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第一章 森編 猫の生活にゃ~

010 続・秘密練習にゃ~

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 今日は魔法書で覚えた攻撃魔法の練習をしに、いつもの岩場までやって来た。女猫は、わしの体をモフモフして幸せそうに眠りに就いたので、労せず抜け出す事が出来た。
 しかし、油断は禁物。何度も探知魔法を使い、痕跡を消してここまで来た。辺りには鳥が飛んでるくらいだから大丈夫じゃろう。

 今まで独学で魔法を使っていたが魔法書を読んでみると、攻撃魔法を強力に使うにはよっつの方法があって、それらを合わせるとより強力な魔法として現れる。
 ひとつはイメージなので、これはクリアしているが、ふたつ目でつまずく。

 ふたつ目は物理学や化学を理解して、事の根幹をわかって使うほうが、格段に威力が上がるらしい。しかし魔法書に書かれている説明では、中卒で学の無いわしには難し過ぎて、半分も理解できない。
 理解するにも、ひとつの魔法を読むだけで何日も掛かるので、この方法はボチボチやる事にする。

 みっつ目は呪文の詠唱。弱い魔法でも強力になるみたいなので、せっかくだから実験を兼ねてやってみる。


 ……………出来るか~~~~!!


 呪文、長すぎじゃ! 何分掛かるんじゃ! 口に出さず頭の中で詠唱できるのはいいのじゃが、一文字でも間違えればやり直しって、難易度高すぎるじゃろう。
 魔法書の中にもっと簡単なのがあればいいんじゃが、探すのが面倒じゃ。すぐに使えないし、この方法は却下じゃ。

 最後の方法を試そう。最後は簡単、言霊をまぜて使う方法だ。現象に見合った名前を付けて使うと強力になると書いてあった。ひとまず、いつも使っている【風の刃】を【鎌鼬かまいたち】と名付けて使ってみよう。

 まずは岩肌目掛けて【風の刃】!

 ヒュンッ! ガン!

 うむ。少し風魔法について理解したからか、若干威力が上がっておるな。岩肌がいつもより削れておる。じゃあ、続いての【鎌鼬】じゃ~!

 シュンッ! ズシャーー!!

 ……ホンマでっか? 岩肌のかなり奥まで切り込んだ。さっきの五倍以上威力が上がっておる。これなら苦手だった火魔法も戦闘に使えるかもしれん。


 火魔法が弱かった理由も魔法書でわかった。どうやら魔力のみを火に変換していたからみたいじゃ。
 風魔法ならそこら中に風の要素があるから、魔力とミックスすれば大きくなると言うわけじゃ。
 名前は【火の玉】にしよう。妖怪にはもってこいじゃろう! なんとなく怒りが湧いて語尾が強くなってしまった。そんなことより肩の力を抜いて【火の玉】!

 ボォォォ

 あっつ!!

 熱すぎて投げ捨ててしもうた。まだ燃えとる……これならお湯を沸かすのも短時間になりそうじゃ。
 いやいや。攻撃魔法に使わねば。最近おっかさんの要望で、家事に魔法を使い過ぎて発想が家事寄りになっておるな。
 とりあえず水魔法で消火しとくか。【水玉】!

 お~。いつもより多く出たのう。無事、消火も出来たし、次は肉体の強化魔法をやってみよう。いい言霊はないかな? 思いつかんし【肉体強化】で!

 う~ん。実感無いな。とりあえず、ジャンプ!

 ……た、高い!! 10メートルは飛んでるぅぅぅ。ちゃ、着地に備えねば!

 ドスーーーン

 痛くは……無いな。重力魔法1.5倍を掛けたままで、あの高さか。ちょっと走ってみよう。

 はやっ!! 20メートルぐらい走ったつもりじゃったが、すぐじゃったのう。これならおっかさんといい勝負が出来るかもしれん。
 一通り使いたい魔法も練習したし、おさらいと魔力調整しとくか。


 黙々と練習すること一時間……


 ふぅ。こんなところか。吸収魔法のおかげで魔法も使い放題じゃわい。しかし調子に乗ってやり過ぎたせいで、辺りが酷い状態になってしもうたな。
 岩肌は削れ、地面はボコボコじゃし焦げくさいのう。土魔法で証拠隠滅しておこう。

 よし。こんなもんじゃろう。後片付けも終わったし、休憩でもするか。お椀に水魔法で水を注いでっと。プハー! 生き返るのう。この一杯のために生きておるわ。
 ……お風呂上がりのビールごっこは寂しくなるな。せめてコーヒーでも……高望みは出来んし、その辺の葉っぱでも乾燥させてお茶でも作るか? 今度試してみよう。

 しかし、うっとうしいのう。休憩に入る前から、かなり上空を大きな鳥がずっと旋回しておる。探知魔法を飛ばして確認すると、5メートルぐらいありそうな大物じゃ。
 下りて来てくれたらなんとかなるんじゃが、敵対しているわけでもないから、こちらから手を出すのもな……じゃが、観察されてるみたいで気持ちのいいものでもない。寝た振りでもしてみるか?

 わしは横たわると探索魔法の音波と魔力を交互に、間隔を短く張り巡らせる。

 ほれ? 隙だらけじゃぞ。こっちゃこ~い。あら? さらに上空に行ってしもうた。作戦失敗……いや、突っ込んで来た!

 鳥は自由落下の勢いに任せ、凄い速さで急降下してわしに襲い掛かる。

 速い! 反撃態勢も間に合わん!! ……なんてね。

 わしは寝転んだ状態で、準備しておいた土魔法の壁を、わしを覆い被せるように発動する。

 これで鳥さんも激突して地に伏せるじゃろう。楽ちん楽ちん。

 鳥は突然現れた壁に驚きはしたが、慌てずに大きな羽を広げ、速度を急激に落としてギリギリ回避した。そして上空に戻ると臨戦態勢を取り、大きく声をあげる。

「クエーーー!!」

 うそん。ナメ過ぎたか。鳥のくせにゼロ戦並みの回避能力。いや、ゼロ戦より鳥のほうが優れておるのか。そんな事はどっちでもいい。あちらさんもヤル気じゃ。
 あの鳥、遠目ではわからんかったがたかっぽいのう。しかも、角付き。前に倒したわしより数段強そうじゃ。
 黒じゃないからなんとかなりそうじゃが、フンドシを締め直さねばなるまい。


 わしが臨戦態勢を取るべく土のドームから出ると、鷹は距離を詰め、大きな翼を羽ばたかせた。

 威嚇……じゃない。【風の刃】じゃ!

「にゃ~~~!!!」

 わしは叫びながらジグザグに走り、【風の刃】をかわして行く。

 何発撃つんじゃ! 上空から狙い撃つから攻撃も出来ん。ひとまずあの岩陰に退避~!

 ふぅ。逃げ込んだものの、気にせず撃ち込みよるな。よし! こっちからも一発入れてやる。前に鷲に使った魔法を、鷹の上にロックオン。
 下向きに……【突風】!!

 鷹は【突風】を受けてもバタバタと翼を羽ばたかせ、高度を維持する。

 なんと! 耐えよった。言霊で強化されておるのにやりおるわ。ならばこれじゃ! 上手く調整して……【竜巻】じゃ~!!

 鷹の真上から真下に向けて、竜巻が巻き下がる。すると鷹は耐え切れず、錐揉みしながら地面に叩き付けられた。だが、決定打となっていないのか、起き上がろうとしている。

 逃がすか! 【鎌鼬】!

 鷹は片翼を切り落とされ悲鳴をあげる。わしはすかさずトドメの【鎌鼬】を放って首を切り落とし、勝利の雄叫びあげるのであった。

「にゃ~~~~ん!!」

 初の強敵じゃ。ちと興奮してしまった。決め台詞のほうがよかったかのう? 次からは、決め台詞を言う事にしよう。
 しかし、強かった。アマテラスから貰った魔法書で勉強しておらんかったら負けていたかもしれん。まぁその時は、とっとと逃げておったがな。

 さて、こいつをどうしてやろう? これを持って帰って、またおっかさんを心配させるのもなんじゃし、ここで食ってしまうか。余ったら次元倉庫に仕舞って、おやつにしよう。
 そうじゃ! いっそ調理してやろう。幸い辺りに何もおらんし、見つかる事もないじゃろう。おらんよな?

