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第二章 王都編 友達が出来たにゃ~

028 街に送るにゃ~

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「あの……ねこさん?」
「なんだにゃ?」

 食事でお腹が落ち着いたのか、気持ちが落ち着いたのか、盗賊から助け出した少女が尋ねてくる。

「助けてくれたって事でいいのですか?」
「そうだにゃ。ダメだったかにゃ?」
「い、いえ。そういう訳では……ねこさんがどうして助けてくれているのかが、わからなくて……それにその姿……」
「ただの気まぐれにゃ。この姿は……変かにゃ?」
「いえ。かわいいです! ぬいぐるみみたいで、すっごくかわいいです!」

 やっぱりぬいぐるみに見えるのか……

「自己紹介がまだでしたね。私の名前はローザです。こちらはメイドのミラです。助けて頂き、ありがとうございます」
「お嬢様を助けて頂き、なんとお礼を言っていいか……ありがとうございます」


 身なりのいい少女とメイドに続き、盗賊に捕まっていた四人の女性もローザの通訳を介して、次々にお礼の言葉を述べる。わしは照れ臭くなり、話題を変える。

「気にしないでいいにゃ。ただの気まぐれにゃ。それより悪者をどうしたらいいにゃ? みんなで相談して欲しいにゃ」
「はい。わかりました」

 ローザを中心に話し合っておるけど、ローザは身分が高いのかな? 王都で見た街並みからすると中世ぐらいの文化レベルじゃったな。あの城に王族がいるとして、貴族社会もあるかもしれん。
 ローザは口振りもしっかりしておるし、貴族のお嬢様かもしれんのう。


「ねこさんの許しが頂けるなら、余罪もあるかもしれないので街の警備兵に引き渡したいのですが、どうでしょうか?」
「いいにゃ。でも、彼女達は納得したのかにゃ?」
「はい。了承して頂きました」
「それならいいにゃ」

 いいとは言ったが、どうやって運ぶかのう。盗賊は全部で二十人。女、子供を合わせて二十六人。乗り物は小さな馬車が二台……見た感じ乗り切らんのう。


 わしが移動方法で悩んでいると、ローザが提案をしてくる。

「盗賊は、洞穴に閉じ込めていてくれたら大丈夫です。ここから近い街まで馬車で半日ですから、街に着いてすぐに警備兵を呼べば、引き渡せます」
「わかったにゃ」


 わしはローザの案に賛成して洞穴に入り、すぐに兵か来ると聞いたが念の為、土魔法と水魔法で水飲み場を作る。何人か起き上がり、わしに殴りかかってきたが【突風】で洞穴の奥に吹き飛ばしたから作業に支障は無い。
 そして、風魔法と探知魔法を合わせて、他の出口は無いかと入念に確認してから、扉を作る作業に移る。
 扉は土の格子だけでは開閉が出来ないので、重い引き戸にしておく。上の方は格子状にしてあるから空気も入り、少しは光も入る作りにした。あとは引き戸が開かないように、つっかい棒を衝撃で動かないようにすれば完成だ。

「ねこさんは、すごく魔法を使うのがうまいのですね」
「そうなのかにゃ?」
「攻撃魔法は見た事はありますが、魔法でこんなに立派なドアを作るところを見た事がありません」
「みんなやらないだけにゃ。あ、このドアの開け方はわかるかにゃ?」
「はい。少ないですが、これと同じ仕様のドアはあります」

 引き戸は日本の文化かと思ったが、大丈夫みたいじゃな。これでわしが戻って来る必要は無いじゃろう。あとは……

「盗賊が集めていた財宝や物は、どうするにゃ?」
「普通は盗賊を捕まえた人に所有権がありますが……」
「猫だにゃ~」
「プッ。アハハハハ」

 そんなに笑わなくても……メイドさんも通訳しないで! 自分が笑いながら言っても通じないと思うぞ? あ、みんな笑ってる。今までの緊張で笑いのハードルが下がっておるんじゃな。きっとそうじゃ。わしの姿のせいではないはずじゃ。

