80 / 125
四章 引きこもり皇子、暗躍する
080 フィリップの視察7
しおりを挟む視察の最後は、ダンマーク辺境伯領の南にあるバルテルス伯爵領。ここでも家族一同に出迎えられて一夜を明かすと、ウルリク・バルテルス伯爵との対談。褒めて白金貨100枚を渡し、何かあるかと質問してみたが、特に何もなし。
以前バルテルス伯爵は、フィリップの前で独立を画策している姿を見せてしまったから、下手な要求をして機嫌を損ねたくないみたいだ。その証拠に、これまでのフィリップの働きをめちゃくちゃ褒めている。
「いや、たいしたことしてないよ?」
「そうですわよ。だいたい寝てますわよ」
「ご謙遜を。二万の兵も、たった1人でバッタバッタと倒したそうではないですか! いや~。さすがは殿下。初代様の活躍を聞いてるような武勇伝ですな」
「やっぱり? 僕も最強だと思っていたんだよね~」
ヨイショには弱いフィリップ。バルテルス伯爵の褒め言葉が止まらないので、なかなか席を立てずにいたからエステルが助け出して視察に移行する。
「殿下にも弱い物があったのですわね」
「なんのこと?」
「ちょっと褒められただけで天狗になっていたではないですか。そんなことで調子に乗られたら、これからが心配ですわ」
「べ、別に、今まで褒められることがなかったから嬉しくなったわけじゃないんだからね!」
「そういえば、殿下はずっと能力をひた隠しにしていたから、酷い言葉しか耳に入って来なかったのですわね……これからはわたくしが褒めますから、他の人の言葉は流してくださいませ」
エステルから優しい言葉をかけられたフィリップは、嬉しくなって褒め言葉を催促してみたら……
「よく寝れて凄いですわ……」
「もうないの!?」
5、6個で早くもギブアップ。ウッラにも聞いてみたら、ほとんど夜のことで打ち止め。なので、注意点を聞いてみたら、出るわ出るわ。
「もうやめてよ~~~!!」
いつまでも止まらないダメ出しに、フィリップは逃げ出してしまうのであったとさ。
それからフィリップは夜にはエステルたちの前に顔を出したけど、へべれけ。場末の酒場で飲んで来たらしいが、香水の匂いがプンプンしていたので浮気を疑われていた。
ただし、そんな状態でも体を求めていたから、娼館には行ってないのではないかとエステルとウッラは話し合っていたので、その間にフィリップは完全に寝入ってしまった。
なので、今日は休みだと気分よく眠ろうとしたが、なんだかなかなか寝付けない2人であった。
バルテルス伯爵領での視察も終えると、ダンマーク辺境伯領へと向けて馬車を走らせる。その車内では、新婚旅行の思い出話だ。
「あとは、残っている2ヶ国がどう行動するかですわね」
いや、エステルとしては、帝国の西側に面している4ヶ国の内の、まだ攻めて来ていない北と南の国が気になるらしい。
「う~ん……攻めて来るかな?」
「可能性はゼロではありませんでしょう?」
「ゼロではないけど、2ヶ国が攻めて、何故か引き返しているんだよ? 帝国には何かあると思って、攻めづらいんじゃないかな~??」
フィリップの予想に、エステルも頷く。
「確かにそうですわね。この1年で殿下の名も知れ渡ったから、他国は攻めづらいですわね。例え噂であったとしても、化け物がいると思って」
「そそ。ハルム王国のあとは、僕は南に消えたとなっているから、南の国は特にね。北は、僕が確認されるのを待つしかないだろうね」
「1人で攻めて来るであろう全ての国に睨みを利かせているとは、本当に化け物みたいですわね」
「流してるんだから、化け物はやめてよ~」
二度も化け物と言われたフィリップはお冠。でも、エステルがチヤホヤしたら、すぐに許してた。
「まぁ、どっちか攻めて来てくれても面白かったんだけどね~」
「どうしてですの?」
「少し長引いて正規軍が助ける前に、辺境伯軍が助けたら、兄貴たちの人気にさらにダメージを与えられたんだよ。ちょっとやりすぎたな~。アハハハ」
フィリップが笑っているが、エステルは笑わずに優しい顔でフィリップの頭を撫でる。
「そんなこと言って、本当は戦争なんて起こってほしくないのですわよね?」
「そんなことないよ~」
「嘘ですわ。殿下がその気になれば、ボローズ軍もハルム軍も皆殺しにできたはずですわ。お優しい殿下ですから、誰1人死んでほしくなかったのですわよね?」
「買い被りすぎだよ~。アハハハ」
フィリップは笑ってごまかしているけど、エステルにはバレバレ。ウッラは、何万人もフィリップ1人で殺せると知ってあわあわしてる。
その顔を見たフィリップは、恐怖を取り除こうと強引に話題を変える。
「それで……新婚旅行は楽しめた?」
「これのどこが新婚旅行かは置いておいて……」
エステルは前置きをして微笑む。
「久し振りの旅でしたので、凄く楽しかったですわ。親友とも会えましたしね。この馬車なら、どこまでだって行けそうですわ」
「馬車しか褒めてくれないの~?」
「ウフフ。殿下と一緒ならの間違いでしたわ」
「アハハ。えっちゃんも素直になったね。よ~し! このまま海に進路変更だ~~~!!」
こうしてフィリップたちを乗せた馬車は、南に向かう……
「いやいやいやいや……いまとは言ってませんわよ! 領地に向かいなさい!!」
と見せて、焦ったエステルの命令でダンマーク辺境伯領に向かうのであった……
0
お気に入りに追加
415
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
異世界で買った奴隷がやっぱ強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
「異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!」の続編です!
前編を引き継ぐストーリーとなっておりますので、初めての方は、前編から読む事を推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる