21 / 52
二章 二人の世界
21 初デート
しおりを挟む純菜の乙心を傷付けた翌日、蒼正は学校から帰ってからは様々なネタをインプットして、夢の中へと飛び込んだ。
「ゴメ~ン。待ったよね? 中々寝付け無くって」
「うん。すっごく待った。これは何かして貰わないと許せないな~?」
「うん! 僕に任せて!」
「え? 冗談なんだけど……」
「行こ行こ」
夢の中に入るには、必ず時間は合わ無いのだから純菜も怒る訳が無い。それなのに蒼正は急かしてファミレスから出て行った。
「ババ~ン!」
「車?」
「スーパーカーを用意してみました~」
純菜が外に出ると、そこには車高の低い真っ赤な車。蒼正は助手席側に移動して、ガルウイングのドアを上に開けたら純菜に入るように促す。
妙にテンションの高い蒼正は、純菜が座るのを確認したらドアを閉め、自分は駆け足で走って行って運転席に座った。
「なんか凄い車だね」
「そそ。数千万はする車だよ。夢の中じゃ無かったら、生涯乗れ無いだろうな~」
「そんなにするんだ……ところで運転なんて出来るの?」
「そりゃ夢の中だもん。出発するよ~?」
「何処行くんだろ~」
夢の中でのドライブ。なんでも有りだったと思い出した純菜は、ここから急に心を躍らせた。ドライブデートは、夢の中でもやった事が無かったらしい。
そうして蒼正がアクセルを踏むと、スーパーカーはとんでも無い加速で出発。走行音も異常にデカイ。
「速い! うるさい!? ぶつかる!? キャ~~~!!」
夢のスーパーカー、純菜に不評。動画サイト通りの映像と音だけど、見た動画が悪かった。蒼正はドライブデートに向かないレース動画ばかりを見て夢の中で再現してしまったのだ。
「ゴ、ゴメン……全体的に半分ぐらいの出力にしてみる」
なので、テンションも迫力も一気にダウン。音だけは甲高い音が残っていたので、いつも乗ってるバスのエンジン音に変えたから、スーパーカーが泣いている。
「そんなに落ち込まなくても……安全運転してくれたら怖く無いから。ね?」
「うん。気を付けます」
気を取り直して蒼正が運転に集中すると、速度は全然速くないのに窓の景色が次々変わる。田舎の町並みから田畑に変わり、峠の道路。トンネルを抜けた先には海の景色。
純菜はここまで綿密にドライブデートのコースを用意してくれたのかと感動している。そうして海に架かる大きな橋を走っていると、純菜も楽しそうだ。
「凄く綺麗だね。ここって日本なの?」
「日本だよ。しまなみ海道って聞いた事無い? 本州から四国に架かる橋なんだけど」
「名前は聞いた事あるけど、初めて見たかも? 大人になったら、リアルで連れて来て欲しいな~」
「えっと……僕の車でってこと?」
「う、うん……」
何気ない一言に蒼正が照れるので、純菜にも伝染。窓を開けて火照った顔を冷やそうとしたけど、風までは再現出来ていなかった。
少し言葉数は減ったけど橋は渡り切り、家が増えて来たと思ったら急に都会の真ん中。スカイツリーだって見える。
「あはは。四国にスカイツリーか~」
「ちょっとショートカットし過ぎちゃったかな?」
「ううん。夢の醍醐味だね。凱旋門とかも見たいな~」
「今日はちょっと難しいな~。また勉強しなくちゃ」
「あ、けっこう時間がいるよね。私が調べてコースを担当しよっか?」
次回のドライブデートの候補地で盛り上がっていたら、蒼正の目的地に到着。堂々と路上駐車して、二人共にスーパーカーを降りる。
「ラウ〇ドワン……どんだけスポ〇チャ行きたかったの?」
「い、いいじゃん。高校生はこういう所に来るもんでしょ?」
「スポーツカーで乗り付けてってのは、高校生はしないけどね」
「本当だね……」
蒼正の考えたデートプランは支離滅裂。せめてドライブせずにアミューズメント施設に来れば普通のデートに見えたのでは無いかと反省する蒼正であった。
初めてスポ〇チャに来たのだから、小言を言っていた純菜も嬉しそう。蒼正の袖を握って一緒に中に入る。
一応受付はあるけど店員なんて居ないので、ここは素通り。まずはバスケで遊び出したが、二人してダンク連発。なんだかこれはこれで面白く無いので、現実の世界の実力を発揮してみたら、二人して大笑いだ。
「吉見君、下手だね~」
「堀口さんこそ、ドリブルも出来て無いじゃん」
「女子だからいいんです~」
「ズルイな~」
お互い運動はそこまで得意では無いらしい。それでもしばらく続けたら、次はローラーブレード。これはこけてばかりだったので、すぐに夢を操作して滑っていたが、どちらかというと失敗の方が楽しかった様子。
それからも様々な遊戯で遊んで、次はカラオケでもと部屋に入ったら、二人してモジモジし出した。
「音痴だったらどうしよう?」
「僕も初めてだから、音痴かも?」
体を動かす事は苦手なのは前々から知っていたけど、音楽の授業はいつも口パクだから歌い難いらしい。なんとか覚悟を決めて蒼正から歌い出したけど、微妙な感じ。純菜もそこまで上手く無いみたいだ。
「なんか、念仏みたいだったね」
「うん。どっちも声が小さかったね」
恥ずかしいからって、純菜も蒼正も声量不足だから上手く聞こえる訳が無い。
「アニソンもどうなんだろ?」
「大人になったら困りそうね」
「まぁ練習だけならいくらでも出来るから、声を出す練習はしとこっか?」
「うん。次回は流行りの歌でも持ち寄ろう」
まずは羞恥心を取っ払って歌い続ける蒼正と純菜。そうして小一時間程歌ったら、二人はこんな事を口にした。
「「カラオケなら現実でもいいんじゃない?」」
そう、カラオケは個室。誰にも気兼ね無く歌える場なのだから、夢の中じゃ無くてもいい。なんならうろ覚えの歌ばかりなのだから、歌詞を見ながら歌える現実の方が歌い易いのだから……
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる