29 / 52
三章 夢が繋がった理由
29 久し振りの冒険物
しおりを挟む「へ~。そんな事あったんだ~。良かったね」
ここは夢の中のファミレス。校長訪問の話を笑顔の蒼正から聞いた純菜は、自分の事のように喜んでくれている。
「あ……僕ばっかりこんなに幸せになってゴメン……」
だが、純菜もイジメ被害者。そんな人にこんなに浮かれた話を聞かせるなんてと気落ちする蒼正。
「いいのいいの。もしもの時はフリースクール行くし」
「その時は言ってよ? 僕も同じ所に行くから」
「嬉しいけど、吉見君は高校行って。本当にイジメが無くなるのか知りたいし、本当に無くなったら楽しい高校生活の話を聞かせて欲しいの」
「でも……」
「私は大丈夫。それに最近クラスの雰囲気も良くなったから、案外うちもイジメは無くなるかも?」
あっけらかんと語る純菜だが、蒼正は心配でならない。なのでここは純菜の気持ちを汲み嘘で合わせて、最悪の場合は蒼正もフリースクールに行くと心に決めた。
「それでこないだの話なんだけど……」
純菜のモジモジした問いに、蒼正は何を聞きたいかすぐに気付いた。
「だからアレはね。どれぐらい付き合ったら、そういう話になるか聞きたかっただけなんだよ。キスの時も、大事な所で揉めちゃったでしょ? それにここは夢の中なんだから、キスも初めてと言っていいか分から無いし」
ドライブデート後のキスでは拒否されたのだから、蒼正は今回の件は聞いておきたいらしい。
「そう聞かれると答え辛いんだけど……」
その質問は純菜に気を遣っているように見えるけど、エッチをしたい日を聞かれているような物だからデリカシーの欠片が無いと受け取られても仕方が無い。
「そうだよね……まずは現実で会ってから、この話はしよっか?」
「うん……明日、ママと服買いに行くね」
「あっ! 僕も行かなきゃ! 頼むの忘れてた!?」
「もう~。このままじゃ、いつまで経っても会えないよ~?」
「今日は忙しかったから~」
まだデート用の服も用意出来ていないのだから、まだまだ会えそうに無い二人。お互いどんな服が好みかを教え合い、時間が過ぎて行くのであった……
翌日は日曜日。純菜は予定通り母親と一緒にお出掛けして、デート用の服をおねだりする。そんな事をされたのは初めてなので、母親は時々からかっていた。
蒼正はおねだりが遅くなったので、お昼過ぎから行動を開始し、こちらも母親にからかわれていた。後、ダメ出しを何度も喰らっていた。蒼正の選んだ服は、ダサイんだとか……
なんとか服は買えたので夢の中では、お互いいつでも会えると報告。次の日曜日に会う事にして、場所も少し遠くの遊園地に決まれば、後はいつものようにお喋りに移行する。
「そういえば最近、喋ってばかりで夢の中で遊んで無いね」
「本当だね。こんなに自由に出来るのに、何してるんだろ?」
「遊園地デートは……日曜日に取っておこっか。ジェットコースターとか、あまり調べて無いから想像出来無いし」
「だね。私も詳しく無い。縁の無い場所だと思っていたし……あ、久し振りに冒険物にしない?」
「いいね~」
陰キャには陽キャが遊ぶ場所は縁遠いと避けていたので、お楽しみは現実で。二人で制限時間に間に合うストーリーを考えて、ファンタジー世界の冒険に出る。
パーティは二人だけ。蒼正が聖騎士、純菜が聖女に変身してストーリーを消化して行く。
王様から魔王討伐依頼を受け、王都を出たら人々を守りながら雑魚モンスターを倒す。少し巻いて、次の町は中ボスと大量のモンスターに落とされた町だ。
そこは家屋が破壊され、廃墟のようになっている場所。蒼正と純菜は、歯の浮くような台詞を言い吹き出して笑ってから、崩れた門から入って行った。
「なんか手強くない? 吉見君が設定イジった??」
「いや、僕は何も……お互い情報交換したから、モンスターの連携が良くなってしまったのかも?」
いつもよりモンスターの動きが良くなっているから不思議に思う二人。だがこの程度は、イージーモードを脱却していない。
そもそも二人のレベルはマックスに設定しており、ラスボスですら半分。いくらでも力押しで進んで行けるのだ。
少し気になっただけで町の中心に向かえば、ウルフ、ゴブリン オーク、スケルトン等々。整列した大量のモンスターが待ち構えていた。
「なんでこんなに待ち構えてるの?」
「さあ? ……設定ミスったのかな??」
これも不思議な出来事。しかし数が多くてもなんとかなるかと、このままの設定で進めようと話し合う。
そうしているとモンスターが両脇に避けて道を作り、そこを中ボスに設定していた巨大な人型モンスター、トロルキングがドスンドスンと大きな音を出して歩いて来た。
「お前達だな。我々の仲間を殺したのは……敵対行為と見做し、排除する」
トロルキングのおどろおどろしい声に、蒼正と純菜は同時に首を傾げた。
「中ボスは喋ら無いはずなのに喋っているって事は、やっぱりミスってるね」
「まぁ久し振りだもんね。こんな事もあるよ。最初の頃はもっと酷かったし」
「んじゃ、ちゃっちゃとやりますか」
「広範囲魔法、行きま~す」
失敗を認めた二人は、早くも戦闘開始。純菜の聖魔法が地面から複数空に昇り、モンスターが次々と空に舞い上がって塵となる。
「それがどうした! こちらはまだまだ居るぞ! 突撃だ~~~!!」
「だから設定外の事言わないでくれる?」
トロルキングが指揮を取り、モンスターが純菜の魔法を抜けて突撃して来るが、蒼正はのほほんと対応。
大盾を構えて前に出すだけで、盾の形をした光がモンスターを突き飛ばす。それを前面九十度、隙間無く飛ばすのだから、モンスターが近付ける訳が無い。
「もうこんなに減っちゃった」
「トドメと行きますか」
「うん! 援護する!!」
ラストは、蒼正が盾を構えて電車道。モンスターを跳ね飛ばしてトロルキングに辿り着くと、一対一に持ち込む。
「私は雑魚とは違うぞ~~~!」
「一緒だよ」
トロルキングが巨大な棍棒を振るっても、蒼正の大盾を崩せず。それどころか剣での反撃に遭い、たまに純菜の魔法を喰らい、二人にタコ殴りにされて塵となるのであった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
報酬はその笑顔で
鏡野ゆう
ライト文芸
彼女がその人と初めて会ったのは夏休みのバイト先でのことだった。
自分に正直で真っ直ぐな女子大生さんと、にこにこスマイルのパイロットさんとのお話。
『貴方は翼を失くさない』で榎本さんの部下として登場した飛行教導群のパイロット、但馬一尉のお話です。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる