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第一章 森編 猫の生活にゃ~
009 魔法書を読むにゃ~
しおりを挟む「全世界で使われた魔法の書物をプレゼントするのはどうでしょうか? これが神として出来るギリギリの処置です」
そう言ってアマテラスは手をかざす。するとそこには、一冊の書物が天高くそびえ立った。
――え? 書物?? これが魔法の書???――
「はい。全世界の魔法が収められています」
――空を見上げても先が見えないんじゃが……ちなみに何個魔法が書かれているのじゃ?――
「いまも増え続けていますから正確な数字はわかりかねますが、地球の単位で言うならグーゴルってところでしょうか」
――何その単位? そんなのあるのか? もう少しわかりやすくお願いします――
「そうですね……10の100乗ぐらいです」
――たしか無量対数が10の68乗じゃったか……てか、多すぎじゃ! 多すぎじゃよ!! それをどうやってめくるのじゃ? 調べるのじゃ!?――
「あっ! こんなに大量の情報を鉄之丈さんの魂に刻んだら爆発しちゃいますね。そうですね……情報事態はこちらに置いて、いつでも読めるように閲覧許可をしておきます。サービスで地球のパソコンみたいに改良して、ヤッホーやグルグルみたいに検索機能を付けましょう!」
――ボケてるのかな? ツッコミ入れたほうがいいのかな?――
「やだな~。ツッコンでくださいよ~。さっきまで散々ツッコンでたのに~」
――いや。真面目な話をしていたので……冷静に考えたら、わし、神様になんて口の利き方をしておったのじゃ。申し訳ありません――
「もういまさらですよ。それに私も楽しかったですから。それじゃあ最後に、鉄之丈さんの魂に魔法書の閲覧許可を刻みますね」
アマテラスはわしの頭に触れ、顎を撫で、体をひっくり返し、お腹をわしゃわしゃ撫で回す。
「ゴロゴロゴロゴロ~」
「何このモフモフ!」
――閲覧申請は!!――
「あっ! しましたしました。ちゃんと出来てますから目を閉じて、魔法書を考えてみてください。確認してる間、わしゃわしゃしてますね」
――いや、撫で回すのはちょっと……あ、そんな悲しそうな顔を……わかりましたよ――
気を取り直して調べよう。目を閉じて魔法書閲覧っと。おお! アマテラスの言った通りインターネットの検索サイトみたいじゃ。この空欄に調べたい言葉を思い浮かべたらいいみたいじゃな。
こっちは最強魔法ベスト100に、最弱魔法ベスト100か。ここは魔法が出来た順に並べられているのかな? なかなか使いやすそうで有り難い。
――アマテラス様。有り難う御座います。それと、そろそろお腹を撫で回すのはやめてもらえますか?――
「モフモフ~……オ、オホン! これで鉄之丈さんも満足していただけたようですね。私も満足です」
――わしの体をモフモフしたことが?――
「いえ。神としての仕事ですよ。仕事も終わりましたので、そろそろ元の世界に戻しますね」
――最後にひとつ,お聞きしてもいいですか? ウズメさんとはひょっとして……――
「そうですよ。私と一緒に下界で炊き出しをしただけなのに、どう伝わったらストリップしたことになるんだか……かわいそうよね~」
また新しい神話の事実が聞けた。
帰り際、残りの大福をお持ち帰りしようとしたらここでしか食べられないと言われたので、急いで頬張ったら、喉に詰まって綺麗な川の景気が見えたのはご愛敬だ。
* * * * * * * * *
目を覚ますと、いつもの森の我が家の寝室だった。ここがわしの生きる世界だと認識させられるが、寂しさは残る。強く生きねば。
それにわしには、アマテラスから貰った魔法書がある。これだけ多くの魔法が書かれておるんじゃから、人間になれる魔法のひとつやふたつ……いや、千や億はあるじゃろう。さっそく読んで見よう。
変身魔法も気になるが、チラッと見た最強魔法ベスト100に載っていた魔法が気になっておったんじゃ。名をビックバン。宇宙の神秘じゃ。気にならんわけがあるまい。どれどれ……
長いわ! かれこれ一時間は読んでおるぞ。まだまだ掛かりそうじゃ。軽い気持ちで読み始めたが、時間が掛かり過ぎる。そろそろ皆との狩りの時間じゃし、帰ってから読むとするか。
チマチマと読み進めること数週間。わしは便利な魔法の発掘に精を出す。
え? ビックバン? あんなの読めん。物理法則やら数式やらがびっしり詰め込まれている上に、読了時間百年でっせ。老後の楽しみにでもしますわ。こちとら千年生きる妖怪猫又じゃしのう。はぁ……
読了時間がなぜわかったかと言うと、魔法書のビックバンの所にご丁寧に書いてあった。動画も添付してあったから、それで少しはビックバンの事もわかったからそれでいい。
動画によると使えない魔法じゃしな。覚えても仕方ない。やれ始めの神が使っただとか、やれ宇宙中の魔力が必要だとか、やれ使ったら自分だけでなく全宇宙が死ぬだとか。使えんじゃろ?
しかし、添付されていた動画には驚かされた。神の中の研究中毒者が始まりの神に会いに行くドキュメント風の映像で、時の魔法を使い、始まりの神に会いに行った。
だが、50光年の距離までしか近くまで行けず、爆発に巻き込まれて崩御なさった動画じゃった。始まりの神の姿を捉えた映像として、神々に高く評価されてるらしい。
この最強魔法トップ100に載っている魔法はほとんど使えん。二位のスーパーノヴァは最低五光年、出来れば三十光年離れて使わないといけないし、三位のブラックホールも、一光年は離れないと使えない。
てか、宇宙の現象じゃなかったの? と、ツッコミまくったわい。
まだ最弱魔法のほうが使える。どこぞの魔法使いがペットの為に、心血注ぎ込んで作り上げた【ノミコロース】。
殺虫スプレーみたいな名前じゃが、ペットに付いたノミやダニ、その他微生物や寄生虫まで殺す事が出来ると言う素晴らしい魔法じゃ。
これこそわしの求めていた最強魔法じゃ! あまりの感動に、こっそり家族にお裾分けしておいた。
最強魔法は言い過ぎじゃったか……興奮していたようじゃ。いまは便利な魔法として重宝しておる。そこから使える魔法にシフトして調べておるのじゃ。
ただ魔法書で検索を掛けるには正確な魔法名を入れないと使いたい魔法はヒットしない。仕方なく属性別に検索を掛けているが、これも何万とヒットするから困り物じゃ。いまでは魔法のイメージを膨らませるために読んでいる。
使いたい魔法は、やはり変身魔法。調べると何千、何万と変身魔法が出て来るから困るが、何個か見たら、だいたい似通っていた。どうやら個体によって使えなかったり魔法の維持、年齢によって使うのが難しい魔法らしい。
この辺は実際使ってみないとわからないが、心配する事は無い。妖怪猫又、魂年齢百一歳のわしが使えないわけがない。ただ見た目が変わるので、家族に見られないように練習する機会が作れないのが残念じゃ。
練習するには、ステルス機能搭載の女猫を振り切らないといけないので、探知魔法と隠れる魔法を必死で探した。
探知魔法はゲームの様にレーダーを可視化する方法が見つからず、仕方なく感じ取る方法を取っておる。音を飛ばすか、弱い魔力を飛ばして反響を受け取ると言うやり方じゃ。どちらも、敏感な生き物には気付かれてしまう。
試しに家族に使ってみたら、一斉に睨まれた。おならをしたわけでもないのに、猫には不快だったみたいじゃ。何度も睨まれ、家族に気付かれない音域を音魔法で割り出し、なんとか完成させた。
隠れる魔法はなかなかいい魔法が見付からず、なんとか自分の強さを隠す魔法と痕跡を消す魔法を発掘できた。これで女猫が寝ている隙に移動すれば追跡する事は出来ないはずじゃ……自信はちょっと無い。
猫として不便なのが、持ち物が持てない事じゃ。何かいい魔法が無いかと何時間も魔法書を眺めて、【次元倉庫】と言う魔法を見付けた。
膨大な情報を集約した魔法書から、便利で使いやすいひとつの魔法を見付け出すのは奇跡に近い。見付けた時は、立ち上がって小躍りしたほどじゃ。
次元倉庫とは時の止まった世界に、自分の魔力を張り付けた物や魔力なら、どんな大きさの物でも量でも無制限に入れられる魔法じゃ。
ただし、意思のある生物には拒否権が発生して拒否されると入れられないし、仮に入れたとしても、生きて次元倉庫から出す事は出来ない。
食べ物や持ち物を入れるぐらいじゃ。それぐらい出来なくとも、便利な魔法である事には変わりは無い。
開くには多くの魔力が必要になるし、大きさによって魔力のコストが比例するが、入れてしまえば魔力は使わない。いまのわしにはきついが、魔力を増やす方法も見付けてあるから問題無い。
魔力を増やすには単純に魔法を使い続ければいい。と、言うわけで、周辺から魔力を集める吸収魔法と次元倉庫を使う。
吸収魔法は常時発動しても増えるほうが多いので、増えた分は、針の穴ほど開けた次元倉庫に流し込む。それを常日頃、続けておけばいい。
合わせて重力魔法を弱く自分に掛け続けて、力と魔力の鍛錬に使う。いまは使い始めて間もないので自重の1.2倍程度。
これでもけっこう辛いが、徐々に増やして将来的に100倍から300倍を目指してみる。たしか、どこかの星の王子様がこんな鍛錬を行っておったはずじゃ。
アマテラスからいい物を貰ったと思ったが、次々に問題が出て来て困らされた。だが、創意工夫でなんとか乗り切れそうじゃ。
いまのところ発掘できた便利な魔法はこんなもんじゃが、猫の有り余る時間を使って、読み進めて行こう。
近々、女猫を撒いて攻撃魔法の練習をしよう。撒ける事を、切に祈る。
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