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第一章 森編 猫の生活にゃ~

012 みんな家族にゃ~

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 深夜……

 わしが目を開けると、いつもの風景が映し出される。「モフモフ~」っと寝言を言って、わしにくっついている女猫。おっかさんに引っ付き、寝息を立てる男猫。いつもの寝室の風景だ。

 ん、んん……寝起きで頭がボンヤリしている。

 わしは女猫を起こさないように起き上がり、軽く伸びをする。

「ふにゃ~~~」

 おっと、大きな欠伸が出てしもうた。体がだるい。魔力の使い過ぎで倒れたみたいじゃな。腹具合から言うと、一日中寝ていたって感じか。
 はて? 昨日は何をしておったかのう。

 昨日の事を思い出していると、だんだん顔が青ざめて来る。

 おっかさんの試験を受けたんじゃった。女猫! ……は、モフモフ言って幸せそうじゃな。ホッ。
 しかし、昨日のおっかさんは恐かったのう。いまでも身震いするわい。強いとは思っておったが、あそこまでの化け物じゃったとは……最後の攻撃なんか、森ひとつ焼き払える威力じゃないか? 無茶するわい。
 ちょっと尿意もあるし、外の空気でも吸いに行くか。年寄りじゃから近いってわけじゃないぞ! ……わしは誰にツッコンでおるんじゃか。

 わしは皆を起こさないようにこっそりと寝室をあとにして、外に出る。そしてトイレを済ませると、次元倉庫から食べ物を取り出す。

 うむ。うまい。狼もいいけど、鳥もあっさりしていていいのう。この唐辛子みたいな物も辛みがアクセントになっておる。おっかさんに内緒で、縄張りを出て正解じゃ。うちの縄張りの中には、こんな物は無かったからな。
 しかし、群生地みたいじゃったから大量に持って帰ってみたのに、翌日見に行ってみたら元に戻っておった。食べても大丈夫なんじゃろうか?
 まぁ毎日食べるわけじゃないし、大量に摂取しなければ大丈夫じゃろう。いまのところ、お腹も痛くなった事もないしな。

 わしは舌鼓を打ちながら、今後の事を考える。

 おっかさんはあの戦いを独り立ちの試験だと言った。試験の結果はわからんが、結果次第では、家を出ないといけないのかのう。
 出た場合は自分の縄張りを持たねばならんのか? 猫の世界に疎いわしには答えがわからない。

 巣立ちか……独りは嫌じゃな。もし、みんなが居なかったら、どうしていいかわらかずに数日で死んでいたじゃろう。なんだかんだで、家も食事も改善して、居心地がよくなって来ておるし、出て行きたくないな……
 でも、おっかさんに追い出されたらどうしようもない。勝てるわけないし……ひょっとしたら、女猫ぐらいはついて来てくれるかな?

 いや、わしがそばにいたら婚期が遅れるかもしれん。他の雄猫にかわいい女猫を渡すのは癪じゃな。って、女猫の心配よりわしの心配をしなきゃならん。
 元の世界でも、娘に自分の事より他人の心配ばっかりするのはやめろと怒られていたのう。この性格は死んでも治らんかったみたいじゃ。
 わし、いま、上手いこと言った! 娘には寒いと言われそうじゃが……

「にゃっにゃっにゃっ」

 星空を眺めながら声を出して笑っていると、後ろから声を掛けられる。

「一人で楽しそうね。何を笑っているの?」

 その声にわしはビックリして、二本の尻尾がピンっと立った。

「おっかさん……」
「そんなに緊張しないでちょうだい。あなたには怖い思いさせてしまったわね。それと、ありがとうね。あんな所に娘がいたなんて……あなたのおかげで娘を殺さなくて済んだわ。ありがとう」

 そう言っておっかさんは、わしの顔をペロッと優しく舐める。それと同時に、おっかさんの愛情が伝わったわしの緊張も解けた。

「それにしても、あなたには驚かされたわ。最後の攻撃を防げるなんて思ってもいなかったわ。私の最大攻撃だったのに」
「そんな攻撃しないで! 死ぬところだったよ!」
「ごめんなさい。あなたがあまりにも強いから、楽しくなって撃っちゃった。てへぺろ」

 そんなにかわいく言っても、デカイからかわいくないわ! それと舌を出しても、舌舐めずりされてるみたいでブルっと来る。

「何か変なこと考えてない?」
「ナンデモナイヨ」

 顔よりも体は正直ってか……気を付けよう。

「あなたは本当に強いわね。この森で私より強い動物は、一匹の別格を除いてそういないのよ。私の自慢の息子だわ」

 おっかさんは誇らしげにわしの顔を舐めて来る。

 褒められるとなんだかこそばゆい。ボチボチ話を逸らそう。気になっていたしな。

「他の兄弟達はどうだったの?」
「あの子達も強くなっているわよ。私は動かずに攻撃させたり、走りの競争をしていたのよ。あの子達なら、自分より大きな獲物でも簡単に倒せるでしょう。私に追いつけなかったから、しつこかったけどね」

 なんじゃと? わしの試験内容と全然違うじゃろうが!! そんなのじゃれ疲れて眠っていただけじゃ! わしは死に掛けたんじゃぞ……泣きそうじゃ。

「そんな顔しないで。あなたの本気を見せて欲しかったの。ああまでしないと、あなたは力を見せてくれなかったでしょ?」

 出来る事ならば、見せたくなかった。間違いなく隠したじゃろう。

「そう言えば、さっきはなんで笑っていたの?」
「つまらないことだよ」
「あなたとそんなに話さないから、どんな話でも嬉しいわ。話してみて」
「兄弟(女猫)に雄猫が近付いて来たら、ボコボコにしそうだな~って考えて」
「アハハ。いつも迷惑そうにしてるのに、あなたも娘のことが、そんなに好きだったのね」

 そんな言い方されると恥ずかしい。

「兄弟(男猫)に、おっかさんと出掛けたから悪いな~とか」
「アハハ。そんなこと気にしてたの。私と居る時は、あの子はいつも、あなたのことを話しているのよ」

 それは絶対悪口じゃよな?

「あなたのどの魔法がカッコイイだとか話しているわよ。接近戦が苦手そうだから僕が頑張るんだって、私について来てるのよ。あの子は不器用だからね」

 すまん。男猫! てっきり嫌っているものだと思っていた。やっぱりアニキ肌じゃったんじゃな。

「あと、ここから出て行くのは嫌だな~とか……」
「………」

 さっきまで笑っていたおっかさんの顔がみるみる青くなって行く……なんでじゃ?

「あ、あなた……出て行くの? ど、どうして?」
「え? どうしてって……力を見せて、独り立ち出来るなら出て行かないとダメなんじゃないの?」
「そんなのダメ~! どうしても出て行くと言うなら、私を越えて行きなさい!」

 え? え? え~~~? 新たなクエストが発生した。おっかさんは昨日より強い殺気を放っておる。ラスボスが現れた。超怖い。
 さっきトイレ済ませたのに、また漏れそうじゃ。けっして近いわけじゃない。年寄り扱いするな!

 アホな事を考えている場合じゃない。つまり、単にみんなの力を確認しただけって事か。猫の「独り立ち」と、人間の「独り立ち」では意味が違うのかな? 野生の猫の常識がいまだにわからん。
 てっきり、もう一人で大丈夫だから出て行けって事だと思っておった。ひとまずおっかさんをなんとかしないと、家が更地になってしまう。

「ちょ、ちょっと待って! 出て行かないから落ち着いて!」
「本当に??」

 うお! また目からビームが出た。今日のは前のと違って、威力が半端ない。後ろの岩……穴が開いたぞ。ホンマホンマ。

「てっきり力が付いたら追い出されると思ったの」
「そうなの?」

 おっかさんは、キョトンとしながら殺気を解いた。

「たしかにそういうことを遠い昔はしていたと、私のお母さんに聞いたことはあるわね。どうしてあなたが知っているのかしら?」

 おっかさんは疑いの目でわしを見る。わしは小首を傾げて、愛らしい猫を演じて誤魔化す。猫又じゃけど……

「そんなことより、追い出したりしないから出て行かないで~。お嫁さんが欲しいなら、私が探すから。いや、お嫁さんに取られるのも嫌だから、私がつがいになってあげる! そうしましょう!!」

 なんか話が、とんでもない方向に行っているぞ。そもそも、猫の世界なら親と番になるのは有りなのか? どうせなら女猫のほうが大きさは合っておる。
 この話は、人間としての倫理観が受け入れを拒否しているから、考えるのはやめよう。

「モフモフとっちゃダメ~!!」

 わしが将来のお嫁さんの事を考えていると、女猫が突然わしに飛びついて来た。

 おお! 抱きつかれるまで気付かんかった。相変わらずのステルス機能……本当にどうなっておるんじゃろう?

「モフモフは、わたしのなの!」
「そうね。あなたと一緒になって、ずっと暮らしましょうね」
「うん!」

 それって……今まで通りの家族じゃ。それに、親子で取り合いされても全然嬉しくない。いや、猫のハーレムも嬉しくないな。

「みんな、こんな時間にどうしたの?」
「うふふ。家族全員そろったわね。みんな、私の愛しい我が子。ずっと一緒に居ましょうね」
「「は~い」」
「え? なになに? どういうこと?」

 こうして皆で夜更かしをしていたら、わしが食べていたおやつを、皆に根こそぎ食べられた。

 我が猫家に、新たな一品が誕生した瞬間であった。
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