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三章 夢が繋がった理由

23 覚悟

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 場所が決まってもデート用の服が無いのでは、現実に会うのはハードルが高い。特に純菜は乙女なのだから、化粧という難題にも取り組まなくてはならない。
 更に日取りが悪く、服を買って貰うにも次の日曜日まで丸々一週間もある。なので現実でのデート日は保留。服が決まるまでは、夢の中でのデートに留め、やりたい事や行きたい場所を考える。

 そうこうお互い初めての恋人に浮かれて三日……

「ちょっと一人にして……」
「う、うん……」

 そんなに楽しい毎日なのに、今日の蒼正は夢の中に遅く入って来て、不機嫌そうに巨大な壁の中に閉じ籠もった。
 純菜はすぐに、現実で何かあったんだと気持ちを汲んで追い掛けはしない。ただ、そのせいで純菜も今日あった嫌な事を思い出したので、蒼正を待つ間、壁の中に閉じ籠もったのであった。


「アハハハ。お前らみたいなクズは、芋虫みたいに這いつくばっているのがお似合いだな。アハハハハ」

 蒼正が作った壁の内側には学校が在り、校庭では五人の生徒が倒れてうめき声を出していた。

「ぐぅぅ……い、いてぇ……なんで自由に体が動かないんだよ!」
「んなもん、両手両足を折られているからに決まってんだろ」

 今日の夢は、ストレス発散用。イジメっ子の両手両足の骨を先に砕いてしまい、後はサッカーボールのように蹴りまくる夢だ。

「クラオのてめぇがこんなに強い訳ねぇだろ!」
「強いんだよ。ボケッ!」
「ガハッ!?」

 イジメっ子達は様々な悪態を吐いていたが、蒼正に何度も蹴られて地面にバウンドさせられるのだから、このままでは殺されると逃げようとした。

「アハハハハ。無様だね~。それで逃げ切れると思ってんの!!」

 両手両足を折られているのだから、まさに芋虫のようにしか逃げられない。四方八方に逃げても、蒼正に蹴飛ばされてグラウンドの中央に集められてしまう。
 こうなってはイジメっ子達も、恥も外聞も無く泣きながら謝るしか出来無くなった。

「謝ったからって、許す訳無いじゃん。お前達は、僕が謝っても殴るの止め無かったよね? なんで分から無いかな~??」
「あ、あれは海斗が……そう! 海斗の命令だったからです! 海斗がキレて、ボコって来いと言われたんです! そもそも先に海斗をボコったのは吉見だよな? そんな事するから有り得無いぐらいキレてたんだよ!!」
「はあ? 先に手を出したのはお前達だ。初対面で殴っただろ? 忘れるなボケが!!」
「「「「「ぎゃああぁぁ~~~!!」」」」」

 変な言い訳をするイジメっ子達との会話に苛立った蒼正は、全員順番に蹴りまくり踏みまくる。
 それからイジメっ子達から叫び声も出無くなると、この中で一番嫌いな男の前で足を止めた。

「た、たしゅけて……」
「嫌だ。死ね……」

 そして足を上げて踏み付けた。だが、ギリギリ頭を外す事に……

「はぁ~……もういいや。消えろ」

 いつもなら頭を踏み抜いて全員殺す蒼正だったが、何故かイジメっ子グループに情けを掛けて夢の世界から消し去ったのであった……


「吉見君!」

 蒼正が閉じ籠もっていた壁を消し去ると、心配そうな顔の純菜が駆け寄って来た。

「ゴメン。お待たせ」
「ううん。謝らなくていいよ。嫌な事されたんでしょ?」
「まぁ……」

 ここで喋ってもいいが長くなりそうだったので、見晴らしのいい公園のベンチを想像してそこで蒼正は語る。

「放課後クラスメイトにね。いきなりボコボコにされてね。だからやり返す夢にしたの」
「そんな事されたの!? 大丈夫? 痛い所無い??」
「今は痛みは設定して無いから……現実の僕はダメ。身体中蹴られたから痛くって中々寝付けなかった」
「それ、折れてるんじゃない? 病院!? いや、ヒール、ヒール、ヒール!!」

 突然純菜は蒼正の体に触れて回復魔法を連発するので、蒼正は夢の中の魔法じゃ無理だとは知りつつもその優しさが嬉しくなって、純菜の頭を撫でた。

「アハハ。有り難う。痛く無くなったよ」
「あ……こんなので治る訳無いよね。明日、痛みがあるなら病院行くんだよ? 約束ね」
「うん。学校も休む」

 蒼正は笑顔を見せると、残念そうに息を吐く。

「あ~あ。ここまでか~。流石にこれは、お母さんに隠し通せ無いな。はぁ~」
「また悲しませちゃうね……でも、吉見君の命が大事だよ。勇気出して。ね?」
「うん。転校か……いや、フリースクールにしようかな~」
「吉見君がフリースクール行くなら私も行こっかな? イジメられてるんだから権利はあるでしょ」
「それいいね。堀口さんに毎日会える」
「アハハ。夢でも会ってるでしょ~」

 最悪な事態で高校も去らなくてはならないのに、二人は心の底から喜んで笑い合う。地獄のような学校に行くよりも、大好きな人と一緒の見知らぬ場所の方が、二人に取っては掛け甲斐の無い世界なのだから……


「まぁ現実デートは、バタバタするだろうからもうちょっと待って」
「うん。どうせ来て行く服もまだなんだから、いつでもいいよ。早い方が困るし」

 お互い喋り足り無いが、そろそろ目が覚める時間。最後に現実デートの確認をしたら、純菜は蒼正を抱き締めた。

「お母さんに伝えるの、頑張って。応援してる」
「うん。有り難う。また夢でね。いや、連絡するよ」
「うん。待ってる」

 こうして純菜に応援されて覚悟の決まった蒼正は、キスをしてから目覚めるのであった。
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