 わしはキョロキョロと周りを目視で確認。探知魔法でも確認する。

 うん。何もいないし反応も無い。それじゃあ、猫又の三十分くらいクッキングの開始じゃ!

 まずはもう片方の翼も切り落とそう。肉も付いておらんし、調理の邪魔じゃ。【風の刃】で切って……あれ? 切れん。【鎌鼬】が無かったら切れなかったのか。最初から全開でよかった。

 翼を切ったら足も、太ももをを残して切り取る。次に【鎌鼬】で毛をこそぎ取る。肉が少々持って行かれるが、包丁も持てない肉球じゃ仕方がない。
 そして腹を開いて内臓を【風玉】でぶっ飛ばし、重力魔法で血抜き。最後に【水玉】の中でシェイク。奇麗になったところで下準備は完了。

 丸焼きでいいかな?

 わしは土魔法で杭を作り、鷹に貫通させてから両端を土の柱で持ち上げる。あとは拾い集めて次元倉庫に入れていた薪に火をつけ、土魔法で回しながらじっくりと焼く。

 【火の玉】では丸焦げになりかねんからのう。あとは待つだけ。楽しみじゃ~。おっと、こないだ見付けた岩塩の準備をしておこう。岩塩を発見できたのは幸いじゃったな。
 猿みたいな奴がペロペロ舐めてる岩が気になって舐めてみたら、塩じゃったから驚いた。こっそりがっつり回収しておいたけど、まだまだあるから大丈夫じゃろう。あとは胡椒が欲しいんじゃよなぁ。どこかに落ちてないものか……

 塩は貴重じゃから中世の貴族の様に食べる時に少量掛けてやりたいが、わしの肉球では出来ん。
 散らばるのはどうしようもない。小さな竜巻を使って……まんべんなく振り掛ける。少しもったいないが、致し方ない。
 おっ! 香ばしい、いいにおいがして来たぞ。猫生活、初の文化的食事じゃ~。

「おいしそうなにおい~」
「そうじゃろう。そうじゃろ……にゃ!?」

 何故、女猫が隣におる!? 料理に夢中になっておったが警戒は完璧だったはずじゃ。今日の日の為に、カムフラージュでいろいろな場所で練習を行い、この岩場での練習は避けておったのに……

「もう食べれる~?」
「な、なんでここにいるのかな?」

 わからないんじゃから聞くしかない。

「起きたらモフモフがいなかったから、来ちゃった」

 最近、女猫はわしの事をモフモフと呼んでいる事に気付いた。モフモフの毛皮を指して言っているのかと思っていたんじゃが、昔からモフモフと呼んでたっぽい。
 こんな名前は嫌なので、早く名前が欲しい。……現実逃避はこのぐらいにして、質問を続けよう。

「いつから居たのかな?」
「えっと~。モフモフがお水をのむまえかな? 魔法すごかったね~」

 なんてこった! そんなに早くから見てたのか? ほぼ全部じゃ!! 嘘じゃろ~。しかも、何もしないでずっと見てるってどういうこと?
 そもそも女猫は、わしの探知魔法をどうやって擦り抜けておるんじゃ。

「鳥さんつよかったね~」

 当然見てるわな。あ、焦げそう。女猫の事を考えるのはよそう。いまはこの食事に全ての力を注ごう。

 そろそろいいかな~? いい感じで焼けたんじゃなかろうか。

「よし! 出来た!!」
「できた~」

 わしは鷹の丸焼きの太ももを風魔法で切り分け、その真下に土魔法で作った猫皿で受け止める。そして、女猫の前に出してあげる。

「それじゃあ食べよっか」
「たべる~」

 女猫の美味しそうにむさぼり食べる姿を見ながら、わしは心の中で手を合わせて「いただきます」と言い、噛み締めて食べるのであった。
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