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二章 二人の世界
13 違う朝
しおりを挟むナイフ実験は相手に刺されるのは怖いので、折中案。どちらも自分で指先をちょっとだけ切って、回復魔法かポーションを使ってすぐに治していた。
「痛かった……」
「治って良かった……」
思ったより血が出たから、蒼正も純菜もかなり慌てたらしい。
「ま、実験はこんなもんかな?」
「ええ。後は~……なんで今日は夢がこんなに接近していたかよね」
「それ、後回しにしていい内容じゃないな」
「うん……そもそもな話、なんで夢が融合してるんだろ?」
「そもそもな話、夢の中の住人ってのも否定し切れて無いけどな」
謎の部分は話し合っても解決しない。それに夢が融合するなんて非科学的なのだから、相手が夢の中の住人の可能性が一番高いのだ。
「あ、もう起きる時間だ」
「朝? 早いのね」
「バス通学だから……」
「……消えちゃった。前もアラーム音で目が覚めたって事か。てことは、私もそろそろ起きなきゃ」
蒼正が喋りながら霧となって消えると、純菜はアラーム音が鳴るまでイケメンとイチャイチャしてから目覚めるのであった。
「何かいい事あった?」
朝食の席では、晴美が純菜に尋ねている姿があった。
「特には……どうしてそんな事聞くの?」
「嬉しそうな顔に見えたから」
「本当? 気のせいじゃない??」
「気のせいなのかな~?」
「なんか意味深……」
いい事なんてここ数年、好きな本の新刊が出る時ぐらいしか無かった純菜は、自分が嬉しそうな顔をしているなんて信じられ無い。
朝食を終えて鏡を見ても、普段の無表情なのだから、晴美の気のせいだと決め付ける。ただ、あまり気にしていなかったが、自分はこんなに表情が無いのかと少し驚く事になった。
仕度をして家を出てから、急に足取りが重くなる純菜。ここで嬉しそうな顔をしていた可能性に気付いた。
昨日の夢がけっこう楽しかったから、学校に行きたく無いと思う気持ちを紛らわせてくれていたのだと……
所変わって蒼正の家。蒼正も有紀に表情の変化を指摘されたけど、不機嫌そうにして家を出た。
こちらもこちらで、昨日の夢が楽しかったから表情の違いが出たのだと気付いたが、そんな浮かれた顔をしていてはイジメの恰好の的になる。窓ガラスの反射で顔を確認して、息を潜めて学校に入った。
それが功を奏したのか、今日は誰も絡んで来無いまま学校が終わったから、蒼正は急いでバスに乗り込んでシートに座った。
プシューッと音を立ててバスが発車すると、蒼正は同じ学校の人間が居ないかだけ確認したら、外を見ながら考え事をする。
(あの子、S市に住んでいるって言ってたけど、この町の何処かに居るのかな……)
学校では周りが気になって考え事も出来無いが、安全地帯に入ると頭に過るのは、夢の中のあの子。最初は夢を邪魔されて迷惑に感じていたが、二日連続会う事でまた会いたくなってしまっている。
そうして珍しく上の空の蒼正は、最寄りのバス停が近付いても動きが無く、運転手のアナウンスで慌ててバスから降りる事に。
冷や汗を掻きながら家に戻った蒼正は一息吐くと、夜が来るのを本を読みながら待つのであった。
昨日と同じ異世界物の夢にした純菜が城から出ると、その前には別の城が建っており、中央辺りにはテーブル席に着いた蒼正が居たので小走りで近付いた。
「こ、こんばんは」
「こんばんは……」
すると蒼正が照れ臭そうに挨拶するので、純菜も照れてしまう。
「私の事待ってたの?」
「待ってたというより、また夢が融合するならその瞬間を見たいと思ったみたいな?」
「ふ~ん……」
「ま、まぁ座りなよ。何か飲む?」
蒼正は本当の事を言ってはいたけど、一番は純菜がまた現れる可能性があるから、念の為物語の進行を遅らせていたのだ。ただ、顔が赤いから純菜はその事に気付き、ニヤニヤしながら勧められるままに席に着いた。
一先ず純菜が座ると可愛いメイドを呼んで紅茶を淹れさせる。これは本格的な淹れ方だけど、味は一般的なティーパックの味しかしない。
「これって……リプ〇ン?」
「うん。それしか知らないから。でも、よく分かったね」
「うちも毎日飲んでるから。もっと美味しいの知ってたらいいんだけどね」
「そこが問題だよな~。豪華な料理も実家の味だし」
「そうそう。いいお店なんて、味も覚えて無いもん」
今日は世間話で盛り上がる二人。どちらも母子家庭の上にまだ子供だから、豪華な外食なんて連れて行って貰え無いらしい。精々ファミレスかファーストフードだけど、それも共通点だと話が弾む。
行った事のあるチェーン店なので、好きなメニューをお互い挙げてはいたが、そこは合わず。その違いで、どちらも現実世界の住人の可能性が少し高くなった。
「そういえば、先に来たのよね? 私が来る前はどんな景色だったの?」
「真っ白。そこに急に色が塗られた感じに城が現れた」
「あ、それ、私も見た事あるよ。そこから急にヤンキーが歩いて来たから、ビックリして逃げちゃった」
「あの時のか……」
話が夢の中に戻っても、お喋りは止まらない。しかし、答えを摺り合わせるだけの会話で、答えは一向に得られ無かった。
「ひとつ試してみたい事があるんだけど……」
「なになに?」
「今って、ふたつの夢が混在してるだろ? それをひとつに纏められ無いかと思って」
「どっちかの夢にしたいと……うん。面白いね。最近、夢がマンネリ化してたから、新しいストーリーを考えてたの」
「じゃあ、交互にする?」
「男性目線の物語か~」
「いや、ジャンケンで決めない??」
自分の夢を見せるのは恥ずかしいこと。どちらの夢を一発目にするか、揉める蒼正と純菜であった。
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