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第一章 森編 猫の生活にゃ~

005 秘密練習をするにゃ~

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 魔法を教わってから一ヶ月、気温も上がり、暑くなって来た。そんな中、わしは時々一人で家を抜け出し、魔法の練習をしている。
 ここは岩場が広がる場所で燃える物もなく、獲物も少ないから兄弟達も寄り付かない絶好の場所だ。

 魔法を使っていて気付いた事はふたつ。魔力の増加方法と魔法の得手不得手だ。

 魔力の増加方法は、魔法を適度に使う事によって、次の日の魔力量と質に変化があった。前に魔力の使い過ぎで倒れた時よりプラス面が大きいので、倒れないように使って生活していれば、より良い結果になるだろう。
 得手不得手は属性別に違いが見て取れる。ちなみに得意な魔法は風魔法と土魔法。魔力の量と質量が同じくらい、もしくは質量のほうが多く感じる時もある。誤差かもしれないので経過観察が必要だ。

 苦手なのは、火魔法と水魔法。魔力量と質量の差が大きい。野球ボール大を維持して飛ばすのに、風魔法を使う時より三倍以上の魔力が必要になるので、攻撃に使うにはもったいない。
 不得手の魔法はボチボチやるとして、得意な魔法を伸ばす事にする。


 風魔法なら竜巻みたいな魔法も使えるはず。これなら、攻撃に転嫁する事も出来るじゃろう。まずは出現場所を決めて、風を回転させた状態にイメージして……発現!

 ひゅぅぅぅぅぐるぐる

 相変わらずの一発成功。上手うまく出来たけど、維持に魔力が必要になるな。攻撃に使うなら要検討ってところか。
 あとは思い付くところで突風ってところか。突風を上手く使えば、相手を吹き飛ばして距離も取れるし、自分も速く走れる。一石二鳥じゃ。これさえマスターすれば、兄弟達に後れを取らんじゃろう。
 イメージは身体程度の範囲を地上と平行に走らす感じかな? あの、わしくらいの大きさの岩にぶつけてみよう……発射!

 バシッ!

 失敗失敗。今のじゃ空気の塊をぶつけただけじゃ。もっと長く放出するイメージが必要じゃな。ほいっと!

 ひゅぅ~~~

 よしよし。岩は重たいからグラグラ動く程度じゃけど、わしに使えば追い風になって丁度いいじゃろう。もっと広い場所に出ないと使えないので、これは保留じゃな。

 次は土魔法か。あまりイメージが湧かないから、孫とよくやっていたゲームから引用しよう。ゲームなら土魔法は防御に使わていたな。無難に壁を作ってみよう。
 大きさは家族が隠れられるように2メートルの正方形。厚さは30センチぐらいで、土が盛り上がるようにイメージして……出現っと!

 ずぅぅぅん

 出来た出来た。強度はどんなもんじゃろう? そうじゃ! 土魔法が攻撃に使えるか、実験で石の球でも作ってぶつけてみよう。
 野球ボールをイメージしてっと……ん? 難しいな。火魔法や水魔法みたいだ感覚じゃ。まぁいいや。とう!

 ゴン! バラバラバラ

 う~ん。石の球が柔らか過ぎて、強度がわからん。お得意の【風の刃】を撃ってみよう。

 ズバッ!

 見事に切断! ……したらアカンがな!! 壁に硬くなる様なイメージを足してみるか。よし、さっきより一回り小さくなったけど硬く出来たはず。【風の刃】をほいっとな!

 ガシッ!

 おっ! 少し削れたが跳ね返せたな。いい感じじゃ。これで強い動物が魔法を使って来ても、皆を守れるな。
 強い魔法を使う動物っているのかな? まぁ備えあれば憂い無し。無駄にはならんじゃろう。あとは復習じゃな。


 一時間後……

 ふぅ。ちょっと休憩するかのう。土魔法でお椀を作って水魔法でお椀を満たし、ゴクゴク……プハー! うまい! 贅沢を言えば、冷えたビールが欲しいのう。

「あたしもちょうだい」
「ん? ちょっと待っておれ。いま新しいのを注ぐから……にゃ~~~!!」

 わしが声のした方向に振り返ると、そこには女猫がチョコンとお座りしていたのでビックリして叫んでしまった。

 しまった。気を抜いていたから、人間だった頃の話し方で応えてしまった……

「い、いつからいたの?」
「んっとね~。風がぐるぐるなってるところ?」

 最初から見ていたと……。人間の知識で魔法の練習をしているところは見せたくないのに、気配を断って忍び寄るとは、これだから猫は……
 探知魔法とか無いんじゃろうか? ゲームにはあったし、なんとかならんもんかのう。

「のどかわいた~」
「はいはい」

 わしは新しいお椀を作ると、水を注ぎ込む。すると女猫は、キラキラとした目でわしの魔法を見詰める。

「はい。どうぞ」

 わしが勧めると女猫はペロペロとお椀に入った水を舐め、すぐに顔を上げた。

「わ~。おいしい。ありがと~」

 大袈裟な……いや。たしかに不純物が少ないせいか、わしも美味しく感じたな。いつもは泥や何かが浮かんだ水を飲んでいたから、見た目的にも衛生面でも、元人間としては有り難い。

「おいしかった~。そういえば、さっきの魔法すごかったね。もうやらないの?」

 もうちょっとやりたかったんじゃけど、女猫がいるから今日はやめるか。

「今日のところは終わりかな? 魔力も少なくなって来たしね」
「え~! もっと見たかった~」
「また倒れたら大変だよ。倒れたら、連れて帰ってくれる?」
「むぅ……今日はがまんする。また見せてね」
「見せてもいいけど、その代わり、今日のことはみんなに言わないでくれる?」
「どうして~?」
「もっと練習して、みんなをビックリさせたいんだ」
「なるほど! わかった~」

 おお! ダメ元で言ってみたけど口止めが成功した。あんな魔法をおっかさんに見せたら、また何を言われるかわからんからのう。これで一安心じゃ。

「そろそろ帰ろうか」
「は~い」
「あっ! ちょっと待って。これだけ片付けるね」


 わしは作り出した壁やお椀を、土魔法で元に戻るようにイメージして魔法の痕跡を消す。

 証拠隠滅も完璧じゃ。これなら誰に見られても、何も言われないじゃろう。

「さあ。帰ろう」
 
 わしと女猫はかけっこをしながら家路に就く。全然勝負にならなかったので【突風】で加速していたのは、女猫には秘密じゃ。
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