32 / 755
第二章 王都編 友達が出来たにゃ~
031 王女様と話すにゃ~
しおりを挟む我輩は猫又である。名前は……シラタマだ。もう、そう呼べ!
この世界に生まれ落ちてから二年と七ヶ月。待望の名前が食べ物だなんて、女房に知られたら笑い死にしてしまう。アマテラスは変な報告入れておらんじゃろうな? 心配じゃ。
わしが決死の覚悟で侵入してみれば、助けはいらんと言われ、一年振りに会った兄弟達は別人(猫)のようになっていて、現在わしは現実逃避まっ只中じゃ。さて、自分の世界にいても仕方がない。話を進めよう。
「あの~。王女様。よろしいでしょうかにゃ?」
「サンドリーヌでいいよ。それに、そんなに畏まらなくてもいいよ。話し辛いでしょ?」
「それじゃあ、お言葉に甘えて、サンド……ササトリート……」
「言いにくい? 好きに呼んでいいよ」
「じゃあ、さっちゃん?」
「変な愛称ね。猫の国の呼び方かしら? わたしの事はさっちゃんでいいわ。それでどうしたの?」
「兄弟達は仲が悪いのかにゃ?」
「そんなことはないよ。ね~?」
「しかし、きょ、ルシウスがエリザベスに殺されるって言ってるにゃ」
「え! 猫の言葉がわかるの?」
「わしも猫だにゃ~」
「あ、そっか」
食いつくところはそこじゃないと、わしは思うぞ。
「殺される? ひょっとしてさっきの毒……」
さっちゃんはさっきまでのテンションと打って変わり、急に青ざめ、塞ぎ込む。わしはどうしたのかと、エリザベスに問いただす。
「この子、どうしたんじゃ?」
「あ~。やっと気付いたのね」
「気付いたとは?」
「ご主人様は命を狙われているのよ。さっきもそうだけど……」
エリザベスが言うには、最近おかしな事が起き始めているみたいだ。さっちゃんと一緒に歩いていると上から花瓶が落ちてきたり、石像が倒れてきたりしたそうだ。
最初は事故かと思っていたが、日に日にエスカレートして、矢や剣が飛んで来るようになったとのこと。それらを事前に察知したエリザベスが、ルシウスの体を使って回避していたらしい。その都度、ルシウスは痛い思いをしたそうだ。
「エリザベスが気付いたなら、エリザベスが止めればよかったのでは?」
「痛いから嫌よ。それに、こいつの方が体が頑丈じゃない」
兄弟をこいつ呼ばわり……エリザベス、怖い子じゃ。
「ルシウスがかわいそうじゃ」
「生きてるんだからいいじゃない」
「死にかけたよ!」
「ルシウスに、さっきは何が起こったんじゃ?」
「ご飯に出てたスープから嫌な匂いがしてたから飲ませただけよ」
つまり毒とわかって飲ませたのか……ひどい。ルシウスが不憫じゃ。皿をひっくり返したらいいじゃろうが! そりゃ、わしに泣きつくわ。
それはそうと毒か。第三王女って言っておったし、後継者争いってことかのう? こんな少女を殺そうとするとは世も末じゃ。
「だいたいの事態はわかったけど、兄弟達の性格がだいぶ違うんじゃが、何があったんじゃ?」
「そう? 変わったかしら?」
「全然違うわ!」
「あ……そう言えば、ルシウスは軟弱になったわね。お母さんが死んでからルシウスが塞ぎ込んじゃったし……それに、こんな訳のわからない所に連れて来られて……あんたもいないし……」
頼りのルシウスは頼りにならないから、エリザベスが変わらないといけなかったのか。わしが森で遊んで……もとい。修業している時も辛い思いをさせていたのか。エリザベスよ。すまなかったな。
「まぁ最初のうちは気を張っていたけど、ご主人様は優しいからね。すぐにここの豪華な暮らしに慣れたわよ」
謝罪を返せ! わしだってこんな生活したかったわい!
「逃げ出そうとしなかったのか?」
「したわよ。でも、ご主人様から一定距離離れると苦しくなるのよ。ちょうど外のあの辺り……」
「どうやって調べたんじゃ?」
「それはルシウスを……」
「いや、いい! 聞きたくない!」
ルシウスが苦しんでいる姿しか思いつかん。話しを変えよう。
「逃げられないなら、戦おうとしなかったのか?」
「お母さんが勝てない相手に? ルシウスは使い物にならないのに? 人間に敵意を向けると苦しくなるのに?」
「懸命な判断でございます」
エリザベスさん。怖いですよ。ルシウスも震えておるし、そんなに歯を剥かないでください。
「そうじゃ! おっかさんを殺した奴らは、いま、どこにおるんじゃ?」
「さあ? 最近、気配を感じないわね」
いないのか? だからこんなに簡単に侵入出来たのか。じゃあ逃げ出すのも簡単じゃ。問題は、兄弟達がさっちゃんから離れられない事か……魔法じゃろうか?
魔法書から類似の魔法を見つけられればいいんじゃが、時間が掛かるのう。使用者を探す方が早いかな? さっちゃんが教えてくれたら楽なんじゃが、教えてくれるかな?。
どっちにしても時間が掛かりそうじゃし、しばらく厄介になるとするか。豪華な食事も食べてみたいしのう。
「しばらくわしも残って、エリザベス達がここから離れられるようにするから、それが終わったら一緒に帰ろう」
「だから嫌って言ってるでしょ!」
「僕もここの暮らしの方がいい」
ルシウス~! お前までわしを裏切るのか。いったいどんな豪華な食事が出るんじゃ。明日の朝が楽しみじゃのう……違う!
「あんた、ここに残るならご主人様を助けてあげてよ」
エリザベスはさっちゃんが心配なのか。実はいい子じゃもんな。わしは知っておるとも。
「ご主人様が死んだら、いい暮らしが出来なくなるかもしれないからね」
知らん子じゃった! わし、もうツッコミ疲れたわい。もうツッコまんわ。へ~へ~。やればいいんでしょ。やれば。
「わかったわい。帰る話は、また今度しよう」
「だから帰らないって……それより、その姿はなによ?」
遅っ! 今頃!? あ……ツッコんでしまった。くそう……
「人間を真似て変身してみたけど、エリザベスもルシウスも驚かないんじゃな」
「あんたが変なのはいつもの事でしょう? いまさらよ」
「そうそう。いつも変」
みんなそんな目で見ていたのか……悲しいぞ。わし渾身の orz じゃ! 今は人型じゃから完璧じゃ!!
わしがうなだれていると、兄弟達が擦り寄ってくる。
「まぁ生きていてくれて嬉しいわよ」
「そうそう。エリザベスはいっつも心配してたんだから」
「馬鹿! あんた噛むわよ!」
「ぎゃ~! 噛まないで」
「それ、ルシウスが、よくわしに言ってたヤツ」
「あ!」
「ホントだ」
「「「アハハハハ」」」
兄弟三匹、無事を確認し、揃って「にゃ~にゃ~」と笑い合う。そんなわし達の賑やかな声に引かれて、さっちゃんが話し掛けてくる。
「みんな楽しそうね。どうしたの?」
わしは代表して念話で会話をする。
「一年振りに兄弟が揃ったから、懐かしんでいたにゃ~」
「みんな兄弟だったの!? 私のせいで仲良し兄弟を引き離していたのね……ごめんなさい」
「どうして謝るにゃ?」
「去年、私の十歳の誕生日にお父様がプレゼントは何がいいって聞かれたの。それで白い猫さんが欲しいって言ったから……」
「もう終わった話にゃ。おっかさんも生き返らないにゃ」
「お母さんまで……」
「いたっ! 何するんじゃ!」
さっちゃんはわしの発言で落ち込んでいく。それを見ていた兄弟達からネコパンチをいただいた。兄弟達の方が、元人間のわしより空気が読めるみたいだ。
「その話しは置いておくにゃ。それよりも、さっちゃんに危険が迫っているにゃ。言ってる意味はわかるかにゃ?」
「……うん。今日の毒入りスープの件ね」
「それ以前にも兄弟達が守っていたにゃ」
「そうなの!? 二人ともありがとう」
さっちゃんは、兄弟達を優しく撫でながらお礼を言う。
「でじゃ。首謀者はわかるかにゃ?」
「……わからない」
「それじゃあ、命を狙われる理由はないかにゃ?」
「それなら……」
さっちゃんは思い当たる理由を語る。この国は代々女王制ををとっており、次期女王にはみっつ年上の双子の姉、どちらかが継ぐ流れであった。
しかし、この双子の姉が継ぐ年齢が近付くにつれて険悪になっていき、罵り合いや喧嘩がひどくなっていった。それを見兼ねた女王は、継承権を第三王女のさっちゃんにすると宣言したらしい。
「首謀者は双子の姉の、どちらかと言うことかにゃ?」
「そんな事ない! あの優しいお姉様方が、私を殺そうだなんて……」
肉親がそんな事をするなんて信じたくは無いじゃろうなぁ。じゃが、証拠は無いけど関係は無くはないじゃろう。いちおう他の可能性も示唆しておくか。
「王女様達に、派閥なんかは無いのかにゃ?」
「……あるよ」
「お姉さん達じゃなかったら、その派閥の者がさっちゃんを危険に貶めている可能性もあるにゃ」
可能性じゃけどな。さっちゃんが死ねば、継承権が姉に移ると思う輩もおるじゃろう。現時点では姉が一番怪しいけど言えないな。さっちゃんに悲しい顔をさせたら、兄弟達にまた殴られそうじゃしな。
「そんな……」
「まぁ心配する事ないにゃ。さっちゃんはわしが守るにゃ」
「え? 守るって?」
「こう見えて、わしは強いにゃ。任せるにゃ~」
「どうしてお母さんの仇の、わたしなんかの為にそこまでするの?」
「兄弟達に頼まれたにゃ」
「みんな……ありがとう!」
さっちゃんはそう言って涙を浮かべ、わしと兄弟達を撫で回す。そして撫で回す、撫で回す……
撫で過ぎじゃ!!
1
お気に入りに追加
1,168
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる