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三章 引きこもり皇子、働く

061 ベルンハルド・ダンマークの報告

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 新年……

 この頃には元奴隷の移動は落ち着きを見せ、ダンマーク辺境伯領へ流入する数もグッと減っている。ただ、予定より多く元奴隷を招き入れたせいで辺境伯領はいっぱいいっぱい。
 フィリップも手伝わなくてはいけなくなり、ブーブー言ってる。

「帰って来たら、ご褒美にマッサージしてよね~?」
「が、頑張りますわ……」
「やった~。僕もしてあげるね~」
「え、ええ……」

 それをネタに、エステルに頼み事。少しは進展しているみたいだ。いや、エステルの顔が真っ赤なので、ひょっとしたらもっと進んだマッサージをしているのかもしれない。

 そんなこんなでワイワイ過ごしていたら、帝都に行っていたベルンハルドが帰って来た。辺境伯一家はベルンハルドの無事に抱き合って喜んでいたけど、ベルンハルドは意味がわかっていない顔。
 処刑や牢獄行きという話は聞かされていなかったので、今頃知って驚いていた。フィリップは腹を抱えて大笑いしてた。

 それから旅の汚れを落としたベルンハルドは、食堂にて帝都での報告をする。

「いきなり陛下や皇后様、近衛騎士長に宰相や神殿長に、部屋に監禁されたのはそのせいだったのですね。父上たちは、行く前からそれがわかっていたと……」

 いや、帝国トップ5に囲まれたのだから、愚痴から。フィリップが笑い続けているので皆にも伝染している。

「いったい殿下は父に何をさせているのですか!?」

 なので、ベルンハルドはフィリップにロックオン。

「アハハ。ゴメンゴメン。その面子なら、教えた通り喋ったら逆に褒められたでしょ? 特に聖女ちゃんからは『皆さんを助けてくれてありがとうございますぅぅ』って言われたんじゃない?」
「ぜんぜん似てませんけど、そうですね……似てないぞ??」

 フィリップのまったく似てないモノマネで全員笑っているから、ベルンハルドはついていけない。

「まぁご苦労様。他に何か言われてない? 帝都の雰囲気も聞きたいな~」
「はっ!」
「そうかしこまらなくていいよ。ディナーを彩る音楽程度に聞きたいだけだから」
「はあ……」

 いちおうフィリップも皇族なので、労ったらベルンハルドは立ち上がって気を付け。けど、詳しい報告よりは世間話を求められたので、席に座って食べながら喋るベルンハルドであった。


 夕食を終えると、ここからが報告の本番。フィリップは逃げようとしたところをエステルに捕まったので、渋々応接室のソファーで寝転んでいる。

「元奴隷が増えたことによって治安が悪くなったので、富裕層は帝都を逃げ出して活気がありませんでしたね。活気がある場所は、炊き出しをしている場所ばかりでした」
「殿下の予想通りか……」

 詳しく聞いても、フィリップの予想の範疇を超えていなかったので、ホーコンは頷く。ただ、抜けている報告があったからフィリップは手を上げた。

「物価はどうなってた?」
「そうですね……日に日に値上がりしているようで……」

 価格調査は元々フィリップからお願いされていたので、ベルンハルドはメモ用紙を捲りながら各品目の値段をあげていた。

「けっこう来てるね……うちも上がっているけど、うちより高いって……」

 ここでフィリップは体を起こして、うつむき加減で考える。しばし皆は邪魔しないようにしていたが、エステルが痺れを切らした。

「何を考えていますの?」
「う~ん……うちだと、人口が増えて仕事も増えたから、値上がりするのは当たり前なんだよ。言うなれば、好景気だね。税収も上がってるでしょ?」
「ええ。奴隷に普通の暮らしをさせるだけで、まさかこんなに上がるとは思っていませんでしたわ」
「帝都は逆で、人口が増えて物価が上昇したのに税収激減だ。不景気が始まったんだよ。これが他領に広がって行くから、いつここまで届くか……帝国が大恐慌になる日は近いよ」
「それは早急に手を打たなくてはいけませんわね」
「うむ!」

 ここからは、フィリップ主体でエステルとホーコンも加わっての対策会議。様々な案が飛び交うのでベルンハルドはついて行けず。
 いい感じでまとまったら、フィリップは「もういい?」と確認取って自室に戻り、ホーコンとエステルは居残りで話し合っているので、ベルンハルドはようやく話に入る。

「ほとんど殿下の案を採用してだけど……殿下ってあんなに頭がよかったのか?」

 そう。フィリップが賢すぎてベルンハルドは呆気に取られていたのだ。

「ええ。前に文武両道だと言いましたですわよ。麦がどうして値上がりするかの話もしてましたわよね?」
「あ、ああ……それにしても……」

 エステルの答えにベルンハルドは何か言おうとして止めたので、ホーコンがその先を述べる。

「まぁ言いたいことはわかる。真面目な話をしていないときは、悪ガキそのものだ。おそらく、自分が有能だと知られないために、わざとやっているのだろうな」
「そんなことせずとも、普通にしていれば皇帝の椅子にだって手が届いただろうに……」
「それが嫌なんだろう。うちにいるときは寝てばっかりだ。わははは」
「まったく、怠惰の極みですわよね。ウフフフ」
「それで大丈夫なのか??」

 ホーコンが笑うとエステルも続くので、いまだにフィリップがどういう人物か判断がつかないベルンハルドは、この御輿みこしに乗って大丈夫なのかと心配になるのであった……
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