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第一章 森編 猫の生活にゃ~

026 卒業試験にゃ~

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 我輩は猫又である。名前はまた、モフモフと呼ばれている……子リスめ!

 今日はおっかさんの命日じゃ。つまりおっかさんが殺されてから一年が経つ。

 最初の半年はのんびりと部屋の改造や武器を作ったり車を作ったりと、修行には見えない事をしておったが、巨大なリス家族と出会ってからと言うもの、何度死に掛けた事か。
 父リスの手加減の無さ……。母リスの拷問かと思う程の絶妙な力加減のいたぶり……。子リスの死に掛けているわしへの遊びの強要……。父リスと母リスの夫婦喧嘩……

 地獄じゃった!

 あまりのスパルタにストレスが溜まり、毛も抜けてしまったわい。
 そのストレス発散で、リス家族の縄張り近くに居る黒い獲物を狩っていたら、父リスに怒られてぶっ飛ばされた。どうやらリス家族の狩場りだったらしい。
 でも、許可を取れば狩る事を許してくれたし、狩った獲物も持って行けば、楽が出来ると喜んでくれた。

 リス家族の縄張り近くに居る生き物は、どれも黒く大きくて強い動物が多いので、多彩な攻撃手段を習う事が出来たのは幸いじゃ。父リスと母リスでは、一発の攻撃がデカイからこうもいかない。
 狩った獲物はわしの取り分に、ブロック状に切り分けた肉と、毛皮、角や尻尾を貰って、あとはリス家族の腹の中だ。
 しかし、リス家族はデカイ割に小食なのか、食欲が無いと断られる事が多かった。その場合は次元倉庫に入れてある。

 ストレス発散に黒い動物を狩っていて、いろいろと気付いた事がある。動物の強さの目安じゃ。

 まずは色。茶色や灰色など、地球で見られる普通の動物の色をしている動物を下限として、黒が一桁強くなる。おそらく黒の一桁上が白となる。
 次に角と尻尾。角の本数、または尻尾の本数に比例して一段ずつ強くなって行くという訳じゃ。
 最後に大きさ。はっきりとした事はわからないが、年月で大きくなると見ている。もちろんデカイと強い。

 この事から、生まれながらに白く二本の尻尾があるわしは上位種だとわかる。ちなみに母リスは巨大で、角は無いけど尻尾は四本あって父リスより強かった。

 長く生きると大きくなって尻尾や角が増え、強くなって行くみたいじゃ。
 わしの体も大きくなったり尻尾も増えて行くのか心配じゃが、きっと百年後の話しじゃろう。のう? アマテラス(神)よ。

 わしの考えが正しければ、生まれた場所、生活拠点も強さの違いが現れるはずじゃ。我が家とリス家族の巣では魔力濃度が全く違う。
 これは白い木や黒い木が関係していると思われる。我が家の前には白い木が一本あるが、リス家族の巣の周りには何本もあるところから導き出した答えじゃ。
 白い木が多いリス家族の巣に通うようになってから、心なしか食欲も減退したので、食欲も魔力濃度と関係があるとみている。さらに、力と魔力量の上がり方が、かなり違っていた事も生活拠点に強さの違いが現れるのは正しいと思われる。


 その正解こそがわしであり、いまでは、わしの強さは親リスを凌駕する。


 これだけ強くなったから尻尾が増えたり角が生えたりするかと思ったが、見た目はあまり変わらず、人型に変身した時の身長がちょっと伸びた程度じゃ。
 尻尾や色で強さが変わるんじゃないのかとツッコミが来そうじゃが、あれはあくまでもベースじゃ。本来、動物は鍛えたりしないからのう。ベースが強ければ、鍛えれば鍛えるほど強くなれると言うわけじゃ。

 そうでないと説明がつかんこともある。半年前には重力魔法で七十倍の負荷を掛けていたが、いまでは重力三百倍。猫の平均体重に掛けると1トン超えじゃ。
 わしですら、こんな重力の中で普通に動いている事が信じられん。この体は、いったいどうなっておるのじゃろう? やはりどこかの星の王子様なのか……


 そんなわけで、今日は卒業試験(勝手に)をしようと思う。
 敵は人間じゃから、変身して人型で行く。服装は例の如く白の着流し。わらじはわしの動きに耐えられそうにないので裸足。帯には黒い鉄を圧縮した刃の無い刀。殺すつもりはないからのう。
 準備も出来たし、いざ参る! ……頭が寂しいから笠でも作るか? いや、日の丸ハチマキのほうがいいか?

 あ、いざ参るよ~。




「たのも~!!」

 わしは道場破りのように、リス家族の巣穴に大声を出して入る。

「おはよ~」
「今日は早いわね」
「なんだ。大声など出して、ワレー」

 せっかく気合入れて来たのに、この家族は……緊張感が無いのう。リスの事は言えないけど……
 まぁこの家族は、わしが卒業試験で来ていると思ってないから仕方がない。

「そろそろ兄弟達を迎えに行こうと思いまして、お父さんには、最後にわしの本気を見てもらいたく参りました!」
「お父さんと呼ぶな、ワレー! 行くのか、ワレー!」
「もう来ないの?」

 子リスは悲しい目をするので、わしは頬を軽く撫でながら父リスと喋る。

「兄弟を連れ帰ったら必ず会いに来る。お父さん、お相手お願いします」
「ワレー! わざと言ってるだろ、ワレー! いいだろう。かかってこい、ワレー!」

 わしとリス家族は、いつも練習で使っている広い場所に移動し、父リスと向い合せで立つ。そこでわしは重力魔法を解き、右手に黒い模擬刀を握った。

「その姿でいいのか、ワレー! 我は元の姿のほうがいいと思うぞ、ワレー!」
「敵がこれと近い姿なので、このまま行かせてもらいます」
「そうか……かかってこい、ワレー!」
「モフモフがんばって~」
「お父さんもがんばってね」

 子リスがわしの応援をしたら、父リスはへこんだのう。母リスの応援で少し戻ったか。いつも喧嘩ばかりしているが、仲のいい事じゃ。
 それじゃあ、お言葉に甘えて行かせてもらうか。速さに慣れないといけないから、まずは半分の力で行こう。


 わしは立ち上がっている父リスに向けて一気に距離を詰め、右手に持った刀を脚に振るう。父リスは、わしの速度に驚きながらも腕を横に振るったので、わしは余裕を持って後ろに跳んだ。

「いつもより速いな、ワレー!」
「本気って言いましたでしょ? 次はもっと速くなりますよ」
「それじゃあ、我も速く動くぞ、ワレー!」

 父リスは四つ足で駆け、体当たりをする。わしは横にかわし、地に足が着くと再び父リスに向けて跳んで刀を振り下ろす。
 父リスはわしの攻撃を喰らっても、ものともせずに右前脚で払うが、わしはギリギリでかわす。
 父リスの攻撃はそれで止まらずに、両前脚を横に連続で振り回し、横方向だけでなく上から振り下ろす。わしはギリギリでかわして行くが、最後の左前脚の威力を見誤。
 父リスもまったく当たらないから力を入れ過ぎて地が爆ぜ、岩が飛び散り、わしは巻き込まれて吹き飛んだのだ。

 前までならば焦っていただろうが、わしは冷静に飛び散る岩を【竜巻】で巻き上げながら着地する。そこを父リスが突進して、大きく右前脚を上げ振り下ろす。その右前脚を、わしは刀の峰に左手を当てて受け止める。

「グッギギギ……」
「受けるか、ワレー! だが、このまま圧し潰すぞ、ワレー!」

 わしが耐えていると父リスは一瞬、右前脚を引いて力と体重を乗せて圧し潰そうとする。だが、わしはその一瞬の隙を見逃さずに、大きく後ろに跳んで距離を取った。

「逃げたか、ワレー!」
「力勝負は分が悪いので。それより上が……」
「ん? うえ? ムゴーーー!」

 わしが上を指差して忠告するが、時すでに遅し。大口を開けて上を向いた父リスに、【竜巻】で巻き上げられた岩が降り注いだ。

 あ~……間に合わんかったか。まぁ岩が落ちて来るのを、わざと受けて待っておったんじゃからな。
 それよりも、人型ぬいぐるみのわしの全力の速度は父リスより、上ぐらいか。力は父リスがちょっと上。防御力も父リスはかなり高い。刃引きの刀じゃダメージにもならんな。
 てか、父リスもわしの練習に付き合ったせいか、出会った頃より強くなっているな。動物を鍛えてしまったけど、これって大丈夫なんじゃろうか? どうかこの化け物が人里に下りませんように!!

 さてと……そろそろ得意な魔法を使って行くか。


「ぺっぺっペっ。もう怒ったそ、ワレー!」

 父リスは怒り、風の塊をわしに向けて飛ばす。わしは【肉体強化】を使って無理なくかわすが、父リスは二発、三発と連続して発射する。
 わしは【風玉】で相殺しながら右回りに移動して、六発目をかわすと父リスの背後から接近する。だが、父リスは三本の尻尾を巧みに振るい、わしを近付かせない。
 わしは距離が空くと、【風玉】を左右と上方からカーブさせるイメージで放つが、これも三本の尻尾に地面に撃ち落され砂が舞い上がる。

「どこ行った、ワレー!」

 父リスはわしを見失い、キョロキョロと周りを見渡すが、砂埃のせいで見付からない。

 そりゃ見付からんわなぁ。頭の上に乗っておるんじゃからのう。わしの体重なんて、父リスの巨体からしたら虫が乗ったもんじゃろう。
 もう少し遊んでもよかったんじゃが、お互い魔法を使うとここいら一体の地形が変わりそうじゃ。こんな化け物相手でも余裕で戦えるとわかったんじゃし、もう卒業試験は終わりにしようかのう。

 わしは両手で刀を振り上げると、切っ先を重力百倍の重さにし、父リスの頭におもいっきり打ち付ける。

「いだ~~~! 痛いは、ワレー!」

 その声を聞いて、わしは父リスから飛び下り、刀を高く上げて勝鬨かちどきをあげる。

「お父さんから一本……取ったぞ~~~!」
「モフモフ、すっご~い!」
「あらあら。お父さんが私以外で痛そうにしてるの初めて見たわ」

 わしが大声で勝利宣言すると、子リスと母リスは褒めてくれるが、父リスは諦めが悪い。

「我は負けておらんぞ、ワレー!」

 でしょうね。父リスの性格なら負けを認めるわけがない。夫婦喧嘩でも全然謝らないし……謝ったほうがいいぞ? 夫婦生活七十年のわしが言うんじゃから間違いない。リス夫婦のほうが夫婦生活長いかもしれんが……百年とか二百年とか……
 それは置いておいて、父リスの性格を把握しておるからの勝鬨じゃ。子リスと母リスを味方にすれば押し切れる。

「こんなに小さいわしが、この山最強のお父さんに痛いって言わせたんじゃから、わしの勝ちでいいではないですか?」
「そうだよ~。お父さんあいてに、モフモフがんばったよ~」
「お父さんは心が狭いからね~」
「ぐっ……ぐぬぬぬぬ」

 おうおうおう。追い詰められておる。母と娘は結託して父親を責めるからのう。そうなったら父親は折れるしかないわ。かわいそうに……わしのせいか。

「そうだな。心の広い我は負けを認めてやるぞ、ワレー! それでは、もう一本だ、ワレー!」

 お、おう……そう来たか。その手があったか~~~! こうなったら長いから、適当に言いくるめて逃げよう。うん。

「お父さん。何を言ってるのよ! 次は私よ!!」
「え~! お母さんズルイ~。モフモフはわたしとあそぶの~」

 そっちもあったか~~~!

 わしはその後、母リスの攻撃を避け続けたり、子リスの遊び相手になったり、父リスの泣きの一回を何度も繰り返し、暗くなるまで解放されないのであった。

「今日、旅立つ予定だったんじゃ~~~!」

 わしの叫びはリス家族に、一切届かなかったとさ。


 翌日……わしは、リス家族に見送られる。

「ワレーは不思議な奴だな。我の攻撃で怪我をしても、次の日にはワレーはピンピンしておるし……」

 そりゃ、あんたが手加減下手じゃから、必死に回復魔法を覚えたからじゃ。回復魔法は、体の事を詳しく知らないといけないから苦労したわい。
 添付してあったグロ動画が夢に出たほどじゃ。わざわざ骨を折ったり、腹を開いてから回復させるって……思い出したくもない。

「それに昨日は、我相手に手加減していたな、ワレー! それだけ強くなれば、母の仇も討てるだろう。しっかりやれ、ワレー!」

 気付かれていたか。強くなり過ぎてわしに挑んで来る動物が居なくなった時期から、力がバレない魔法を使っておったんじゃがな。さすがは化け物じゃ。素直に礼を言っておくか。

「お父さん。今まで胸を貸していただき、ありがとうございました!」
「お父さん言うな、ワレー! まぁワレーなら候補に入れておいてやる、ワレー」

 とんでもない事を言いよる! それは困る。わしの嫁さんは……はて? わしは猫と結婚するんじゃろうか? かと言って、リスと? 考えるのはよそう。

「あらあら。お父さんったら。娘にはまだ早いわよ~」

 よかった~。まだ早いんじゃ。子リスにはわし以外のいいリスが早く見付かって欲しいのう。なるべく早く!!

「頑張って兄弟達を助けるのよ。まぁあなたなら心配いらないわね。お父さんも認めるほどだものね」
「フンッ!」
「お母さんもありがとございました」
「モフモフ……」

 母リスにも感謝の言葉を送ると、子リスは悲しい顔をして今にも泣き出しそうだ。なのでわしは子リスに飛び乗り、頭を撫でて言葉を掛ける。

「また遊びに来る。約束じゃ」
「ほんとう? やくそくだよ??」
「うん。必ず来るから元気でな」
「うん……モフモフもげんきでね」

 別れの挨拶を済ますと、わしはリス家族と別れて、我が家に向かって歩くのであった。

 子リスよ……いったいいつまでついて来るんじゃ?

 わしは子リスを家族の元に戻し、遊び疲れて眠った隙に、我が家に向けて全力で走るのであった。

 結局この日も出発できなかったとさ。
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