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三章 夢が繋がった理由
28 校長の訪問
しおりを挟む「え? 堀口さんが出したんじゃないの?」
黒い人影のようなモノが窓や壁を通り抜けて入って来ると、蒼正も純菜も相手がイメージしたキャラだと思っている。
特に純菜は、蒼正がこれからエッチな話をしようとしていたと気付いていたので、怖気付いて話を逸らそうと何かを出現させたと確信してる。
「吉見君でしょ? 話を止めたいからって~」
「いや、僕じゃないよ? ……あっ! だから変な風に受け取ら無いでって言ったでしょ~」
蒼正も純菜にバレたと気付いてあたふた。二人が揉めていると、人影は完全に教室内に入ってしまった。
「あなた達は合格です。我々の仲間に入れて差し上げましょう」
そして声を掛けられると、蒼正と純菜は人影をチラッと見てから顔を見合わせた。
「合格ってどういうこと?」
「仲間って、もう付き合ってるよね?」
どちらも意味が分から無いから相手に聞くしか無い。
「ですから、あなた方は深い闇に囚われていたのにも関わらず、その闇を吹き飛ばした事を我々は高く評価しているのです」
また人影が喋ると……
「邪魔。ファイアーボール」
「消えて。サンダーボルト」
蒼正と純菜は会話を拒否。人影に炎の弾が着弾し、上から雷が落ちる。これで二人はまた話に戻ったが、人影はまだ何かを喋っている。
「私を攻撃するとは敵対行為と見做しますよ?」
「なんで消えないんだろ?」
「パッと見、霊魂の類いだからかも? 聖属性なら効きそう」
「そういう事なら……ホーリーサークル」
「グランドクロス」
「そんな攻撃……グワァァ~~~!!」
純菜が放った円形に下から昇る聖なる光と、蒼正の十字架を模した聖なる光を同時に喰らった人影は、悲鳴を上げながら消失。やっと邪魔者が居なくなったと、会話に戻る二人であった……
結局は、揉めてるだけでタイムアップ。目覚めた蒼正は肩を落としてリビングに顔を出すと、有紀から夜の予定を告げられたので現実に引き戻された。
今日は朝から生徒指導室に来るように言われていた蒼正は、校長の坂本と少し話をしただけでそのまま隔離。ノートにイジメの事を書き記し、お昼になったら足早に帰宅する。
土曜日と言う事もあり、純菜も家に帰っていたので連絡を取り合う。そうして楽しい時間を過ごしていたら、有紀が帰って来たので連絡は間隔を開けてに変わる。
夜八時頃、家のチャイムが鳴ると蒼正はビクッとした。坂本が来たのだ。行きたくは無いが、蒼正は純菜に応援されて部屋を出た。
「この度は、我が校が蒼正さんの心を傷付けた事、深くお詫びします」
リビングに全員揃うと、坂本は有紀に向かって深々と頭を下げた。有紀はその謝罪を無視するように蒼正の顔を見る。
「やっぱりイジメられてたのね……」
「うん……」
予想はしていたが、イジメ被害を完全に知ってしまった有紀は様々な想いが駆け巡って次の言葉が出て来ない。
息子が辛い思いをしたのだろう。
何故その事を教えてくれないのだろう。
自分は何故そんなに信用されていないのだろう。
怒りや悲しみ、自分への不甲斐無さ。有紀はどんな言葉を掛ければ蒼正の心を助けられるのかと、口を開けては閉じてと繰り返し、言葉を飲み込んでいた。
「お母さん。蒼正君は強い子ですよ。以前、似たような被害に会った時、お母さんが過労で倒れたと聞きました。だから迷惑を掛け無いように我慢してしまっただけなんです。決して信用していない訳ではありませんよ」
その気持ちを察して、坂本の優しい言葉。第三者ならではの言葉だ。
「蒼正……ううぅぅ……」
「あんなに頼れと言われたのに、頼らなくてごめんなさい……」
「ううっ……ううっ……」
一番辛いはずの蒼正の優しさに、有紀は声にもならない声を出し、抱き締める事しか出来無くなるのであった。
坂本がやって来てからおよそ三十分。この間、坂本は何も喋らずに二人を見守り続け、有紀は気持ちが落ち着いた頃には臨戦態勢に入った。
坂本はもう一度謝罪をしてから、蒼正から聞いたイジメ加害者、見て見ぬ振りをした教師の名前を告げる。しかしながら、この話を知ったのは一日前。裏が取れていない。
その発言で有紀の目はより一層鋭くなったが、坂本は淡々とこれからの計画や処罰を説明して、最後に力強く信用してくださいと頭を下げて帰って行った。
「なんだか拍子抜けね……」
先程まで、呪い殺さんばかりの目をしていた有紀は、坂本を見送った後は狐につままれたような顔になっている。前回は一人で学校と戦い続けたのだから、力が抜けてしまったみたいだ。
「たぶん僕もそんな顔してたんだろうな……フフフ」
その顔が可笑しかったのか、蒼正は笑ってしまった。
「あぁ~。笑ったね~? 元はと言うと、相談してくれ無い蒼正が悪いんだからね~」
「その事は謝ったでしょ。そもそも我慢出来無くなったら、フリースクールに行きたいって言おうとしてたんだよ。まだ二ヶ月だもん」
緊張が解けた二人は、笑いながら言い訳と罪の擦り付け合い。この日、久し振りに、家の中に本当の笑顔が戻った吉見家であった……
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