「わしは食料と少し貰ってもいいかにゃ? 残りは被害者で分けてくれにゃ」


 わしは食料と剣三本、お金らしき金貨一枚を取り分とさせてもらう。盗賊はわりと儲けていたみたいなので、金貨や貴金属を貯め込んでいた。

 食料は金にならんし、貰った物もおそらく微々たる物じゃろう。

「それだけでいいのですか?」
「ちょっと聞きたいにゃ。この金貨?お金かにゃ?」
「そうですけど……わかるのですか?」

 あ、ヤベ。猫が金貨を見てお金と思うのはおかしいか。

「昔、街に忍び込んだ時に見たことがあったにゃ」
「街にですか……ホワイトダブルが街になんか入ったら……」

 よけい疑われた? ホワイトダブルってなんじゃろう。聞きたいけど、これ以上疑がわれるのも困るな。

「いえ、なんでもありません」

 あら? ローザから話を切った。助かったけど、気になるな。まぁ今のところは、話を続けるか。

「とりあえず、一枚だけ貰っておくにゃ」
「わかりました。残りは、わたしが責任を持って被害者に配分させていただきます」
「よろしくにゃ~。あとは……この中に、馬車を動かせる人はいるかにゃ?」
「それなら私が少しできます」

 メイドさんが運転できるみたいでよかった。誰もできないなら、わしが引っ張るか車の出番じゃった。わしが引っ張るのは嫌じゃし、車は目立つからのう。


 わしは馬車に盗賊の財宝を積み込むと、女性達に乗り込んでもらう。そしてローザとメイドのミラは御者台に座り、わしもそこに座らせてもらって出発する。何匹かの獣が近付いて来たが、わしが魔法で威嚇すると逃げて行った。

 そろそろ森も切れそうじゃ。猫型に戻りたいが見られたくもない。かと言って、他の人間にこの姿も見られたくない。ムムムム……


 わしが悩んでいると、ローザが不思議そうに尋ねてくる。

「ねこさん。どうしたのですか?」

 ここはお願いして黙っていてもらえばいいか? 命の恩猫(人)じゃし、無碍むげにはせんじゃろう。まぁここから王都まで馬車で五日は掛かるし、わしの事を知られても、その頃には終わっておるじゃろう。

「お願いがあるにゃ」
「お願いですか? ねこさんには命を助けてもらったのですから、わたしに出来る事ならなんでも致します。なんなりとおっしゃってください」
「それじゃあ、お言葉に甘えるにゃ。わしの事は秘密にしてもらいたにゃ。それと今から見せる事もにゃ」
「わかりました。みなさんにも言って聞かせます。ミラもわかりましたね?」
「はい。誰にも言いません」
「それで、今から見せる事とはなんですか?」
「驚かないでくれにゃ~」


 わしは変身魔法を解く。むくむくと体が縮んでいくと着流しに埋もれて、ローザから見えなくなる。変身が終わり、着流しと草鞋、刀を次元倉庫にしまうとモフモフした猫又が現れた。

「キャーーーー!」

 わしの姿があわわわになると同時に、ローザから悲鳴があがる。

「かわいい~~~!!!」

 嬉しい悲鳴だったみたいだ。

「これがわしの本当の姿にゃ」
「ねこさん! かわいいです! 触ってもいいですか?」
「いいにゃ~」
「モフモフしてます! だ、抱いてもいいですか?」
「い、いいけど……目が怖いにゃ~」
「わ~~~」

 ローザの目が怖い……かわいい物好きか? あ、そこは……あ、わしゃわしゃしないで……

「ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ」
「ねこさん、気持ちいいですか~」
「つ、次。私もいいですか?」
「しょうがないですね~」

 ローザが膝の上でナデナデするから変な声が出てしまったわい。勝手に御者をしているメイドさんの膝の上に乗せないで欲しい。運転中なんじゃから、危ないじゃろう。


 この日は出発が遅かったせいか街に着く前に日が暮れはじめ、ミラが運転するには不安だと訴えたので、野営をする事となった。食事は昼と同じ物を出すのも気が引けるので、味は一緒だが黒猪スープに変えた。
 食事を終えると寝るだけだが、女性達の汚れが気になるので、ある物を作る。

「何をしているのですか?」
「お風呂でも作ろうと思うにゃ」
「お風呂? ねこさんはお風呂に入るのですか?」

 おっと。また失言じゃったな。やっぱり作るのやめるか? でも、あんなに汚れたまま街に入らせるのもかわいそうじゃし、言ってしまったものは仕方ない。

「前にハンターが森で迷ってて、助けたら教えてくれたにゃ」
「そうなんですか……ねこさんは人間が好きなのですね」
「まぁそんなところにゃ。ちょっと離れていて欲しいにゃ」
「はい」

 アイ達と入った時は浴槽二つじゃったな。あの時は浴槽で洗濯機みたいに体を洗ったら、ひどい目にあったからなぁ。シャワーでも作るか?


 わしは頭の中で設計図を描くと、馬車の隣に土魔法で三枚の壁を、浴槽を囲むように作り出す。さらに浴槽の隣、高い所に大きなタンクを作り、底には小さな穴を開け、スライドして開閉できる扉を付ける。
 タンクの下で座って開けば、お湯がシャワーのように出る仕組みだ。完成すると水魔法と火魔法を使い、どちらにもお湯を満たす。

「完成にゃ~」
「すごいです! あっと言う間に出来ました」
「それじゃあ、ローザとミラから入るかにゃ?」
「いえ。私達は最後でいいです。捕まっていた人から、入れてあげてください」
「う~ん。わかったにゃ」

 身なりがいいから貴族様じゃと思うのに、先に入らないのか。被害者から勧めるとは、ローザはいい子じゃな。


 わしはミラに、女性達に使い方を説明してもらい、見張りでお風呂から出ようとしたら捕まった。
 お礼に洗わせてくれと言うので仕方なく、本当に仕方なく一緒に入ったのだが、わしが洗われているのか、わしで洗っているのか、わからない展開となってしまった。
 胸の感触が残っているが、きっと洗ってくれたのだろうと心に言い聞かす。

 ふぅ。湯舟に浸かって、みんな落ち着いたか。しかし、どんだけわしをおもちゃにするんじゃ! そのせいで体中見る事になってしまったわい。これは事故。わしのせいでは無い。不慮の事故じゃ。
 お姉さん達の汚れは綺麗になったものの、そこかしこにあざが目立つな。あの盗賊共……もうちょっとひどい目に合わせてやればよかった。かわいそうじゃし、回復魔法でもしておくか。
 今は四人じゃし、いけるかな? 念話を繋いでっと。

「お姉さん達、ちょっといいかにゃ?」
「え? これは……」
「猫ちゃんの声?」
「そうにゃ。念話で話し掛けているにゃ」
「えっと……どうしたの?」
「ちょっと肌に触れていいかにゃ?」
「いいけど……エッチな事するの?」
「違うにゃ! なんでそうなるにゃ!!」
「冗談よ~。顔を真っ赤にして、うぶなんだから」
「もういいにゃ! そこに並ぶにゃ!!」
「「「「は~い」」」」

 わしは捕まっていた女性の痣に触れ、回復魔法をかけていく。

「うそ……」
「傷が……どうなってるの?」
「これって医術院の治療魔法じゃない?」
「そんな治療、高くて受けられないのに……猫ちゃんって、何者なの?」
「ただの猫だにゃ~」
「「「「そんなわけないでしょ!」」」」

 そんなに怒鳴らなくても……でも、肌は綺麗になった。わしは傷をいやす事は出来るけど、心の傷は癒せない。これで少しはとらわれていた事を思い出さずに済むかもしれない。
 医術院か……聞く限り、ボッタくりっぽいな。魔法なんてタダみたなもんなんじゃから、安く治療してやればいいのにな。まぁ猫のわしには関係の無い話か。


 女性達がお風呂から上がると吸収魔法で水滴を消し去り、ローザ達と交代になる。

「お湯も入れ替えたし、ゆっくり入るといいにゃ。それじゃあわしは出て行くにゃ~」

 ガシッ!

 ローザに二本の尻尾を掴まれた。
 
「一緒に入りましょう!」
「さっき入ったにゃ。離してくれにゃ~」
「わたしも一緒に入りたいです……」

 う……涙目になってる。そんな顔をされると断り辛い。

「わかったにゃ~」
「やった~!」

 そしてまた、わしはしっかり揉み洗いされた。洗濯されるぬいぐるみのように……

「いいお湯です。それにいい匂いですね」
「お気に入りの草を入れてるにゃ」
「ねこさんはきれい好きなんですね。ねこさんはみんな、そうなのですか?」

 どうじゃろう? おっかさんも兄弟も気に入っていたけど、やり出したのはわしじゃから違うじゃろうな。適当に言い訳しとくか。

「おっかさんから教わったにゃ。だから他の猫の事は知らないにゃ」

 親から教わるなら言い訳になるじゃろう。絶対、わし以外の猫はやってないじゃろうけど。

「猫様。参考にどの様な草を入れているか聞いていいでしょうか?」
「この草にゃ。前にハンターは高級な薬草って言ってたにゃ」

 ローザと話をしているとミラが質問して来るので、次元倉庫から刻んでいない薬草を取り出して見せる。

「これは高い薬草ですね。お風呂に使うには難しいです」
「家でも出来ないの?」
「街では少量しか出回りませんから入手が難しいです。それにお風呂で使うより病人に使う方が……」
「そうね。薬をそんな使い方するわけにはいかないわね」

 ひょっとしてわしって、資源を無駄遣いしてる? 石鹸が無いから匂い消しに使っておったんじゃけど、これからは気を付けた方がいいかな? ここは謝っておこう。

「ごめんにゃ~」
「ねこさんが謝る事じゃありません」
「猫様には猫様の暮らしがありますから、私達が意見なんて出来ません」
「それより、もっと近くに来てください」
「え? いや……適切な距離にゃ? ここの出っ張りじゃないと溺れるにゃ……」
「わたしが抱きますから大丈夫です!」
「お嬢様、次は私ですよね?」
「決定にゃの?」
「「決定です!」」

 結局、ローザ達にもいいように遊ばれてしまうわしであった。

 全員のお風呂が終わり、馬車で眠る事となったので次元倉庫にお風呂セットを仕舞い、毛皮を毛布代わりに渡す。こんなに入る収納魔法なんて見た事が無いと驚かれたが、適当にあしらう。
 女性達に見張りをさせるわけにはいかないので、わしが見張っているから寝てくれと言ったが、それぐらい出来ると女性達が見張りを買って出た。
 わしは何かあるとすぐに起こすように言い聞かせ、見張りの隣で眠りに就くが、マリーのパーティ同様、見張りが代わるたびにわしを抱き締める女性も変わっていった……


 翌日、朝から出発した馬車は順調に進み、野営の場所が街から近かったのか、走り出してすぐに街が見えて来る。そこでわしは、ミラに馬車を止めてもらう。

「どうしたのですか?」
「もう危険が無いから、ここでお別れにゃ」
「そんな……まだお礼もしていません。私の家に来てください」
「気まぐれでした事だから、お礼なんていらないにゃ。それに行く場所があるにゃ」
「行く場所ってどこですか?」
「それは言えないにゃ」
「そうなんですか……また会えますか?」
「もう会えないと思うにゃ~」

 ローザは悲しそうな顔をしておる。みんなも悲しそうにしておるが……何故に? 王都では騎士に追い掛け回されたし、ハンターって職業もあるのに、わしは危険な動物じゃなかったのかな? マリーのパーティといい、ローザ達といい、わしの認識が変わりそうじゃわい。
 また会えるかもしれないが、期待を持たすわけにもいかんから、これでいいじゃろう。


「猫様、この度はお嬢様を救って頂き、ありがとうございました」
「お礼ならもう聞いたにゃ」
「いえ、猫様がいなければどうなっていたか……それにメイドの私が用意しないといけないのに、お嬢様のために温かい食事や毛皮まで用意してもらい、ありがとうございました」
「それは仕方ないことにゃ」

 メイドのミラさんも捕まって怖かったはずじゃ。それなのにローザの事ばかり心配しておる。主人が立派な人かもしれんのう。


 ミラと別れを終えると、洞穴に捕らえられていた四人の女性も、ミラの通訳で別れを告げる。

「猫ちゃん、私達を助けてくれて本当にありがとうね」
「野営でお風呂に入れると思わなかったわ。まるで貴族様になった気分だったわ」
「スープも美味しかったよ。怪我も治してくれてありがとう」
「助かるけど、あんなにお金や宝石を貰ってもよかったの?」
「気にしないでいいにゃ。お姉さん達も元気に暮らすにゃ」

 あんな目にあったんじゃ。これからは幸せに暮らして欲しい。盗賊の財宝も役に立つといいのう。


 最後にローザが別れを告げる。

「ねこさん……この度は私の命、領地の民の命を救って頂き、ありがとうございます。被害者の事は私に任せてください。私が必ず幸せに暮らせるようにします。領主の娘、ローザ・ペルグランの名にかけて!」
「「「「ローザ様……」」」」

 ローザの地位は高いと思っておったが、領主の娘とは……みんな感動しておるから全員知っておったのか。
 領主様ってどれぐらい偉いんじゃろ? 日本で言ったら江戸時代の城主か……失礼があったら物理的に首が飛びそうじゃのう。猫じゃから関係無いけど。

「最後に抱かせて頂いても宜しいでしょうか?」
「ん? いいにゃ」

 ローザはわしを抱き締める。強く強く抱き締める。わしは気持ちを察し、好きなようにさせる。

 怖かったんじゃろうな。それでも領民を気遣い、泣き顔すら見せんかった。今ぐらい泣かせてやろう。しかし、声を出さないように我慢するなんて、どこまで強い子なんじゃ……


 わしはローザが泣き止むまで抱き締めさせる。ローザの後ろ姿に、皆も気付いて涙ぐんでいる。しばらくして、ローザはわしを降ろし、笑顔でお礼の言葉を述べる。

「ありがとうございました」


 わしはその笑顔を受け取り、王都に向けて走り出した……かったが、みんなも抱き締めたいと待ったが掛かり、最後までおもちゃにされてしまった。
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