。わしは不法入場の件がうやむやになって、ホッと胸を撫で下ろすのであった。
セーフ! 助かった~~~!!
0
お気に入りに追加
1,168
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる